社会保険

出産で国保は4か月分軽くなる。法人の産休免除と比べた差額

結論

東京23区・単身で事業所得735万円の個人事業主なら、出産1回で国保が26.0万円、国民年金が産前産後と育児の13か月分で23.3万円、合わせて49.3万円軽くなります。同じ売上の一人会社の女性役員(報酬月54万円)は、産休の保険料免除で労使合わせて90.2万円(3か月)〜120.3万円(4か月)です。ただし法人側は、実際に仕事を休むことが条件です。

  • 国保は出産予定月の前月から4か月分(多胎は6か月分)の所得割・均等割を減額。平等割は対象外で、限度額に達している世帯は減らないことがある
  • 社保の産休免除は休業の開始日で3か月か4か月になり、労務に従事しなかった期間が条件。役員も対象だが、育児休業の免除は受けられない
  • 個人事業主は令和8年10月から国民年金の育児免除(実母は産前産後に続く9か月)も受けられる

出産すると保険料が軽くなる制度は、個人事業主の国民健康保険にも、会社の健康保険・厚生年金にもあります。ただし減る対象、減る月数、受けるための条件がそれぞれ違います。

法人化を考えている女性の事業主にとって、出産の予定は保険の選び方に直結します。同じ売上で、どちらの側がいくら軽くなるのかを先に数字で見ておきます。

国保は所得割・均等割の4か月分を減額する

国民健康保険の産前産後期間の軽減は、令和6年1月に始まりました。中央区の案内によると、対象は令和5年11月1日以降に出産予定または出産した被保険者で、妊娠85日以上の出産(死産・流産・人工妊娠中絶を含む)です。

項目内容
対象月(単胎)出産予定日の属する月の前月から翌々月までの4か月
対象月(多胎)出産予定日の属する月の3か月前から翌々月までの6か月
減額する額出産する被保険者の所得割額・均等割額(12か月換算)の12分の1×対象月数
減額しないもの平等割(世帯にかかる部分)
届出中央区は必要

減るのは出産する本人の分だけです。世帯に夫など他の被保険者がいても、その人の所得割・均等割は減りません。

注意したいのは賦課限度額との関係です。中央区は、世帯の保険料が最高限度額に達している場合は免除できないことがあると注記しています。所得が高く、減額しても限度額を超える世帯では、保険料は限度額のまま動きません。

国民年金にも、出産予定日の属する月の前月から4か月(多胎は3か月前から6か月)の産前産後免除があります(日本年金機構)。免除された期間も、保険料を納めたものとして老齢基礎年金に反映されます。

さらに令和8年10月から、子が1歳になるまでの国民年金保険料を免除する育児免除が始まりました。所得要件はなく、産前産後免除を受けた実母は、それに続く9か月が免除されます。

社保の産休免除は、労使とも全額で3か月か4か月

一人会社の女性役員が健康保険・厚生年金の被保険者なら、産前産後休業期間の保険料免除を受けられます。日本年金機構は「事業主等であっても、被保険者であれば産前産後休業期間中の保険料免除を受けられます」と明記しています。

項目内容
対象期間出産日(予定日後の出産なら予定日)以前42日(多胎98日)から出産後56日までのうち、妊娠・出産を理由に労務に従事しなかった期間
免除される保険料健康保険・厚生年金の被保険者分と事業主分の両方
免除月休業開始月から、終了日の翌日の属する月の前月まで
給与有給・無給を問わない
手続き休業中か終了後1か月以内に「産前産後休業取得者申出書」を提出

国保と違うのは、月数が固定ではない点です。出産予定日の5月15日に出産した場合、休業は4月3日から7月10日で、免除は4月〜6月の3か月です。出産が5月10日なら休業は3月29日から始まり、3月〜6月の4か月になります。

もう1つの違いは、役員は育児休業の保険料免除を受けられないことです(日本年金機構)。産休明けは保険料が元に戻ります。この点は一人社長は育児休業で社会保険料を免除できないで詳しく扱っています。

出産1回で軽くなる額を、売上別に比べる

当サイトの計算エンジンで、出産1回(単胎)で軽くなる保険料を計算しました。個人事業主は国保の産前産後軽減と、国民年金の産前産後4か月・育児9か月の免除です。法人は最適な役員報酬を受け取る女性役員の、健康保険・厚生年金の労使合計です。

出産1回(単胎)で軽くなる保険料(東京23区・単身・40歳未満)

年間売上(税抜)事業所得国保の産前産後軽減国民年金(産前産後4か月)国民年金(育児9か月)個人の合計最適報酬社保の産休免除(3か月)社保の産休免除(4か月)
600万円335.0万円12.2万円7.2万円16.1万円35.5万円月28万円47.7万円63.6万円
800万円535.0万円19.1万円7.2万円16.1万円42.4万円月42万円69.8万円93.1万円
1,000万円735.0万円26.0万円7.2万円16.1万円49.3万円月54万円90.2万円120.3万円
1,200万円935.0万円27.3万円7.2万円16.1万円50.6万円月54万円90.2万円120.3万円
1,500万円1,235.0万円6.7万円7.2万円16.1万円30.0万円月54万円90.2万円120.3万円
2,000万円1,735.0万円0万円(限度額)7.2万円16.1万円23.3万円月90万円124.6万円166.1万円

経費200万円・東京23区(令和8年度の特別区統一保険料率)・単身・40歳未満・青色申告65万円・インボイス登録済み。国保は医療分と後期高齢者支援金分を対象にし、令和8年度からの子ども・子育て支援金分は含めていない。減額後の額にも賦課限度額をかけている。社保は健康保険(協会けんぽ東京支部)と厚生年金の労使合計で、子ども・子育て支援金は含めていない。2026年(令和8年)分の料率による概算。再計算は node scripts/sanzen-sango-kokuho-shaho.mjs。

国保の軽減は、所得が高いと消える

国保の軽減額は、事業所得935万円の27.3万円が最大で、そこから急に縮みます。事業所得1,235万円では医療分が限度額を超えたままになり、6.7万円しか減りません。1,735万円では医療分・支援金分とも減額後も限度額を超えるため、0円です。

所得が高い人ほど国保の産前産後軽減は効かない、という点は見落とされやすいところです。限度額で頭打ちになった保険料は、もともと所得割の一部が取られていない状態なので、そこから減らしても請求額が変わらないためです。

社保の免除が大きいのは、保険料そのものが大きいから

法人側の免除額は、どの売上でも個人側を上回ります。ただしこれは制度が手厚いからではなく、免除される前の保険料が大きいからです。月54万円の役員報酬では、健康保険・厚生年金の労使合計が月30万円を超えます。3か月免除されても、残りの9か月はその額を払い続けます。

法人化するかを出産の免除額だけで比べるのは筋が違います。年間の保険料の差は一人社長の社会保険料はいくらかのほうがずっと大きく、出産の免除はその一部を戻すにすぎません。

自治体によって軽減額は1.4倍違う

国保の軽減額は料率に比例するので、住む市で変わります。事業所得500万円・単身・40歳未満で、政令指定都市と東京23区を比べました。

国保の産前産後軽減(事業所得500万円・単身・40歳未満)

自治体軽減前の医療分+支援金分産前産後軽減(4か月)
大阪市66.5万円20.7万円
堺市66.5万円20.7万円
名古屋市58.8万円19.6万円
川崎市56.8万円18.9万円
北九州市60.6万円18.9万円
横浜市55.5万円18.5万円
岡山市57.4万円18.2万円
仙台市57.6万円18.0万円
札幌市58.0万円17.9万円
東京23区53.6万円17.9万円
さいたま市53.2万円17.7万円
京都市54.9万円17.5万円
神戸市55.1万円17.3万円
新潟市53.0万円16.7万円
千葉市52.9万円16.4万円
相模原市50.1万円15.9万円
浜松市50.2万円15.7万円
熊本市49.4万円15.6万円
静岡市49.4万円15.5万円
福岡市45.7万円14.3万円

令和8年度の各市の公表料率(当サイトの税率データ)。介護分・子ども・子育て支援金分は含めない。平等割のある市は、平等割を軽減前の額に含め、軽減額からは除いている。

最も大きい大阪市・堺市の20.7万円と、最も小さい福岡市の14.3万円では、1.4倍の開きがあります。北九州市は軽減前の保険料が名古屋市より高いのに軽減額は小さくなっています。平等割の比重が大きく、その部分が軽減の対象外だからです。自治体ごとの保険料そのものの差は国民健康保険料の自治体別比較にまとめています。

法人の産休免除は「休む」ことが前提になる

数字以上に大きい違いが、受けるための条件です。

国保の軽減と国民年金の産前産後免除は、出産の事実で決まります。出産前後に仕事を続けていても受けられます。一方、社保の産休免除は「妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間」が対象です。一人会社の社長が出産前後も取引先とのやり取りを続けていれば、その期間は休業に当たりません。

もう1つ、社保には出産手当金があります。産休中に報酬が出ない場合に、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2が日額として支給される給付です(健康保険法102条)。国民健康保険にはこの給付がありません。出産手当金の実際の支給日数と金額は出産手当金の実績で確かめられます。

項目個人事業主(国保・国民年金)一人会社の女性役員(健保・厚年)
保険料の軽減国保4か月分+国民年金4か月健保・厚年の労使全額を3か月か4か月
出産後の育児期間国民年金の育児免除9か月役員は免除なし
受ける条件出産(届出)対象期間に労務に従事しないこと
所得が高いとき国保は限度額で軽減が消えることがある免除額は報酬に比例して大きくなる
収入の補填原則なし出産手当金(報酬が出ない場合)

出産を控えて法人化を検討するなら、休む期間を取れるかどうかで法人側の評価が変わります。まずは自分の売上と経費で、個人のままと法人化した場合の年間の手取りの差を確かめ、その上に出産の年の軽減を重ねて見てください。

まとめ

  • 国保の産前産後軽減は、出産する本人の所得割・均等割を4か月分(多胎6か月分)減らす。平等割は減らない
  • 事業所得735万円(東京23区・単身)なら国保26.0万円+国民年金23.3万円で49.3万円軽くなる。所得が高く限度額に達すると国保の軽減は0円になる
  • 一人会社の女性役員は産休免除で健保・厚年の労使全額が3か月か4か月免除される。月54万円の報酬で90.2万〜120.3万円
  • 法人側は対象期間に実際に休むことが条件で、育児休業の免除はない。個人側は国民年金の育児免除9か月がある
  • 国保の軽減額は自治体で1.4倍違う(事業所得500万円で14.3万〜20.7万円)

よくある質問

国保の産前産後軽減は届出が必要ですか?

自治体によります。中央区は軽減の適用に届出が必要としています。国民年金の産前産後免除は、出産予定日の6か月前から市区町村の国民年金窓口に届け出ます。

一人社長が出産前後も仕事を続けたら、産休の保険料免除は受けられますか?

受けられません。日本年金機構は、免除の対象を出産日以前42日から出産後56日までのうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間としています。報酬が出ているかどうかは問いませんが、実際に休むことが前提です。

国保の産前産後軽減で、その月の保険料は0円になりますか?

0円になるとは限りません。中央区の案内では、4か月分の減額を年度内の残りの納期に平準化して差し引くため、産前産後期間の納付額が0になるとは限らないとしています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。