社会保険
再就職手当は起業でももらえる。法人設立でも月給40万円なら42.5万円
結論
再就職手当は、個人事業の開業でも法人設立でも「事業を開始した」として対象になります。30〜44歳・月給40万円・自己都合(所定給付日数90日)で、給付制限が明けてすぐ開業すれば42.5万円(令和8年8月以降の上限日額6,745円×90日×70%)で、非課税です。
- 事業の開始は、失業の認定を受けながら事業の準備に専念し始めた時点で基本手当が止まる。申請は自営開始日の翌日から1か月以内
- 受取総額だけなら基本手当を最後まで受けたほうが多い(月給40万円で60.7万円)。再就職手当の価値は、早く始めても約7割が戻ること
- 独立1年目の保険料は、前年の年収が600万円を超えると国保+国民年金のほうが、法人(役員報酬月20万円)の社会保険料より高くなる
会社員が独立するとき、「法人を作ると失業保険はもらえない」と聞いて迷う人がいます。半分は正しく、半分は誤解です。事業を始めた時点で基本手当(いわゆる失業保険)は止まりますが、代わりに再就職手当を受けられる可能性があり、それは個人事業でも法人でも変わりません。
この記事では、令和8年8月1日以降の金額で再就職手当を計算し、開業のタイミングで何が変わるかを整理します。最後に、独立1年目の保険料が個人事業と法人でどう違うかも計算しました。
法人設立も「事業の開始」として対象になる
再就職手当は雇用保険法56条の3の就業促進手当の1つです。対象になる「安定した職業に就いた受給資格者」について、雇用保険法施行規則82条の2は次の2つを挙げています。
- 1年を超えて引き続き雇用されることが確実な職業に就いた人
- 事業を開始した人(その事業で自立できると公共職業安定所長が認めたものに限る)
個人事業か法人かの区別はありません。岡山労働局の案内でも、自営を開始する人の手続きとして、個人は税務署への開業届、法人は法務局への登記を挙げ、どちらも再就職手当の支給申請に進む流れになっています。
主な要件は次のとおりです。
| 要件 | 事業を開始する人にとっての意味 |
|---|---|
| 待期(7日間)が過ぎてから開始 | 求職の申込みから失業の日が通算7日たつ前に開業すると対象外 |
| 自己都合退職なら、待期後1か月間は紹介による就職のみ | 自営の場合は、給付制限の初めの1か月を過ぎてから開始する必要がある |
| 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上 | 開業が遅いほど残日数が減り、3分の1を切ると0円 |
| 過去3年以内に再就職手当を受けていない | 前回の転職で受けていると対象外 |
| 事業で自立できると認められる | 登記事項証明書・開業届の控え・賃貸借契約書・契約書などで事業の実態を示す |
「自立できる」の判断材料として、岡山労働局の案内は、事務所の賃貸借契約書、備品の購入を証する書類、業務委託契約書、売上が分かる出納帳などを例示しています。登記しただけで取引の実態がないと、不支給になり得る点には注意が必要です。
月給別の再就職手当(令和8年8月以降)
再就職手当の額は、次の式で決まります。
基本手当日額 × 支給残日数 × 70%(残日数が所定給付日数の3分の2以上)または60%(3分の1以上)
ここで使う基本手当日額には、基本手当そのものとは別の上限があり、令和8年8月1日から59歳以下6,745円、60〜64歳5,454円になりました(厚生労働省)。
離職時30〜44歳で、離職前の月給ごとに計算します。所定給付日数は、自己都合退職なら被保険者期間10年未満で90日、10年以上20年未満で120日、20年以上で150日です(ハローワーク)。
| 離職前の月給 | 賃金日額 | 基本手当日額 | 再就職手当の計算に使う日額 | 90日すべて残して開業 | 120日すべて残して開業 | 150日すべて残して開業 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 月20万円 | 6,666円 | 5,036円 | 5,036円 | 31.7万円 | 42.3万円 | 52.9万円 |
| 月25万円 | 8,333円 | 5,775円 | 5,775円 | 36.4万円 | 48.5万円 | 60.6万円 |
| 月30万円 | 10,000円 | 6,307円 | 6,307円 | 39.7万円 | 53.0万円 | 66.2万円 |
| 月35万円 | 11,666円 | 6,629円 | 6,629円 | 41.8万円 | 55.7万円 | 69.6万円 |
| 月40万円 | 13,333円 | 6,744円 | 6,744円 | 42.5万円 | 56.6万円 | 70.8万円 |
| 月50万円 | 16,666円 | 8,270円 | 6,745円 | 42.5万円 | 56.7万円 | 70.8万円 |
| 月60万円 | 20,000円 | 8,270円 | 6,745円 | 42.5万円 | 56.7万円 | 70.8万円 |
※ 離職時30〜44歳。賃金日額=月給×6÷180(賞与を除く毎月の賃金が一定の前提)。基本手当日額・再就職手当の日額上限は令和8年8月1日以降の額(厚生労働省)。支給率70%(支給残日数が所定給付日数の3分の2以上)。当サイトで計算(scripts/saishushoku-teate-kigyou.mjs teate)
月給40万円を超えると、再就職手当はほとんど増えません。基本手当日額は月給50万円で8,270円まで上がりますが、再就職手当の計算では6,745円で止まるためです。独立する人の多くは前職の給与が高めなので、実際には上限に張り付くケースが多いと考えてよいでしょう。
そして、再就職手当は非課税です。雇用保険法12条は、失業等給付として受けた金銭を標準として租税その他の公課を課すことを禁じています。事業所得にも雑所得にも入れません。
開業を遅らせると総額は増えるが、それは得とは限らない
では、開業はいつがよいのか。月給40万円・自己都合(所定給付日数90日)で、開業した時点の支給残日数ごとに、受け取る総額を並べました。
| 開業した時点の支給残日数 | 開業前に受けた基本手当 | 再就職手当 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 90日(支給率70%) | 0.0万円 | 42.5万円 | 42.5万円 |
| 60日(支給率70%) | 20.2万円 | 28.3万円 | 48.6万円 |
| 59日(支給率60%) | 20.9万円 | 23.9万円 | 44.8万円 |
| 30日(支給率60%) | 40.5万円 | 12.1万円 | 52.6万円 |
| 29日(対象外) | 41.1万円 | 0.0万円 | 41.1万円 |
| 0日(対象外) | 60.7万円 | 0.0万円 | 60.7万円 |
※ 月給40万円・離職時30〜44歳・自己都合(所定給付日数90日)。基本手当日額6,744円。「開業前に受けた基本手当」は開業までに失業の認定を受けた日数分。当サイトで計算(scripts/saishushoku-teate-kigyou.mjs timing)
読み取れることは3つあります。
- 受取総額が最大になるのは、基本手当を最後まで受けること(60.7万円)。再就職手当は最大でも残りの7割なので、総額では基本手当を上回りません
- 支給残日数が60日→59日、30日→29日の2か所に崖があります。1日の違いで3.8万円、11.5万円減ります
- 最短で開業した場合(42.5万円)と最後まで受けた場合(60.7万円)の差は18.2万円で、約3か月早く事業を始める対価と見ることができます
3か月早く始めて18.2万円以上の利益が出るなら、早く始めたほうが手元に残ります。独立後の売上の見込みと比べて判断する話で、雇用保険のためだけに開業を遅らせる理由は大きくありません。
なお、基本手当を受けている間でも、事業の準備に専念し始めた時点で支給は止まります。岡山労働局の案内では、まず窓口で自営を開始する旨を申し出て、登記や開業届の後に自営開始日を申告し、自営開始日の翌日から1か月以内に再就職手当を申請する流れです。「登記を済ませてから、黙って残りの基本手当を受ける」ことはできません。
起業して失敗したときは、受給期間の特例がある
独立に踏み切れない理由の1つは、「失敗したら失業保険もない」という不安だと思います。これには特例があります。
ハローワークによれば、離職日の翌日以後に事業を開始した人は、事業を行っている期間などを最大3年間、受給期間に算入しない特例を申請できます。受給期間は原則として離職日の翌日から1年なので、事業に使った期間だけ後ろへずれ、廃業後に残りの基本手当を受けられるわけです。
ただし要件があります。
- 事業の実施期間が30日以上あること
- その事業について、就業手当・再就職手当を受けていないこと
- 事業を開始した日(または事業や準備に専念し始めた日)の翌日から2か月以内に申請すること
つまり、再就職手当を受けるか、失敗したときの保険として受給期間を残すかは、どちらか一方です。再就職手当を申請して不支給になった場合は、その申請日を特例の申請日として扱う救済もあります。
なお、令和7年4月1日から就業手当は廃止されています。自己都合退職の給付制限も、同じ日から原則2か月→1か月に短縮されました(5年間で3回以上の自己都合離職は3か月)。以前の案内には就業手当や2か月の給付制限が残っていることがあるので、古い資料を見るときは注意が必要です。
独立1年目の保険料は、個人事業と法人でどう違うか
個人事業で始めるか、最初から法人にするかで、1年目の保険料の決まり方が変わります。
- 個人事業で開業:国民健康保険料は前年の所得で決まる。独立1年目は、会社員時代の給与所得に保険料がかかる
- 法人を設立:社長1人でも健康保険・厚生年金に加入し、保険料はその年の役員報酬で決まる
前年の年収別に、東京23区・単身で比べました。法人側は、独立直後で売上が安定しない前提で役員報酬を月20万円に抑えたケースです。
| 前年の年収(給与) | 個人事業で開業:国保+国民年金(年) | 法人を設立:役員報酬月20万円の社会保険料(労使計・年) |
|---|---|---|
| 400万円 | 52.9万円(国保31.4万円) | 69.0万円 |
| 500万円 | 61.3万円(国保39.8万円) | 69.0万円 |
| 600万円 | 69.8万円(国保48.3万円) | 69.0万円 |
| 800万円 | 88.2万円(国保66.7万円) | 69.0万円 |
| 1000万円 | 108.8万円(国保87.3万円) | 69.0万円 |
※ 東京23区・40歳未満・単身。国保は前年の給与所得から算出した令和8年度の保険料(特別区統一保険料率)、国民年金は月17,920円×12か月。法人側は東京都・協会けんぽ・厚生年金の労使合計に子ども・子育て拠出金を含む。非自発的失業者の国保軽減は考慮していない。当サイトで計算(scripts/saishushoku-teate-kigyou.mjs hoken)
前年の年収が600万円前後で逆転し、年収1,000万円なら法人のほうが年39.8万円少なくなります。ただし法人の保険料には会社負担分が含まれ、厚生年金として将来の年金にも反映されます。国保の側には、退職後2年まで続けられる健康保険の任意継続という選択肢もあり、その比較は健康保険の任意継続と国保はどっち?で扱っています。
この表は1年目の保険料だけの比較です。2年目以降は国保も事業の所得で決まるため、法人化するかどうかは売上と経費で判断する必要があります。法人の社長自身は雇用保険に入れないことも押さえておきたい点で、理由は一人社長は雇用保険に入れないで説明しています。
独立後の売上の見込みが立ったら、自分の売上と経費でシミュレーターを動かし、個人のままと法人化した場合の手取りを確かめてください。
まとめ
- 再就職手当は、個人事業の開業でも法人設立でも「事業の開始」として対象になる。事業で自立できると認められることが条件
- 30〜44歳・月給40万円・自己都合なら、給付制限明けすぐの開業で42.5万円。令和8年8月から計算上の日額の上限は6,745円で、非課税
- 受取総額は基本手当を最後まで受けるほうが多いが、差の18.2万円は約3か月早く事業を始める対価
- 再就職手当を受けると、事業をやめたときの受給期間の特例(最大3年)は使えない
- 独立1年目の保険料は、前年の年収が600万円を超えると国保+国民年金のほうが、役員報酬月20万円の法人より高い
よくある質問
失業保険をもらいながら法人の設立登記をしてもいいですか
事業の準備に専念し始めた時点で失業の状態ではなくなるため、その日以降の基本手当は支給されません。ハローワークに自営を開始する旨を申し出て、登記後に自営開始日を申告し、再就職手当の申請に切り替える流れになります。
再就職手当に税金はかかりますか
雇用保険法12条により、失業等給付として受けた金銭には租税その他の公課を課すことができません。再就職手当は失業等給付(就職促進給付)なので、所得税・住民税はかからず、確定申告にも含めません。
起業した事業をすぐやめたら、残りの失業保険はもらえますか
再就職手当を受けていなければ、事業を行っていた期間を最大3年間、受給期間に算入しない特例を申請できます。再就職手当を受けた事業では、この特例は使えません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。