社会保険

子どもが多いほど法人化が有利?国保の均等割は上限で止まる

結論

子ども1人あたりの国保の均等割は東京23区で年6万5,200円(未就学児は半額)ですが、法人化の損益分岐点は子どもが何人いても事業所得1,016万円のまま動きません。国保は事業所得900万円前後で上限に達し、それ以上では子どもが増えても保険料が増えないからです。子どもの人数が効くのは、法人化がまだ不利な事業所得800万円以下の帯だけです。

  • 東京23区の令和8年度の均等割は医療分4万7,600円+支援金分1万7,600円。子ども・子育て支援金分の均等割は18歳年度末まで全額軽減
  • 事業所得700万円・子3人なら、単年の差額は−15.4万円から−2.7万円まで縮む。それでも法人化の有利には逆転しない
  • 判定ツールの「扶養親族数」には16歳以上の子だけを入れる。15歳以下の子を入れると扶養控除38万円が加わり、損益分岐点が実際より高く出る

国民健康保険は世帯単位の保険料で、加入者1人ごとに均等割がかかります。夫婦と子ども3人なら5人分です。法人化して代表者が協会けんぽに入ると、配偶者も子どもも被扶養者になり、何人いても保険料は代表者1人分のままです。

ここから「子どもが多い家庭ほど法人化が有利」という説が生まれます。計算の筋は通っています。ただ、国保には上限があります。この記事では、上限がどこで効いて、損益分岐点がどう動くか(あるいは動かないか)を、東京23区の令和8年度の料率で計算しました。

子ども1人で年6万5,200円。未就学児は半額

港区が公表している令和8年度の国民健康保険料(東京23区の統一保険料率)では、加入者1人あたりの均等割は次のとおりです。

区分均等割(1人あたり)未就学児上限額
基礎分(医療分)47,600円23,800円67万円
後期高齢者支援金分17,600円8,800円26万円
子ども・子育て支援金分1,873円0円(18歳年度末まで全額軽減)3万円
介護分17,800円対象外(40〜64歳のみ)17万円

小学生以上18歳以下の子どもなら、医療分と支援金分で1人年6万5,200円。未就学児は3万2,600円です。子ども・子育て支援金分は令和8年度から始まった区分で、高校生年代までは均等割が全額軽減されます。

所得割は加入者それぞれの所得にかかるので、所得のない子どもには0円です。子どもが増えて増えるのは均等割だけです。

法人化すると、この均等割はまるごとなくなります。協会けんぽの保険料は被保険者の標準報酬月額で決まり、被扶養者の人数は関係しないからです。

ただし国保は、所得800万〜900万円で上限に達する

国保の各区分には上限(賦課限度額)があります。所得割と均等割を足した額が上限を超えると、それ以上は増えません。

子どもがいると均等割の分だけ保険料が早く上限に届くので、上限に届く所得の位置が子どもの人数で前に出てきます

世帯(配偶者あり)医療分が67万円の上限に達する事業所得支援金分が26万円の上限に達する事業所得
子なし873.4万円910.9万円
子1人810.0万円848.0万円
子2人746.6万円785.1万円
子3人683.2万円722.3万円

※ 事業所得=売上−経費(青色申告特別控除65万円の前)。子は小学生以上。計算は scripts/kokuho-kodomo-kintouwari.mjs で再現できます

上限に達した後は、子どもが何人いても国保は同じ額です。個人事業主の側で子どもの分の保険料が増えるのは、この上限の手前だけです。

事業所得(売上−経費)子1人子2人子3人未就学児2人
400万円6.5万円13.0万円19.6万円6.5万円
600万円6.5万円13.0万円19.6万円6.5万円
800万円6.5万円8.6万円8.6万円6.5万円
1,000万円0.0万円0.0万円0.0万円0.0万円
1,200万円0.0万円0.0万円0.0万円0.0万円

※ 子どもがいない世帯と比べた国保の増加額(年)

事業所得1,000万円では、子どもが3人いても国保は1円も増えません。子どもがいない世帯でも、すでに上限に達しているからです。

損益分岐点は子どもの人数で動かない

では法人化の判定はどう変わるのか。当サイトの計算エンジンで、配偶者あり(収入なし)・子どもなしの結果に、子どもの分の国保の増加(増えた国保による所得税・住民税の減少を差し引いた純増)を足して、単年の実質差額を出しました。

事業所得子なし子1人子2人子3人
500万円-28.9万円-23.4万円-17.9万円-12.4万円
600万円-23.0万円-17.8万円-12.6万円-7.4万円
700万円-15.4万円-10.9万円-6.3万円-2.7万円
800万円-8.4万円-3.8万円-2.4万円-2.4万円
900万円-4.1万円-3.9万円-3.9万円-3.9万円
1,000万円-1.4万円-1.4万円-1.4万円-1.4万円

※ 法人化−個人のまま。マイナスは法人化が不利。経費200万円・東京23区・40歳未満・配偶者あり(収入なし)・子は15歳以下(扶養控除なし)・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・税理士報酬の差を含む/2026年(令和8年)分基準

事業所得700万円で子どもが3人いると、差額は−15.4万円から−2.7万円まで縮みます。子どもが多いほど法人化の不利が小さくなる、というところまでは説のとおりです。

ところが、どの人数でも差額はプラスに転じません。所得が上がって法人化が有利に近づくころには、国保がすでに上限に達していて、子どもの分の差がなくなっているからです。損益分岐点を探し直すと、子どもなしでも1人でも3人でも、未就学児2人でも、事業所得1,016万円で同じでした。

世帯損益分岐点
配偶者のみ(子なし)1,016万円
子1人(小学生以上)1,016万円
子2人(小学生以上)1,016万円
子3人(小学生以上)1,016万円
子2人(未就学児)1,016万円

配偶者の有無は違います。配偶者は国保の均等割に加えて国民年金保険料(年21万5,040円)も個人事業主側でかかるため、上限と関係なく差が残ります。配偶者がいると分岐点が250万円下がる記事の結果はこの年金の分が大きく、子どもには国民年金がない(20歳未満)ので同じことは起きません。

高校生の子は逆に、分岐点を押し上げる

16歳以上の子どもは扱いが変わります。扶養控除(一般の控除対象扶養親族で38万円)の対象になるからです。

扶養控除は所得控除なので、効く額は「控除額×税率」です。個人事業主は事業所得全体に累進税率がかかり、法人化すると役員個人の税率は下がります。同じ38万円の控除でも、法人化すると軽くなります。この構造は障害者控除の記事で計算したものと同じです。

計算エンジンで扶養親族(16〜18歳の子)の人数を変えると、損益分岐点は次のように動きました。

世帯損益分岐点事業所得1,200万円での実質差額
配偶者のみ1,016万円12.7万円
+16〜18歳の子1人1,066万円4.2万円
+16〜18歳の子2人1,259万円-2.3万円
+16〜18歳の子3人1,303万円-3.8万円

※ 前提は上の表と同じ。扶養控除38万円(住民税33万円)を1人ずつ加え、国保の均等割も1人ずつ加えている

この帯では差額が数万円の幅で行き来するので、損益分岐点の数字は大きく動いて見えます。実際の差額は、事業所得1,200万円で子1人なら4.2万円、2人なら−2.3万円です。19〜22歳の子は特定扶養親族として控除額がさらに大きく(63万円)、同じ方向にもっと強く働きます。

判定ツールの「扶養親族数」には、16歳以上の子だけを入れる

ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。

当サイトの判定ツールの「扶養親族数(配偶者を除く)」は、1人ごとに国保の均等割と扶養控除38万円の両方を計算に入れます。16〜18歳の子なら正しい計算です。

15歳以下の子を入れると、実際にはない扶養控除38万円が加わり、損益分岐点が実際より高く出ます。15歳以下の子の国保の均等割は、上で見たとおり分岐点付近では上限に吸収されて効きません。15歳以下の子どもは「扶養親族数」に数えずに判定するほうが、実態に近い結果になります。

判定ツールの前提は計算方法のページに公開しています。

まとめ

  • 国保の均等割は子ども1人で年6万5,200円(東京23区、未就学児は半額)。法人化すると被扶養者になり0円になる
  • ただし国保には上限があり、子どもがいると上限に届く所得が前に出る。子3人なら医療分は事業所得683万円で上限
  • 子どもが多いほど法人化の不利は縮むが、どの人数でも逆転しない。損益分岐点は1,016万円のまま
  • 16歳以上の子は扶養控除があるため、逆に損益分岐点を押し上げる
  • 判定ツールの「扶養親族数」には16歳以上の子だけを入れる

一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。子どもの人数より、配偶者の国民年金と、自分の所得が国保の上限に届いているかどうかのほうが、判定を大きく動かします。

よくある質問

未就学児の均等割が半額になるのに届出は要りますか。

港区の保険料の説明では、医療分・支援金分とも未就学児の均等割額が半額の単価で示されており、計算に組み込まれています。個別の手続きの要否はお住まいの市区町村で確認してください。

法人化すると子どもの健康保険はどうなりますか。

代表者が協会けんぽの被保険者になり、収入要件などを満たす子は被扶養者になります。被扶養者が何人いても、代表者の健康保険料は標準報酬月額だけで決まるため増えません。

所得が低い世帯の均等割の軽減は関係ありますか。

世帯の所得が一定以下なら均等割が7割・5割・2割減額されますが、法人化を検討する事業所得の帯(数百万円以上)では対象外になるのが通常です。この記事の計算でも扱っていません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。