役員報酬

役員の子どもの学費を会社が払うと?損金になるが報酬上乗せと同じ

結論

会社が役員の子の授業料を1年分まとめて払っても、国税庁の質疑応答事例はその経済的利益を定期同額給与として損金になるとしています。ただし法人が役員の親族の学資に充てる費用は非課税にならず、社長の給与として課税されます(所得税法9条1項15号ロ)。学費年120万円を会社が負担した場合と、役員報酬を月10万円上げて自分で払った場合は、税・社会保険・手元に残る額がすべて同じでした(社会保険の報酬に含めた場合)。

  • 授業料は在学期間中の教育役務の対価なので、一括で払っても毎月おおむね一定の経済的利益とみなされる(質疑応答事例 法人税 11/20)
  • 会社負担が報酬上乗せより有利になるのは、学費が社会保険の報酬に入らない場合だけで、その差は年23.1万円(売上1,600万円・経費300万円の試算)。社会保険上の扱いは日本年金機構の資料で確認できなかった
  • 個人事業主は子の学費を必要経費にできない(家事費)。法人化しても、学費を税引前のお金で払えるわけではない

法人化を考える人から「子どもの学費を会社の経費にできるか」という質問はよく出ます。答えは、損金にはなるが、社長の給与として課税されるのでほとんど得にならない、です。国税庁の質疑応答事例と所得税法の非課税規定を順に読むと、その理由が分かります。

会社負担の授業料は、定期同額給与として損金になる

国税庁の質疑応答事例(法人税 11/20)は、役員に毎月同額の給与を払うほか、諸手当として役員の子が通う学校の授業料を会社が負担し、1年分をまとめて学校に払うケースです。回答は「定期同額給与に該当する」でした。

理由の筋道は次のとおりです。

  1. 役員に継続的に与える経済的利益のうち、利益の額が毎月おおむね一定のものは定期同額給与として損金になる(法人税法34条1項1号、施行令69条1項2号)
  2. 「毎月おおむね一定」かどうかは役員が受ける利益で判定し、会社の支払形態や購入形態では判定しない(法人税基本通達9-2-11)
  3. 授業料は在学契約に基づく教育役務の対価で、子は在学期間中、毎月継続して教育を受けている。だから一括で払っても、利益の額は毎月おおむね一定になる

ここで見落としやすいのは、この事例が「所得税の課税対象とされる経済的な利益に該当することを前提」にしている点です。損金になるのは、社長の給与として課税されるからです。会社の福利厚生費として非課税で落とせるという話ではありません。

社長の私的な支出とどこが違うか

会社が社長の私的な費用を払うと、原則は役員給与になります。毎月おおむね一定でなければ定期同額給与に当たらず、損金になりません(社長の私的な支出を会社で払うと役員給与になる)。授業料が損金側に入ったのは、教育役務が毎月継続して提供されるという性質があるからです。旅行代や家具の購入のような1回きりの支出に、この事例の考え方は当てはまりません。

学資の非課税は、役員の子には使えない

所得税法には、学資に充てるために給付される金品を非課税とする規定があります(9条1項15号)。会社が従業員に払う学資も、通常の給与に加算して払うものなら非課税になり得ます。

ところが同じ号は、次の場合を非課税から外しています。

  • 法人が、その法人の役員の学資に充てるために給付する場合(イ)
  • 法人が、使用人(役員を含む)の配偶者その他特別の関係がある者の学資に充てるために給付する場合(ロ)

「特別の関係がある者」には使用人の親族が含まれます(所得税法施行令29条1項1号)。社長の子は社長の親族なので、会社が払う授業料は非課税になりません。国税庁No.2588も、法人が役員や使用人と特別の関係がある者の学資に充てるために払う費用を、給与として課税されるものに挙げています。

No.2588には例外が1つあります。特別の関係がある者がその会社の使用人で、学資の支給がその人だけを対象にしたものでない場合は、課税しなくてよい扱いです。在学中の子を実態のない従業員にしても、この例外は使えません。

報酬を月10万円上げた場合と、手取りは同じだった

では、会社が学費を払うのと、役員報酬を上げて自分で払うのとで、何が違うのか。学費を年120万円として、一人会社で4つの払い方を計算しました。

払い方標準報酬月額社会保険料(労使計)所得税・住民税法人税等学費を払った後の個人の現金法人に残る利益合計
A 報酬は月50万円のまま、学費は本人が払う50.0万円182.2万円35.2万円140.2万円354.8万円467.6万円728.9万円
B 報酬を月60万円に上げ、学費は本人が払う59.0万円214.9万円55.5万円108.6万円438.3万円362.7万円728.4万円
C 会社が学費を負担(社会保険の報酬に含める)59.0万円214.9万円55.5万円108.6万円438.3万円362.7万円728.4万円
D 会社が学費を負担(社会保険の報酬に含めない)50.0万円182.2万円58.8万円112.5万円451.2万円375.4万円751.6万円

※ 売上1,600万円(税抜)・経費300万円・東京23区・40〜64歳・配偶者なし・19〜22歳の子(特定扶養親族)1人・合同会社・インボイス登録済み ※ 合計は、個人の現金に、法人に残る利益から引き出すときのコスト(20%)を差し引いた額を足したもの。判定ツールの手取りと同じ考え方 ※ 計算は scripts/yakuin-kodomo-gakuhi-kaisha.mjs による

BとCは、すべての列が一致しました。会社が払う120万円は、社長の給与収入に120万円を足したのと同じ扱いになり、法人の損金も120万円増えます。お金が会社から学校へ直接行くか、社長の口座を経由するかの違いしかありません。

Aとの差も年0.5万円です。学費を会社に払わせても、自分の報酬から払っても、世帯と会社を合わせた手元の額はほとんど変わりません。動いたのは、お金が個人に残るか法人に残るかの配分です。

差が出るのは、社会保険の扱いが分かれる場合だけ

D(会社が負担し、社会保険の報酬に含めない)だけが年23.1万円多くなりました。差の正体は、報酬月額が50万円のまま据え置かれ、学費120万円に社会保険料がかからないことです。そのぶん将来の厚生年金も増えません。

ただし、学費をDのように扱えるかは確認できていません。健康保険法は、労働の対償として受けるすべてのものを、3か月以内ごとに受けるなら報酬、3か月を超える期間ごとに受けるなら賞与と定めています(3条5項・6項)。日本年金機構の海外勤務者向けリーフレットには、給与規定に基づいて払う「教育費」を報酬等に含める例があります。ただしこれは本人に給与として払う手当の例です。会社が学校に年1回まとめて払う授業料を報酬・賞与のどちらと見るか、あるいは対象外とするかは、公表資料には示されていません。法人税で「毎月の経済的利益」と見ることと、社会保険で報酬・賞与のどちらに区分するかは、別の法律の別の判断です。会社負担を始める前に、管轄の年金事務所に扱いを確認する必要があります。

個人事業主は、そもそも経費にできない

個人事業主の子の学費は、家事上の費用(家事費)なので必要経費になりません。同じ条件で個人事業主のまま計算すると、手取り841.7万円から学費120万円を払い、残りは721.7万円です。

立場学費の扱い学費を払った後に残る額
個人事業主家事費(必要経費にならない)721.7万円
一人会社・会社負担(C)定期同額給与として損金、社長の給与として課税728.4万円

一人会社のほうが6.7万円多く見えますが、これは学費の扱いではなく、この所得水準での法人化そのものの差です。表Aの728.9万円と比べれば分かるとおり、学費を会社に払わせたことによる上積みはありません。法人化の損得は役員報酬の決め方(最適額の計算)と判定ツールで、学費とは切り離して確かめてください。

会社負担にするなら、定期同額の枠の中で動かす

会社が学費を負担すること自体は、税務上は役員報酬の一部を学校へ直接払うのと同じです。そのため役員報酬と同じ制約を受けます。

  • 質疑応答事例は、毎月同額の報酬に加えて諸手当として授業料を負担する前提です。期の途中から負担を始めたり、年によって額が大きく変わったりする場合の扱いは、この事例では示されていません
  • 源泉徴収票の支払金額にも、学費の額を含めます(No.2588は源泉所得税のタックスアンサー)
  • 額面と手取りの関係は、通常の役員報酬と同じです。社会保険料が変わった月の扱いは定期同額給与は「手取り同額」でもよいで整理しています

まとめ

  • 会社が役員の子の授業料を一括で払っても、経済的利益は毎月おおむね一定とされ、定期同額給与として損金になる(質疑応答事例 法人税 11/20)
  • 法人が役員の親族の学資に充てる費用は非課税にならず、社長の給与として課税される(所得税法9条1項15号ロ、No.2588)
  • 学費年120万円を会社が負担しても、報酬を月10万円上げて自分で払っても、税・社会保険・手元の額は同じだった(社会保険の報酬に含めた場合)
  • 差が出るのは社会保険の扱いが分かれる場合だけで、その扱いは公表資料で確認できない。年金事務所への確認が先
  • 個人事業主は子の学費を必要経費にできない。法人化しても、学費を税引前のお金で払えるようにはならない

よくある質問

子どもを会社の従業員にすれば、学費を非課税で会社が払えますか。

国税庁No.2588は、役員や使用人の親族がその会社の使用人で、支給がその親族だけを対象にしたものでない場合に限り、非課税の扱いを認めています。在学中の子が実態のある従業員として働き、他の従業員にも同じ制度があることが前提です。

学費を会社が払った場合、源泉徴収は必要ですか。

国税庁No.2588は、役員の親族の学資に充てる費用を給与として課税されるものに挙げています。源泉所得税の上でも社長への給与として扱い、源泉徴収票の支払金額に含めることになります。

社会保険料はかかりますか。

健康保険法は、労働の対償として受けるものを支給周期で報酬(3か月以内ごと)と賞与(3か月超ごと)に分けています。会社が負担した学費をどちらとして扱うかは日本年金機構の資料に示されていないため、年金事務所に確認が必要です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。