設立の手続き
飲食店の法人成り|営業許可は事業譲渡で承継できる
結論
2023年12月13日以後、個人の飲食店事業を新設法人へ全部譲渡する法人成りでは、食品衛生法上の営業者の地位を承継届で法人へ移せます。必ず新規許可を取り直すわけではありません。ただし一部譲渡、施設・業態の大きな変更、譲渡の実体が確認できない場合は新規申請になり得るため、契約前に保健所へ相談します。
- 営業許可・届出に関する事業の全部譲渡なら、新設法人も承継制度を利用できる
- 法人は事業譲渡を証する契約書等を添え、譲渡後遅滞なく地位承継届を出す
- 許可の条件、食品衛生責任者、HACCP計画・記録も切替後に継続管理する
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
飲食店の法人成りについて、古い案内には「個人と法人は別人格なので、法人が新規許可を取り直す」と書かれています。これは2023年12月12日までの原則でした。食品衛生法の改正により、同年12月13日以後に営業許可・届出に関する事業を全部譲渡した場合、譲受人は地位承継届を出すことで営業者を変更できます。
したがって、現在の出発点は「新規許可か名義変更か」ではなく、個人から新設法人への切替が、事業譲渡による地位承継の要件を満たすかです。承継できれば許可番号や許可条件を含む営業者の地位が移りますが、店舗の衛生管理責任まで軽くなるわけではありません。
法人成りは事業全部の譲渡として承継できる
食品衛生法56条は、許可営業者が営業を譲渡したとき、譲受人が営業者の地位を承継すると定めています。57条により、営業届出についてもこの仕組みが準用されます。個人事業主が設立した株式会社・合同会社も別の者なので、両者の間で事業譲渡を行い、法人が譲受人として承継届を提出します。
東京都の案内では、譲渡人と譲受人が連携して事前相談し、譲渡後、法人が遅滞なく地位承継届、従前の営業許可書、譲渡契約書等を提出します。新規許可申請を行う場合と異なり、譲渡前に法人許可を取得する制度ではありません。譲渡日が営業主体の切替日になるため、保健所と届出日程を先に確認します。
| 場面 | 食品衛生法上の基本手続 | 注意点 |
|---|---|---|
| 個人の許可営業を法人へ全部譲渡 | 地位承継届 | 譲渡契約書等を添付し、事前相談 |
| 個人の届出営業を法人へ全部譲渡 | 地位承継届 | 届出営業も承継制度の対象 |
| 許可に関する営業の一部だけ譲渡 | 承継制度の対象外 | 新規許可・届出等を保健所へ確認 |
| 店舗移転 | 従来の施設許可をそのまま移せない | 移転先で新規許可が基本 |
| 大幅な構造設備・業態変更 | 変更届だけで足りない場合 | 工事前に図面相談 |
事業譲渡契約には、対象店舗、営業許可の種類と番号、厨房設備、什器、棚卸資産、屋号、従業員、仕入・予約・デリバリー契約、前受金、HACCP記録を明記します。「営業の全部」を譲渡したことを説明できるよう、個人側へ何を残すかも記載します。
飲食店営業と菓子製造業など複数の許可を持つ場合、法令上の「全部」は許可・届出に関する営業との関係で判断されます。ある許可営業を全部譲渡し、別の許可営業を個人に残せる場合もありますが、同一許可の厨房区画の一部だけを切り離す承継は認められません。店舗ごとの実態を保健所へ示します。
新規許可を選ぶ場面と承継後の調査
承継届は、設備基準の確認を不要にする抜け道ではありません。譲受法人は、元の営業者に付されていた許可条件と衛生管理上の責任を引き継ぎます。事業譲渡による承継後は、保健所等が営業状況を調査します。厚生労働省の制度では、当分の間、承継日から6か月以内に少なくとも1回調査する仕組みです。
次のような計画なら、承継届と同時に変更手続が必要か、新規許可の方が適切かを事前相談します。
- 厨房区画、手洗い、シンク、冷蔵設備、客席を改修する
- 飲食店営業だけでなく、菓子・そうざい等の製造販売を始める
- 一つの許可施設を個人と法人で分けて使う
- 店舗を移転し、移転先で法人営業を始める
- 個人に一部のメニュー・デリバリー事業・厨房を残す
- 許可条件や図面と現在の店舗に不一致がある
承継を選ぶ場合でも、法人番号、商号、本店、代表者、食品衛生責任者、屋号などの届出事項を最新化します。東京都の様式・添付書類は、都保健所の管轄と特別区・八王子市・町田市で異なる場合があります。他地域も施設所在地の保健所の様式を使います。
旧制度を前提に個人の廃業届を先に出すと、承継する地位を失うおそれがあります。譲渡日、個人廃業、法人の承継届の順序は、契約を締結する前に保健所へ相談してください。
食品衛生責任者とHACCP記録を法人へ引き継ぐ
営業者が法人になっても、店舗には食品衛生責任者を置きます。同じ資格者が引き続き担当する場合でも、法人の営業施設における責任者として届出情報が整っているかを確認します。社長が資格者でなければ、調理師等の有資格者または所定講習の修了者を配置します。
2021年6月から、原則として全ての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められています。小規模な一般飲食店は、厚生労働省が確認した手引書を使い、次の運用を行えます。
- 店舗の危害要因を理解し、衛生管理計画を作る
- 必要に応じて清掃、消毒、食品取扱い等の手順書を作る
- 従業員へ計画を周知する
- 温度、体調、交差汚染防止等の実施状況を記録する
- 記録を保存し、定期的に振り返る
- メニューや工程の変更に応じて計画を見直す
法人成りでは、紙やアプリの記録を譲渡日前後で切断しません。個人営業の最終日までの記録を保存し、法人営業の初日から同じ基準で記録を続けます。計画書の営業者名、緊急連絡先、仕入先、従業員、責任者、回収手順を法人用へ更新します。
2026年には厚生労働省が一般飲食店向けHACCP衛生管理記録アプリを公開しています。アカウントや端末を引き継ぐ場合も、データの管理者と保存場所を法人側で明確にします。
店舗契約・従業員・決済を譲渡日に合わせる
食品衛生法上の承継ができても、賃貸借、従業員、仕入先、デリバリー、決済端末、電話、予約サイトは自動で法人へ移りません。貸主やサービス事業者の承諾・再審査を受け、譲渡日から契約当事者と入金先を法人へそろえます。
従業員は、個人事業を退職し法人へ入社する日、未払給与、有給休暇の取扱い、社会保険・雇用保険を整理します。雇用契約は営業許可に付随して自動承継されるわけではありません。従業員へ条件を説明し、法人の労働条件通知書を交付します。
予約金、商品券、回数券、ポイント、ボトルキープ、売掛金、仕入買掛金も事業譲渡契約に記載します。譲渡日前の食中毒・苦情・返金に誰が対応するか、賠償責任保険が法人へ切り替わるかも確認します。
消費税では、店内飲食は標準税率、テイクアウトは軽減税率という区分を法人のレジへ移します。法人の適格請求書発行事業者登録番号が個人の番号と同じになることはないため、領収書とデリバリー設定を更新します。
酒の店内提供と持ち帰り販売を分ける
飲食店が酒類を専ら自店内で飲用に供する場合、酒類販売業免許は不要です。未開封のボトルや缶を、店外で飲むことを前提に継続販売する場合は、販売場ごとの酒類小売業免許が必要です。飲食店営業許可の承継で、酒類販売業免許まで法人へ移るわけではありません。
個人が酒類販売業免許を持っていても、営業譲渡だけで免許が当然に法人へ移るわけではありません。酒税法19条には、個人の販売業の全部を譲り受けた者が申告すれば免許を受けたものとみなす仕組み(2020年4月1日以後の事業譲渡)がありますが、国税庁の通達は譲受人を販売業者の親族か3年以上その事業に従事した者に限っており、新しく作った会社が使えるかは公表資料で確認できません。法人で持ち帰り販売や通信販売を続けるなら、所轄税務署の酒類指導官へ事前相談し、法人名義の免許取得と個人免許の廃止日程を組みます。酒類販売免許を法人へ切り替える手順も参照してください。
深夜0時以降に酒類を提供する営業、接待や遊興を伴う営業は、警察への届出・許可が別に問題になります。食品衛生法の承継だけで全ての許認可が切り替わるとは考えません。
法人成りの採算に許認可切替費用を入れる
標準条件の損益分岐は次のとおりです。npm run calc:table -- breakevenで再現でき、行政書士報酬、契約変更、設備改修、決済端末の入替え、営業停止損失は含みません。
| 条件 | 損益分岐となる事業所得 |
|---|---|
| 基本(独身・インボイス登録済み) | 1,266万円 |
| 株式会社で設立 | 1,266万円 |
| 配偶者あり(無収入) | 1,016万円 |
| 配偶者あり+扶養1人 | 1,066万円 |
| インボイス未登録 | 1,266万円 |
| 40〜59歳(介護保険あり) | 1,243万円 |
| 大阪市 | 1,283万円 |
| 名古屋市 | 1,270万円 |
| 白色申告 | 793万円 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年分
事業譲渡承継を使えば新規許可申請の手間を減らせますが、譲渡契約、HACCP引継ぎ、契約変更は残ります。まず会社設立を自分で行う手順で全体工程を作り、切替費用を経費へ足して再計算します。
保健所相談へ持参する切替一覧
最初の相談では「法人成りしたい」だけでなく、現在の許可と変更予定を一枚にまとめます。担当者が承継の可否を判断できるよう、次の資料を用意します。
- 現在の営業許可書・届出控えと許可番号
- 許可申請時の施設図面と現在のレイアウト
- 個人と新設法人の事業譲渡契約書案
- 法人の登記事項証明書または定款・設立予定表
- 食品衛生責任者の氏名と資格証明
- HACCP衛生管理計画、直近の実施記録、従業員名簿
- 改装、新メニュー、製造販売、テイクアウトの変更予定
- 希望する譲渡日と、賃貸借・雇用・決済の切替日
相談内容は、日時、担当部署、確認事項、回答、追加提出物を議事メモに残します。電話だけで判断しにくい部分は、図面と契約案を窓口へ持参し、「この許可に関する営業全部の譲渡と扱えるか」「法人の新規申請が必要な部分はあるか」を質問します。
譲渡日には、レジ締めを境に個人と法人の売上を分けます。食材在庫、酒、消耗品、現金、予約金を棚卸しし、譲渡価格と帳簿記録を一致させます。譲渡後の最初の営業日には、許可証の掲示・保管、食品衛生責任者表示、領収書名、緊急連絡網、HACCP記録の事業者名を確認します。承継届を出した事実だけで、店内表示や日々の記録が自動で変わるわけではありません。
まとめ
- 2023年12月13日以後、飲食店営業の全部譲渡は地位承継届で法人へ移せる
- 一部譲渡、移転、大幅な施設・業態変更は承継できないか別手続が必要
- 譲渡契約前に保健所へ相談し、譲渡後は法人が遅滞なく届出する
- 許可条件、食品衛生責任者、HACCP計画・記録を法人が引き継ぐ
- 賃貸借、雇用、決済、インボイス、酒類販売免許は別に切り替える
古い情報を前提に新規申請を決めず、現在の許可証、施設図面、営業内容、譲渡対象一覧を持って保健所へ相談してください。承継日を中心に一つずつ契約と記録をそろえることが、営業の空白と名義の不一致を避ける最短ルートです。
よくある質問
個人から自分の新設法人への譲渡でも承継できますか?
対象になり得ます。個人と法人の間で許可営業に関する事業全部を譲渡し、譲渡の事実と意思を契約書等で証明します。適用可否と必要書類は契約前に施設所在地の保健所へ確認してください。
厨房工事をしなければ自動的に承継できますか?
工事の有無だけでは決まりません。許可に関する営業の全部譲渡であることが必要で、施設・設備や営業内容の変更があれば変更届、新規許可等が別に必要になることがあります。
法人化後も同じ人を食品衛生責任者にできますか?
資格を持つ本人を引き続き配置できますが、営業者が法人へ変わった後の選任・届出情報を保健所と確認します。責任者名だけでなく衛生管理計画と記録の引継ぎも行います。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。