税金の基礎
特別児童扶養手当の所得制限は、法人化で超えにくくなる
結論
配偶者(無収入)と1級の障害のある子がいる世帯では、個人事業のまま事業所得(青色控除後)が583.6万円以上になると手当は全額停止ですが、法人化すると役員報酬が月66万円に届くまで支給が続きます。売上1,000万円・経費200万円なら、個人のままでは停止、法人化すれば1級の年70.1万円が支給され、実質差額は年−8.4万円から+61.8万円に変わります。
- 令和8年4月からの手当月額は1級58,450円・2級38,930円。所得制限は本人の扶養親族等2人で535.6万円(所得額)
- 所得額は、給与所得・公的年金等があるときだけさらに10万円を引く。社会保険料は実額でなく一律8万円
- 限度額を超えると一部支給はなく全部停止。8月から翌年7月までの1年分が止まる
特別児童扶養手当は、障害のある子を家庭で育てる父母に国が支給する手当です。ひとり親に限らず、夫婦の世帯も対象です。ただし所得制限があり、限度額を超えると一部支給ではなく全額が止まります。
限度額を判定する「所得額」は、所得税の課税所得とは別の計算です。給与所得にだけ10万円の控除が付き、社会保険料は実額にかかわらず一律8万円です。この仕組みのため、同じ事業の利益でも、個人事業のままか法人化して役員報酬で受け取るかで判定が分かれます。
手当は1級で年70.1万円。超えたら全部止まる
厚生労働省によれば、令和8年4月からの手当月額は次のとおりです。支払いは原則として4月・8月・12月に、前月分までがまとめて振り込まれます。
| 障害の程度 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 1級 | 58,450円 | 70万1,400円 |
| 2級 | 38,930円 | 46万7,160円 |
所得制限の限度額は、扶養親族等の数で決まります。受給資格者本人と、配偶者・扶養義務者で別の表があります。
| 扶養親族等の数 | 受給資格者本人 | 配偶者・扶養義務者 |
|---|---|---|
| 0人 | 4,596,000円 | 6,287,000円 |
| 1人 | 4,976,000円 | 6,536,000円 |
| 2人 | 5,356,000円 | 6,749,000円 |
| 3人 | 5,736,000円 | 6,962,000円 |
※ 厚生労働省「特別児童扶養手当について」・名古屋市の限度額表(令和8年8月分から令和9年7月分)。4人目以降は本人が1人につき38万円、配偶者・扶養義務者が21.3万円を加算
限度額以上になると、その年度(8月から翌年7月まで)の手当は全部支給停止です。児童扶養手当のように所得に応じて少しずつ減る一部支給はありません。限度額を1円でも超えると、1級なら年70.1万円がまるごと止まる崖です。
所得額の計算は、給与所得に10万円の控除が付く
横浜市の説明では、手当の所得額は次の式で計算します。
所得額 = 所得 −(給与所得・公的年金等があるときは10万円)− 8万円(定額控除)− 障害者控除・医療費控除などの諸控除
ポイントは3つです。
- 給与所得には給与所得控除が先に効き、さらに10万円を引ける。 事業所得にはどちらもない
- 社会保険料は実額ではなく一律8万円。 国保でも協会けんぽでも、いくら払っても判定額は変わらない
- 障害者控除(27万円)・特別障害者控除(40万円)は引ける。 1級の子を育てる世帯なら特別障害者控除40万円が入る
この構造は、ひとり親世帯の児童扶養手当と同じです(児童扶養手当は法人化で戻ることがある)。違うのは、特別児童扶養手当の限度額がずっと高く、自営業の所得帯そのものにかかる点です。
個人事業のままだと、売上900万円で止まる
配偶者(無収入)と、1級の障害のある16歳未満の子が1人いる世帯で計算しました。扶養親族等の数は2人、本人の限度額は535.6万円です。法人化後は、判定ツールが手取り最大として選ぶ役員報酬を使っています。
扶養親族等の数2人(配偶者・子):受給資格者本人の限度額 5,356,000円
| 売上 | 事業所得 | 個人:手当の所得額 | 個人:手当 | ツールの最適報酬 | 給与所得 | 法人:手当の所得額 | 法人:手当 | 実質差額(手当なし) | 実質差額+手当(1級) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 600万円 | 335.0万円 | 287.0万円 | 支給 | 月28万円 | 227.2万円 | 169.2万円 | 支給 | −24.6万円 | −24.6万円 |
| 700万円 | 435.0万円 | 387.0万円 | 支給 | 月36万円 | 301.6万円 | 243.6万円 | 支給 | −28.9万円 | −28.9万円 |
| 800万円 | 535.0万円 | 487.0万円 | 支給 | 月42万円 | 359.2万円 | 301.2万円 | 支給 | −23.0万円 | −23.0万円 |
| 900万円 | 635.0万円 | 587.0万円 | 全部停止 | 月48万円 | 416.8万円 | 358.8万円 | 支給 | −15.4万円 | +54.7万円 |
| 1,000万円 | 735.0万円 | 687.0万円 | 全部停止 | 月54万円 | 474.4万円 | 416.4万円 | 支給 | −8.4万円 | +61.8万円 |
| 1,200万円 | 935.0万円 | 887.0万円 | 全部停止 | 月54万円 | 474.4万円 | 416.4万円 | 支給 | −1.4万円 | +68.7万円 |
| 1,400万円 | 1,135.0万円 | 1,087.0万円 | 全部停止 | 月54万円 | 474.4万円 | 416.4万円 | 支給 | +12.7万円 | +82.8万円 |
※ 東京23区・40歳未満・配偶者(無収入)と障害のある子1人(1級・16歳未満)・経費200万円・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。手当の所得額は特別障害者控除40万円を差し引いた額。手当は1級の月58,450円×12か月で計算。判定ツールは障害者控除を計算に入れていないので、実質差額は税の面でやや法人化に有利な側に出る
個人事業のままでは、売上900万円(事業所得635万円)で手当の所得額が限度額を超え、全部停止になります。法人化すれば、ツールの最適報酬のままで支給が続きます。
売上900万〜1,200万円の帯では、手当を考えなければ法人化は年1.4万〜15.4万円の損です。手当を足すと年54.7万〜68.7万円のプラスに変わります。 この世帯の法人化の損益分岐点は、ツールの上では事業所得1,016万円(配偶者あり)ですが、手当を含めると事業所得584万円前後まで下がります。
停止になる境目は、事業所得と役員報酬で100万円以上ずれる
扶養親族等の数ごとに、手当が止まる事業所得と役員報酬を出しました。
| 扶養親族等の数 | 本人の限度額(所得額) | 個人:停止になる事業所得(青色控除後) | 同・事業の利益(青色控除前) | 法人:停止になる役員報酬 |
|---|---|---|---|---|
| 0人 | 4,596,000円 | 507.6万円 | 572.6万円 | 月59万円(年708万円) |
| 1人 | 4,976,000円 | 545.6万円 | 610.6万円 | 月62万円(年744万円) |
| 2人 | 5,356,000円 | 583.6万円 | 648.6万円 | 月66万円(年792万円) |
| 3人 | 5,736,000円 | 621.6万円 | 686.6万円 | 月69万円(年828万円) |
※ 子が1級で特別障害者控除40万円を差し引く場合。役員報酬は1万円刻みで、給与所得が限度額+58.0万円以上になる最初の月額。令和8年分の給与所得控除で計算
扶養親族等2人の世帯で比べると、個人事業は事業の利益648.6万円で止まり、法人は役員報酬が年792万円に届くまで止まりません。役員報酬を月66万円払うには、会社負担の社会保険料を含めて事業の利益がおおむね900万円以上必要です。それより小さい事業では、法人化後に手当が止まることはありません。
扶養親族等の数に、16歳未満の子を数えるかどうかは手当の規定に従います。所得税法上の扶養親族には16歳未満の子も含まれますが、実際の数え方は申請先の市区町村で確認してください。
報酬を上げすぎると止まる。配偶者の所得も見られる
判定ツールの最適報酬は、この条件では月54万円で頭打ちになり、停止の境目(月66万円)より下にあります。ただし事業の利益が大きくなり、役員報酬を月66万円以上に設定すると、法人化していても手当は止まります。手当を受けている間は、役員報酬の上限を手当の境目に合わせて決めるという考え方が成り立ちます。
もう1つの注意点は配偶者です。配偶者を役員にして報酬を払うと、配偶者の所得も判定対象になります。配偶者・扶養義務者の限度額は本人より高く、扶養親族等0人で628.7万円ですが、配偶者が高い報酬を受けると、本人の所得額が低くても支給されません。所得分散のために配偶者へ報酬を移す判断は、手当の判定と合わせて考える必要があります(配偶者がいると法人化の分岐点は250万円下がる)。
障害者控除そのものは、所得税・住民税の計算でも引けます。控除の効き方が法人化でどう変わるかは障害者控除に所得制限はない。それでも法人化で減税額が縮む理由で計算しています。
まとめ
- 特別児童扶養手当は1級で月58,450円(年70.1万円)。所得が限度額以上なら一部支給はなく全部停止
- 手当の所得額は、給与所得にだけ10万円の控除が付き、社会保険料は一律8万円。法人化すると同じ利益でも所得額が下がる
- 配偶者と1級の子がいる世帯では、個人事業は事業所得583.6万円以上で停止、法人化後は役員報酬が月66万円に届くまで支給
- 売上900万〜1,200万円の帯では、手当を足すと法人化の実質差額が年54.7万〜68.7万円のプラスに変わる
- 配偶者や同居の親の所得も判定に入る。配偶者へ報酬を移すときは限度額を確認する
判定ツールは手当を計算に入れていません。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で実質差額を出したうえで、手当の所得額を上の式で計算して足し引きしてください。
よくある質問
特別児童扶養手当は、ひとり親でなくても受け取れますか?
受け取れます。20歳未満で精神または身体に障害のある児童を家庭で監護・養育している父母等が対象で、ひとり親かどうかは問いません。ひとり親家庭を対象とする児童扶養手当とは別の制度で、要件を満たせば両方を受け取れる場合があります。
配偶者の所得も判定に入りますか?
入ります。受給資格者本人とは別に、配偶者と生計を同じくする扶養義務者にも限度額があり、扶養親族等0人で628.7万円です。本人の所得が限度額未満でも、配偶者や同居の親の所得が限度額以上なら手当は支給されません。
法人化した年から判定が変わりますか?
判定に使うのは前年の所得(1月から6月に請求する場合は前々年)で、支給は8月から翌年7月までの年度単位です。法人化した年の所得が判定に乗るのは翌年8月分からです。法人化した年は個人事業の期間と役員報酬の期間の所得が合算されます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。