法人化の判断
LLPと合同会社の違いは税金にある。LLPは法人化の代わりにならない
結論
LLP(有限責任事業組合)には法人税がかからず、利益は組合員それぞれの事業所得として所得税・住民税が課されます(構成員課税)。税金の計算は個人事業とほぼ同じなので、役員報酬で所得を分ける合同会社の節税は使えません。当サイトの試算では、1人あたりの事業所得が1,500万円なら、個人のままの扱いより合同会社の方が年23.9万円有利です。そもそもLLPは組合員が1人になると解散するため、1人では使えません。
- LLPの利益は組合員の不動産所得・事業所得等として課税される。損失は出資額を基礎にした「調整出資金額」までしか必要経費にできない(租税特別措置法27条の2)
- LLPは「組合員が一人になったこと」が解散事由(有限責任事業組合契約法37条2号)。合同会社は社員1人で設立・存続できる
- 1人あたり事業所得1,000万円以下では個人のままの扱い(=LLPに近い)が合同会社を上回り、1,500万円で合同会社が年23.9万円、2,100万円で年80.6万円上回る(概算)
LLPと合同会社は、どちらも「出資者が有限責任で、内部のルールを契約や定款で自由に決められる」器です。2005年に有限責任事業組合契約法、2006年に会社法の合同会社と、ほぼ同時期に作られたため、比較されることがよくあります。
ただ、法人化を検討している個人事業主にとって決定的なのは税金の仕組みがまったく違うことです。LLPは法人ではないため、法人化で得られるはずの効果をほとんど持ちません。
LLPは「法人」ではなく「組合」。利益は組合員に直接課税される
有限責任事業組合契約法は、LLPを次のように定義しています。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 2条 | 有限責任事業組合とは、有限責任事業組合契約によって成立する組合をいう |
| 3条1項 | 個人又は法人が出資して、それぞれの出資の価額を責任の限度として共同で営利を目的とする事業を営むことを約する契約 |
| 15条 | 組合員は、その出資の価額を限度として、組合の債務を弁済する責任を負う |
出典:有限責任事業組合契約に関する法律(国税庁「任意組合等の組合事業に係る利益等の課税の取扱いについて(情報)」資料編)
LLPは法人格を持たない組合なので、LLP自体は法人税の納税者になりません。国税庁の情報は、LLPの組合員である個人が、組合事業から生ずる不動産所得・事業所得・山林所得を持つという前提で所得計算のルールを整理しています。利益は組合を素通りして組合員の所得になる、いわゆる構成員課税(パススルー課税)です。
合同会社は会社法上の会社で、法人税法上は株式会社と同じ普通法人です。法人の所得には法人税がかかり、中小法人なら年800万円以下の部分に軽減税率15%、800万円超の部分に23.2%が適用されます。そのうえで、代表社員が受け取る役員報酬には給与所得控除が使えます。
| 比較項目 | LLP(有限責任事業組合) | 合同会社 |
|---|---|---|
| 法的な性格 | 組合(法人格なし) | 会社(法人) |
| 利益への課税 | 組合員の事業所得等に所得税・住民税 | 法人に法人税・法人住民税・法人事業税 |
| 出資者の責任 | 出資の価額まで(15条) | 出資の価額まで |
| 最低人数 | 2人(1人になると解散) | 1人 |
| 給与所得控除 | 使えない(組合員への分配は事業所得等) | 役員報酬に使える |
| 損失の取り込み | 調整出資金額まで(措置法27条の2) | 法人の欠損金として繰越し |
合同会社の節税効果は、LLPでは丸ごと消える
個人事業主が法人化して手取りが増えるのは、主に次の2つの効果によります。
- 所得を法人と個人に分け、法人側は軽減税率15%の範囲に収める
- 個人側の所得を役員報酬にして、給与所得控除を差し引く
LLPではどちらも働きません。利益は全額が組合員の事業所得等として累進課税の対象になり、給与所得控除の出番もありません。税金の計算は、組合員がそれぞれ個人事業主として同じ所得を得た場合とほぼ同じになります。
当サイトの計算エンジンで、個人のままの場合と合同会社(最適な役員報酬)を比べると次のとおりです。LLPの組合員1人あたりの手取りは、左の「個人のまま」の列に近い値になります。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 274.5万円 | 月28万円 | −48.6万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 427.3万円 | 409.7万円 | 月42万円 | −37.6万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 540.7万円 | 536.6万円 | 月54万円 | −24.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 662.4万円 | 月54万円 | −14.7万円 | ほぼ互角 |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 787.6万円 | 月54万円 | −6.6万円 | ほぼ互角 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 972.0万円 | 月54万円 | +23.9万円 | 法人化が有利 |
| 1,800万円 | 1082.1万円 | 1149.1万円 | 月90万円 | +47.0万円 | 法人化が有利 |
| 2,100万円 | 1232.0万円 | 1332.6万円 | 月95万円 | +80.6万円 | 法人化が有利 |
| 2,500万円 | 1395.0万円 | 1551.1万円 | 月100万円 | +136.1万円 | 法人化が有利 |
| 3,000万円 | 1599.6万円 | 1816.8万円 | 月100万円 | +197.2万円 | 法人化が有利 |
※ 経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額 ※ 「事業所得」は売上から経費を引いた額(青色申告特別控除の前)
1人あたりの事業所得が1,000万円程度までは、個人のままの扱いの方が手取りは多くなります。この帯では、LLPを選んでも合同会社を選ばなかったことによる損はほとんどありません。一方で1,500万円を超えると合同会社が年23.9万円以上有利になり、2,100万円では差が年80.6万円まで開きます。所得が大きいほど、LLPの「法人税がかからない」は利点ではなく、法人化の効果を捨てていることを意味します。
なお、LLPの組合員は1人あたりの所得で累進税率が決まります。2人で利益を折半すれば1人で全額を受け取るより税率は下がりますが、これは個人事業主2人がそれぞれ事業をしても同じです。LLP固有の節税ではありません。
LLPは1人では作れない。「1人法人化」の受け皿にならない
有限責任事業組合契約法37条は、LLPの解散事由として「組合員が一人になったこと」を挙げています。2週間以内に新しい組合員を加入させれば解散を避けられますが、1人で運営し続けることはできません。
合同会社は社員1人で設立でき、社員1人のまま事業を続けられます。社員が欠けた場合(0人になった場合)に解散する仕組みで、その場合の扱いは一人合同会社の社長が亡くなると会社は解散するで整理しています。
LLPには組合員全員が業務執行に関わる前提もあります。業務執行の決定は原則として総組合員の同意で行い(12条1項)、重要な財産の処分・譲受けと多額の借財は、組合契約書で定めても総組合員の3分の2未満の同意で決めることはできません(12条2項)。出資は金銭その他の財産に限られ、労務だけの出資は認められていません(11条)。名前だけの組合員を置いて1人で回す形は、制度の想定から外れます。
損失は出資額までしか取り込めない
構成員課税には、LLPで出た赤字を組合員が自分の他の所得と通算できるという面もあります。ただしLLPでは、この取り込みに上限があります。
租税特別措置法27条の2により、組合事業で生じた損失のうち、出資の価額を基礎に計算した調整出資金額を超える部分は、その年の必要経費に算入できません。国税庁の情報は、その理由を「組合員は出資の価額を限度として責任を負う(契約法15条)」ため、会計上も組合員が計上する損失の上限が出資の価額とされていることに合わせた、と説明しています。
調整出資金額のもとになる出資は、実際に履行されたものに限られます(措置法通達27の2−2)。出資を約束しただけでは枠は増えません。また、複数のLLPに参加したり、LLPの事業と自分の個人事業を並行したりする場合は、損益計算書(または収支内訳書)を事業ごとに分けて作ります(同27の2−1)。
合同会社で出た赤字は法人の欠損金として繰り越し、翌年以降の法人の黒字と相殺します。個人の所得とは通算できない代わりに、出資額による上限はありません。赤字の扱いは、どちらが有利というよりどこで相殺されるかが違うと捉えるのが正確です。
LLPで増える手続き、合同会社で増える固定費
LLPでは、会計帳簿を作成する組合員が「有限責任事業組合等に係る組合員所得に関する計算書(同合計表)」を税務署へ提出します。期限は、組合契約に定める計算期間の終了の日の属する年の翌年1月31日です(所得税法227条の2)。組合員は各自で確定申告をし、組合からの分配分を事業所得等として申告します。
合同会社には、LLPにない固定費があります。法人住民税の均等割は赤字でもかかり、決算・法人税申告の負担も加わります。上の表の実質差額は、税理士報酬の差(年20万円)と均等割を差し引いた後の数字です。均等割の扱いは赤字でもかかる法人住民税の均等割で詳しく説明しています。
つまりLLPは、法人化の固定費がかからない代わりに、法人化の節税効果もない器です。複数の個人や会社が、特定のプロジェクトのために出資して有限責任で組む、という使い方が制度の本来の想定です。
まとめ
- LLPは法人ではなく組合で、利益は組合員の事業所得等として所得税・住民税が課される(構成員課税)
- 法人税の軽減税率も、役員報酬の給与所得控除も使えないため、税金は個人事業とほぼ同じになる
- 1人あたり事業所得1,500万円で合同会社が年23.9万円、2,100万円で年80.6万円有利(概算)
- LLPは組合員が1人になると解散する。1人の法人化先には合同会社が対応する
- LLPの損失は調整出資金額までしか必要経費にできない
LLPか合同会社かで迷う段階なら、まず自分の売上と経費で、法人化の効果がどれだけあるかを判定ツールで確かめてください。差が小さければ、器の選び方による税金の差も小さくなります。
よくある質問
LLPに法人税はかかりますか?
かかりません。LLPは有限責任事業組合契約によって成立する「組合」で、組合事業の利益は組合員に帰属し、個人の組合員なら事業所得などとして所得税・住民税の対象になります。
LLPの組合員は有限責任ですか?
はい。有限責任事業組合契約法15条により、組合員は出資の価額を限度として組合の債務を弁済する責任を負います。この点は合同会社の社員と同じです。
LLPを作ると税務署に何を出す必要がありますか?
会計帳簿を作成する組合員は、「有限責任事業組合等に係る組合員所得に関する計算書(同合計表)」を、組合契約に定める計算期間の終了の日の属する年の翌年1月31日までに提出します(所得税法227条の2)。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。