設立の手続き
不動産鑑定業者の登録は法人成りで取り直し。専任の鑑定士と登録免許税
結論
不動産の鑑定評価に関する法律には不動産鑑定業者の登録を承継する規定がなく、法人成りでは会社が新たに登録を受けます(有効期間5年)。会社は不動産鑑定士ではないので、事務所ごとに専任の不動産鑑定士を1人以上置きます(35条1項)。社長本人を専任にすれば人を増やす必要はありません。取り直しの費用は、1都道府県だけの知事登録なら手数料(標準額1万5,600円)、2都道府県以上の大臣登録なら会社は登録免許税9万円で、個人の鑑定士が払う手数料6万2,800円とは別の扱いです。
- 無登録で不動産鑑定業を営むと1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、または併科(55条2号)。両罰規定で会社にも罰金
- 個人の登録は、不動産鑑定業を廃止した日から30日以内に廃業を届け出て消除される(29条1号・30条1号)
- 東京23区・40〜59歳・不動産鑑定業(第3種5%)の試算では、損益分岐は2年目以降1,243万円、知事登録の手数料を含む初年度1,356万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
不動産鑑定士が個人で鑑定事務所を営む場合、持っている登録は2つあります。資格者としての不動産鑑定士の登録と、事業者としての不動産鑑定業者の登録です。法人成りで取り直しになるのは、このうち業者の登録です。
この記事では、承継の規定がない条文の構造、会社で専任の鑑定士をどう置くか、知事登録と大臣登録で取り直し費用がどう違うかを確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
資格の登録と業者の登録は別物
不動産の鑑定評価に関する法律は、2つの登録を別々の章で定めています。
| 登録 | 条文 | 誰の登録か | 法人成りでの扱い |
|---|---|---|---|
| 不動産鑑定士の登録 | 15条 | 資格者本人 | そのまま。会社に移す手続きはない |
| 不動産鑑定業者の登録 | 22条 | 鑑定業を営む者(個人・法人) | 会社が新たに受ける |
不動産鑑定業を営もうとする者は、2以上の都道府県に事務所を設けるなら国土交通大臣、それ以外なら事務所の所在地の都道府県知事の登録を受けなければなりません(22条1項)。登録の有効期間は5年です(同条2項)。登録を受けないで不動産鑑定業を営むと、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方の対象で(33条・55条2号)、両罰規定により会社にも罰金刑が科されます(58条)。
なお、この法律には税理士法人や弁護士法人のような士業法人の制度がありません。会社で鑑定業を営むなら、株式会社や合同会社として業者の登録を受けます。士業ごとの法人化の違いは士業の一人法人で整理しました。
承継の規定はなく、個人の登録は廃業届で消える
業者登録の節(22条〜34条)には、相続や事業譲渡で登録を引き継ぐ条文がありません。29条は、次の場合に30日以内の届出を求めています。
- 不動産鑑定業を廃止したとき(個人ならその個人)
- 死亡したとき(相続人)
- 法人が破産・合併・その他の理由で解散したとき(破産管財人・代表役員・清算人)
届出があると、登録は消除されます(30条1号)。死亡の場合でさえ相続人が届け出て登録が消えるだけで、相続人が地位を引き継ぐ仕組みはありません。法人成りは個人が不動産鑑定業を廃止する場合に当たり、会社は新規の登録を受けます。
会社の申請では役員全員が審査される
会社の登録申請書には、役員全員の氏名と、事務所ごとの専任の不動産鑑定士の氏名を書きます(23条1項)。役員のうちに、拘禁刑以上の刑の執行後3年を経過しない者、この法律違反などの罰金刑から3年を経過しない者、登録消除から3年を経過しない者などがいると、会社の登録は拒否されます(25条7号)。家族を取締役に入れる場合は、その人も審査の対象です。
会社では、社長を「専任の不動産鑑定士」として置く
個人の鑑定士が自分で業者登録を受けていたときは、申請書に「不動産鑑定士である登録申請者が自ら実地に不動産の鑑定評価を行う事務所」である旨を書いていたはずです(23条1項4号)。この場合、別に専任の鑑定士を置く必要はありませんでした。
会社は不動産鑑定士ではありません。35条1項は、不動産鑑定士でない不動産鑑定業者は、事務所ごとに専任の不動産鑑定士を1人以上置かなければならないと定めています。会社の登録では、社長本人を専任の不動産鑑定士として届けることになります。
社長が専任になれば、新たに鑑定士を雇う必要はありません。ただし専任の鑑定士が欠けた事務所が出たら、2週間以内に補う必要があります(35条2項)。鑑定評価そのものは、会社になっても不動産鑑定士しか行えません(36条1項)。
取り直し費用は、知事登録か大臣登録かで変わる
32条は、登録の費用を申請者が鑑定士かどうかで分けています。ここが個人と会社で扱いが変わる点です。
| 登録の種類 | 個人の鑑定士が受ける場合 | 会社が受ける場合 |
|---|---|---|
| 知事登録(1都道府県) | 都道府県の手数料(標準額15,600円) | 都道府県の手数料(標準額15,600円) |
| 大臣登録(2都道府県以上) | 登録申請手数料62,800円(電子申請62,100円) | 登録免許税9万円 |
大臣登録では、不動産鑑定士以外の者(会社を含む)は登録免許税を納め(32条1項、登録免許税法別表第一146号)、鑑定士本人は政令で定める手数料を納めます(32条2項、施行令)。個人で大臣登録を受けていた鑑定士が法人成りすると、取り直し費用は手数料ではなく登録免許税の9万円になります。知事登録の手数料は条例で決まり、国の標準額は15,600円です(地方公共団体の手数料の標準に関する政令)。
個人事業税と損益分岐
不動産鑑定業は個人事業税の第3種事業(税率5%)です(地方税法72条の2第10項16号の2)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。
事務所費・資料代・交通費などの経費を年300万円と置き、1都道府県の知事登録(手数料15,600円)を前提に、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用・登録手数料込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −45.6万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −30.5万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −21.5万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −15.9万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +14.6万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +54.2万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 300 --business type3_standard --age 40to64 --fee 15600 --note '不動産鑑定業(第3種・5%)' で再生成)で算出。経費300万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は不動産鑑定業(第3種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用15,600円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、登録の種類で次のようになります。
| 会社の登録 | 2年目以降 | 初年度 |
|---|---|---|
| 知事登録(手数料15,600円) | 1,243万円 | 1,356万円 |
| 大臣登録(登録免許税9万円) | 1,243万円 | 1,430万円 |
※ 大臣登録は上と同じスクリプトで --fee 90000 に変えて算出
複数の都道府県に事務所を持つ鑑定事務所ほど、初年度の分岐点が高くなります。事務所を1つに集約してから法人成りし、会社の事業が軌道に乗ってから2つ目を出す(そのときは登録換え。26条)という順番も、費用の面では考えられます。
ただし2つ目の事務所を出すときの登録換え(知事登録→大臣登録)にも、登録免許税9万円がかかります(別表第一146号)。費用を先送りできるだけで、なくなるわけではありません。自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめてください。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。許認可ごとの承継の有無は法人成りで許認可は引き継げるかで整理しました。
まとめ
- 不動産鑑定士の登録(資格)と不動産鑑定業者の登録(事業)は別。法人成りで取り直すのは業者の登録だけ
- 業者の登録には承継の規定がなく、個人は30日以内に廃業届、会社は新規登録(有効期間5年)
- 会社は鑑定士ではないので、事務所ごとに専任の不動産鑑定士を置く。社長本人を専任にすれば足りる
- 取り直し費用は、知事登録なら都道府県の手数料(標準15,600円)、大臣登録なら会社は登録免許税9万円
- 東京23区・40〜59歳の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は知事登録1,356万円・大臣登録1,430万円
よくある質問
不動産鑑定士の資格の登録も会社に移すのですか。
移しません。不動産鑑定士の登録(15条)は資格者本人の登録で、不動産鑑定業者の登録(22条)とは別の制度です。法人成りで取り直すのは業者の登録だけで、社長は自分の鑑定士の登録のまま会社の専任の鑑定士になります。
会社の鑑定評価書には誰が署名しますか。
不動産鑑定業者の業務に関し鑑定評価を行えるのは不動産鑑定士だけです(36条1項)。会社が業者になっても、鑑定評価を行うのは社長などの不動産鑑定士です。
税理士法人のような「鑑定士法人」はありますか。
不動産の鑑定評価に関する法律には、士業法人の制度がありません。会社で鑑定業を営むなら、株式会社や合同会社として不動産鑑定業者の登録を受けることになります。
出典
- e-Gov法令検索 不動産の鑑定評価に関する法律 第22条(不動産鑑定業者の登録)・第23条(登録の申請)・第25条(登録の拒否)・第26条(登録換え)・第27条(変更の登録)・第29条(廃業等の届出)・第30条(登録の消除)・第32条(登録免許税及び登録申請手数料)・第33条(無登録業務の禁止)・第35条(不動産鑑定士の設置)・第36条・第55条・第58条(罰則)
- e-Gov法令検索 不動産の鑑定評価に関する法律施行令(登録申請手数料)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一 第146号(不動産鑑定業者の登録)
- e-Gov法令検索 地方公共団体の手数料の標準に関する政令 本則の表 75項(不動産鑑定業者の登録に関する事務)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第10項(第三種事業:不動産鑑定業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。