役員報酬
社長への渡切交際費は給与。月5万円で手取りは年32万円減る
結論
交際費等として役員に支給する金品は給与で、業務に使った事績が明らかなものだけが課税されません(所得税基本通達28-4)。毎月定額の渡切交際費は法人では定期同額給与として損金になります(法人税基本通達9-2-11(3))。売上1,200万円・経費200万円・役員報酬月54万円の一人会社で月5万円を渡し切りにすると、実費精算した場合より手取りの合計が年32.2万円減り、そのうち20.7万円は社会保険料の増加です。
- 実費精算なら交際費は法人の経費(資本金1億円以下は年800万円まで損金)で、社長に課税されない。渡切りなら役員報酬と同じ扱い
- 標準報酬月額の事例集(厚労省 令和5年6月27日事務連絡)は、給与規程等に基づき経常的に支払うものを報酬等、実費弁償を報酬等でないものとしている
- 月5万円の渡切りで、社長が使う60万円のうち約半分が所得税・住民税・社会保険料に回る計算
このテーマの全体像 役員報酬の決め方(最適額の計算)
一人社長が取引先との会食やお礼に使うお金を、毎月決まった額で会社から受け取る。精算の手間がないので選ばれがちな「渡切交際費」ですが、税金の上では役員報酬と同じものです。
法人の損金にはなるので、会社の税金は実費精算とほとんど変わりません。違いが出るのは社長個人の側で、所得税・住民税と社会保険料がかかります。
渡し切りは給与、使った事績が明らかなものだけ非課税
所得税基本通達28-4は、使用者から役員に交際費・接待費等として支給される金品を、その役員の給与等としています。例外は、使用者の業務のために使用すべきものとして支給され、そのために使用したことの事績が明らかなものです。
| 支給の形 | 社長個人 | 会社 |
|---|---|---|
| 実費精算(領収書で精算し、余りは返す) | 課税されない | 交際費等として損金(資本金1億円以下は年800万円まで) |
| 毎月定額の渡切り | 給与として課税 | 定期同額給与として損金 |
| 毎月違う額の渡切り | 給与として課税 | 定期同額給与に当たらず、損金にならないおそれ |
法人の側について、法人税基本通達9-2-11は、毎月定額により支給される渡切交際費を「継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」に当たるとしています。つまり定期同額給与として損金になります。
社会保険はどうか。厚生労働省の標準報酬月額の事例集(令和5年6月27日事務連絡)は、給与規程等に基づき使用者が経常的に支払うものを「報酬等」、事業主が負担すべきものを立て替えた実費弁償を「報酬等」でないものとしています。返さなくてよい定額の手当は前者の形なので、ここでは役員報酬に足して社会保険料を計算します。同じ事例集は、在宅勤務手当についても渡し切りなら報酬等に含まれるとしています(役員の在宅勤務手当は定額だと給与。通信費は実費精算)。
月5万円の渡切りで、手取りは年32.2万円減る
当サイトの計算エンジンで、実費精算と渡切りの手取りを比べました。実費精算は交際費を法人の経費に、渡切りは役員報酬への上乗せにしています。どちらも社長は同じ額を交際に使うので、渡切りの手取りからは使った額を差し引きました。
渡切交際費と実費精算の手取りの差(年額)
| 年間売上 | 最適報酬 | 渡切りの額 | 実費精算の手取り合計 | 渡切りの手取り合計(交際に使った額を除く) | 差 | うち社会保険料の増加(労使) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 月54万円 | 月3万円 | 513.9万円 | 495.1万円 | −18.8万円 | 10.3万円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | 月5万円 | 497.2万円 | 461.1万円 | −36.1万円 | 20.7万円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | 月10万円 | 437.2万円 | 367.1万円 | −70.1万円 | 41.4万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | 月3万円 | 639.8万円 | 621.0万円 | −18.8万円 | 10.3万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | 月5万円 | 624.7万円 | 592.4万円 | −32.2万円 | 20.7万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | 月10万円 | 586.9万円 | 524.6万円 | −62.4万円 | 41.4万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | 月3万円 | 1,126.9万円 | 1,111.0万円 | −15.9万円 | 6.0万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | 月5万円 | 1,112.2万円 | 1,088.3万円 | −23.9万円 | 6.0万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | 月10万円 | 1,075.3万円 | 1,027.4万円 | −47.9万円 | 12.1万円 |
経費200万円(交際費を除く)・東京23区・40歳未満・単身・合同会社。最適報酬は渡切りのない場合の額で、実費精算・渡切りとも同じ報酬を前提にした。手取り合計は役員個人の手取りと法人に残る税引後利益(引き出しコストを控除)の合計。交際費は全額損金になる範囲とした。2026年(令和8年)分の税率・保険料率による概算。再計算は
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売上1,200万円・月5万円の渡切りでは、年60万円のうち32.2万円が手取りから消えます。内訳の大きいほうは社会保険料で、20.7万円です。役員報酬が月54万円から59万円になり、標準報酬月額の等級が上がるためです。
売上2,000万円で役員報酬が月90万円の場合は、差が小さくなります。厚生年金の標準報酬月額が上限に達していて、上乗せしても厚生年金保険料が増えないためです。それでも健康保険料と所得税・住民税の増加で、月5万円なら年23.9万円の差が出ます。
渡切りにすると、損金の制限を外れて「給与」になる
渡切りを選ぶと、交際費の損金の枠(年800万円の定額控除)の外で、役員報酬として損金にすることになります。法人の税金だけを見れば、どちらも損金なので差はほとんどありません。
問題は、渡切りの金額を途中で変えたときです。9-2-11(3)が定期同額給与に当たるとしているのは「毎月定額」の渡切交際費です。月によって額を変えると、定期同額給与に当たらず損金にならないおそれがあり、社長には給与として課税されます。役員報酬の改定時期のルールと同じ制約を受けると考えておく必要があります。
役員報酬そのものの決め方は役員報酬の決め方(最適額の計算)で、会社のお金を社長の私的な支出に使ったときの扱いは社長の私的な支出を会社で払うと役員給与になるで扱っています。交際に使うお金は、領収書で精算して余りを返す形にすれば、社長個人には課税されません。
まとめ
- 役員に交際費等として支給する金品は給与。業務に使った事績が明らかなもの(実費精算)だけが課税されない(所基通28-4)
- 毎月定額の渡切交際費は、法人では定期同額給与として損金になる(法基通9-2-11(3))。月ごとに額を変えると損金にならないおそれがある
- 返さなくてよい定額の手当は、標準報酬月額の事例集の考え方では社会保険の報酬等に当たる
- 売上1,200万円・役員報酬月54万円の一人会社で月5万円を渡し切りにすると、実費精算より手取りが年32.2万円減る(うち社会保険料20.7万円)
- 法人の税金はほぼ同じで、差は社長個人の税と社会保険料に出る
よくある質問
渡切交際費を毎月違う額で払ったらどうなりますか?
法人税基本通達9-2-11(3)が定期同額給与に当たるとしているのは「毎月定額により支給される渡切交際費」です。毎月の額が変わる渡し切りの支給は定期同額給与に当たらず、損金にならないおそれがあります。
渡し切りで渡した交際費の領収書を後から集めれば非課税になりますか?
所得税基本通達28-4は、業務のために使用すべきものとして支給され、そのために使用したことの事績が明らかなものを課税しないとしています。使途を精算して残りを返す実費精算の形にすれば課税されませんが、返還の必要がない定額の支給は給与として扱われます。
交際費を実費精算にすると、法人の税金はどうなりますか?
交際費等として法人の損金になります。資本金1億円以下の法人は、年800万円までの定額控除か、接待飲食費の50%かを選んで損金にできます。渡切りにした場合も定期同額給与として損金になるので、法人の税金はほぼ同じで、差が出るのは社長個人の税と社会保険料です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。