社会保険
国保の世帯分離は法人化の前後で損得が逆になる。親子同居の保険料
結論
国保料は世帯単位で計算され、平等割・賦課限度額・7割/5割/2割軽減の判定がすべて世帯ごとにかかります。法人化前(親子とも国保)は、平等割のある大阪市で親の所得が90万円なら分離で年2万2,479円増え、子の所得800万円・親の所得90万円なら限度額の分け直しで平等割のない東京23区でも年1万2,349円増えます。法人化後(社長は協会けんぽ、親だけ国保)は平等割が1世帯分のまま変わらず、社長の所得が軽減判定から外れるため、親の所得30万円なら政令市と東京23区の20市区すべてで年4万6,060円〜7万7,955円下がります(当サイト試算)。
- 法人化後も同じ世帯なら社長は擬制世帯主になり、国保に入っていない社長の所得が親の軽減判定に入る。分離するとこれが外れる
- 法人化前の分離は、軽減が増える効果と、平等割・限度額が世帯ごとに増える効果の差し引き。子の所得が高いほど不利になる
- 世帯分離は生計を別にした実態がある場合の届出で、保険料のための形式的な届出は認められない。親を健康保険の被扶養者にできるなら、そちらは国保料自体がなくなる
このテーマの全体像 国民健康保険料の自治体別比較
同居の親子が住民票の世帯を分けると、国民健康保険料は「1つの世帯で計算した額」から「2つの世帯それぞれで計算した額の合計」に変わります。所得割と均等割は1人ずつ計算するので変わりません。動くのは、世帯ごとにかかる3つの要素です。
この3つが、法人化の前と後で逆向きに効きます。順に数字で見ていきます。
世帯を分けると動くのは、平等割・限度額・軽減判定の3つ
国民健康保険法76条は、保険料を「被保険者の属する世帯の世帯主」から徴収すると定めています。賦課額も、国民健康保険法施行令29条の7で世帯に対する額として上限(基礎賦課額は67万円)が決められています。保険料の単位が個人ではなく世帯なので、世帯を分けると次の3つが変わります。
| 要素 | 同一世帯 | 分離後 | 分離の効果 |
|---|---|---|---|
| 平等割 | 1世帯分 | 2世帯分 | 平等割のある自治体では増える |
| 賦課限度額 | 世帯の合計に1回 | 世帯ごとに1回ずつ | 高所得の子がいると増える |
| 法定軽減の判定 | 親子の所得を合算 | 世帯ごとに判定 | 低所得の親の世帯に軽減が効けば減る |
平等割は自治体によって有無が分かれます。当サイトの税率データでは、東京23区は平等割0円、大阪市は医療分3万3,908円・支援金分1万845円の計4万4,753円です。
法定軽減の判定基準額(令和8年度)は、大阪市の案内によると7割が43万円、5割が43万円+31万円×被保険者等の数、2割が43万円+57万円×被保険者等の数です(給与所得者等が2人以上いる世帯は10万円ずつ加算)。親子2人の世帯なら2割軽減でも157万円までなので、子が事業で稼いでいれば同一世帯での軽減はまず効きません。
法人化前:親子とも国保なら、分離で増える帯がある
まず、子(本人・40歳未満)が個人事業主で、親(40〜64歳)と同居し、2人とも国民健康保険に入っている場合です。親の所得は給与・年金以外とし、所得は青色申告特別控除の後の額です。scripts/kokuho-setai-bunri.mjs で、料率は data/rates-2026.json の令和8年度の値を使いました。
東京23区(平等割なし)
| 子の所得 | 親の所得 | 同一世帯 | 分離(子+親) | 分離による差 |
|---|---|---|---|---|
| 200万円 | 30万円 | 318,052円 | 233,179円+25,461円 | −59,412円 |
| 200万円 | 90万円 | 379,199円 | 233,179円+129,045円 | −16,975円 |
| 200万円 | 150万円 | 457,259円 | 233,179円+224,080円 | ±0円 |
| 800万円 | 30万円 | 952,852円 | 867,979円+25,461円 | −59,412円 |
| 800万円 | 90万円 | 984,675円 | 867,979円+129,045円 | +12,349円 |
| 800万円 | 150万円 | 1,000,875円 | 867,979円+224,080円 | +91,184円 |
| 1,200万円 | 30万円 | 977,800円 | 960,000円+25,461円 | +7,661円 |
| 1,200万円 | 150万円 | 1,003,801円 | 960,000円+224,080円 | +180,279円 |
大阪市(平等割あり)
| 子の所得 | 親の所得 | 同一世帯 | 分離(子+親) | 分離による差 |
|---|---|---|---|---|
| 200万円 | 30万円 | 361,067円 | 294,363円+33,502円 | −33,202円 |
| 200万円 | 90万円 | 433,635円 | 294,363円+161,751円 | +22,479円 |
| 200万円 | 150万円 | 526,275円 | 294,363円+276,665円 | +44,753円 |
| 800万円 | 30万円 | 963,560円 | 936,715円+33,502円 | +6,657円 |
| 800万円 | 90万円 | 977,096円 | 936,715円+161,751円 | +121,370円 |
| 1,200万円 | 150万円 | 996,502円 | 950,000円+276,665円 | +230,163円 |
※ 子は40歳未満・親は40〜64歳(介護分あり)。法定軽減は均等割・平等割に適用。当サイトの計算エンジンの料率による概算
読み方は2つです。
1つ目は、親の所得が43万円以下なら7割軽減が親の世帯に付くことです。東京23区では親の均等割の7割、5万9,412円がそのまま減ります。大阪市では2つ目の世帯の平等割4万4,753円の3割が新たに乗るため、減る額は3万3,202円に縮みます。親の所得が90万円(5割・2割の帯)になると、大阪市では平等割の増加が軽減を上回って逆転します。
2つ目は、子の所得が高いと限度額の分け直しで増えることです。同一世帯なら親子の所得割の合計に限度額が1回だけかかります。分離すると、子の世帯が単独で限度額に達したうえ、親の世帯の保険料が別に満額で乗ります。子の所得800万円・親150万円の東京23区で9万1,184円、大阪市の子1,200万円・親150万円では23万163円増えます。
法人化を考える所得帯(子の所得800万円以上)では、法人化前の分離は増えるケースが多い、ということです。
法人化後:社長が協会けんぽに移ると、分離は全市区で減る側に回る
法人化して社長(子)が協会けんぽに移ると、国保に残るのは親だけです。ここで世帯を分けないままだと、社長は擬制世帯主になります。国保に入っていない世帯主のことで、納付義務は社長に残ります(詳しくは擬制世帯主の記事)。
大阪市は軽減の判定について「国民健康保険の資格のない世帯主の所得も含みます」としています。つまり同一世帯のままでは、社長の給与所得が親の軽減判定に入り、親の所得がいくら低くても軽減が効きません。
売上1,200万円・経費200万円の条件では、手取りが最大になる役員報酬は月54万円で、給与所得は474万4,000円です。これが親の軽減判定に乗った場合と、世帯を分けて外れた場合を比べました。
| 市区 | 親の所得30万円:同一世帯 | 分離 | 差 | 親の所得90万円:同一世帯 | 分離 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 東京23区 | 84,873円 | 25,461円 | −59,412円 | 146,020円 | 129,045円 | −16,975円 |
| 横浜市 | 72,220円 | 21,722円 | −50,498円 | 138,631円 | 124,203円 | −14,428円 |
| 大阪市 | 111,457円 | 33,502円 | −77,955円 | 184,025円 | 161,751円 | −22,274円 |
| 名古屋市 | 84,358円 | 25,371円 | −58,987円 | 150,205円 | 133,350円 | −16,855円 |
| 札幌市 | 85,100円 | 25,530円 | −59,570円 | 149,913円 | 132,893円 | −17,020円 |
| 福岡市 | 78,611円 | 23,582円 | −55,029円 | 133,178円 | 117,454円 | −15,724円 |
| 神戸市 | 100,760円 | 30,263円 | −70,497円 | 163,693円 | 143,551円 | −20,142円 |
| 京都市 | 82,840円 | 24,894円 | −57,946円 | 145,773円 | 129,217円 | −16,556円 |
| さいたま市 | 76,000円 | 22,800円 | −53,200円 | 137,100円 | 121,900円 | −15,200円 |
| 川崎市 | 76,137円 | 22,893円 | −53,244円 | 142,595円 | 127,381円 | −15,214円 |
| 相模原市 | 85,660円 | 25,740円 | −59,920円 | 142,671円 | 125,551円 | −17,120円 |
| 千葉市 | 87,480円 | 26,328円 | −61,152円 | 148,298円 | 130,826円 | −17,472円 |
| 仙台市 | 93,360円 | 28,057円 | −65,303円 | 157,609円 | 138,951円 | −18,658円 |
| 新潟市 | 65,800円 | 19,740円 | −46,060円 | 128,169円 | 115,009円 | −13,160円 |
| 静岡市 | 88,900円 | 26,740円 | −62,160円 | 144,877円 | 127,117円 | −17,760円 |
| 浜松市 | 82,500円 | 24,890円 | −57,610円 | 137,866円 | 121,406円 | −16,460円 |
| 堺市 | 111,457円 | 33,504円 | −77,953円 | 184,025円 | 161,751円 | −22,274円 |
| 岡山市 | 84,600円 | 25,380円 | −59,220円 | 150,353円 | 133,433円 | −16,920円 |
| 北九州市 | 90,080円 | 27,059円 | −63,021円 | 160,063円 | 142,057円 | −18,006円 |
| 熊本市 | 90,300円 | 27,160円 | −63,140円 | 149,097円 | 131,057円 | −18,040円 |
※ 対象は広島市を除く政令指定都市19市と東京23区の20市区。親は40〜64歳・単身で国保に加入。親の所得30万円は7割、90万円は2割軽減の帯(被保険者1人の5割の上限74万円を超え、2割の上限100万円以下)。当サイトの計算エンジンの料率による概算
法人化後は、国保の世帯が親の1世帯だけになります。分離しても平等割は1世帯分のままで、限度額を分け直す相手(国保に入った子)もいません。分離で増える要素が消え、軽減が戻る効果だけが残るため、この20市区すべてで分離が減る側に出ます(当サイトが料率を持つほかの市でも、同じ条件では減る側です)。
法人化前の表と並べると、損得が逆転するのが分かります。たとえば大阪市で子の所得800万円・親の所得90万円なら、法人化前の分離は年12万1,370円の増加でした。法人化後は、同じ親の所得で年2万2,274円の減少です。
世帯分離は「生計が別」の実態が前提。扶養とは両立しにくい
住民基本台帳法25条は、属する世帯や世帯主に変更があった人に、14日以内の届出を義務付けています。北九州市は同一住所での別世帯について「住所の変更を伴わずに子が生計を別にして、同一住所別世帯となった、などの場合には届出が必要です」と案内し、国保・介護保険の保険料が変わることがあると注記したうえで「実態を伴わない届出は認められません」としています。
上の表は、親子が実際に生計を別にしている場合の差です。保険料を下げる目的だけで世帯を分けることはできません。
もう1つの選択肢が、親を社長の健康保険の被扶養者にすることです。日本年金機構の基準では、60歳以上の親は年間収入180万円未満(60歳未満は130万円未満)が目安で、認められれば親の国保料そのものがなくなります。ただし被扶養者の認定は「主として被保険者の収入で生計を維持している」ことが前提です。生計を別にする世帯分離とは前提の向きが逆で、同じ親について両方を使う形にはなりにくいと考えられます。扶養でどこまで変わるかは親を健康保険の扶養に入れる記事で計算しています。
同一世帯のまま、国保に入っている親を世帯主(納付義務者)に変更する手続きもありますが、変更後に社長の所得を軽減判定に含めるかは自治体の運用によります(擬制世帯主の記事)。
整理すると、法人化後に世帯分離の差が意味を持つのは、親が生計を別にしていて、かつ収入が扶養の基準を超える場合です。
軽減は申告がないと判定されない
法定軽減は、世帯全員の所得が把握されていることが前提です。港区は、所得のない人を含めて世帯全員の申告が必要だとしています。親の所得が少なく確定申告をしていない場合は、住民税の申告をしておかないと7割軽減の判定に乗りません。
また、軽減の判定は毎年4月1日(年度途中に加入した場合はその日)の世帯の状況で行われます。大阪市は、判定後に世帯主が変わった場合は再判定するとしています。法人化と世帯の変更がいつ起きたかで、その年度の保険料が変わり得ます。軽減と減免の違いは国保の減免と軽減の記事を参照してください。
まとめ
- 世帯を分けると、平等割・賦課限度額・法定軽減の判定の3つが世帯ごとにかかる
- 法人化前(親子とも国保)は、子の所得が800万円以上だと限度額の分け直しで増えやすく、平等割のある大阪市では親の所得90万円でも増える
- 法人化後(社長は協会けんぽ)は、同一世帯だと社長の給与所得が親の軽減判定に入る。分離すると親の所得30万円で年4万6,060円〜7万7,955円下がる
- 世帯分離は生計を別にした実態が前提で、親を被扶養者にする道とは前提が逆になる
国保の差額は、法人化の判定全体から見れば一部です。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で法人化の差を確かめてください。
よくある質問
同じ家に住んだまま世帯分離できますか?
住所を変えずに生計を別にした場合は、同一住所で別世帯とする世帯変更届を14日以内に出します。北九州市は「実態を伴わない届出は認められません」としており、保険料を下げるためだけの形式的な分離はできません。
東京23区では世帯分離で保険料は変わりますか?
東京23区には平等割がないため、平等割の分の増減はありません。変わるのは法定軽減の判定と賦課限度額の当てはめで、親の所得が低ければ軽減が効いて下がり、子の所得が高ければ限度額が世帯ごとにかかって上がります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。