社会保険
法人成りで国保をやめても保険料はほぼ戻らない。設立月別の精算額
結論
法人成りで協会けんぽに入ると、国民健康保険はその年度の4月から資格がなくなった日の前月までの月割りに計算し直されます。ただし国保を6月から翌3月の10回で払っている場合、届出の時点の支払いは月割りの額より少ないため、精算は還付ではなく残りの請求になります。東京23区・単身・前年の事業所得800万円で10月に協会けんぽへ移ると、その年度の国保は43.4万円で、届出時に払った34.7万円との差8.7万円が後から請求されます。
- 還付が出るのは、資格喪失の届出が遅れて払い続けていた場合と、年度の初めに一括で払っていた場合。一括なら10月移行で43.4万円が戻る
- 届出は職場の健康保険に加入した日から14日以内(港区の案内)。国保は自動的には切れない
- 国民年金は厚生年金の資格取得月から不要になる。前納していれば、まだ経過していない期間の分が還付される(国民年金法施行令第9条)
このテーマの全体像 国民健康保険料の自治体別比較
法人を設立して協会けんぽに入ると、国民健康保険はやめることになります。「払いすぎた国保が戻ってくる」と考えがちですが、計算してみると、ほとんどの人には戻りません。国保は資格がなくなった日の前月分までの月割りに計算し直されますが、多くの区市町村では6月から翌年3月の10回払いなので、届出の時点ではまだその額を払い終えていないからです。
この記事では、東京23区の令和8年度の料率を使い、協会けんぽに入る月(設立月)ごとに、その年度の国保がいくらに直り、精算でいくら請求されるのかを計算しました。法人成りする月そのものの保険料の扱いは法人成りの月の保険料は国保か社保かで説明しています。
国保は「資格がなくなった日の前月分まで」に直る
国保の精算は、次の3つの決まりで動きます。
- 資格がなくなる日は、協会けんぽなど職場の健康保険の資格取得日です。届け出た日や、新しい保険証を受け取った日ではありません(横浜市の案内)
- 保険料は、資格がなくなった日の前月分までで計算されます(同)
- 精算は、届出の後に資格喪失日にさかのぼって計算し直し、納めすぎがあれば還付、不足があれば請求します(大阪市の案内)
国保の年度は4月から翌年3月までで、保険料は前年の所得で決まります。法人成りしても、その年度の保険料の元になるのは個人事業主だった前年の所得です。下がるのは「かかる月数」だけで、月あたりの額は前年の所得で決まった額のままです。
届出は自分でします。港区は、職場の健康保険に加入した日から14日以内の届出を求めています。協会けんぽに入っても市区町村には連絡が行かないため、届け出なければ二重加入のまま国保の請求が続きます。
設立月別の精算額。ほとんどが「残りの請求」になる
東京23区・単身・40歳未満で、前年の事業所得(青色申告特別控除後)が800万円の人です。令和8年度の国保の年額は86万7,979円になります。国保は6月から翌年3月までの10回払いで、協会けんぽに入った月のうちに届け出たとして計算しました。
| 協会けんぽに入る月 | 国保がかかる月数 | その年度の国保 | 届出までに払った額 | 精算 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 0か月 | 0円 | 0円 | なし |
| 5月 | 1か月 | 7.2万円 | 0円 | 7.2万円を請求 |
| 6月 | 2か月 | 14.5万円 | 0円 | 14.5万円を請求 |
| 7月 | 3か月 | 21.7万円 | 8.7万円 | 13.0万円を請求 |
| 8月 | 4か月 | 28.9万円 | 17.4万円 | 11.6万円を請求 |
| 9月 | 5か月 | 36.2万円 | 26.0万円 | 10.1万円を請求 |
| 10月 | 6か月 | 43.4万円 | 34.7万円 | 8.7万円を請求 |
| 11月 | 7か月 | 50.6万円 | 43.4万円 | 7.2万円を請求 |
| 12月 | 8か月 | 57.9万円 | 52.1万円 | 5.8万円を請求 |
| 翌1月 | 9か月 | 65.1万円 | 60.8万円 | 4.3万円を請求 |
| 翌2月 | 10か月 | 72.3万円 | 69.4万円 | 2.9万円を請求 |
| 翌3月 | 11か月 | 79.6万円 | 78.1万円 | 1.4万円を請求 |
※ 東京23区(特別区統一保険料率)・単身・40歳未満・前年の事業所得800万円(青色申告特別控除後)・6月〜翌3月の10回払い。月割りは年額×月数÷12で近似/2026年(令和8年)分 基準
どの月に法人成りしても、精算で戻るお金はありません。 10回払いだと、届出の時点で払い終えているのは「月割りの額」より少ないからです。たとえば10月に協会けんぽへ移ると、その年度の国保は4〜9月の6か月分で43.4万円です。6〜9月の4回で34.7万円を払っているので、差の8.7万円が後から請求されます。
国保がかかる月は年12か月のうち最大11か月なのに、納期は10回しかないので、1回あたりの額は月割りの額の1.2倍あります。それでも支払いが月割りに追いつかないのは、最初の納期が6月で、4月・5月の分を後ろの納期で払う仕組みだからです。
4月に法人成りした場合だけは、その年度の国保がかかりません。ただし前の年度(前年4月〜3月)の国保は、3月までの納期で払い終えている必要があります。
家族がいても、40歳以上でも同じ形
| 世帯 | 年額 | 10月に移った場合のその年度の国保 | 届出までに払った額 | 精算 |
|---|---|---|---|---|
| 単身・40歳未満・前年800万円 | 86.8万円 | 43.4万円 | 34.7万円 | 8.7万円を請求 |
| 夫婦+子2人・40歳未満・前年800万円 | 95.4万円 | 47.7万円 | 38.2万円 | 9.5万円を請求 |
| 単身・40〜64歳・前年1,000万円 | 112.8万円 | 56.4万円 | 45.1万円 | 11.3万円を請求 |
※ 東京23区・6月〜翌3月の10回払い/2026年(令和8年)分 基準
年額が大きいほど、精算で請求される額も大きくなります。上限(40歳未満は年96万円、40〜64歳は113万円)に近い人ほど、法人成りの年の後半に国保の請求が残ります。
法人成りした年は、協会けんぽの保険料(役員報酬から翌月に引かれる)、前年分の住民税と個人事業税、そしてこの国保の残りが同じ時期に重なります。法人成り1年目の支払いの全体は法人成り1年目の資金繰りで月ごとに並べています。
還付が出るのは2つの場合だけ
精算で還付が出るのは、届出の時点で月割りの額より多く払っている場合です。法人成りで起きるのは、次の2つです。
| 場合 | 払っていた額 | 精算 |
|---|---|---|
| 期限内に届け出た(10月に移行) | 34.7万円 | 8.7万円を請求 |
| 届出が遅れ、翌1月の納期まで払い続けた | 69.4万円 | 26.0万円を還付 |
| 年度の初めに全期を一括で払っていた | 86.8万円 | 43.4万円を還付 |
※ 東京23区・単身・40歳未満・前年の事業所得800万円、10月に協会けんぽへ移った場合/2026年(令和8年)分 基準
1つ目は届出が遅れた場合です。国保は届け出るまで請求が続くので、口座振替などで払い続けていた分は、届出後の再計算で戻ってきます。ただし届出が遅れても、国保の資格がなくなる日は協会けんぽの資格取得日のままです。その間に国保の保険証や資格確認書で受診すると、市区町村が払った医療費を返す必要があります。返した額は協会けんぽに申請すれば支給されますが、時効などで支給されない場合もあると横浜市は案内しています。
2つ目は一括で払っていた場合です。年度の初めに全期分を払っていれば、資格がなくなった月以降の分がそのまま戻ります。
どちらも、戻るのは「先に払いすぎていた分」です。国保の負担そのものが減ったわけではありません。
国民年金は、厚生年金に入った月から不要になる
国民年金は、厚生年金の資格を取得した月から第2号被保険者に切り替わり、その月以降の国民年金保険料はかかりません。令和8年度の国民年金保険料は月17,920円なので、10月に厚生年金へ移れば、年度の残り6か月分の10万7,520円を払わずに済みます。
| 払い方 | 厚生年金に入った後の扱い |
|---|---|
| 毎月の納付書 | 移った月以降の納付書は使わない |
| 口座振替 | 加入手続きがされると振替が止まる。手続きに時間がかかり一度振り替えられた場合は後日還付 |
| 前納(6か月・1年・2年) | まだ経過していない期間の分を請求に基づいて還付。還付額は、その期間を前納した場合の額(割引後の額) |
※ 日本年金機構の年金Q&A、国民年金法施行令第9条による
前納した保険料の還付は、国民年金法施行令第9条が定めています。前納した期間が終わる前に第2号被保険者(厚生年金の加入者)や第3号被保険者になった場合は、まだ経過していない期間の分を、本人の請求に基づいて還付します。あらかじめ還付を受ける口座を申し出ていれば、請求したものとみなされます。
配偶者が法人成りと同時に社会保険の扶養(第3号被保険者)に入る場合も、配偶者の国民年金保険料はその月から不要になり、前納していれば同じ条文で還付の対象になります。2年前納と法人化の関係は国民年金の2年前納は17,370円お得で扱っています。
国保とは逆に、国民年金は前払いの仕組みです。払いすぎが生まれやすいのは国民年金のほうで、還付として戻ってくるのも主に国民年金の分です。
国保の手続きで迷いやすい点
- 国保は自動的に切れない:協会けんぽに入っても、自分で資格喪失の届出をする。期限は加入した日から14日以内(港区)
- 届出に要るもの:国保の保険証または資格確認書と、協会けんぽの資格確認書や資格情報のお知らせなど(大阪市の案内)。郵送で受け付ける市もある(横浜市)
- 請求と還付の通知は後から届く:横浜市は、保険料の算定対象月と支払月が違うことがあり、資格喪失日以降の月に保険料を割り当てて請求することも、還付することもあると案内している
- 納期の回数は区市町村で違う:この記事の計算は6月〜翌3月の10回払い(新宿区など)を前提にしている。回数が違えば精算額も変わる
国保と協会けんぽの保険料が法人化でどう入れ替わるかは、柱の記事国民健康保険料が高い市・安い市を比較と、法人化で社会保険料はいくら増える?で比べています。
まとめ
- 法人成りすると、その年度の国保は資格がなくなった日の前月分までの月割りに計算し直される
- 6月〜翌3月の10回払いなら、届出時の支払いは月割りの額より少なく、精算は還付ではなく残りの請求になる
- 東京23区・単身・前年800万円で10月に移れば、その年度の国保は43.4万円。8.7万円が後から請求される
- 還付が出るのは、届出が遅れて払い続けた場合と、一括で払っていた場合だけ
- 国民年金は厚生年金に入った月から不要。前納の未経過期間や口座振替の重複分は還付される
法人成りの年は、個人時代の保険料と税金の後払いが続きます。設立の時期を決める前に、自分の売上と経費で、通常年の差額と1年目の支払いを確かめてください。
よくある質問
法人を設立すれば国保は自動的にやめられますか?
やめられません。協会けんぽに加入しても、市区町村には連絡が届かないため、自分で国保の資格喪失の届出をする必要があります。港区は、職場の健康保険に加入した日から14日以内の届出を求めています。届け出ないと、国保と協会けんぽに二重に加入した状態が続きます。
国保の資格がなくなる日はいつですか?
協会けんぽなど職場の健康保険の資格取得日です。届出をした日や、新しい保険証・資格確認書を受け取った日ではありません。法人成りなら、役員として社会保険の資格を取得した日(多くは設立日)になります。
資格がなくなった後に国保の保険証で受診したらどうなりますか?
市区町村が医療機関に払った分(本人負担分以外)を返す必要があります。返した額は、受診した月に加入していた健康保険(協会けんぽ)に申請すると支給されますが、時効などで支給されない場合もあります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。