税金の基礎
交際費800万円の上限があるのは法人だけ|個人事業主との違い
「法人は交際費が年800万円まで経費」という説明は、上限のない個人事業主と比べると逆です。定額控除限度額を超えた分にかかる税額と、損益分岐点がどれだけ後退するかを2026年の税率で計算しました。
「法人は交際費が年800万円まで経費になる」という説明をよく見かけます。ただ、これを個人事業主と並べると向きが逆になります。金額の上限があるのは法人のほうで、所得税には交際費の額を制限する規定がありません。
とはいえ、一人社長の規模でこの800万円に届くことはまずありません。届いたときに何が起きるかを当サイトの計算エンジンで測ると、交際費が年900万円になった時点で法人化の損益分岐点は1,266万円から1,434万円へ後退しました。経費の総額をいくら増やしても分岐点は1円も動かないのに、その中身が交際費に寄ると動きます。
金額の上限があるのは法人のほうです
個人事業主の必要経費は、総収入金額に対応する売上原価などと、その年の販売費・一般管理費その他業務上の費用です。金額の枠を定めた規定はありません。取引先との会食費が年に500万円あっても、業務上の費用であればその全額が必要経費になります。
個人側の制約は金額ではなく、事業と家事の切り分けにあります。国税庁は家事関連費について、必要経費になるのは「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額」に限られるとしています。友人との食事が混ざった支出は、金額の大小と関係なく否認されます。
法人の建て付けはまったく違います。交際費等は原則としてその全額が損金不算入です。そのうえで、期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下である等の法人に限って、次のどちらかで不算入額を計算する例外が置かれています。
| 選ぶ計算方法 | 損金不算入になる額 |
|---|---|
| 定額控除限度額を使う | 交際費等の額のうち、年800万円を超える部分 |
| 接待飲食費の50%を使う | 交際費等の額のうち、接待飲食費の50%を超える部分 |
つまり800万円は「経費にできる上限」ではなく、「全額が経費にならない原則」に開けられた穴の大きさです。この違いは、交際費が800万円に届かないうちは意識しなくて済みます。届いた瞬間に、超えた分の税金という形で表に出てきます。
混同しやすい「2つの800万円」
法人化の話には800万円という数字が2回出てきます。別の制度なので、切り分けておく必要があります。
| どの制度の800万円か | 内容 |
|---|---|
| 法人税の軽減税率 | 中小法人の課税所得のうち年800万円以下の部分に15%、超える部分に23.2% |
| 交際費等の定額控除限度額 | 支出した交際費等のうち年800万円を超える部分が損金不算入 |
前者は会社が稼いだ利益にかかる税率の区切り、後者は使った交際費の側の区切りです。売上や利益が800万円でも、交際費が800万円でも、どちらも「800万円を超えると条件が変わる」ため混ざりやすいところです。法人税等の税率そのものは法人税は15%では済まないで分解しています。
定額控除限度額は事業年度の月数で割られる
もう1つ見落としやすいのが、800万円が年額だという点です。国税庁は定額控除限度額を「800万円にその事業年度の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額」と定義しています。設立初年度が9か月なら600万円、6か月なら400万円です。
法人成りの初年度は、決算月の決め方によって事業年度が12か月未満になります。事業年度の長さは消費税や社会保険の扱いにも効いてくるので、年度途中の法人化の論点とあわせて考えることになります。
800万円か、接待飲食費の50%か
2つの計算方法は選べます。分かれ目は算数で決まります。接待飲食費の50%が800万円を上回るのは、接待飲食費が1,600万円を超えるときです。それより下なら定額控除限度額のほうが有利になります。
贈答品やゴルフ代など飲食以外の交際費が多い会社は、飲食費の50%基準では控除できる額が小さくなるため、定額控除限度額を使う場面が多くなります。
800万円を超えた分には21〜34%の税金がかかる
損金不算入は「支出はしたのに、税金の計算上だけ経費として認められない」状態です。お金は出ていったまま、課税所得だけがその分増えます。増える税額を、当サイトの計算エンジンで税引前利益ごとに出しました。
| 法人の税引前利益 | 交際費の不算入なし | 100万円が不算入のとき | 増加額 | 100万円に対する負担率 |
|---|---|---|---|---|
| 100万円 | 28.3万円 | 49.7万円 | 21.4万円 | 21.4% |
| 300万円 | 71.1万円 | 92.4万円 | 21.4万円 | 21.4% |
| 500万円 | 115.2万円 | 138.4万円 | 23.2万円 | 23.2% |
| 800万円 | 184.8万円 | 213.3万円 | 28.6万円 | 28.6% |
| 1,000万円 | 246.9万円 | 280.5万円 | 33.6万円 | 33.6% |
| 1,500万円 | 414.8万円 | 448.4万円 | 33.6万円 | 33.6% |
※ 東京23区・資本金等1,000万円以下・従業者50人以下・12か月の事業年度/2026年(令和8年)分基準。法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税の合計
同じ100万円の超過でも、負担は21.4万円から33.6万円まで開きます。利益が小さい会社ほど、交際費を使いすぎたときの追加負担は軽いという、直感と逆の結果です。理由は法人税の軽減税率と法人事業税の段階税率にあります。会社の課税所得が小さいうちは超過分に法人税15%と法人事業税3.5%の帯しか乗らず、課税所得が大きくなると23.2%と7.0%の帯に入ります。負担率は33.6%で頭打ちになります。
計算の前提は当サイトについてにまとめています。
経費の「額」は、法人化の分岐点を1円も動かしません
ここからが判定への影響です。まず前提として、経費の総額は損益分岐点に影響しません。同じ計算エンジンで、経費だけを200万円・1,200万円・1,500万円と変えて所得別の比較を出すと、3つとも完全に同じ表になります。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 274.5万円 | 月28万円 | −48.6万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 427.3万円 | 409.7万円 | 月42万円 | −37.6万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 540.7万円 | 536.6万円 | 月54万円 | −24.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 662.4万円 | 月54万円 | −14.7万円 | ほぼ互角 |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 787.6万円 | 月54万円 | −6.6万円 | ほぼ互角 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 972.0万円 | 月54万円 | +23.9万円 | 法人化が有利 |
| 1,800万円 | 1082.1万円 | 1149.1万円 | 月90万円 | +47.0万円 | 法人化が有利 |
| 2,100万円 | 1232.0万円 | 1332.6万円 | 月95万円 | +80.6万円 | 法人化が有利 |
| 2,500万円 | 1395.0万円 | 1551.1万円 | 月100万円 | +136.1万円 | 法人化が有利 |
| 3,000万円 | 1599.6万円 | 1816.8万円 | 月100万円 | +197.2万円 | 法人化が有利 |
※ 経費1,500万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額
判定を決めるのは売上でも経費でもなく、その差である事業所得です。経費が200万円の1人コンサルタントも、経費が1,500万円の営業会社も、事業所得が同じなら同じ結論になります。個人でも法人でも経費は同じように差し引かれるので、額が増えても両者の差は変わらないからです。
ただしこれは、経費が個人でも法人でも同じように損金になるという前提の上で成り立っています。 交際費の定額控除限度額は、その前提が崩れる数少ない場面です。
交際費が900万円になると、分岐点は1,434万円へ動く
経費の中身が交際費に寄るとどうなるかを計算しました。売上3,000万円・経費1,500万円の会社で、経費のうち交際費が占める額だけを変えています。個人事業主の側は交際費を全額必要経費として扱い、法人の側だけ800万円の定額控除限度額を適用しました。
| 年間の交際費 | 損金不算入額 | 法人の税負担増 | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 損益分岐となる事業所得 |
|---|---|---|---|---|---|
| 600万円 | 0円 | 0円 | 月54万円 | +23.9万円 | 1,266万円 |
| 800万円 | 0円 | 0円 | 月54万円 | +23.9万円 | 1,266万円 |
| 900万円 | 100万円 | 24.3万円 | 月54万円 | +4.4万円 | 1,448万円 |
| 1,000万円 | 200万円 | 44.0万円 | 月90万円 | −20.5万円 | 1,703万円 |
| 1,200万円 | 400万円 | 90.4万円 | 月90万円 | −57.6万円 | 2,333万円 |
| 1,500万円 | 700万円 | 159.5万円 | 月100万円 | −116.4万円 | 2,899万円 |
※ 売上3,000万円・経費1,500万円(うち交際費が左列の額)・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額と最適な役員報酬は事業所得1,500万円のときの値。実質差額は税理士報酬の差(年20万円)を差し引いた後
800万円までは何も起きません。1円も超えなければ、交際費が0円の会社とまったく同じ結果です。超えた瞬間から動き始め、交際費が1,000万円になると事業所得1,500万円での判定は「法人化が有利」から「個人のまま有利」へ反転します。分岐点は1,266万円から1,703万円へ、437万円後退します。
もう1つ、この表には最適な役員報酬が月54万円から月90万円へ上がるという動きが出ています。損金不算入額は役員報酬をいくらにしても変わらないのに、報酬の置き方が変わるのは、会社の課税所得が水増しされて上の税率帯に押し上げられるからです。会社に利益を残すコストが上がるぶん、給与として個人へ移すほうが有利になります。役員報酬の総当たり探索そのものは役員報酬はいくらが最適かで扱っています。
なお実質差額の下がり方は、税負担増と一致するとは限りません。交際費900万円の行では、内部留保が24.6万円減ったのに実質差額は19.7万円しか下がっていません。当サイトは会社に残った利益をそのまま手取りに算入せず、引き出しコスト(前提値20%)を差し引いているためです。この前提値の置き方は役員退職金で引き出すで扱っています。
現実にどこまで効くかは冷静に見る必要があります。交際費900万円は、経費1,500万円の6割が接待費という状態です。売上3,000万円の一人社長でこの構成になる業種は限られます。逆にいえば、多くの読者にとって定額控除限度額は法人化の判断材料になりません。交際費が年800万円に届かないなら、この論点はまるごと無視して構いません。
1人1万円以下の飲食費は、そもそも交際費に入りません
800万円の枠を気にする前に確認したいのが、交際費等から除外される費用です。取引先との飲食のうち、支出額を参加人数で割った金額が1人あたり10,000円以下のものは交際費等に含まれません。令和6年3月31日以前に支出した分の基準金額は5,000円以下でした。
除外されるのは、次の書類を保存している場合に限られます。
- 飲食等のあった年月日
- 参加した得意先・仕入先など事業関係者の氏名または名称と、その関係
- 参加した者の数
- 費用の額、飲食店等の名称と所在地
- その他、飲食等に要した費用であることを明らかにするために必要な事項
この除外は、専ら自社の役員・従業員やその親族に対する接待等のための支出には使えません。 一人社長が自分だけ、あるいは家族役員だけで飲食した費用は、1人あたり10,000円以下でも交際費等から外れません。社外の相手が同席しているかどうかが分かれ目になります。10,000円かどうかの判定は、その法人が税抜経理と税込経理のどちらを採っているかに従います。定額控除限度額の800万円も同じで、経理方式によって判定額が変わる仕組みは別記事にまとめました。
このほか、従業員の慰安のための運動会や旅行の通常費用、カレンダーや手帳などの贈答費用、会議の茶菓・弁当代も交際費等から除かれます。1人1万円以下の飲食費を記録して除外していけば、定額控除限度額に当たるまでの余地はその分だけ広がります。
経費の中身が法人と個人で違う扱いになる例は交際費だけではありません。車両の扱いは社用車の経費、家賃は役員社宅で、それぞれ分岐点への影響を計算しています。法人化で増える固定費の全体像は法人化のデメリットにまとめました。
判定ツールは経費を全額損金として計算しています。交際費が年800万円を超える見込みがあるなら、税引前利益ごとの負担率(100万円あたり21.4万円〜33.6万円)で税額を上乗せして読んでください。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で試算するところから始まります。
まとめ
- 交際費の金額に上限があるのは法人のほうです。所得税には交際費の額を制限する規定がなく、業務上の費用であれば全額が必要経費になります
- 法人の交際費等は原則として全額が損金不算入で、資本金等1億円以下などの法人に年800万円の定額控除限度額が置かれています。この800万円は事業年度の月数で按分されます
- 超えた分にかかる税額は、法人の税引前利益によって100万円あたり21.4万円から33.6万円まで変わります。利益が小さい会社ほど負担率は低くなります
- 経費の総額は損益分岐点を動かしませんが、交際費が800万円を超えると動きます。売上3,000万円・経費1,500万円の条件では、交際費1,000万円で分岐点が1,266万円から1,686万円へ後退しました
- 1人あたり10,000円以下の飲食費(令和6年4月1日以後の支出)は、書類を保存していれば交際費等から除かれます。ただし役員や従業員だけの飲食には使えません
よくある質問
個人事業主の交際費に上限はありますか?
所得税には交際費の金額を制限する規定がありません。業務上の費用であれば必要経費になります。ただし家事上の費用と混在する支出は、業務遂行上直接必要だった部分を明らかに区分できる金額に限られます。
法人の交際費は年800万円まで経費にできるのですか?
正確には逆で、交際費等は原則として全額が損金不算入です。資本金等1億円以下などの要件を満たす法人だけ、年800万円(定額控除限度額)までを損金にできる例外が設けられています。
1人5,000円以下の飲食費は交際費から除けると聞きました。
令和6年4月1日以後に支出する飲食費については、基準金額が1人あたり10,000円以下に引き上げられています。令和6年3月31日以前の支出は5,000円以下が基準です。いずれも所定の書類を保存している場合に限られます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。