社会保険

一人社長が仕事中にけがをしたら健康保険は使える?5人未満の例外

結論

健康保険法53条の2により、法人の役員の業務に起因するけがや病気には健康保険の給付が出ません。例外は被保険者5人未満の会社で、従業員が従事する業務と同一と認められる業務中のけがで、この場合は傷病手当金も含めて給付されます。国保は労災を受けられない限り業務上でも使えるので、個人事業主のままなら仕事中のけがも国保で受診できます。例外に当たらないと、総医療費100万円の月は全額が自己負担になります。

  • 被保険者5人未満の会社の社長が従業員と同じ作業中にけがをした場合、総医療費100万円の月の自己負担は区分イ(標準報酬53万〜79万円)で183,130円
  • 例外に当たらない業務(役員としての経営判断・営業の場など)や被保険者5人以上の会社では、健康保険は使えない。労災の特別加入をしていなければ100万円全額が自己負担
  • 5人未満の例外に当たれば、業務上のけがでも傷病手当金が出る。役員報酬月54万円(標準報酬53万円)なら日額11,780円

個人事業主のときは、仕事中にけがをしても国民健康保険の保険証で受診できました。法人化して協会けんぽに入ると、同じけがでも健康保険が使えないことがあります。役員の業務上のけがは、健康保険の給付の外に置かれているためです。

例外の線は「被保険者5人未満」と「従業員と同じ業務」の2つです。一人社長の会社の多くは前者に当たりますが、後者で判断が分かれます。

健康保険は、役員の業務上のけがに給付しない

健康保険法1条は、目的を「労働者又はその被扶養者の業務災害以外」の病気・けが等への給付としています。平成25年10月の改正で、労災保険から給付が出ない場合は原則として健康保険で受けられるように整理されました。副業の請負仕事でけがをした会社員などが、どちらからも給付を受けられない状態をなくすためです。

ただし法人の役員だけは別扱いです。健康保険法53条の2は、被保険者や被扶養者が法人の役員であるとき、その法人の役員としての業務に起因する病気・けが・死亡には保険給付を行わないと定めています。

厚生労働省のQ&A(平成25年8月14日事務連絡)は理由を、役員の業務上のけがは使用者側の責めに帰すべきもので、労使折半の健康保険から給付するのは適当でないと説明しています。「役員としての業務」は法人のために行う業務全般を指し、範囲を限定して解釈しないとしています。

例外は「5人未満」かつ「従業員と同じ業務」

53条の2には括弧書きの例外があります。被保険者の数が5人未満の適用事業所に使用される役員の業務のうち、厚生労働省令で定めるものは除かれ、健康保険の給付対象に戻ります。

省令(健康保険法施行規則52条の2)が定めるのは、その法人の従業員が従事する業務と同一であると認められるものです。協会けんぽも、被保険者5人未満の事業所の役員が、一般の従業員と同一の業務を行っていた場合に給付するとしています。

状況健康保険の療養傷病手当金
業務外のけが・病気給付される給付される
被保険者5人未満の会社で、従業員と同一の業務中のけが給付される給付される
被保険者5人未満の会社で、役員固有の業務中のけが給付されない給付されない
被保険者5人以上の会社で、業務中のけが給付されない給付されない

平成25年の改正前は、5人未満の会社の代表者のけがは療養だけが対象で、傷病手当金は出ませんでした。改正後は傷病手当金も対象になっています(Q&Aの質問4)。

一人社長の会社で「従業員と同一の業務」をどう見るか

従業員がいない会社では、比べる相手の従業員がいません。判断は協会けんぽの支部が、けがをしたときの作業の中身を見て行います。制作・施工・配送といった、その会社で人を雇えば従業員が担う作業中のけがなのか、取引先との交渉や経営上の判断のような役員としての職務の中なのか、という線引きです。

けがで受診すると、協会けんぽから負傷原因の照会が届くことがあります。役員の業務上のけがでは、負傷原因届に法人の役員であることと業務の内容を書いて出します。給付を受けた後に例外に当たらないと判断されれば、協会けんぽが負担した医療費の返還を求められることがあります。

国保は、業務上でも受診できる

国民健康保険には53条の2に当たる規定がありません。国保法56条が給付をしないとしているのは、労災保険の療養補償給付などを受けられるときです。個人事業主は労働者ではないので、労災の特別加入をしていなければ、仕事中のけがでも国保で受診できます。

個人事業主(国保)一人社長(協会けんぽ・5人未満・従業員と同一の業務)一人社長(例外に当たらない業務・5人以上の会社)
仕事中のけがの療養国保で受診(特別加入していれば労災が先)健康保険で受診健康保険は使えない。特別加入していれば労災
休業中の所得補償なし(国保に傷病手当金はない)傷病手当金なし。特別加入していれば休業(補償)等給付

医療費100万円の月の負担

仕事中のけがで入院し、総医療費が100万円かかった月の自己負担を比べました。

立場適用される区分自己負担
個人事業主(国保・旧ただし書き所得901万円超)区分ア271,290円
個人事業主(国保・旧ただし書き所得600万円超901万円以下)区分イ183,130円
一人社長(5人未満・従業員と同一の業務・標準報酬53万〜79万円)区分イ183,130円
一人社長(例外に当たらない・労災の特別加入なし)健康保険の対象外1,000,000円

※ 高額療養費は令和8年8月〜令和9年7月診療分の70歳未満の区分。区分アは270,300円+(医療費−901,000円)×1%、区分イは179,100円+(医療費−597,000円)×1% ※ 1か月・1医療機関で総医療費100万円の場合。食事代・差額ベッド代は含めない ※ 計算は scripts/yakuin-gyomu-kega-kenpo.mjs による

例外に当たれば、法人化しても負担は個人事業主のときと同じか、区分が下がる分だけ軽くなります。区分が法人化で入れ替わる仕組みは高額療養費の区分は法人化で入れ替わるで計算しています。

例外に当たらないと、健康保険の3割負担も高額療養費も使えず、100万円がそのまま自己負担です。休業中の所得補償もありません。

傷病手当金は、業務上でも出る場合がある

5人未満の例外に当たるけがなら、休業中は傷病手当金が出ます。1日あたりの額は、標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2です。

標準報酬月額傷病手当金の日額
30万円6,667円
41万円9,113円
53万円11,780円

ただし役員報酬が出ている間は支給されません。休業中も報酬を払い続ける会社では、例外に当たっても受け取れる額は0円です。この点は一人社長の傷病手当金はいくら?で扱っています。

法人化の判定にどう効くか

当サイトの判定ツールは、仕事中のけがの医療費を計算に入れていません。効くのは、けがのリスクが高い仕事をしている人の、法人化後の空白です。

現場作業が中心で、役員になっても従業員と同じ作業を続ける一人社長は、5人未満の例外で健康保険の給付を受けられる可能性があります。人を雇って被保険者が5人以上になると、例外は使えなくなります。そのときは労災の特別加入が受け皿になります。加入の枠と保険料の決まり方は一人社長は労災に入れる?で整理しています。

法人化後の社会保険料そのものは一人社長の社会保険料で一覧にしています。法人化の損得は、自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめ、そのうえで仕事中のけがの受け皿を別に確保できるかを見てください。

まとめ

  • 健康保険法53条の2により、法人の役員としての業務に起因するけがや病気には健康保険の給付が出ない。「役員としての業務」は法人のための業務全般を指す
  • 例外は被保険者5人未満の会社で、従業員が従事する業務と同一と認められる業務中のけが。この場合は傷病手当金も含めて給付される
  • 国保は労災の給付を受けられない限り、業務上でも使える。法人化で仕事中のけがの受け皿が変わる
  • 例外に当たらず労災の特別加入もなければ、総医療費100万円の月は全額が自己負担。例外に当たれば区分イで183,130円
  • 人を雇って被保険者が5人以上になると例外は使えない。現場作業がある人は、法人化と同時に労災の特別加入を検討する材料になる

よくある質問

被保険者5人未満の「5人」には社長自身も含みますか。

条文は「被保険者の数が五人未満である適用事業所」としているので、社長を含めた健康保険の被保険者の数で数えます。社長と配偶者の役員2人と従業員2人なら4人で、例外の対象になりえます。

通勤中のけがはどうなりますか。

役員は労働者ではないので、通常は労災保険の通勤災害にもなりません。健康保険法1条は労働者の業務災害以外を給付の対象としています。役員の通勤途上のけがを健康保険で受けられるかは、協会けんぽの支部が負傷原因届の内容を見て判断します。

健康保険でけがの治療を受けると、協会けんぽから問い合わせが来ますか。

けがで受診すると、負傷原因の照会が届くことがあります。役員で労災保険の対象にならない業務上のけがの場合は、負傷原因届に法人の役員である旨と業務の内容を書いて提出します。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。