設立の手続き
特商法の表示、個人事業主は自宅住所と本名。法人化で変わること
結論
通信販売の広告には、個人事業主なら戸籍上の氏名(または登記した商号)・現に活動している住所・電話番号を表示します。法人なら登記上の名称・住所・電話番号に加え、ウェブ広告では代表者か通信販売の責任者の氏名です(特商法施行規則23条)。屋号だけ、私書箱だけの表示は認められません。法人化しても本店を自宅に置けば、表示される住所は自宅です。個人・法人とも、請求があれば遅滞なく提供する旨を表示すれば、氏名・住所・電話番号の表示は省略できます。
- 個人事業主もバーチャルオフィスの住所を表示できる。運営事業者との合意、運営事業者が現住所と本人名義の電話番号を把握していることなど3条件を消費者庁が示している
- 法人はウェブ広告で、代表者名の代わりに「通信販売に関する業務の責任者」の氏名を表示できる。消費者庁は、代表権がなくてもよいとしている
- 経費率60%のネットショップは、インボイス登録済みなら売上4,000万円で初めて2年目以降の差額がプラスになる。未登録なら設立初年度は売上1,500万円でも+13.5万円
ネットショップを始めると、「特定商取引法に基づく表記」のページを作ることになります。個人事業主がここで悩むのは、自宅の住所と本名をそのまま出すかどうかです。法人化すれば会社名と会社の住所になる、と考えて法人成りを検討する人もいます。この記事では、何を表示する義務があり、何なら省けるのか、法人化で実際に変わるのはどこかを、条文と消費者庁の解説で確かめます。
「誰が売っているか」の表示項目は、個人と法人で違う
特定商取引法11条は、通信販売の広告に表示する事項を定めています。価格・送料、支払の時期と方法、引渡時期、返品の可否などと並んで、施行規則23条が「誰が売っているか」の項目を置いています。
- 1号:販売業者の氏名又は名称、住所及び電話番号
- 2号:販売業者が法人で、インターネットなどで広告をする場合は、代表者又は通信販売に関する業務の責任者の氏名
消費者庁の解説で具体的な中身を確かめると、個人と法人の違いは次のとおりです。
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 氏名・名称 | 戸籍上の氏名、または商業登記簿に記載された商号 | 登記簿上の名称 |
| 住所 | 現に活動している住所 | 現に活動している住所(通常は登記簿上の住所と同じ) |
| 電話番号 | 確実に連絡が取れる番号 | 確実に連絡が取れる番号 |
| 人の氏名 | (1号の氏名で足りる) | 代表者、または通信販売に関する業務の責任者 |
| 認められない例 | 通称・登記していない屋号だけ、番地の省略、現に活動していない私書箱だけ | 同左 |
ここでいう「広告」の範囲は広く、ショップのサイトだけでなく、商品ページへのリンクを貼ったメールやバナーも、リンク先と一体で広告とみなされます。個人でも、営利の意思を持って反復継続して販売していれば「販売業者」に当たると消費者庁は説明しています。
表示の場所にも決まりがあります。広告の冒頭から容易にたどり着ける場所に置く必要があり、「特定商取引法に基づく表記」「会社概要」といったリンクがあれば、この条件を満たすとされています。一方、ネットオークションなどで、サイト内に表示できるのにわざわざ外部の自分のサイトへリンクして表示する形は、通常は満たさないとされています。
個人事業主は屋号では足りず、住所は自宅になりやすい
氏名は戸籍上の名前か、登記した商号
個人事業主が表示する氏名は、戸籍上の氏名か、商業登記簿に記載された商号です。登記していない屋号やショップ名だけでは表示したことになりません。
個人でも、商法11条2項により商号を登記できます。登記した商号なら本名の代わりに表示できますが、商業登記法28条2項は、商号の登記事項に「商号使用者の氏名及び住所」を含めています。登記事項証明書は誰でも請求できる(同法10条1項)ので、本名と住所は登記簿の側で公開されます。本名を隠す手段としては、遠回りになります。
住所は「現に活動している住所」
住所は、消費者庁の解説で「現に活動している住所」とされています。自宅でショップを運営している個人事業主なら、通常は自宅です。消費者庁のQ&Aは、住所の表示を求める理由を、トラブルが起きたときや問い合わせへの対応に備えるためだと説明しています。
そのため、郵便が届く私書箱だけでは住所を表示したことになりません(Q19)。番地を一部省略した表示も認められません。
電話番号は、確実に連絡が取れる番号である必要があります。夜間に留守番電話にするのは構わないとされていますが、意図的に常に電話に出ない状態にしていると、表示していないのと同じ扱いになります(Q20)。
自宅住所を出さない方法は2つ、どちらも「連絡がつく」ことが前提
請求時開示で、氏名・住所・電話番号の表示を省く
特商法11条ただし書は、請求があれば表示事項を書いた書面か電子メールなどを遅滞なく提供する旨を広告に表示すれば、表示事項の一部を省略できるとしています。どこまで省けるかは施行規則25条が決めていて、消費者庁の一覧表では、氏名(名称)・住所・電話番号は、価格を全部表示した場合も、しない場合も省略できる項目です。
ただし、条件と例外があります。
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 「遅滞なく」の意味 | 申込みの意思決定に先立って、十分な時間的余裕をもって提供すること。短期間で入札が集中するネットオークションでは困難とされている |
| 実際に応じる体制 | 表示するだけでなく、請求があったら遅滞なく提供できる措置を講じていること |
| 省略できない項目 | 返品特約の内容(返品の可否・期間・送料負担)、申込み期間の定め、定期購入の条件、販売数量の制限など |
| 提供に費用を取る場合 | その額は省略できない(施行規則23条9号) |
請求時開示は、住所を「誰にも知らせない」仕組みではありません。請求した人には提供します。また、代金を先に受け取り、遅滞なく発送しない場合には、特商法13条により、申込みの承諾の有無などを書面で通知する義務があり、消費者庁はその通知事項に事業者の氏名・住所・電話番号を挙げています。
なお、注文の最終確認画面に表示する事項(12条の6)は、分量と、価格・支払・引渡時期・申込み期間・返品に関する事項で、氏名・住所は含まれていません。
バーチャルオフィスやプラットフォームの住所を表示する
消費者庁のQ&A(Q18)は、個人事業者がバーチャルオフィスやプラットフォーム事業者の住所・電話番号を表示しても、次の措置があれば特商法の要請を満たすと考えられるとしています。
- プラットフォームの住所を使う場合は、その個人事業者の通信販売の取引が、そのプラットフォーム上で行われること
- その住所・電話番号が、取引の連絡先として機能することについて、個人事業者と運営事業者の間で合意があること
- 運営事業者が、個人事業者の現住所と本人名義の電話番号を把握し、確実に連絡が取れる状態になっていること
いずれかが不誠実で、消費者から連絡が取れない事態になれば、表示義務を果たしたことにはならないとも書かれています。契約前に、特商法表記への利用を認めているか、郵便物や電話の転送の仕組みがあるかを確認しておく必要があります。
プラットフォームで売るなら、開示請求の仕組みもある
モール型のプラットフォームで売る場合は、別の法律も関係します。取引デジタルプラットフォーム消費者保護法5条は、消費者が売主に対する金銭債権を行使するために必要な場合に限り、プラットフォーム提供者に売主の情報の開示を請求できるとしています。
施行規則は、対象を1万円を超える債権とし(4条)、開示される情報を氏名・名称(法人は代表者の氏名も)、住所、電話番号、ファクシミリ番号、電子メールアドレス、法人番号と定めています(5条)。プラットフォーム提供者は、開示するかどうかについて原則として売主の意見を聴きます。表示を省いても、トラブルになれば住所が相手に渡る経路があるということです。
法人化すると、表示は「本店」と「責任者の氏名」に変わる
法人化すると、表示する名称は登記上の会社名になります。住所は、消費者庁の解説で「通常、登記簿上の住所と同じと考えられる」とされ、Q&Aでも会社の住所を「本店の所在地等、営業上の活動の拠点となる場所」と説明しています。
本店を自宅に置けば、特商法の表示に出る住所は結局自宅です。 法人化そのものが住所を隠すわけではなく、住所が隠れるのは本店を自宅以外に置いたときです。
一方、本名の扱いは個人より柔軟になります。法人がウェブで広告する場合に表示するのは「代表者又は通信販売に関する業務の責任者」の氏名で、消費者庁は、責任者とは担当役員や担当部長など実務の責任者で、必ずしも代表権を持たなくてよいとしています。従業員や家族の役員に通販の責任者を任せている会社なら、その人の氏名を表示する形もあり得ます。
自宅の住所がどこに出るかを、特商法の表示以外も含めて並べると次のとおりです。
| パターン | 特商法の表示に出る住所 | 登記簿で見られる自宅住所 | インボイス公表サイト |
|---|---|---|---|
| 個人・自宅を表示 | 自宅 | なし(商号を登記しない場合) | 本名。住所は出ない |
| 個人・バーチャルオフィスを表示 | バーチャルオフィス(Q18の条件付き) | なし(同上) | 本名。住所は出ない |
| 法人・本店が自宅 | 自宅 | 本店所在地として自宅 | 法人名と本店所在地(自宅) |
| 法人・本店がバーチャルオフィス | 本店(バーチャルオフィス) | 代表者の住所として自宅。株式会社は非表示措置で市区町村までにできる | 法人名と本店所在地 |
法人の登記には代表者の住所が載ります。株式会社なら代表取締役等住所非表示措置を使えますが、合同会社は対象外です。この点は社長の住所を登記簿で隠す制度は、合同会社には使えないで、インボイスの公表事項の違いはインボイスの本名公表は法人化で消える?で整理しています。
法人化しても、処分歴は切り離せない
表示義務に違反すると、主務大臣の指示(14条)や、最長2年の業務停止命令(15条)の対象になります。命令に違反した場合は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(70条3号)で、法人には3億円以下の罰金が科され得ます(74条1項1号)。
15条には、個人事業主が法人を使って処分を逃れることへの手当てもあります。個人が業務停止を命じられるときは、同じ期間、同じ範囲の業務を営む法人の役員になることの禁止をあわせて命じることができ(1項後段)、その個人と関係のある法人(特定関係法人)が同じ業務をしていれば、その法人の業務停止も命じられます(2項)。
住所のための法人化は、売上いくらから割に合うか
住所を表示しない方法は、個人のままでも請求時開示とバーチャルオフィスの2つがあります。法人化は、それでも住所や本名の扱いを変えたい場合の選択肢になりますが、税金と社会保険料の負担が変わります。当サイトの計算エンジンで、ネットショップを想定して経費を売上の60%(仕入・送料・決済手数料を含む)とした差額は次のとおりです。
| 売上 | 経費 | 最適な役員報酬(月額) | 2年目以降 | 初年度(インボイス登録あり) | 初年度(インボイス未登録) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1,500万円 | 900万円 | 42万円 | −37.6万円 | −47.6万円 | +13.5万円 |
| 2,000万円 | 1,200万円 | 54万円 | −24.1万円 | −34.1万円 | +46.4万円 |
| 3,000万円 | 1,800万円 | 54万円 | −6.6万円 | −16.6万円 | +101.4万円 |
| 4,000万円 | 2,400万円 | 54万円 | +33.1万円 | +23.1万円 | +174.0万円 |
※ 東京23区・40歳未満・単身・青色申告(e-Tax)・合同会社・最適役員報酬。税理士報酬の差(年20万円)を控除後、初年度は設立費用10万円も控除。消費税は原則課税で、経費の60%を課税仕入とする概算。「インボイス未登録」は、法人が設立2期の免税の要件を満たす前提。役員報酬の月額は2年目以降・インボイス登録ありの場合/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:scripts/tokushoho-hyoji-netshop.mjs
ネットショップは売上に対して仕入が大きく、売上の割に所得が伸びません。この前提では、インボイス登録済みなら売上3,000万円でも2年目以降は年6.6万円のマイナスで、プラスに転じるのは4,000万円の行からです。住所の表示だけを理由に法人化するなら、この差額がその目的のための費用になります。法人には赤字でも住民税の均等割(年7万円)がかかることも、この差額に含まれています。
表の右端の列は、消費者向けの販売が中心でインボイスに登録していない場合です。売上が1,000万円を超える個人事業主は課税事業者ですが、設立したばかりの法人は要件を満たせば2期まで免税になるため、初年度の差額が大きくプラスになります。この効果は3期目には消えるうえ、インボイスに登録すると使えません。理由はインボイス登録済みなら、法人化しても消費税の2年間免税は受けられないで解説しています。
表の差額は、バーチャルオフィスの利用料を含んでいません。本店をバーチャルオフィスに置くなら、その月額が毎年の固定費として加わります。自分の売上と経費での差額は判定ツールで確かめられ、計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 通信販売の広告には、個人事業主は戸籍上の氏名(または登記した商号)・現に活動している住所・確実につながる電話番号を表示する。屋号だけ、私書箱だけ、番地の省略は認められない
- 請求があれば遅滞なく提供する旨を表示し、実際に応じる体制があれば、氏名・住所・電話番号の表示は省略できる。ただしネットオークションでは「遅滞なく」が困難とされ、返品特約などは省略できない
- 個人事業主でも、運営事業者との合意と連絡体制などQ18の3条件を満たせば、バーチャルオフィスやプラットフォームの住所を表示できる
- 法人化すると表示は会社名・本店などの住所・代表者か通販責任者の氏名になる。本店が自宅なら住所は自宅のままで、登記簿には代表者の住所も載る
- 経費率60%のネットショップでは、インボイス登録済みなら2年目以降の差額がプラスになるのは売上4,000万円の行から。住所を理由にする前に、自分の売上と経費で差額を確かめる
よくある質問
特商法の表示に屋号やショップ名だけを書いてもよいですか
認められません。消費者庁は、個人事業者は戸籍上の氏名または商業登記簿に記載された商号、法人は登記簿上の名称を表示する必要があり、通称・屋号・サイト名のみの表示は認められないとしています。ショップ名は、これらと並べて書く分には差し支えありません。
電話番号に携帯電話を書くと、夜中でも出なければいけませんか
消費者庁のQ&Aは、営業していない夜間などの時間帯に留守番電話を使うことは構わないとしています。ただし、意図的に常に電話を取らない状態にしている場合は、確実に連絡が取れる番号を表示したことにならないとしています。
フリマアプリやネットオークションでも請求時開示で住所を省略できますか
法律上の省略の仕組みは同じですが、消費者庁は、申込みの期間が短く直前に入札が集中しやすいネットオークションでは、意思決定に先立って「遅滞なく」提供することは困難だとしています。省略に頼るより、プラットフォームの住所を使える条件を満たすかを確かめるほうが現実的です。
出典
- e-Gov法令検索 特定商取引に関する法律(第2条・第11条・第12条の6・第13条・第14条・第15条・第70条・第74条)
- e-Gov法令検索 特定商取引に関する法律施行規則(第23条・第25条)
- 消費者庁 特定商取引法ガイド 通信販売
- 消費者庁 特定商取引法ガイド 通信販売広告について(各表示事項の解説)
- 消費者庁 特定商取引法ガイド 通信販売広告Q&A(Q15〜Q20)
- e-Gov法令検索 取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(第5条)
- e-Gov法令検索 取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律施行規則(第4条・第5条)
- e-Gov法令検索 商法(第11条)
- e-Gov法令検索 商業登記法(第10条・第28条)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。