社会保険

傷病手当金の実績19万件。被保険者2人以下の会社は受給率が半分

結論

令和7年10月に傷病手当金を受けていた19万3,435件を事業所の規模別に見ると、被保険者2人以下の事業所は1件当たり38.15日・24万5,649円で、日数も金額も全区分で最大です。一方、受給件数は被保険者1,000人当たり3.63件で、全体の7.42件の49%にとどまります。受けにくい(または受けていない)が、受けたときは長く多い、という形です。

  • 1件当たり金額は標準報酬等級に比例して増えるが、被保険者1人当たりの月間支給額は第21〜25級(月28万〜36万円)の1,610円が頂点で、第46〜50級では1,308円に下がる
  • 役員報酬が月54万円なら傷病手当金の日額は11,780円。実績の平均32.43日分で38万2,061円、2人以下の平均38.15日分で44万9,354円
  • 出典は全国健康保険協会の現金給付受給者状況調査報告(令和7年度)。被保険者数は協会けんぽ月報 令和7年10月の2,608万1,449人

「法人化すれば傷病手当金が付く」とよく言われます。では、その給付は実際にどれだけ使われているのでしょうか。全国健康保険協会(協会けんぽ)は毎年、傷病手当金の受給者全員を調べた統計を公表しています。令和7年度の調査を事業所の規模別・標準報酬等級別に組み直すと、一人社長が属する帯は、ほかの帯と逆の形をしていました。

19万3,435件は「令和7年10月に受けていた人の全員」

使ったのは協会けんぽの**現金給付受給者状況調査報告(令和7年度)**です。調査の対象は令和7年10月の傷病手当金受給者全員で、調査対象件数は19万3,435件。抽出ではなく全数です(日雇特例被保険者は対象外)。

項目令和7年10月
調査対象件数193,435件
支給日数の合計6,273,682日
支給金額の合計374億2,832万5,217円
1件当たり日数32.43日
1件当たり金額193,493円

1件当たり32.43日ですから、1件はおおむね1か月分の休業に対する支給です。同じ月の被保険者数は2,608万1,449人(協会けんぽ月報・一般分)なので、受給は被保険者1,000人当たり7.42件、約135人に1人という頻度になります。

この調査の件数は、協会けんぽ月報の同月の実績件数(18万9,074件)とは少し違います。報告書が「集計時点の違いによるもの」と注記しているため、以下の受給率は概数として扱ってください。

なお、傷病手当金は健康保険の給付です。国民健康保険にも制度上の余地はありますが、国民健康保険法第58条第2項が「条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる」と定める任意給付で、必ず支給されるものではありません。個人事業主から法人成りすると、この給付が初めて視野に入ります。制度の条件は一人社長の傷病手当金はいくらで整理しています。

事業所の規模別に見ると、日数と件数で順位が逆になる

公式表にあるのは「件数の構成割合」と、参考値としての「被保険者数の構成割合」です。そこで、件数の割合を被保険者数の割合で割った値を偏り(全体=1.00)とし、全体の受給率に掛けて被保険者1,000人当たりの件数を出しました。さらに、その件数に1件当たり金額を掛けて、被保険者1人当たり・1か月あたりの支給額に直しています。

事業所の規模1件当たり日数1件当たり金額件数の割合被保険者数の割合偏り1,000人当たり件数1人当たり月間支給額
総数32.43日193,493円100%100%1.007.42件1,435円
2人以下38.15日245,649円2.94%6.00%0.493.63件892円
3・4人33.91日204,986円2.84%5.03%0.564.18件857円
5〜9人32.87日200,530円7.14%9.38%0.765.65件1,132円
10〜19人32.15日198,211円10.18%11.02%0.926.85件1,357円
20〜29人31.82日194,487円7.26%7.09%1.027.60件1,478円
30〜49人31.52日191,846円9.51%8.80%1.088.02件1,538円
50〜99人31.63日188,434円12.87%11.29%1.148.45件1,593円
100〜299人32.27日189,884円19.90%16.76%1.198.81件1,672円
300〜499人32.70日192,268円7.05%6.14%1.158.51件1,636円
500人以上32.61日187,088円20.33%18.49%1.108.15件1,525円

読み取れることは2つあります。

1つは、1件当たりの日数と金額が最も大きいのは2人以下の事業所だということです。38.15日・24万5,649円で、どちらも全区分で最大。1件当たり日数が最も短いのは30〜49人の31.52日で、500人以上(32.61日・18万7,088円)と比べると、2人以下は日数で5.5日、金額で5万8,561円上回ります。

もう1つは、受給の頻度が逆向きだということです。2人以下の偏りは0.49で、被保険者の人数に対して件数は半分しか出ていません。1,000人当たり3.63件は、最も高い100〜299人(8.81件)の41%です。1人当たりの月間支給額で見ると、2人以下は892円、3・4人は857円で、全体(1,435円)の6割前後にとどまります。

規模の小さい事業所では、受給の件数は少ないのに、受けたときの日数と金額は最も大きい。 1件当たりの列は2人以下から3・4人、5〜9人と下がっていくのに、件数の列は逆に上がっていきます。

なぜ逆になるのか、2つの説明

この統計からは理由までは分かりません。ただ、制度の形から筋の通る説明は2つあります。

1つは、交代できる人がいないという事情です。従業員が多い事業所なら短い休業でも業務を回せますが、被保険者が1〜2人の事業所では、休むのは「休まないと回らないとき」に限られやすくなります。結果として、1件当たりの日数は長くなります。

もう1つは、役員報酬を止めないと支給されないという条件です。傷病手当金は「休業した期間について給与の支払いがないこと」を要件にしています。一人社長の役員報酬は原則として年1回しか変えられないため、休業したからといって報酬だけを止める運用は簡単ではありません。この点は役員報酬を下げても保険料が下がるのは4か月後や役員報酬の期中変更と地続きの問題です。

標準報酬等級別では、報酬を上げても実績の支給額は増えない

同じ調査を標準報酬等級別に組み直すと、報酬の高さと給付の関係が見えます。

標準報酬等級標準報酬月額1件当たり金額件数の割合被保険者数の割合偏り1,000人当たり件数1人当たり月間支給額
第1〜5級5.8万〜9.8万円137,337円0.87%2.34%0.372.75件378円
第6〜10級10.4万〜13.4万円107,888円3.04%2.60%1.178.67件935円
第11〜15級14.2万〜18.0万円124,838円11.75%9.42%1.259.26件1,156円
第16〜20級19.0万〜26.0万円158,944円40.38%32.55%1.249.20件1,462円
第21〜25級28.0万〜36.0万円213,069円29.56%29.01%1.027.56件1,610円
第26〜30級38.0万〜50.0万円284,273円11.28%15.97%0.715.24件1,489円
第31〜35級53.0万〜65.0万円388,934円1.95%3.98%0.493.64件1,416円
第36〜40級68.0万〜83.0万円522,792円0.64%1.75%0.362.70件1,414円
第41〜45級88.0万〜109.0万円662,117円0.26%1.00%0.261.96件1,295円
第46〜50級115.0万〜139.0万円944,784円0.26%1.37%0.191.38件1,308円

1件当たり金額は、第1〜5級の13万7,337円から第46〜50級の94万4,784円まで、等級に沿って素直に増えます。日額が標準報酬月額から計算されるので当然です。

ところが、受給の頻度は第11〜20級を頂点に、そこから上では下がり続けます。 第26〜30級で0.71、第31〜35級で0.49、第46〜50級では0.19。報告書も、第26級以上では傷病手当金の構成割合が被保険者の構成割合より低いと述べています。

この2つを掛け合わせた「1人当たり月間支給額」が、この記事でいちばん言いたい数字です。

  • 第21〜25級(月28万〜36万円)の1,610円が頂点
  • 第31〜35級(月53万〜65万円)は1,416円
  • 第46〜50級(月115万〜139万円)は1,308円

報酬を月30万円から月100万円へ上げると、社会保険料(労使計)は年102.2万円から261.3万円へ2.6倍になります。それに対し、実績ベースの支給額は1,610円から1,295円へ、むしろ0.8倍に下がります。 保険料は報酬に比例して増えるのに、傷病手当金として戻ってくる実績の額はほとんど増えない、という形です。

高い報酬帯で受給が少ない理由も、この統計からは断定できません。業種や働き方の違い、休業しても報酬を止めない運用、受給より事業の継続を選ぶ判断など、複数の要因が混ざっていると考えるのが自然です。

2つの偏り(規模2人以下の0.49と第31〜35級の0.49)を掛け算して「一人社長は0.24倍」と読むことはできません。どちらも同じ人を別の軸で切った数字で、独立していないためです。

最適な役員報酬だと、1回の受給額はいくらになるか

では、実際の金額を自分の条件で見てみます。まず当サイトの計算エンジンで、売上1,500万円・経費300万円の人の役員報酬を月5万円から月100万円まで1万円刻みで計算した結果です。

売上1,500万円・経費300万円(事業所得1,200万円)の場合

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月10万円738.7万円102.8万円635.9万円33.4万円
月20万円759.0万円196.3万円562.7万円68.1万円
月30万円773.7万円289.1万円484.6万円102.2万円
月40万円777.8万円378.8万円399.0万円139.6万円
月50万円784.2万円468.6万円315.6万円170.3万円
月54万円 ←最適787.6万円504.8万円282.9万円180.5万円
月60万円779.4万円547.8万円231.6万円200.9万円
月70万円772.6万円625.4万円147.2万円228.6万円
月80万円773.5万円704.8万円68.7万円238.3万円
月90万円770.0万円784.4万円-14.4万円249.2万円
月100万円719.7万円860.2万円-140.4万円261.3万円

個人事業主のままの手取りは774.2万円。最適な役員報酬は月54万円で、そのときの手取り合計は787.6万円です。

※ 経費300万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額

この月54万円という報酬は、協会けんぽの中では高いほうです。被保険者の標準報酬月額の平均は31万8,122円で、53万円以上の人は全体の8.04%しかいません(令和7年10月)。つまり最適報酬で法人化した一人社長は、受給の偏りが0.49まで落ちる帯に自分から入っていくことになります。

その帯で1回休んだときの支給額を、実績の平均日数を当てはめて計算したものが次の表です。日額は協会けんぽの計算方法(標準報酬月額の平均を30で割り、その3分の2)に従っています。

ここで使う標準報酬月額は健康保険のものです。健康保険の等級は第50級まであり、報酬が高くなるとそれに応じて日額も上がります。厚生年金の標準報酬月額は上限が65万円で頭打ちになりますが、傷病手当金の計算には関係しません。表の月100万円の行で標準報酬月額が98万円になっているのは、健康保険の等級で見ているためです。

役員報酬(月)標準報酬月額(等級)傷病手当金の日額全体平均32.43日分2人以下の平均38.15日分社会保険料(労使計・年)
月10万円98,000円(第5級)2,180円70,704円83,157円33.4万円
月20万円200,000円(第17級)4,447円144,230円169,633円68.1万円
月30万円300,000円(第22級)6,667円216,231円254,316円102.2万円
月40万円410,000円(第27級)9,113円295,562円347,620円139.6万円
月54万円530,000円(第31級)11,780円382,061円449,354円180.5万円
月60万円590,000円(第33級)13,113円425,294円500,202円200.9万円
月80万円790,000円(第39級)17,553円569,297円669,567円238.3万円
月100万円980,000円(第43級)21,780円706,391円830,808円261.3万円

月54万円なら日額は11,780円。実績の平均日数を当てはめると1回の受給で38万2,061円、2人以下の事業所の平均日数なら44万9,354円です。同じ報酬での社会保険料は労使合わせて年180.5万円なので、1回の受給で戻るのは保険料のおよそ2割から2割5分という関係になります。

ここから分かるのは、傷病手当金を「保険料の元を取るための給付」として見ると合わない、ということです。1回あたりは40万円前後で、受給の頻度は1か月に被保険者1,000人当たり3.6件。これは平均的な見返りではなく、働けなくなった月に収入が完全に途切れることを防ぐための備えとして位置づけるのが実態に近い数字です。法人化で増える保険料そのものの額は法人化で社会保険料はいくら増えるかで、保険料の内訳と計算の手順は一人社長の社会保険料で扱っています。

受け取るには、役員報酬を止める必要がある

実績の数字を踏まえると、一人社長にとって重要なのは条件のほうです。協会けんぽが示す支給の要件は4つあります。

  1. 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
  2. 仕事に就くことができないこと
  3. 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと(最初の3日間は待期で、給与の支払いの有無は問わない)
  4. 休業した期間について給与の支払いがないこと

支給額の計算は、支給開始日以前の継続した12か月間の標準報酬月額の平均を30で割り、その3分の2です。支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月です。

4つ目の条件が一人社長にとっていちばん重い、というのが先に触れた点です。給与の支払いがあっても傷病手当金の額より少なければ差額は支給されますが、報酬を満額払い続けていれば支給額はゼロになります。加入期間が12か月に満たない時期の計算は法人化して1年未満の傷病手当金にまとめています。

あわせて確認しておきたい条件が2つあります。任意継続被保険者である期間中に発生した病気やケガについては、傷病手当金は支給されません。一方、資格喪失の日の前日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、その前日に傷病手当金を受けているか受けられる状態であれば、資格を失ったあとも引き続き支給を受けられます。

この統計から言えないこと

誤読しやすい点を3つ挙げておきます。

  • 年間の受給確率ではありません。 調査の対象は令和7年10月の1か月に受けていた人です。1件は平均32.43日分で複数の月にまたがるため、月の件数を12倍しても年間の新規受給者数にはなりません
  • 事業所の規模の区分は原表のものです。 被保険者数の割合は原表の参考値をそのまま使っています
  • 受給率は概数です。 分母の被保険者数は同月の協会けんぽ月報の数値で、調査件数と月報の実績件数には集計時点による差があります

数字は計算の考え方に書いた前提で出しています。役員報酬をいくらに置くかは手取りと保険料の両方で動くので、役員報酬はいくらが最適かと合わせて、一般論の金額ではなく自分の売上と経費で確かめてください。

まとめ

  • 令和7年10月の受給者19万3,435件のうち、被保険者2人以下の事業所は1件当たり38.15日・24万5,649円で日数も金額も最大。一方で受給件数は1か月に被保険者1,000人当たり3.63件で、全体(7.42件)の49%
  • 1人当たりの月間支給額は2人以下が892円、3・4人が857円で、全体の1,435円の6割前後
  • 標準報酬等級別の1人当たり月間支給額は第21〜25級(月28万〜36万円)の1,610円が頂点。報酬を月30万円から月100万円に上げると社会保険料(労使計)は2.6倍になるのに、実績の支給額は0.8倍に下がる
  • 最適報酬の月54万円なら日額11,780円で、1回の受給は38万〜45万円。年180.5万円の保険料に対して2割前後
  • 受け取るには「休業した期間について給与の支払いがないこと」が必要で、支給期間は通算1年6か月。一人社長は報酬を止められるかが分かれ目になる

よくある質問

一人社長でも傷病手当金を受け取れますか。

役員も健康保険の被保険者なので対象です。ただし支給の条件に「休業した期間について給与の支払いがないこと」があるため、役員報酬を払い続けている間は支給されません。

この統計の「1件」は何を指しますか。

令和7年10月に傷病手当金を受けていた受給者1人分です。1件当たりの支給日数は平均32.43日で、1回の支給がおおむね1か月分に相当します。

国民健康保険にも傷病手当金はありますか。

国民健康保険法第58条第2項により、市町村や国保組合が条例または規約で定めれば支給できる任意給付です。健康保険のように必ず支給される給付ではありません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。