社会保険

財政検証で年金は目減りする?法人化で増える厚生年金はほぼ削られない

結論

令和6年財政検証では、所得代替率の目減りの大半は基礎年金側で起きます。過去30年投影ケースでは基礎年金部分が36.2%から25.5%へ約3割下がる一方、報酬比例部分は25.0%から24.9%でほぼ変わりません。法人化で増えるのは報酬比例部分なので、上乗せ分は将来の調整の影響をほとんど受けない見通しです。

  • 2024年度の所得代替率は61.2%(基礎36.2%・比例25.0%)。厚労省の令和6年財政検証結果の概要より
  • 調整後の報酬比例部分は、成長型経済移行・継続ケースで25.0%(調整なし)、過去30年投影ケースで24.9%(2026年度に調整終了)
  • 事業所得800万円・東京23区・40歳未満・独身では、最適報酬月54万円で単年の手取りは個人より4.1万円少ない(概算)

この記事は、令和6年(2024年)7月に厚生労働省が公表した財政検証の結果だけを使っています。その後の制度改正の議論や改正案は含めていません。

法人化の判断で「年金が増える」と言われても、「どうせ将来は削られる」と割り引いて考える人は多いはずです。財政検証の数字を基礎年金と報酬比例部分に分けて読むと、その割引をどこに掛けるべきかが見えてきます。

所得代替率は「2階建ての合計」で示されている

財政検証は、少なくとも5年ごとに年金財政の見通しを作り直す仕組みです。その中心の指標が所得代替率です。

厚労省の概要資料では、次の式で定義されています。

所得代替率 =(夫婦2人の基礎年金 + 夫の厚生年金)÷ 現役男子の平均手取り収入額

2024年度の値は**61.2%**です。内訳は、夫婦2人の基礎年金が月13.4万円、夫の厚生年金が月9.2万円、現役男子の平均手取りが月37.0万円です。

この61.2%は、さらに次の2つに分けて示されています。

部分2024年度の所得代替率法人化との関係
基礎年金(1階)36.2%個人事業主でも法人の役員でも同じように受け取る
報酬比例部分(2階)25.0%法人化して厚生年金に入ると上乗せされる

報道で目にする「所得代替率が50%台に下がる」という話は、この合計の話です。どちらの階がどれだけ下がるのかは、合計だけ見ていても分かりません。

目減りの大半は基礎年金で起きる

将来の給付水準は、マクロ経済スライドという仕組みで自動的に調整されます。財政検証では、経済前提の異なる4つのケースで、調整がいつ終わり、最終的な所得代替率がどこに落ち着くかを試算しています。

令和6年財政検証の概要資料から、階ごとに分けて並べると次のとおりです(人口は中位推計)。

ケース合計基礎年金報酬比例部分
2024年度(足下)61.2%36.2%25.0%
高成長実現56.9%(2039年度)31.9%(2039年度)25.0%(調整なし)
成長型経済移行・継続57.6%(2037年度)32.6%(2037年度)25.0%(調整なし)
過去30年投影50.4%(2057年度)25.5%(2057年度)24.9%(2026年度)

※ カッコ内は給付水準の調整が終わる年度。

2024年度からの下がり幅を、それぞれの階の比率で計算し直すと差がはっきりします。

ケース基礎年金の目減り報酬比例部分の目減り
高成長実現−11.9%0%
成長型経済移行・継続−9.9%0%
過去30年投影−29.6%−0.4%

過去30年投影ケースでは、基礎年金の水準が約3割下がる一方、報酬比例部分はほとんど動きません。報酬比例部分の調整は2026年度で終わる見通しです。

1階と2階で調整の終わる年度は別々

概要資料は、基礎年金と報酬比例部分の調整終了年度を別々に示しています。現行制度では、マクロ経済スライドの調整期間が1階と2階で一致しない仕組みだからです。

財政検証と同時に公表されたオプション試算に「基礎年金(1階)と報酬比例部分(2階)の調整期間を一致させた場合」が入っているのは、このずれが論点になっているためです。ただしこれは試算であり、現行制度の見通しではありません。本記事の表はすべて現行制度の見通しです。

1人当たりゼロ成長ケースは別枠で読む

4つ目の1人当たりゼロ成長ケースは、機械的に調整を続けると国民年金の積立金が2059年度になくなり、その後の所得代替率は37〜33%程度と示されています。この場合の基礎年金・報酬比例部分の内訳は概要資料に示されていないため、上の表には入れていません。

法人化で増える年金は、どのくらい割り引けばよいか

法人化しても老齢基礎年金の額は変わりません。個人事業主の第1号被保険者期間も、役員としての第2号被保険者期間も、同じように基礎年金に反映されるからです。法人化で増えるのは報酬比例部分だけです。

ここに財政検証の結果を重ねると、次のように整理できます。

  • 基礎年金の目減りは、法人化してもしなくても同じように受ける。法人化の判断材料にはならない
  • 報酬比例部分の目減りは、公表済みの見通しではほぼゼロ〜0.4%程度。法人化による上乗せ分を大きく割り引く根拠は、財政検証の数字からは出てこない

法人化で厚生年金はいくら増えるかでは、役員報酬月54万円で20年加入すると報酬比例部分が年69.7万円上乗せされると計算しました。過去30年投影ケースの0.4%の目減りを当てはめても、賃金に対する比率で見た価値はほぼ同じ水準にとどまります。

「年金はどうせ削られる」という感覚は、主に基礎年金の見通しから来ています。基礎年金しか持たない個人事業主こそ、その目減りの影響をまともに受ける立場です。

所得代替率を読むときの3つの注意

実額ではなく「現役の手取りに対する比率」

所得代替率が下がっても、年金の実額が減るとは限りません。賃金が伸びるケースでは、比率が下がりながら実額は増えることがあります。逆に、賃金が伸びないケースでは比率の低下がそのまま生活水準の低下になります。

受給開始後は比率が下がっていく

財政検証の所得代替率は、新たに受け取り始める人(新規裁定者)の年金で計算されています。受け取り始めた後の年金は物価で改定されるため、物価上昇率が名目賃金上昇率を下回る状況では、現役の所得に対する比率は徐々に下がります。この点は報酬比例部分にも当てはまります。

夫婦世帯の比率である

所得代替率の分子は「夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金」で、特定の世帯像を置いた比率です。一人社長が何年加入するか、役員報酬をいくらにするかで、あなたの報酬比例部分の額は大きく変わります。比率の見通しは、目減りの方向と大きさを知るために使うのが適切です。

単年の手取りの差と並べてみる

財政検証で将来価値の目減りが小さいと分かっても、法人化で毎年の手取りが減るなら、その差と比べる必要があります。

計算エンジンで、売上1,000万円・経費200万円(事業所得800万円)の場合を出すと次のとおりです。

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月40万円529.5万円378.8万円150.7万円139.6万円
月50万円533.9万円468.6万円65.3万円170.3万円
月54万円 ←最適536.6万円504.8万円31.8万円180.5万円
月60万円517.8万円547.8万円-30.0万円200.9万円

個人事業主のままの手取りは540.7万円です。最適な役員報酬(月54万円)でも、法人化した場合の手取り合計は4.1万円少なくなります。

※ 経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額 ※ 税理士報酬・設立費用は含めていません

この4.1万円の差の中には、厚生年金の保険料(労使計)が含まれています。その見返りとして積み上がる報酬比例部分が、財政検証の見通しではほとんど削られない、というのが本記事の整理です。

ただし手取りの差は売上・経費・家族構成で大きく変わり、税理士報酬などの固定費も乗ります。自分の売上と経費を判定ツールに入れて、単年の差を確かめてから将来の年金と比べてください。

まとめ

  • 所得代替率61.2%(2024年度)は、基礎年金36.2%と報酬比例部分25.0%の合計
  • 令和6年財政検証の見通しでは、目減りの大半は基礎年金で起き、過去30年投影ケースでは約3割下がる
  • 法人化で増える報酬比例部分は、同ケースでも25.0%から24.9%で、調整は2026年度に終わる見通し
  • 基礎年金の目減りは法人化の有無にかかわらず受けるため、判断材料になるのは報酬比例部分の上乗せと単年の手取りの差
  • 所得代替率は現役の手取りに対する比率で、モデル世帯の数字。自分の加入年数・報酬で額は変わる

よくある質問

財政検証の所得代替率50%は、年金が半分になるという意味ですか?

違います。所得代替率は、夫婦2人の基礎年金と夫の厚生年金の合計を、そのときの現役男子の平均手取り収入で割った比率です。賃金が伸びれば、比率が下がっても年金の実額は増えることがあります。

個人事業主のままなら、財政検証の影響は小さいのですか?

逆です。個人事業主が受け取る公的年金は基礎年金だけで、財政検証で大きく目減りが見込まれているのはその基礎年金のほうです。法人化してもしなくても、基礎年金の目減りは同じように受けます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。