インボイス・消費税
個人事業主が死亡したらインボイスは4か月で失効。法人なら続く
結論
インボイス登録をしている個人事業主が死亡すると、事業を引き継いだ相続人は死亡の翌日から4か月を経過する日まで登録事業者とみなされ、故人の登録番号で請求書を出せます(消費税法57条の3)。それを過ぎると故人の登録は効力を失い、相続人は自分の名前で登録を受け直します。6月15日に亡くなった場合、所得税・消費税の準確定申告とみなし登録期間の終わりは同じ10月15日に重なります。一人会社なら登録は会社のものなので、社長が亡くなっても番号は変わりません。
- みなし登録期間中は相続人も課税事業者になる。売上800万円・経費200万円の設例で、6/16〜10/15の消費税は22.7万円(原則課税の概算)
- 故人が出していた課税事業者選択届出書・簡易課税制度選択届出書の効力は相続人に及ばない(消費税法基本通達1-4-12・13-1-3の2)
- 故人の基準期間の売上が1,000万円を超えていれば、相続人は登録しなくても相続の翌日から課税(消費税法10条)。売上1,500万円の設例で翌年は126.0万円
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
人が亡くなったときの税の手続きは「4か月以内の準確定申告」がよく知られています。インボイス登録をしている個人事業主の場合、同じ4か月がもう1つ走ります。故人の登録番号を相続人が使える期間です。
この2つは根拠も中身も別ですが、期限はほぼ同じ日に重なります。そのうえ、個人事業では故人が税務署に出していた届出の多くが相続人に引き継がれません。会社で事業をしていれば起きないことなので、法人化を考えるときの比較材料になります。
登録番号は相続人に引き継がれず、4か月の猶予がある
消費税法57条の3は、適格請求書発行事業者(個人事業者に限る)が死亡した場合の扱いを定めています。要点は3つです。
- 相続人は、適格請求書発行事業者が死亡した旨の届出書を、速やかに故人の納税地の税務署へ出す(1項)
- 事業を承継した相続人は、相続の翌日から「死亡の翌日から4月を経過する日」までの間、登録を受けた事業者とみなされる。この間は故人の登録番号が相続人の登録番号とみなされる(3項。この期間を「みなし登録期間」と呼ぶ)
- みなし登録期間の末日の翌日以後、故人の登録は効力を失い、税務署が登録を抹消して公表する(4項・5項)
相続人がみなし登録期間の後もインボイスを出し続けるには、自分の名前で登録申請書を出し直します(消費税法基本通達1-7-4)。期間中に申請していれば、期間の末日までに通知が来なくても、通知が届くまではみなし登録期間が延びます。
この申請に課税事業者選択届出書は要りません。みなし登録期間中の相続人は登録事業者とみなされ、免税の規定が適用されないためです(同通達1-7-4の注)。
相続人が複数いて遺産分割が終わっていないときは、相続人全員が「事業を承継した相続人」として扱われます(同1-7-5)。分割で事業を継がないことになった人は、その日から登録事業者とみなされなくなります。
期限は10月15日に重なる
6月15日に亡くなり、相続人が同じ日に知った場合の期限を計算しました。
| 手続き | 期限・期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 所得税の準確定申告(1/1〜6/15の所得) | 2026年10月15日(木)まで | 国税庁No.2022 |
| 消費税の準確定申告(1/1〜6/15の課税期間) | 2026年10月15日(木)まで | 消法45条3項 |
| みなし登録期間(故人の番号で請求書を出せる) | 2026年6月16日(火)〜2026年10月15日(木) | 消法57条の3第3項 |
| 故人の登録が効力を失う日 | 2026年10月16日(金) | 消法57条の3第4項 |
| 青色申告承認申請(故人が青色) | 2026年10月15日(木)まで | 国税庁No.2070 |
| 青色申告承認申請(故人が白色) | 2026年8月15日(土)まで | 国税庁No.2070 |
※ 期限が土日祝日に当たる場合は翌平日(国税通則法10条2項)。日付は民法143条の応当日で計算
※ 計算は scripts/kojin-jigyonushi-shibou-invoice.mjs による
準確定申告の期限は「相続の開始を知った日」から数え、みなし登録期間は「死亡した日」から数えます。亡くなったことを後から知った場合は、準確定申告の期限だけが後ろへずれます。
10月15日までに、故人の申告2本と、相続人自身の登録・青色申告の申請をまとめて済ませることになります。故人が白色申告だった場合、相続人の青色申告承認申請は承継から2か月以内で、さらに早く来ます。
準確定申告では、医療費や社会保険料は死亡の日までに故人が払った分だけが控除の対象です。配偶者控除や扶養控除は死亡の日の現況で判定し、月割りにはしません(No.2022)。
故人の届出は、相続人に引き継がれない
個人事業では、事業の主体は故人その人です。相続人が同じ屋号・同じ取引先で事業を続けても、税務上は別の事業者が事業を始めた扱いになります。そのため故人が出していた届出の多くは相続人に及びません。
| 故人が出していた届出・承認 | 相続人への効力 | 根拠 |
|---|---|---|
| 適格請求書発行事業者の登録 | みなし登録期間だけ。その後は相続人が登録申請 | 消法57条の3、基通1-7-4 |
| 課税事業者選択届出書 | 及ばない。必要なら相続人が出し直す | 基通1-4-12 |
| 簡易課税制度選択届出書 | 及ばない。相続のあった課税期間中に出せばその期間から適用できる | 基通13-1-3の2 |
| 青色申告の承認 | 及ばない。相続人が承認申請をする | 国税庁No.2070 |
簡易課税は、通常は前の課税期間中に届け出る必要があります。相続の場合は、事業をしていなかった相続人が相続のあった年の中に出せば、その年から適用できます(基通13-1-3の2(2))。出し忘れると、その年は原則課税で計算することになります。
相続人の消費税は、故人の売上で決まる
相続人がみなし登録期間の後に登録しない場合、消費税を納めるかどうかは故人の基準期間(2年前)の売上で決まります。消費税法10条1項は、故人の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、相続人は相続の翌日から課税事業者になると定めています。翌年と翌々年は、相続人と故人の基準期間の売上を合計して判定します(同条2項)。
売上800万円と1,500万円の2つの設例で、相続人が納める消費税を計算しました。
| 期間 | 誰が納めるか | 売上800万・経費200万 | 売上1,500万・経費400万 |
|---|---|---|---|
| 1/1〜6/15 | 相続人が故人の分を準確定申告 | 30.9万円 | 57.3万円 |
| 6/16〜10/15(みなし登録期間) | 相続人 | 22.7万円 | 42.1万円 |
| 10/16〜12/31(相続人が登録しない) | 相続人 | 0(免税。インボイスは出せない) | 26.6万円(消法10条1項で課税) |
| 10/16〜12/31(相続人が登録する) | 相続人 | 14.3万円 | 26.6万円 |
| 2027年(相続人が登録しない) | 相続人 | 0(免税。インボイスは出せない) | 126.0万円(消法10条2項で課税) |
| 参考:通年 | — | 68.0万円 | 126.0万円 |
※ 売上・経費は日数で按分し、基準期間の売上も同じ額と置いた。課税仕入割合60%、原則課税の概算。簡易課税と、令和8年9月30日を含む課税期間まで使える2割特例は考慮しない
※ 計算は scripts/kojin-jigyonushi-shibou-invoice.mjs(src/lib/rates.js の consumptionTaxAmount)による
売上800万円の事業は、故人がインボイスのために課税事業者になっていた規模です。相続人は、みなし登録期間の4か月だけは消費税を納め、その後は登録するかどうかを自分で選べます。登録しなければ免税に戻れますが、取引先は相続人の請求書で仕入税額控除を受けられなくなります。故人の取引先が事業者中心なら、登録しないという選択は取引の継続とぶつかります。
売上1,500万円の事業では、登録してもしなくても相続人は課税事業者です。登録しない理由はほとんどなく、10月15日までに申請しておかないと、インボイスを出せない期間が空きます。
一人会社なら、社長が亡くなっても変わらないもの
同じ事業を社長1人の会社でしていた場合、インボイスの登録を受けているのは会社です。社長の死亡で会社の登録が効力を失う規定はなく、登録番号も変わりません。消費税の届出も会社が出したものなので、簡易課税の選択もそのまま続きます。会社の基準期間の売上も途切れないので、相続人の売上と合算する計算も起きません。
| 項目 | 個人事業主が死亡 | 一人会社の社長が死亡 |
|---|---|---|
| インボイスの登録番号 | 4か月で失効。相続人が自分で登録 | 会社の番号がそのまま続く |
| 簡易課税などの届出 | 相続人に及ばない | 会社に効力が残る |
| 事業の所得の申告 | 1/1〜死亡日を相続人が準確定申告 | 会社が通常どおり決算・申告 |
| 社長本人の所得税 | 事業所得を準確定申告 | 役員報酬だけなら会社が死亡退職時の年末調整(No.2665) |
社長本人の所得税は、役員報酬のほかに所得がなければ、会社が年末調整をして終わります。国税庁No.2665は、年の中途で行う年末調整の対象に「死亡によって退職した人」を挙げています(その年の給与が2,000万円を超える人は対象外)。
ただし、会社には会社の手続きがあります。取締役が社長1人の株式会社では、社長の死亡で取締役がいなくなり、株は遺産分割まで相続人の共有になります。この手順は一人会社の社長が死亡したらで扱っています。合同会社では、定款に相続人が持分を承継する定めがないと会社が解散します(一人合同会社の社長が亡くなると会社は解散する)。
つまり、法人化すると税務署向けの手続きの断絶はなくなる代わりに、会社法上の手続きが残ります。どちらが軽いかは、定款の作り方と事前の備えで変わります。
法人化の判断材料としての位置づけ
死亡時の手続きの違いだけで法人化を決める人はいません。法人化の損得は、まず毎年の税と社会保険料の差で決まります。その全体像は個人事業主の法人化の目安と損益分岐点で整理しています。
それでも、事業を家族に継がせる前提の人にとっては、比較の1項目になります。個人事業の土地・建物を後継者に引き継ぐなら、個人のまま使える個人版事業承継税制もあります。法人化と消費税の関係そのものはインボイス登録済みなら、法人化しても消費税の2年間免税は受けられないで扱っています。
毎年の差がいくらになるかは、一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめてください。
まとめ
- インボイス登録をしている個人事業主が死亡すると、相続人は死亡の翌日から4か月を経過する日まで登録事業者とみなされ、故人の登録番号を使える(消費税法57条の3)
- その後も請求書を出すなら相続人が自分で登録申請する。期間中に申請すれば通知までみなし登録期間が延びる
- 6月15日の死亡なら、準確定申告(所得税・消費税)・みなし登録期間の終わり・青色申告承認申請が10月15日に重なる
- 課税事業者選択・簡易課税・青色申告は相続人に引き継がれない。故人の基準期間の売上が1,000万円超なら相続人は登録しなくても課税
- 一人会社なら登録番号と届出は会社に残る。代わりに取締役の選任や合同会社の解散回避といった会社法上の手続きが要る
よくある質問
相続人が複数いて、誰が事業を継ぐか決まっていません。インボイスはどうなりますか。
遺産分割が終わるまでは、相続人全員が「事業を承継した相続人」として扱われ、みなし登録期間の規定が適用されます(消費税法基本通達1-7-5)。分割で事業を継がないことになった相続人は、その日以後は登録事業者とみなされません。
みなし登録期間の終わりまでに相続人の登録が間に合わない場合はどうなりますか。
みなし登録期間中に相続人が登録申請書を出していれば、期間の末日までに登録の通知が届かなくても、通知が届くまではみなし登録期間が続きます(消費税法基本通達1-7-4)。その間は故人の登録番号で請求書を出します。
社長1人の会社で社長が亡くなった場合、会社のインボイス登録はやり直しになりますか。
登録を受けているのは会社なので、社長の死亡で効力を失う規定はなく、登録番号もそのまま使えます。必要になるのは代表者の選任と変更登記など会社側の手続きで、消費税の届出も会社に効力が残ります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。