役員報酬

弁護士費用は経費になる?個人事業主と法人・役員の線引き

結論

業務の遂行上生じた紛争の弁護士費用は、個人事業主なら必要経費、法人なら損金になります。離婚・相続・私用の交通事故など私的な紛争は経費になりません。役員の私的紛争の費用を会社が払うと役員給与とされ得て、事業所得1,000万円の例では50万円の負担が65万7,800円に増えます。

  • 個人事業主の民事事件の弁護士費用は、業務の遂行上生じた紛争なら原則として支出した年の必要経費(所得税基本通達37-25)
  • 業務に関連する刑事事件の弁護士費用は、無罪・不処分などになった場合に限り必要経費(同37-26)
  • 弁護士報酬の源泉徴収は100万円以下10.21%・超える部分20.42%。給与を払っていない個人事業主は源泉徴収不要(国税庁No.2502)

弁護士費用は、何のための紛争かで扱いが決まります。金額や支払った名義ではありません。見るべきは、紛争が業務から生じたものかどうかです。

この記事では、個人事業主と法人(一人社長)の2つの立場について、経費になる線と、外したときにいくら重くなるかを数字で示します。あわせて、支払時の源泉徴収が要るかも整理します。

個人事業主:民事は「業務の遂行上生じた紛争」なら必要経費

個人事業主の弁護士費用は、所得税基本通達37-25で整理されています。業務の遂行上生じた紛争、または業務用資産について生じた紛争を解決するための弁護士報酬などは、支出した年の必要経費に算入するのが原則です。

経費になりやすい典型例は次のとおりです。

  • 取引先への売掛金・報酬の未払いの回収
  • 業務委託契約・請負契約の内容をめぐる争い
  • 事業用の店舗・事務所の賃貸借をめぐる争い
  • 納品物の不具合を理由とした損害賠償請求への対応

一方、同じ通達は例外も挙げています。業務に関する紛争でも、次の費用は必要経費にはなりません。

例外扱い
紛争中の資産を買い、紛争を解決して所有権を完全にした費用資産の取得費に含める
業務用に使うため、借家人を立ち退かせた資産の購入に伴う費用資産の取得費に含める
譲渡所得の対象になる資産の譲渡をめぐる紛争譲渡所得の計算で扱う
所得税・住民税など、もともと必要経費にならない税金をめぐる紛争必要経費にならない
故意・重過失による損害賠償金をめぐる紛争必要経費にならない

最後の行は所得税法45条1項8号につながります。故意または重大な過失で他人の権利を侵害した損害賠償金は、必要経費になりません。所得税基本通達45-8は、無免許運転や酒酔い運転などで他人の権利を侵害した場合を、重大な過失の典型として挙げています。賠償金が経費にならない紛争は、その弁護士費用も経費になりません。

私的な紛争は、帳簿に載せても経費にならない

離婚、相続、近所とのトラブル、私用で運転中の交通事故は、業務の遂行上生じた紛争ではありません。個人事業主は事業と生活の財布が同じなので、事業用口座から払ってしまうことがありますが、支払った口座で扱いは変わりません。

迷いやすいのは、業務にも私生活にも関わる紛争です。たとえば自宅兼事務所の賃貸トラブルは、業務用資産の部分だけが通達の対象になると読めます。按分の考え方は家事関連費と同じで、業務に必要な部分を明らかに区分できるかが問われます。家事関連費の判定はスーツ代は経費になる?で詳しく扱っています。

刑事事件は「無罪・不処分」の場合に限り必要経費

業務に関連する行為で刑罰法令違反の疑いを受けた場合の弁護士費用は、所得税基本通達37-26で別に定められています。必要経費になるのは、次のいずれかの場合に限られます。

  • 違反がないものとされた
  • 違反に対する処分を受けないこととなった
  • 無罪の判決が確定した

つまり有罪になった場合は、業務に関連する事件でも弁護士費用は必要経費になりません。算入する年は、無罪などが確定した年と、費用の支払が確定した年のどちらかを選べます。

法人:業務関連なら損金、役員の私的紛争なら役員給与

法人が支払う弁護士費用も、業務に関連する紛争なら損金になります。取引先との契約紛争、債権回収、従業員との労働紛争などが典型です。

問題は、会社のお金で役員個人の紛争の弁護士費用を払った場合です。会社が役員個人の支出を肩代わりすると、役員への経済的利益として扱われます。

損害賠償と弁護士費用の線は、通達が明示している

役員の行為が原因の損害賠償金を会社が負担したときの扱いは、所得税と法人税の両方の通達に書かれています。所得税基本通達36-33は、損害賠償金等に「これらに関連する弁護士の報酬等の費用」を含めたうえで、次のように分けています。

原因となった行為役員個人(所得税)会社(法人税)
業務の遂行に関連し、故意・重過失がない経済的利益はない給与以外の損金(法基通9-7-16(1))
業務に関連するが故意・重過失がある給与等役員への債権(法基通9-7-16(2))
業務に関連しない給与等役員への債権(法基通9-7-16(2))

会社が債権として計上し、役員の支払能力からみて求償できない部分は貸倒れとして損金にできます(法基通9-7-17)。ただし、回収が確実と認められる部分を貸倒れにすると、その部分は役員給与とされます。

離婚や相続の弁護士費用は、そもそも損害賠償ではありませんが、業務と関係のない役員個人の支出です。会社が払えば、役員への経済的利益として給与課税の対象になり得ます。

給与とされると、損金にもならない

役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに当たらなければ損金になりません。国税庁No.5202は、役員への経済的利益のうち毎月おおむね一定のものは定期同額給与として扱うとしています。弁護士費用は単発の支出なので、これに当たりません。

その結果、役員個人に所得税・住民税がかかり、会社の損金にもならないという二重の負担が起きます。

役員給与と認定されたら、いくら重くなるか

事業所得1,000万円の一人社長が、会社のお金で弁護士費用を払った場合を計算エンジンで出しました。役員報酬は総当たりで手取りが最大になる月54万円です。

支出額扱い法人税等の減少役員の所得税・住民税の増加正味負担
30万円業務関連・損金算入64,300円0円235,700円
30万円給与認定・損金不算入0円103,100円403,100円
50万円業務関連・損金算入107,100円0円392,900円
50万円給与認定・損金不算入0円157,800円657,800円
100万円業務関連・損金算入213,900円0円786,100円
100万円給与認定・損金不算入0円294,700円1,294,700円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 給与認定分は一時の経済的利益として、社会保険の標準報酬月額は元の等級に据え置いて計算 ※ 計算根拠はscripts/bengoshi-hiyo-keihi.mjs

業務に関連する紛争なら、50万円の弁護士費用は法人税等が10万7,100円減り、正味の負担は39万2,900円です。私的な紛争の費用を会社が払って給与と認定されると、50万円の支出が65万7,800円の負担になります。社長が自分の財布から払う場合より15万7,800円重い計算です。

私的な紛争の費用は、会社に払わせても得にはなりません。役員報酬から受け取った手取りで、個人として払うのが筋の通る形です。同じ構造は一人社長のジム会費や社用車の交通反則金でも起きます。

個人事業主が必要経費にできた場合の取戻し額

個人事業主が弁護士費用を必要経費にできた場合、手取りがいくら戻るかも出しました。私的な紛争と判断されて経費から外れれば、この額がそのまま失われます。

事業所得(青色控除前)弁護士費用経費にできた場合の取戻し額実質負担
400万円50万円145,500円354,500円
600万円50万円265,000円235,000円
800万円50万円213,900円286,100円
1,000万円50万円198,090円301,910円
600万円100万円433,200円566,800円
1,000万円100万円408,648円591,352円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax・65万円控除)・インボイス登録済み/2026年(令和8年)分基準 ※ 取戻し額には所得税・住民税・国民健康保険料・個人事業税の減少に加え、消費税の仕入税額控除の増加分を含む

50万円の弁護士費用で戻るのは、所得によって14万円台から26万円台まで幅があります。所得税の税率区分や基礎控除の段差をまたぐかどうかで戻り方が変わるためです。所得1,000万円で戻りが小さくなるのは、国民健康保険料が賦課限度額に近く、経費を増やしても保険料が下がりにくいからです。

支払うとき:源泉徴収が要るかは「給与を払っているか」で決まる

弁護士への報酬は、源泉徴収の対象です。国税庁No.2798によれば、2026年(令和8年)分の税率は次のとおりです。

1回の支払額源泉徴収する額
100万円以下支払額×10.21%
100万円超(支払額−100万円)×20.42%+102,100円

たとえば150万円の報酬なら、源泉徴収額は204,200円です。請求書で報酬と消費税額が明確に区分されていれば、報酬部分だけを対象にできます(国税庁No.2792)。

ただし、源泉徴収をしなければならないのは源泉徴収義務者だけです。国税庁No.2502は、給与について源泉徴収義務を負う個人以外の個人が支払う弁護士報酬は、源泉徴収をする必要がないとしています。

支払う人弁護士報酬の源泉徴収
法人(一人社長の会社を含む)必要
従業員・青色事業専従者に給与を払う個人事業主必要
給与を払っていない個人事業主不要
常時2人以下の家事使用人だけに給与を払う個人不要

法人は役員報酬を払う時点で源泉徴収義務者です。一人社長の会社でも、弁護士に報酬を払えば源泉徴収と、原則として支払った月の翌月10日までの納付が必要になります。法人化すると支払う側の事務も増える点は、法人成りで源泉徴収10.21%が消えるの逆側の話として押さえておくとよいでしょう。

立場別の整理

個人事業主法人・一人社長
根拠所法37・45、所基通37-25・37-26・45-7法基通9-7-16・9-7-17、所基通36-33、No.5202
経費になる線業務の遂行上生じた紛争(刑事は無罪等に限る)業務に関連し、故意・重過失がない
私的な紛争必要経費にならない役員給与とされ得て、損金不算入
源泉徴収給与を払っていれば必要必要

法人化すれば弁護士費用も会社の経費にできる、という理解は私的な紛争には当てはまりません。法人化で変わるのは、判定の条文と、外したときの損の大きさです。法人化そのものの損得は、一般論の数字ではなく自分の売上と経費で、判定ツールで確かめてください。

まとめ

  • 業務の遂行上生じた紛争の弁護士費用は、個人事業主は必要経費、法人は損金になる
  • 離婚・相続・私用の交通事故などの私的な紛争は、どちらの立場でも経費にならない
  • 業務に関連する刑事事件の弁護士費用は、無罪・不処分などの場合に限り必要経費になる
  • 役員の私的紛争の費用を会社が払うと役員給与とされ得て、事業所得1,000万円の例では50万円の負担が65万7,800円になる
  • 弁護士報酬の源泉徴収は法人と給与を払う個人事業主に必要で、給与を払っていない個人事業主は不要

よくある質問

取引先への未払い代金の回収を弁護士に頼んだ費用は経費になりますか?

売掛金の回収は業務の遂行上生じた紛争に当たるため、所得税基本通達37-25により、支出した年の必要経費に算入するのが原則です。法人の場合も業務に関連する費用として損金になります。

離婚や相続の弁護士費用は、事業の帳簿で経費にできますか?

離婚・相続は業務と関係のない私的な紛争なので、個人事業主の必要経費にはなりません。法人が負担した場合も、役員個人の費用を会社が肩代わりしたものとして役員給与とされる可能性があります。

個人事業主が弁護士に報酬を払うとき、源泉徴収は必要ですか?

従業員や専従者に給与を払っている個人事業主は源泉徴収義務者なので、10.21%(100万円を超える部分は20.42%)の源泉徴収が必要です。給与を払っていない個人事業主は、国税庁No.2502により源泉徴収をする必要はありません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。