設立の手続き
ガソリンスタンドの法人成り。揮発油販売業の登録は承継、役員変更は事前登録
結論
揮発油販売業者が事業の全部を譲り渡すと、譲り受けた者がその地位を承継します(揮発油等の品質の確保等に関する法律7条1項)。給油所を営む個人が会社へ事業を丸ごと譲る法人成りでは、会社は新規の登録(登録免許税1件3万円)を受け直さず、遅滞なく承継を届け出れば足ります。注意したいのは承継後で、会社の「業務を行う役員」を変えるときは事前に経済産業大臣の変更登録を受ける必要があります(8条1項)。
- 承継届には、事業の全部の譲渡を証する書面、法人の登記事項証明書、欠格事由に当たらない旨の誓約書などを添える(施行規則6条)
- 給油所ごとに品質管理者を選任して届け出る(14条)。給油所の表示には名称・登録番号・品質管理者の氏名を掲げる(17条)
- 無登録の揮発油販売業は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(24条1号)。東京23区・40〜59歳の試算で、初年度の損益分岐は承継なら1,341万円、新規登録なら1,370万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
給油所を個人で営んでいる人が法人化するとき、揮発油販売業の登録は取り直さずに会社へ移せます。揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)が、事業の全部の譲渡による承継を定めているためです。
ただし、承継で終わりではありません。会社になると、個人のときにはなかった「役員」の変更に、事前の変更登録が要るようになります。この記事では、承継の条件と書類、承継後に気をつける変更登録、品質管理者の扱いを確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
7条:事業の全部を譲り渡すと、会社が登録を承継する
揮発油販売業を行うには、経済産業大臣の登録が要ります(3条)。権限は政令で経済産業局長に委ねることができ(23条)、承継の届出書も経済産業大臣または経済産業局長に出します(施行規則6条)。登録を受けないで揮発油販売業を行うと、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です(24条1号)。
承継の根拠は7条1項です。
揮発油販売業者がその事業の全部を譲り渡し、又は(中略)相続、合併若しくは分割(その事業の全部を承継させるものに限る。)があつたときは、その事業の全部を譲り受けた者(中略)は、その揮発油販売業者の地位を承継する。
法人成りで、個人の揮発油販売業を丸ごと会社へ譲り渡せば、会社が揮発油販売業者の地位を承継します。**事前の認可は要りません。**承継した会社は、遅滞なくその旨を届け出ます(7条2項)。
承継できないケース
承継しないのは、譲り受けた会社が6条1項1号〜4号に当たる場合です(7条1項ただし書)。
- この法律の規定により刑に処せられ、2年を経過しない者
- 登録を取り消されて2年を経過しない者
- 登録を取り消された法人の役員だった者で、2年を経過しない者
- 法人で、業務を行う役員のうちに上の者がいるもの
新規登録の拒否事由にある「揮発油販売業を適確に遂行するに足りる能力を有しない者」(6条1項5号)は、承継の除外事由には入っていません。
また、給油所が複数ある事業者が一部の給油所だけを会社に移すと「事業の全部」の譲渡にならないので、会社は新規に登録を受けます。
承継届の書類と、新規登録との差
承継の届出書には、次の書類を添えます(施行規則6条)。
- 事業の全部を譲り受けて承継した者は、所定様式の書面と事業の全部の譲渡があったことを証する書面
- 承継した者が6条1項1号〜4号に該当しないことを誓約する書面
新規に登録を受ける場合は、登録免許税が1件3万円かかります(登録免許税法別表第一99号)。承継の届出には登録免許税の定めがありません。
| 移し方 | 根拠 | 登録免許税 | 個人の登録 |
|---|---|---|---|
| 事業の全部の譲渡による承継 | 7条 | なし | 会社が地位を承継 |
| 新規の登録 | 3条 | 3万円 | 廃止の届出(9条)で効力を失う(10条) |
承継後の落とし穴:役員を変えるには事前の変更登録
ここが法人成り後に見落とされやすい点です。揮発油販売業者が法人の場合、業務を行う役員の氏名は登録事項です(4条1項3号)。そして8条1項は、給油所の所在地または役員について変更をしようとするときは、あらかじめ変更登録を受けなければならないとしています。
| 変更の内容 | 手続き | 時期 |
|---|---|---|
| 業務を行う役員の変更(就任・退任) | 変更登録(8条1項) | 変更しようとするとき(事前) |
| 給油所の所在地の変更 | 変更登録(8条1項) | 事前 |
| 名称・住所・代表者の氏名、給油設備の規模 | 届出(8条3項) | 変更があったとき遅滞なく |
個人のときは「役員」という概念がなかったので、この手続きに触れることはありませんでした。法人成りしたあとに配偶者や後継者を取締役に加える、役員の任期満了で入れ替える、といった場面で変更登録を怠ると、登録取消しや事業停止の事由になります(11条)。変更登録では役員について欠格事由の審査も行われます(8条2項が6条を準用)。
役員の就任は会社法上の登記も要ります。役員変更登記の期限と費用は役員変更登記と任期で整理しました。品確法の変更登録は登記とは別の手続きなので、両方の段取りが要ります。
品質管理者と給油所の表示
揮発油販売業者は、給油所ごとに省令で定める資格を持つ者から品質管理者を選任し、届け出ます(14条1項・2項)。品質管理者は揮発油の分析などの職務を行います(15条・16条)。登録を受けた分析機関に分析を委託することもできます(16条の2)。
承継で揮発油販売業者が個人から会社に替わると、給油所に掲げる表示(氏名または名称、登録番号、品質管理者の氏名など。17条)も会社の名称に改めます。品質管理者を替える場合は、選任・解任の届出も要ります。
物品販売業の個人事業税と損益分岐
ガソリンの販売は個人事業税の物品販売業(第1種事業・税率5%)です(地方税法72条の2第8項)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。
燃料の仕入れ・人件費などの経費を年8,000万円と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。給油所は売上が大きくても利益率が低いので、判定に効くのは売上ではなく事業所得です。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −44.0万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −28.9万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −20.0万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −14.3万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +16.1万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +55.8万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 8000 --business type1 --age 40to64 --note '物品販売業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費8,000万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は物品販売業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円です。初年度は、承継なら1,341万円、新規登録を受け直した場合は登録免許税3万円が加わって1,370万円になります(同じスクリプトに --fee 30000 を付けて算出)。
消費税はインボイス登録済みを前提にしているので、法人化による免税も見込んでいません(インボイス登録済みなら法人化しても消費税は免除されない)。自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめてください。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。
まとめ
- 揮発油販売業者の登録は、事業の全部を会社に譲り渡せば会社が承継する(品確法7条)。事前の認可は要らず、承継後に遅滞なく届け出る
- 新規登録なら登録免許税3万円。一部の給油所だけを移す場合や欠格事由がある場合は承継できない
- 法人になると「業務を行う役員」が登録事項になり、役員の就任・退任には事前の変更登録が要る(8条1項)
- 給油所ごとの品質管理者と表示は、会社の名称に合わせて届出・掲示を改める
- 東京23区・40〜59歳の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は承継なら1,341万円
よくある質問
給油所が2か所あり、1か所だけ会社に移したい場合は?
承継の条文は「事業の全部」の譲渡を要件にしています。一部の給油所だけを会社に移すと承継に当たらず、会社は新たに登録を受ける必要があります(登録免許税3万円)。
法人成りのあと、妻を取締役に加えるときの手続きは?
揮発油販売業者が法人の場合、業務を行う役員は登録事項です(4条1項3号)。役員を変更しようとするときは、あらかじめ経済産業大臣(経済産業局長)の変更登録を受けなければなりません(8条1項)。受けないと登録取消しや事業停止の事由になります(11条)。
出典
- e-Gov法令検索 揮発油等の品質の確保等に関する法律 第3条(揮発油販売業者の登録)・第4条(登録の申請)・第6条(登録の拒否等)・第7条(承継)・第8条(変更登録等)・第9条(廃止の届出)・第10条(登録の失効)・第11条(登録の取消し等)・第14条(品質管理者)・第16条(揮発油の分析)・第17条(表示)・第23条(権限の委任)・第24条(罰則)
- e-Gov法令検索 揮発油等の品質の確保等に関する法律施行規則 第6条(揮発油販売業者の承継の届出)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一 第99号(揮発油販売業者の登録)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項(第一種事業:物品販売業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。