役員報酬

スーツ代は経費になる?個人事業主と一人社長の被服費の線引き

結論

普段も着られるスーツは、個人事業主なら家事関連費として業務に直接必要な部分を明らかに区分できない限り経費になりにくく、一人社長が会社に払わせても給与と認定されれば損金不算入です。事業所得1,000万円の例では20万円のスーツが損金なら正味15万7,100円、給与認定なら27万5,700円の負担になります。

  • 経費・非課税になりやすいのは、勤務場所でだけ着る制服・事務服・作業服(所得税基本通達9-8)
  • 個人事業主は所得税基本通達45-2により、業務に必要な部分を明らかに区分できればその部分だけ経費にできる
  • 役員への年1回の現物支給は定期同額給与に当たらず、給与認定されると法人でも損金不算入(国税庁No.5202)

スーツ代の扱いは、個人事業主と一人社長で見る条文が違います。個人事業主は「家事関連費のうち業務に必要な部分を区分できるか」、一人社長は「制服として非課税になるか、役員への給与になるか」です。

どちらの立場でも、普段着にも使えるスーツは通りにくい支出です。ただし判定を外したときの損の形が違います。個人事業主は経費にならないだけですが、一人社長は個人で課税されたうえ、会社の損金にもならないという二重の不利益になり得ます。

個人事業主:スーツは「家事関連費」として判定される

個人事業主の必要経費は、業務のために支出したものに限られます。スーツのように私生活でも使える支出は、家事関連費として扱われます。

国税庁No.2210は、家事関連費のうち必要経費になるのは「業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」としています。所得税基本通達45-2は、これを次のように具体化しています。

  • 業務に必要な部分が50%を超えるかで、主たる部分が業務用かを判定する
  • 50%以下でも、必要な部分を明らかに区分できれば、その部分を必要経費にしてよい

条文上は按分の道があります。ただしスーツは、着た日が商談か私用かを後から証明しにくい支出です。家事按分は家賃や通信費のように面積や時間で割れるものと相性が良く、衣服とは相性が悪い。経費になるかの分かれ目は、業務専用であることを説明できる事実があるかです。

支出業務専用と説明しやすいか主な理由
屋号やロゴ入りのユニフォーム・作業着しやすい私生活で着ることが想定されない
舞台衣装・撮影用の衣装しやすい業務のための用途が明確
商談や登壇に使う無地のスーツしにくい冠婚葬祭や私用にも転用できる
普段着・靴・かばんしにくい私生活での使用と区分できない

一人社長:制服なら非課税、私服なら役員への給与

法人の場合、会社が買った物は会社の経費になるのが原則です。問題は、それが社長個人への経済的利益に当たるかどうかです。

制服・作業服は非課税の扱いがある

所得税法施行令21条は、職務の性質上制服を着用すべき人が使用者から支給される制服などを非課税としています。所得税基本通達9-8は、これを広げて「専ら勤務場所のみにおいて着用する事務服、作業服等」を制服に準じて扱ってよいとしています。

ポイントは「専ら勤務場所のみ」です。ロゴ入りのポロシャツや作業着はこれに当たりやすい一方、通勤や私用でも着る一般的なスーツは当たりにくくなります。

私服は経済的利益になり、損金不算入まで起きる

制服に当たらない衣服を会社が買い与えると、役員への給与(現物給与)として扱われる可能性があります。国税庁No.5202は、役員への経済的利益のうち毎月おおむね一定のものは定期同額給与として損金になるが、それ以外は損金の額に算入されないとしています。

スーツの購入は年に数回の単発支出です。給与と認定されると、社長個人に所得税・住民税がかかり、会社側の損金にもなりません。この構造は資格取得費でも同じで、一人社長の資格取得費・研修費はどこまで経費?で詳しく扱っています。

判定を外すと、一人社長はいくら重くなるか

事業所得1,000万円の一人社長が、会社のお金で衣服を買った場合を計算エンジンで出しました。役員報酬は総当たりで手取りが最大になる月54万円です。

支出額扱い法人税等の減少役員の所得税・住民税の増加正味負担
5万円損金算入・非課税10,800円0円39,200円
5万円給与認定・損金不算入0円8,100円58,100円
10万円損金算入・非課税21,400円0円78,600円
10万円給与認定・損金不算入0円16,200円116,200円
20万円損金算入・非課税42,900円0円157,100円
20万円給与認定・損金不算入0円75,700円275,700円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 給与認定分は一時の経済的利益として、社会保険の標準報酬月額は元の等級に据え置いて計算 ※ 計算根拠はscripts/suit-hifukuhi-keihi.mjs

給与認定されると、20万円のスーツの負担は27万5,700円になり、社長が自分の財布から20万円を払うより7万5,700円重くなります。会社に払わせれば必ず得、とはならないのはこのためです。

10万円から20万円で個人の税の増加が16,200円から75,700円へ跳ねるのは、基礎控除の段差のためです。年収648万円に20万円が加わると給与所得が合計所得489万円を超え、所得税の基礎控除が104万円から67万円へ下がります。高めのスーツを数着まとめて買うと、この段差をまたぐことがあります。

自腹で買っても、特定支出控除にはまず届かない

給与所得者には特定支出控除があり、国税庁No.1415は「制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服」の購入費を勤務必要経費(衣服費)に含めています。ただし図書費・交際費等と合わせて65万円が上限で、しかも特定支出の合計が給与所得控除額の2分の1を超えた部分しか引けません。月54万円の報酬では足切りが86.8万円になり、スーツ代だけで超えることは考えにくい水準です。

個人事業主が経費にできた場合の取戻し額

個人事業主が被服費を経費にできた場合、手取りがいくら戻るかを出しました。逆に言えば、否認されたときに失う額です。

事業所得(青色控除前)被服費経費にできた場合の取戻し額実質負担
400万円10万円29,080円70,920円
600万円10万円42,980円57,020円
800万円10万円42,680円57,320円
1,000万円10万円38,770円61,230円
600万円20万円85,660円114,340円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax・65万円控除)・インボイス登録済み/2026年(令和8年)分基準 ※ 取戻し額には所得税・住民税・国民健康保険料・個人事業税の減少に加え、消費税の仕入税額控除の増加分を含む

10万円のスーツを経費にできても、戻るのは3〜4万円台です。所得1,000万円で600万円より戻りが小さいのは、国民健康保険料が賦課限度額に近づき、経費を増やしても保険料が下がりにくくなるためです。経費にできるかどうかより、そもそも業務に必要な支出かが先に問われる金額感だと分かります。

立場別の整理

個人事業主一人社長
根拠所法45、所令96、所基通45-1・45-2所令21、所基通9-8、法人側はNo.5202
判定の軸業務に必要な部分を明らかに区分できるか勤務場所でのみ着る制服・作業服か
判定を外したときその部分が必要経費にならない給与課税と損金不算入が同時に起きる
通りやすい例ロゴ入りユニフォーム、衣装社名入りの作業着・事務服

法人化すれば何でも経費にできる、という説明は被服費には当てはまりません。法人化で変わるのは、判定の条文と、外したときの損の大きさです。法人化そのものの損得は、自分の売上と経費で判定ツールで確かめてください。

まとめ

  • 普段着にも使えるスーツは、個人事業主・一人社長のどちらでも経費になりにくい
  • 個人事業主は所得税基本通達45-2により、業務に必要な部分を明らかに区分できればその部分だけ必要経費にできる
  • 一人社長は、専ら勤務場所で着る事務服・作業服なら制服に準じて非課税(所得税基本通達9-8)
  • 私服を会社が買うと役員給与と認定され得て、事業所得1,000万円の例では20万円の負担が27万5,700円になる
  • 法人化の損得は被服費ではなく、売上と経費の全体で判定する

よくある質問

個人事業主が商談用に買ったスーツは経費になりますか?

スーツは私生活でも着られるため家事関連費に当たります。所得税基本通達45-2は、業務に必要な部分が50%以下でも、その部分を明らかに区分できる場合に限ってその部分を必要経費にできるとしています。区分の根拠を説明できないと経費にはなりにくい支出です。

会社の名前でスーツを買えば、一人社長でも経費になりますか?

会社が払っても、役員の私的な衣服であれば役員への経済的利益(給与)として扱われる可能性があります。国税庁No.5202によれば、毎月おおむね一定でない経済的利益は定期同額給与に当たらず、損金の額に算入されません。

どんな服なら経費・非課税にしやすいですか?

所得税基本通達9-8は、専ら勤務場所のみで着用する事務服・作業服等を制服に準じて扱うとしています。ロゴ入りのユニフォームや作業着のように、勤務場所以外で着ることが想定されない服が典型です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。