社会保険

iDeCo+は従業員が厚生年金加入者でないと使えない

結論

iDeCo+を実施できる事業主の要件は、従業員(第1号厚生年金被保険者)が300人以下、企業型DCや確定給付企業年金など他の企業年金を実施していないこと、労使合意の3つです。加えて、掛金を上乗せできるのはiDeCoに加入し加入者掛金を拠出している従業員に限られ、厚生年金の適用がない従業員には拠出できません。事業主掛金は月1,000円〜22,000円で、加入者掛金と合計して月5,000円〜23,000円の範囲に収めます。

  • 実施要件は従業員(第1号厚生年金被保険者)300人以下・企業型DCなど他の企業年金を実施していないこと・労使合意の3つ(法人・個人事業主のどちらでもよい)
  • 拠出できるのはiDeCoに加入し加入者掛金を事業主払込で納付している従業員だけ。未加入の従業員に事業主掛金だけを出すことはできない
  • 法人は従業員1人目から厚生年金が強制適用だが、個人事業所は常時5人未満だと強制適用外の場合があり、対象にできる従業員がいないことがある

iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)は、従業員のiDeCoの掛金に事業主が上乗せする制度です。法人でも個人事業主でも実施できますが、上乗せできるのは厚生年金の被保険者でiDeCoに加入している従業員に限られます。個人事業所は従業員が厚生年金の適用を受けていない場合があり、そのときは実施しても対象にできる従業員がいません。

実施できる事業主の要件は3つ。法人か個人かは問わない

国民年金基金連合会の手引きは、iDeCo+を実施できる事業主の要件を次の3つとしています。

要件内容
① 従業員数使用する第1号厚生年金被保険者が300人以下
② 他の企業年金企業型確定拠出年金・確定給付企業年金・厚生年金基金のいずれも実施していない
③ 労使合意従業員の過半数代表の同意を得ている

同一の事業主が複数の厚生年金適用事業所で従業員を使用する場合は、その合計で300人以下かどうかを判定します。この3つの要件はどれも「法人であること」を求めていません。個人事業主でも、従業員が厚生年金の被保険者であれば実施できます。

対象にできるのは「厚生年金の被保険者」でiDeCo加入者だけ

要件を満たしても、上乗せできる相手は限られます。手引きは拠出対象者を「第1号厚生年金被保険者のうち、加入者掛金を事業主払込で納付するiDeCo加入者」と定義しています。第1号厚生年金被保険者とは、民間企業に勤務する従業員で厚生年金保険の被保険者である人を指します。iDeCoに加入していない従業員には、事業主掛金だけを出すことはできません。

ここで法人と個人事業所の差が出ます。日本年金機構は、すべての法人事業所を健康保険・厚生年金の適用事業所としています。一方、常時5人未満の個人事業所は、2026年時点では健康保険・厚生年金の強制適用とならない場合があります。個人事業主がiDeCo+の要件を満たしていても、従業員が国民年金の第1号被保険者のままなら、その従業員は拠出対象者になりません。

一人社長が初めて従業員を雇う費用で扱った「法人は1人目から被用者保険の加入判定が必要」という差が、iDeCo+では利用できる制度の有無に直結します。福利厚生としてiDeCo+を用意したい場合、個人事業のままでは従業員が厚生年金の対象になっていることが前提条件になります。

掛金は事業主1,000円〜22,000円、合計5,000円〜23,000円

掛金には2つの下限・上限があります。

  • 事業主掛金:月1,000円〜22,000円(1,000円単位)
  • 事業主掛金と加入者掛金の合計:月5,000円〜23,000円

加入者掛金を0円にすることはできませんが、事業主掛金が加入者掛金を上回ることは可能です。原則は拠出対象者全員を同額にしますが、職種や勤続期間で合理的な区分がある場合に限り、資格ごとに額を分けられます。「iDeCoに加入していない」という理由だけで対象から外すことは、不当な差別的取り扱いにはなりません。

従業員の加入者掛金事業主掛金の上限合計の上限
5,000円18,000円23,000円
10,000円13,000円23,000円
15,000円8,000円23,000円
20,000円3,000円23,000円

前納・追納はできず、毎月定額での拠出が基本です。年単位で拠出月を指定する加入者掛金と組み合わせる場合は、事業主掛金の納付額も月ごとに変わるため、事業主側で加入状況を月次で把握する必要があります。

中退共とはここが違う

中退共(中小企業退職金共済)も従業員のための制度ですが、対象の決まり方がiDeCo+とは違います。

中退共iDeCo+
事業主の基準従業員数または資本金額従業員数(第1号厚生年金被保険者)のみ
対象従業員の条件雇用関係にあること厚生年金の被保険者で、iDeCoに加入していること
掛金の決め方事業主が従業員ごとに選ぶ従業員の加入者掛金と合わせて上限が決まる
退職金・年金資産の管理機構が従業員に直接支払う従業員自身のiDeCo口座に積み立てる

中退共は雇用関係があれば対象にできるため、個人事業所でも従業員がいればすぐ使えます。iDeCo+は従業員が厚生年金の被保険者であることが前提になるため、個人事業のままでは使えない従業員が生まれやすい制度です。同じ「従業員のための福利厚生」でも、法人化の有無が効く度合いが違います。

事業主掛金は経費、従業員の掛金は本人の所得控除

事業主掛金は、企業が負担する支出として損金に算入できます。従業員が拠出する加入者掛金は、小規模企業共済等掛金控除として従業員本人の所得から控除されます。会社の経費になるのは事業主掛金の部分だけで、従業員の掛金部分に会社の税負担は生じません。

社長本人がiDeCo+の対象にならないのは、中退共で役員が対象外になる構造と同じです。事業主は「上乗せする側」であって、上乗せを受ける従業員ではありません。一人社長は雇用保険に入れないのと同様、社長本人の資産形成は別の制度で確保します。

まとめ

  • iDeCo+を実施できる事業主の要件は、従業員300人以下・他の企業年金が未実施・労使合意の3つで、法人か個人事業主かは問わない
  • 上乗せできるのは厚生年金の被保険者でiDeCoに加入し、加入者掛金を拠出している従業員だけ
  • 個人事業所は常時5人未満だと厚生年金の強制適用外の場合があり、その場合は対象にできる従業員がいない
  • 掛金は事業主1,000円〜22,000円、加入者掛金との合計で5,000円〜23,000円
  • 中退共は雇用関係だけで対象にできるが、iDeCo+は厚生年金の適用が前提になる分、法人化の有無が結果に効きやすい

よくある質問

iDeCo+は個人事業主でも実施できますか?

実施できます。事業主の要件は従業員数と企業年金の実施状況で決まり、法人か個人事業主かは問いません。ただし対象にできるのは厚生年金の被保険者である従業員に限られるため、従業員が厚生年金に加入していない個人事業所では、実施しても上乗せする相手がいません。

iDeCo+で社長本人の掛金を上乗せできますか?

できません。iDeCo+は事業主が従業員の掛金に上乗せする制度で、事業主本人は対象になりません。社長本人がiDeCoに加入する場合は、通常の個人型の掛金枠を自分の資格で使います。

iDeCoに入っていない従業員にも事業主掛金を出せますか?

出せません。中小事業主掛金を上乗せできるのは、iDeCoの加入者として加入者掛金を事業主払込で納付している従業員に限られます。iDeCoに加入していない従業員だけを理由に対象から外すことは、不当な差別的扱いにはなりません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。