税金の基礎

障害者控除に所得制限はない。それでも法人化で減税額が縮む理由

結論

障害者控除には本人の所得制限がなく、法人化しても控除そのものは残ります。ただし減る税額は控除額×税率で決まるため、事業所得1,200万円の人が法人化すると、障害者控除1人分の減税額は年11万6,900円から5万3,600円に下がります。その分、法人化の損益分岐点は1,266万円から1,327万円へ上がります。

  • 控除額は所得税27万円・40万円・75万円、住民税26万円・30万円・53万円。16歳未満の扶養親族にも使える
  • 同居特別障害者の家族がいる場合、損益分岐点は事業所得1,266万円から1,439万円まで上がる(東京23区・単身の試算)
  • 個人事業主が配偶者を青色事業専従者にすると、配偶者は同一生計配偶者から外れ、配偶者の障害者控除が使えなくなる

ひとり親控除や配偶者控除は、本人の所得が一定額を超えると使えなくなります。障害者控除にはその線がありません。所得が2,000万円でも、法人化して役員報酬に切り替えても、控除額は同じです。

それでも法人化で変わるものがあります。控除で減る税額です。所得控除の価値は「控除額×その人の税率」なので、法人化で役員個人の課税所得が下がると、同じ27万円の控除が軽くなります。この記事では、その目減りを計算エンジンで金額にし、損益分岐点がどこまで動くかを示します。

障害者控除は3区分。住民税の控除額は所得税と違う

国税庁のタックスアンサーNo.1160によると、障害者控除の対象は、納税者本人・同一生計配偶者・扶養親族のうち所得税法上の障害者に当てはまる人です。控除額は区分ごとに決まっています。

区分所得税住民税
障害者27万円26万円
特別障害者40万円30万円
同居特別障害者75万円53万円

住民税の控除額は新宿区の説明によります。全国共通の地方税法上の金額です。

特別障害者に当たるのは、身体障害者手帳の1級・2級、精神障害者保健福祉手帳の1級、重度の知的障害と判定された人などです。同居特別障害者は、特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族のうち、納税者・配偶者・生計を一にする親族のいずれかと同居を常況としている人を指します。

見落とされやすいのが年齢です。扶養控除は16歳未満の子には使えませんが、障害者控除は16歳未満の扶養親族にも適用されます。 国税庁のタックスアンサーにも明記されています。小学生の子に障害がある場合、扶養控除は0円でも障害者控除は単独で効きます。

もう1つ、住民税には非課税の線があります。納税者本人が障害者で、前年の合計所得金額が135万円以下なら、住民税は所得割も均等割もかかりません。給与だけなら年収204万4,000円未満が目安です。役員報酬を月17万円程度まで下げる設計でなければ関係しない線なので、この記事では扱いを最小限にします。

本人の所得制限がない。ここがひとり親控除と違う

同じ人的控除でも、所得で切れるものと切れないものがあります。

控除本人の所得制限
基礎控除合計所得2,350万円超で逓減、2,500万円超で0円
配偶者控除合計所得1,000万円超で0円
ひとり親控除・寡婦控除合計所得500万円超で使えない
障害者控除なし

ひとり親控除の記事では、個人事業主は事業所得がそのまま合計所得金額として判定に乗り、法人化すると役員報酬の給与所得に入れ替わることを示しました。所得制限のある控除では、この入れ替わりで「使える/使えない」が切り替わります。

障害者控除では、この切り替わりが起きません。個人事業主のままでも法人化後でも、控除額は27万円・40万円・75万円のままです。ですから「法人化すると障害者控除が使えなくなるのでは」という心配は不要です。

変わるのは、控除額ではなく税率の側です。

控除の価値は税率で決まる。法人化で税率が下がると目減りする

所得控除27万円が、そのまま27万円の節税になるわけではありません。減るのは課税所得で、税額はそこに税率を掛けた分だけ減ります。所得税は5%から45%の累進税率なので、同じ控除でも税率の高い人ほど効きます。

個人事業主の場合、事業の利益はすべて本人の事業所得になり、その全体に累進税率がかかります。法人化すると、個人が受け取るのは役員報酬だけで、残りは法人の所得です。役員個人の課税所得は下がり、適用される所得税率も下がります。 法人化で節税になる理由そのものが、所得控除の価値を削る方向に働くわけです。

当サイトの計算エンジンで、障害者控除(27万円・住民税26万円)1人分で減る税額を、個人のまま/法人化後で並べました。法人化後の役員報酬は、控除を入れない状態で手取りが最大になる額です。

事業所得(売上−経費)個人のまま:課税所得個人のまま:減る税額法人化:役員報酬法人化:課税所得法人化:減る税額
300万円82.5万円40,300円月20万円21.9万円37,600円-2,700円
400万円171.9万円39,800円月28万円75.5万円40,300円500円
500万円261.3万円53,600円月36万円136.3万円40,300円-13,300円
600万円387.7万円81,200円月42万円185.4万円39,700円-41,500円
800万円571.6万円81,200円月54万円280.2万円53,600円-27,600円
1,000万円755.9万円89,400円月54万円280.2万円53,600円-35,800円
1,200万円955.5万円116,900円月54万円280.2万円53,600円-63,300円
1,500万円1255.5万円117,000円月54万円280.2万円53,600円-63,400円
1,800万円1555.5万円117,000円月90万円698.4万円82,100円-34,900円
2,100万円1855.5万円136,300円月95万円755.4万円89,400円-46,900円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 減る税額=所得税(復興特別所得税を含む)+住民税所得割(調整控除の増減を含む)。役員報酬は控除なしで手取り最大となる額 ※ 計算は scripts/shogaisha-kojo-houjinka.mjs で再現できます

事業所得1,200万円の人は、個人のままなら課税所得955.5万円で所得税率33%の帯にいます。障害者控除1人分で年11万6,900円の減税です。法人化して役員報酬を月54万円にすると、役員個人の課税所得は280.2万円、税率は10%に下がり、同じ控除の価値は5万3,600円になります。半分以下です。

事業所得400万円のあたりでは差がほとんどありません。個人のままでも税率が5〜10%の帯にいるためです。目減りが大きくなるのは、個人のままだと税率23%以上の帯にいる人、おおむね事業所得600万円からです。

なお、個人事業税と法人の税(法人税・法人住民税・法人事業税)には障害者控除がありません。差が出るのは所得税と住民税だけです。

特別障害者・同居特別障害者だと、目減りは年15万円を超える

控除額が大きい区分ほど、目減りの金額も大きくなります。同じ計算を3区分で行った結果の抜粋です。

事業所得区分個人のまま:減る税額法人化:減る税額
800万円特別障害者111,700円70,900円-40,800円
800万円同居特別障害者206,200円129,600円-76,600円
1,200万円特別障害者164,700円70,900円-93,800円
1,200万円同居特別障害者285,700円129,600円-156,100円
1,500万円同居特別障害者305,700円129,600円-176,100円

※ 前提は上の表と同じ。控除の対象者が複数いる場合は、1人ごとに控除額を足して計算します

同居特別障害者の家族がいる事業所得1,500万円の人は、法人化によって控除の価値が年17万6,100円目減りします。

この目減りを、法人化の損益分岐点に織り込むとどうなるか。計算エンジンの判定(設立費用を除いた3年目以降の実質差額)に、上の差を足して損益分岐点を探し直しました。

家族・本人の状況損益分岐点(事業所得)控除なしとの差
障害者控除なし1,266万円
障害者 1人1,327万円+61万円
特別障害者 1人1,357万円+91万円
同居特別障害者 1人1,439万円+173万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・税理士報酬の差を含む/2026年(令和8年)分基準

同居特別障害者の家族がいると、法人化が手取りで有利になる所得のラインは173万円上がります。判定ツールで「僅差で法人化が有利」と出た人ほど、この差で結論が入れ替わる可能性があります。

当サイトのシミュレーターは障害者控除を計算に入れていません。 基礎控除・配偶者控除・扶養控除・社会保険料控除までを反映しています。該当する人は、判定結果の差額から上の目減り分を差し引いて読んでください。計算の前提は計算方法のページに公開しています。

配偶者を青色事業専従者にすると、配偶者の障害者控除が消える

ここまでは法人化で不利になる話でしたが、逆方向に効く論点が1つあります。配偶者に給与を払っている場合です。

障害者控除の対象になる配偶者は「同一生計配偶者」です。所得税法第2条の定義では、同一生計配偶者から青色事業専従者として給与の支払を受ける人と白色の事業専従者が除かれています。扶養親族の定義も同じです。

つまり個人事業主が、障害のある配偶者を青色事業専従者にして給与を払うと、その配偶者は同一生計配偶者に当たらなくなり、配偶者の障害者控除は使えません。 専従者給与を年1円でも受け取れば外れます。

法人化すると、配偶者に払うのは法人からの役員報酬か給与です。これは青色事業専従者給与ではないため、この除外規定にかかりません。配偶者の合計所得金額が62万円以下(令和8年分。給与のみなら給与収入136万円以下)に収まっていれば、同一生計配偶者として障害者控除の対象に戻ります。

配偶者への支払い方配偶者の障害者控除
個人事業主が青色事業専従者給与を払う使えない(同一生計配偶者から除外)
個人事業主が給与を払わない使える(配偶者の所得が62万円以下なら)
法人が給与・役員報酬を払う使える(配偶者の所得が62万円以下なら)

同居特別障害者に当たる配偶者なら、控除額は所得税75万円・住民税53万円です。上の表で見たとおり、事業所得1,000万円の個人事業主なら年22万4,800円分の減税に相当します。専従者給与と控除のどちらを取るかは、専従者給与と役員報酬の比較記事の計算とあわせて考える必要があります。

配偶者の合計所得金額が62万円の要件は、令和8年12月1日施行の改正で58万円から引き上げられ、令和8年分から適用されます(国税庁No.1191)。令和7年分の解説を読むときは1年ずれに注意してください。

役員報酬が850万円を超えると、別の控除が加わる

法人化後にだけ現れる控除もあります。所得金額調整控除です。国税庁のタックスアンサーNo.1411によると、給与等の収入金額が850万円を超える人で、本人が特別障害者、または特別障害者である同一生計配偶者・扶養親族がいる場合に、給与所得から次の額を差し引けます。

(給与等の収入金額[1,000万円超なら1,000万円]−850万円)×10%

最大15万円です。事業所得には適用がないため、個人事業主のままでは使えません。上の表で事業所得1,800万円の人の最適な役員報酬は月90万円(年1,080万円)でしたから、特別障害者の家族がいればこの控除が満額の15万円つきます。

この控除は23歳未満の扶養親族がいる場合にも使えます。控除額と最適な役員報酬への影響は所得金額調整控除の記事で計算しています。

まとめ

  • 障害者控除は所得税27万円・40万円・75万円、住民税26万円・30万円・53万円。本人の所得制限はなく、16歳未満の扶養親族にも使える
  • 法人化しても控除額は変わらない。変わるのは役員個人の税率で、事業所得1,200万円なら1人分の減税額は年11万6,900円から5万3,600円に下がる
  • この目減りを織り込むと、損益分岐点は1,266万円から障害者1人で1,327万円、同居特別障害者1人で1,439万円に上がる
  • 個人事業主が配偶者を青色事業専従者にすると、配偶者は同一生計配偶者から外れて障害者控除が使えない。法人からの給与ならこの除外にかからない
  • 役員報酬が850万円を超え、特別障害者の家族がいれば、所得金額調整控除(最大15万円)が加わる

一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。判定ツールの差額が数万円から十数万円の範囲なら、障害者控除の目減り分で結論が変わることがあります。

よくある質問

障害者手帳の交付を申請中でも、その年の障害者控除は受けられますか。

受けられる場合があります。国税庁のタックスアンサーNo.1186によると、身体障害者手帳の交付を申請中か交付のための医師の診断書を持っていて、年末時点で明らかに手帳の交付を受けられる程度の障害があると認められる人は、障害者控除の対象になります。

要介護認定を受けていれば障害者控除の対象になりますか。

要介護認定だけでは対象になりません。65歳以上で、市町村長等から障害者に準ずるものとして認定を受けた人が対象です。認定の手続は市区町村の介護保険・高齢福祉の窓口で行います。

判定ツールの結果に障害者控除は反映されていますか。

反映されていません。当サイトのシミュレーターは基礎控除・配偶者控除・扶養控除・社会保険料控除までを計算しています。障害者控除がある人は、この記事の減税額の差を自分で足し引きしてください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。