社会保険

法人化しても国保は残る。配偶者が扶養に入れないときの擬制世帯主

結論

法人化して自分が協会けんぽへ移っても、扶養に入れない配偶者が国民健康保険に残る世帯では、納付義務者は世帯主である社長のままです。社長の所得は保険料の計算には入りませんが、均等割・平等割の軽減判定には入り続けます。配偶者の事業所得が40万円でも7割軽減は効かず、大阪市で年6万4,944円、新潟市で年3万6,190円が減らないまま残ります。

  • 国民健康保険料の納付義務者は世帯主。世帯主本人が国保の被保険者でなくても、同じ世帯に被保険者がいれば納付義務は残る(擬制世帯主)
  • 擬制世帯主の所得は保険料の計算には含まれないが、均等割・平等割の軽減判定には含まれる。大阪市・名古屋市・福岡市がいずれも明記している
  • 判定ツールの「配偶者あり」は扶養に入る前提。扶養に入れない配偶者で選ぶと損益分岐点が1,266万円ではなく1,016万円と出て、250万円低く見える

法人化して協会けんぽに移ると、国民健康保険とは縁が切れる——という理解は、ひとり暮らしなら正しいものです。配偶者が扶養に入れる場合も、おおむね正しいと言えます。

正しくなくなるのは、配偶者が扶養に入れないときです。この場合、配偶者は国民健康保険に残ります。そして保険料を請求されるのは、配偶者ではなく協会けんぽに移ったはずの社長です。

納付書が届くのは、国保に入っている人ではなく世帯主

国民健康保険料の納付義務者は、被保険者本人ではなく世帯主です。世帯主が国民健康保険に入っていなくても、この扱いは変わりません。

大阪市は「国民健康保険料は、世帯主の方にお支払いいただきます」としたうえで、「世帯主の方が国民健康保険の被保険者でない場合でも、同一世帯に国民健康保険の被保険者がいる場合は、国民健康保険料をお支払いいただきます」と明記しています。

この状態の世帯主を擬制世帯主と呼びます。厚生労働省の通知(平成13年12月25日保発第291号)は、擬制世帯を「国民健康保険の被保険者でない者が世帯主となっている世帯」と定義しています。

法人化した一人社長がここに入るのは、次のような組み合わせのときです。

  • 配偶者もフリーランスや個人事業主で、収入が被扶養者の基準を超えている
  • 同居する親や成人した子が国民健康保険に加入している
  • 配偶者が勤務先の社会保険に入れないまま、収入だけが基準を超えている

協会けんぽの被扶養者の収入要件は、年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満、19歳以上23歳未満で配偶者以外の場合は150万円未満)であり、かつ被保険者の年間収入の2分の1未満であることです。配偶者の収入がこの線を越えていれば、法人化しても配偶者は国民健康保険に残ります。

扶養に入れる場合に何が起きるかは、配偶者がいると法人化の分岐点は250万円下がるで扱っています。この記事は、その前提が成り立たない側の話です。

社長の所得は保険料に入らない。それなのに軽減判定には入る

擬制世帯主になった社長が気にするのは、まず「自分の役員報酬の分まで国民健康保険料を取られるのか」でしょう。ここは取られません。

大阪市は「国民健康保険料の計算には、国民健康保険の被保険者でない世帯主の方は含みません」としています。所得割は被保険者ごとに計算して合計する仕組みなので、被保険者でない社長の給与所得は保険料の計算式に入りません。均等割の人数にも数えません。

問題は、ここから先です。

国民健康保険料には、所得が低い世帯の均等割額・平等割額を7割・5割・2割減らす法定の軽減があります。この軽減が効くかどうかの判定に使う所得には、擬制世帯主の所得が含まれます

大阪市は軽減の判定について「国民健康保険の資格を有する方及び特定同一世帯所属者の所得金額で判定します。国民健康保険の資格のない世帯主の所得も含みます」としています。名古屋市も「国民健康保険の被保険者ではなく国民健康保険上の世帯主となっている人(擬制世帯主)の所得、国民健康保険から後期高齢者医療制度へ移行した人(特定同一世帯所属者)の所得も含めます」と同じ扱いを示しています。福岡市の表現は「前年中の所得には国保の被保険者ではない住民票の世帯主(擬制世帯主)及び特定同一世帯所属者の所得も合算します」です。

つまり法人化すると、社長の所得は保険料の計算からは抜けるのに、軽減の判定からは抜けません。片方だけ抜ける、という非対称がここで生まれます。

軽減の判定基準額は全国共通で、令和8年度は次のとおりです。

軽減の割合判定基準額(世帯の総所得金額等)
7割43万円+10万円×(給与所得者等の数−1)
5割43万円+31万円×被保険者数+10万円×(給与所得者等の数−1)
2割43万円+57万円×被保険者数+10万円×(給与所得者等の数−1)

配偶者ひとりが国民健康保険に残った世帯なら、被保険者数は1人です。基準額は7割が43万円、5割が74万円、2割が100万円になります。

ここに社長の給与所得が乗ります。当サイトの計算エンジンで売上1,200万円・経費200万円の条件を計算すると、手取りが最大になる役員報酬は月54万円で、年間648万円です。給与所得控除173万6,000円を引いた給与所得は474万4,000円になります。基準額の100万円は、最初の1か月分の報酬で超えてしまう水準です。

配偶者の事業所得がいくら低くても、軽減はまず効きません。

軽減が効かないことで残る額を、20市区で計算した

金額にするとどうなるかを、実データのある20市区で計算しました。配偶者が1人だけ国民健康保険に残った世帯(40歳未満)の年間保険料と、もし軽減が効いた場合の額を並べています。

配偶者1人だけが国民健康保険に残った世帯の年間保険料

自治体事業所得40万円7割軽減が効いた場合事業所得90万円2割軽減が効いた場合
大阪市9.3万円2.8万円64,944円15.3万円13.5万円18,557円
堺市9.3万円2.8万円64,944円15.3万円13.5万円18,557円
神戸市8.0万円2.4万円55,937円13.0万円11.4万円15,982円
仙台市7.7万円2.3万円53,795円13.0万円11.4万円15,370円
北九州市7.2万円2.2万円50,617円12.9万円11.4万円14,462円
札幌市7.2万円2.1万円50,071円12.5万円11.1万円14,306円
千葉市7.1万円2.1万円49,644円12.0万円10.5万円14,184円
静岡市7.0万円2.1万円49,350円11.6万円10.1万円14,100円
熊本市7.0万円2.1万円49,000円11.5万円10.1万円14,000円
岡山市6.8万円2.1万円47,880円12.2万円10.8万円13,680円
名古屋市6.8万円2.0万円47,768円12.3万円10.9万円13,649円
浜松市6.8万円2.0万円47,600円11.4万円10.1万円13,600円
相模原市6.8万円2.0万円47,362円11.4万円10.0万円13,532円
東京23区(特別区統一保険料率)6.7万円2.0万円46,952円11.7万円10.3万円13,415円
京都市6.6万円2.0万円46,466円11.8万円10.4万円13,276円
福岡市6.1万円1.8万円42,491円10.3万円9.1万円12,141円
川崎市6.0万円1.8万円42,218円11.4万円10.2万円12,064円
さいたま市6.0万円1.8万円41,930円11.0万円9.8万円11,980円
横浜市5.6万円1.7万円39,214円10.9万円9.8万円11,204円
新潟市5.2万円1.6万円36,190円10.2万円9.2万円10,340円

※ 40歳未満・被保険者1人の世帯/2026年(令和8年)分 基準 ※ 介護分(40〜64歳のみ)は含まない。軽減は均等割額・平等割額に適用し、所得割には適用しない ※ 事業所得40万円は7割軽減、事業所得90万円は2割軽減の判定基準額の内側にある金額

消えない額は自治体で1.8倍開きます。7割軽減が効いたはずの場面では、大阪市・堺市の6万4,944円が最も大きく、新潟市の3万6,190円が最も小さくなります。差を作っているのは所得割の料率ではなく、均等割と平等割の合計額です。大阪市は均等割4万7,926円に平等割4万4,753円が乗って9万2,679円、新潟市は均等割2万3,500円・平等割2万8,200円で5万1,700円と、固定部分だけで1.8倍の開きがあります。

ここで読み取っておきたいのは、自治体の順位が入れ替わることです。自治体別の国民健康保険料で示したとおり、事業所得600万円の帯では大阪市が最も高く福岡市が最も安いという並びになります。ところが軽減が効かないことで消えない額で並べ替えると、静岡市は18位から8位、熊本市は19位から9位、千葉市は15位から7位へ上がります。逆に名古屋市は4位から11位、横浜市は9位から19位へ下がります。所得が高い帯では所得割の料率が効き、所得が低い帯では均等割と平等割の厚みが効くためです。

もうひとつ、法人化の前後で何が変わるかを正確に押さえておきます。

社長がまだ個人事業主だったときも、世帯の所得には社長の事業所得が入っていたので、軽減は同じように効いていません。法人化によって軽減が新しく外れるわけではありません。 変わるのは、世帯の国民健康保険料から社長の所得割と均等割1人分が消える一方で、軽減だけは戻ってこないという点です。保険料が下がったのに軽減は変わらない、という中途半端な下がり方をします。

平等割も同じ構造です。平等割は1世帯あたりの定額なので、世帯の被保険者が2人から1人に減っても金額は変わりません。大阪市なら4万4,753円がそのまま残ります。

扶養に入れるかどうかは「収入」、軽減が効くかどうかは「所得」

ここで物差しの違いに触れておきます。同じ配偶者の稼ぎを見ているのに、2つの制度は別の数字を見ています。

協会けんぽの被扶養者の認定は、年間収入が130万円未満かどうかで判断します。一方、国民健康保険の軽減判定は地方税法でいう総所得金額等、つまり必要経費を差し引いたあとの所得で見ます。

そのため、次のような並びが現実に起こります。

配偶者の状況被扶養者の判定(収入130万円)軽減の判定(所得100万円)
収入150万円・経費60万円基準を超えるので扶養に入れない所得90万円なので基準の内側
収入120万円・経費10万円基準内なので扶養に入れるそもそも国保にいない

上の行が、この記事で扱っている状態です。扶養の基準では「稼ぎすぎ」と判定され、軽減の基準では「所得が低い」と判定されるという、どちらの制度からも中途半端な位置に落ちます。そのうえで軽減は擬制世帯主の所得で蹴られるため、結果として固定部分を満額負担することになります。

なお、事業収入がある人の被扶養者の認定では、収入から差し引ける経費の範囲が税法上の必要経費と同じとは限りません。実際の判断は保険者が行うため、配偶者が基準の近くにいる場合は、加入先の支部に確認したうえで判断する必要があります。

130万円という線がどこから来ているか、そしてその線が法人化して初めて生まれる理由は年収の壁は令和8年に178万円へで整理しています。

判定ツールで「配偶者あり」を選ぶと、分岐点が250万円低く出る

ここは当サイトのシミュレーターの使い方に直結します。

判定ツールの「配偶者の有無」は、法人化後に配偶者が社会保険の扶養に入ることを前提にしています。個人事業主のままなら配偶者は国民年金と国民健康保険を自分で負担し、法人化すればその負担がゼロになる、という差を計算に入れているためです。

条件別の損益分岐点は次のようになります。

条件損益分岐となる事業所得
基本(独身・インボイス登録済み)1,266万円
株式会社で設立1,266万円
配偶者あり(無収入)1,016万円
配偶者あり+扶養1人1,066万円
インボイス未登録1,266万円
40〜64歳(介護保険あり)1,243万円
大阪市1,283万円
名古屋市1,270万円
白色申告793万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 表示した条件以外は基本条件と同じ。実質差額がプラスに転じる事業所得 ※ いずれも3年目以降の定常状態。設立1〜2期の消費税免税(インボイス未登録の場合のみ)は含まない

配偶者ありを選ぶと、分岐点は1,266万円から1,016万円へ250万円下がります。下がる理由は、法人化によって配偶者の国民年金保険料と国民健康保険料が消えるからです。

配偶者が扶養に入れない場合、この250万円の下げは起きません。配偶者は自分で国民年金と国民健康保険を払い続けるので、法人化しても世帯の負担は減らないためです。扶養に入れない配偶者がいる人は「配偶者なし」で試算したほうが、実態に近い分岐点が出ます。 配偶者控除の分だけずれは残りますが、250万円のずれよりははるかに小さくなります。

同じ注意は扶養親族の欄にも当てはまります。判定ツールは扶養親族1人につき扶養控除38万円を入れる作りなので、16歳未満の子を入力すると分岐点が実際より高く出ます。入力の意味は計算の考え方にまとめています。

国民健康保険上の世帯主は変更できることがある

最後に、手続き側の選択肢に触れておきます。

厚生労働省の通知は、市町村長が国民健康保険上の世帯主を変更できる場合を示しています。要件は次の3つです。

  • 擬制世帯主が保険料(税)を完納していること
  • 世帯主を変更した後も、保険料(税)の納付義務や各種届出義務の確実な履行が見込めるなど、国民健康保険事業の運営上支障がないこと
  • 擬制世帯主の同意があること

通知は世帯主を「主として世帯の生計を維持する者であって、国民健康保険税の納税義務者として社会通念上妥当とみとめられる者」と解しています。変更の可否や必要書類は市区町村ごとに異なるので、扱っているかどうかを含めて窓口で確認することになります。

なお、この変更で動くのは納付義務者と届出義務者です。軽減の判定に擬制世帯主の所得を含めるかどうかは、変更後にどう扱われるかを含めて自治体の運用によるため、保険料が下がることを前提に手続きを進めるのは避けたほうがよい部分です。

所得が下がった年の軽減と減免の仕組みそのものは国民健康保険料の減免と軽減は別物で扱っています。

配偶者が扶養に入れるかどうかで、法人化の判定は250万円単位で動きます。一般論の分岐点ではなく、自分の売上と経費、そして配偶者の収入の実額で確かめてください。判定が僅差になる場合は、個別の条件を専門家に確認する価値があります。

まとめ

  • 国民健康保険料の納付義務者は世帯主。世帯主が協会けんぽに移っても、同じ世帯に被保険者が残れば納付書は世帯主宛に届く
  • 擬制世帯主の所得は保険料の計算には含まれない。所得割にも均等割の人数にも入らない
  • ただし均等割・平等割の軽減判定には擬制世帯主の所得が含まれる。大阪市・名古屋市・福岡市がいずれも明記している
  • 法人化で軽減が新しく外れるわけではない。世帯の保険料から社長の分が消えても、軽減だけは戻らないという下がり方をする
  • 軽減が効かないことで消えない額は、7割の帯で大阪市・堺市の6万4,944円から新潟市の3万6,190円まで。差を作るのは料率ではなく均等割と平等割の厚み
  • 扶養の判定は年間収入130万円、軽減の判定は総所得金額等。物差しが違うため、どちらの基準からも外れる位置が生まれる
  • 判定ツールの「配偶者あり」は扶養に入る前提。扶養に入れない配偶者で選ぶと、分岐点が250万円低く出る

よくある質問

法人化して自分が協会けんぽに入れば、国民健康保険の納付書は届かなくなりますか?

同じ世帯に国民健康保険の被保険者が残っていれば、納付書は世帯主宛に届き続けます。大阪市は「世帯主の方が国民健康保険の被保険者でない場合でも、同一世帯に国民健康保険の被保険者がいる場合は、国民健康保険料をお支払いいただきます」としています。

擬制世帯主になると、自分の役員報酬の分だけ世帯の保険料は増えますか?

増えません。大阪市は「国民健康保険料の計算には、国民健康保険の被保険者でない世帯主の方は含みません」としています。ただし均等割・平等割の軽減判定には擬制世帯主の所得も合算されるため、軽減は受けにくくなります。

国民健康保険上の世帯主を配偶者に変更できますか?

市町村長の判断で変更が認められる場合があります。厚生労働省の通知は、擬制世帯主が保険料を完納していること、変更後も納付義務や各種届出義務の確実な履行が見込めること、擬制世帯主の同意があることを要件として挙げています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。