税金の基礎
使途秘匿金は支出額の40%を法人税に加算|相手先を明かさない支出
結論
法人が相当の理由なく相手方の氏名・住所・事由を帳簿書類に記載しない金銭の支出(使途秘匿金)をすると、通常の法人税額に支出額の40%が加算されます。利益500万円の会社が100万円を支出すると、当サイトの計算で税負担は年63.2万円増えました。
- 根拠は租税特別措置法62条。平成6年度の税制改正で、相手先を秘匿する支出を抑制する目的で設けられた法人税の特例
- 相手先が帳簿に記載されていれば対象外。広告宣伝用の手帳・カレンダーの贈与やチップ等の小口の謝金も相当の理由があるものとして除かれる
- 取引の対価であることが明らかな支出は対象外。ただし不相当に高額な部分には適用がある
使途秘匿金の40%は、法人税の「税率」とは別枠で、支出した金額そのものにかかります。会社に利益が出ていなくても、支出があれば加算の対象になる計算です。個人事業主のうちは意識しなかった論点ですが、法人化すると帳簿の書き方ひとつで税額が大きく変わります。
使途秘匿金とは、相手先を帳簿に書かない支出です
税務大学校の講本(法人税法 令和8年度版)は、使途秘匿金の支出を次のように説明しています。
法人がした金銭の支出のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名(名称)、住所(所在地)及びその事由を帳簿書類に記載していないもの(措法62②)
要件を分けると3つです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 支出の種類 | 金銭の支出。贈与・供与などの目的で金銭以外の資産を引き渡した場合も含む |
| 記載の欠落 | 相手方の氏名(名称)・住所(所在地)・支出の事由を帳簿書類に記載していない |
| 理由の有無 | 記載しないことに相当の理由がない |
ポイントは、**判定の基準が「帳簿書類に相手先と事由が書いてあるか」**にあることです。支出の内容が交際費か手数料かという勘定科目の問題ではありません。
なぜ法人だけにこの制度があるのか
講本によると、この特例は平成6年度の税制改正で、時限的な措置として設けられました。交際費・機密費などの名義で支出され、使い道が明らかでない「使途不明金」が多額に上り、違法・不当な支出の隠れ蓑になっていることが社会問題になったためです。
企業が相手先を秘匿する支出は、違法・不当な支出につながりやすく、公正な取引を阻害する。そこで、こうした支出を抑える目的で追加の税負担を求める、という位置づけです。講本は、この課税が相手方の所得に対する代わりの課税ではないことも明記しています。つまり相手が税金を払っているかどうかとは関係なく、法人の側に課されるペナルティ的な税です。
なお、交際費・機密費などの名義で支出した金銭で費途が明らかでないものは、もともと損金の額に算入されません(法人税基本通達9-7-20)。使途秘匿金の40%は、その上に乗る追加の負担です。
対象外になる支出:小口の謝金と、対価が明らかな取引
使途秘匿金から除かれる支出は、講本で2種類が示されています。
1. 記載しないことに「相当の理由」があるもの
例として挙げられているのは、手帳・カレンダーなどの広告宣伝用物品の贈与と、チップなどの小口の謝金です。配った相手を1人ずつ帳簿に記録するのが現実的でない支出は、相手先が書かれていなくても対象になりません。
2. 取引の対価であることが明らかなもの
商品の仕入れのように対価性が明確な支出は、条文(措法62②)で除外されています。通常は違法・不当な支出につながらないと考えられるからです。
ただし、支払いが不相当に高額と認められる場合は、高額と認められる部分に適用があります。外注費の名目でも、相場を大きく超える部分は対象になり得るということです。
課税の対象として例示されているもの
講本は、違法・不当な支出につながる支出は相手方を明らかにしないため、対価性と金額の妥当性を証明するのが非常に困難だとしています。そのうえで、次のような支出が使途秘匿金課税の対象になると例示しています。
- 利権獲得のための工作資金・謝金
- ヤミ献金
- 取引先の役員等への裏リベート
- 株主総会対策費
一人社長の会社で日常的に起こる支出ではありません。気を付けたいのは、紹介料やお礼を「相手の名前は出せない」という理由で帳簿に残さず現金で渡すケースです。金額が小さくても、上の要件に当てはまれば対象になります。
「領収書がない=40%」ではありません
「領収書をもらい忘れたら使途秘匿金になる」という説明を見かけることがあります。これは要件の読み違いです。
要件は「相手方の氏名・住所・事由を帳簿書類に記載していないこと」です。領収書という特定の書類の有無ではありません。相手先が分かっていて、帳簿に相手先と事由を記載していれば、領収書を紛失していてもこの要件には当たりません。
この誤解が生まれるのは、「使途不明金」と「使途秘匿金」が混同されやすいからです。
| 区分 | 何が問題か | 税務上の扱い |
|---|---|---|
| 使途不明金(費途不明) | 何に使ったか明らかでない | 損金不算入 |
| 使途秘匿金 | 相手先を帳簿に記載せず秘匿している | 損金不算入のうえ、支出額の40%を法人税に加算 |
もちろん、領収書がなければ支出の事実や金額を別の資料で示す必要があり、経費として認められるかは別の問題として残ります。帳簿づけの基本は法人の帳簿保存期間でまとめています。
利益500万円の会社が100万円を支出すると、負担は年63.2万円増える
40%という数字だけを見ると、100万円の支出で40万円と考えがちです。実際には、損金にならないことで通常の法人税等も増えるため、負担はそれより大きくなります。
当サイトの計算エンジン(calcCorporateTaxes)で、同じ100万円の支出を「相手先を記載して損金になる場合」と「使途秘匿金になる場合」で比べました。
| 支出後の利益 | 損金になる場合の法人税等 | 使途秘匿金の場合の法人税等 | うち40%加算 | 増える負担 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 71.1万円 | 132.4万円 | 40.0万円 | 61.4万円 |
| 500万円 | 115.2万円 | 178.4万円 | 40.0万円 | 63.2万円 |
| 1,000万円 | 246.9万円 | 320.5万円 | 40.0万円 | 73.6万円 |
※ 支出額100万円。「法人税等」は法人税・地方法人税・法人住民税(法人税割・均等割7万円)・法人事業税・特別法人事業税の合計で、2026年(令和8年)分の税率による。使途秘匿金の場合は、100万円を損金不算入として利益に足し戻したうえで、支出額の40%(40万円)を法人税額に加算した。40%加算分が地方法人税・法人住民税の課税標準に与える影響は含めていない。当サイトで計算
利益500万円の会社なら、増える負担は**支出額の約63%**です。利益が年800万円を超えて法人税の税率が上がる水準では、損金にならないことの影響も大きくなり、増加額は73.6万円まで膨らみました。
加えて、帳簿書類の破棄・隠匿・改ざんなどの事実がある場合、国税庁の事務運営指針は、使途秘匿金に係る税額にも重加算税を課すとしています。40%で終わるとは限りません。
申告書では「法人税額計」の上段に外書きします
使途秘匿金の支出がある場合、法人税申告書の別表一で、「法人税額計」の欄の上段に、支出額の100分の40に相当する金額を外書として記載します(国税庁「別表一の記載の仕方」令和8年4月1日以後終了事業年度分)。
法人化の判定にどう効くか
当サイトの判定ツールは、経費を全額損金として計算しています。使途秘匿金のような支出は想定していません。
法人化を検討している段階で押さえておきたいのは次の2点です。
- 個人事業主の帳簿で相手先を記載していない支出がある場合、法人化後に同じやり方を続けると、法人税の特例の対象になり得る
- 対象を避ける方法は、支出を減らすことではなく、相手先と事由を帳簿に記載すること
交際費の扱いも法人と個人で違います。上限の仕組みは交際費800万円の上限があるのは法人だけ、一人での飲食代の扱いは一人社長の飲食代で計算しています。帳簿をきちんと付ける前提で、法人化した場合の手取りがどう変わるかは、判定ツールで自分の売上と経費を入れて確かめてください。
まとめ
- 使途秘匿金は、相当の理由なく相手方の氏名・住所・事由を帳簿書類に記載しない支出(措法62)
- 通常の法人税額に支出額の40%が加算され、支出自体も損金にならない。利益500万円の会社が100万円を支出すると負担は年63.2万円増える
- 手帳・カレンダーなどの広告宣伝用物品やチップ等の小口の謝金、対価が明らかな取引は対象外。ただし不相当に高額な部分は対象
- 判定基準は帳簿への相手先の記載で、「領収書がない=40%」ではない
- 帳簿書類の隠匿などがあれば、使途秘匿金に係る税額にも重加算税がかかる
よくある質問
領収書をなくしただけでも使途秘匿金になりますか?
使途秘匿金の要件は、相当の理由なく相手方の氏名(名称)・住所(所在地)・事由を帳簿書類に記載していないことです。相手先と支出の事由を帳簿に記載していれば、この要件には当たりません。
使途秘匿金の40%は申告書のどこに書きますか?
法人税申告書の別表一で、「法人税額計」の欄の上段に、使途秘匿金の支出の額の100分の40に相当する金額を外書として記載します。
現金以外の物を渡した場合も対象になりますか?
贈与、供与その他これらに類する目的でする金銭以外の資産の引渡しも、金銭の支出と同様に扱われます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。