社会保険

選択制DCで一人社長の社会保険料はいくら減る?年金も減る

結論

役員報酬を月5.5万円減らして企業型DCの掛金に回すと、売上1,500万円の試算では社会保険料(本人+会社)が年4.8万〜24.1万円減ります。その代わり標準報酬月額が下がり、報酬月40万円なら厚生年金は加入1年あたり年4,604円、傷病手当金は日額1,560円減ります。

  • 選択制DCは給与を減らして掛金に回す仕組み。厚労省の法令解釈通知は、社会保険等の給付額への影響の説明を事業主に求めている
  • 厚生年金の標準報酬月額は65万円が上限。報酬月70万円以上なら掛金に回しても将来の厚生年金は減らない
  • 企業型DCの上限は2026年11月まで月5.5万円(他制度なし)、12月1日施行予定の改正後はiDeCoと合わせて月6.2万円

選択制DCの「社会保険料が減る」は、標準報酬月額が下がることの裏返しです。保険料と同じ物差しで、厚生年金・傷病手当金・出産手当金の額も決まるからです。ここでは役員報酬を減らして掛金に回した場合に、何がいくら動くかを報酬別に計算します。

会社が報酬とは別に上乗せで掛金を出す設計(報酬は据え置き)は、一人社長の企業型DCの上限と法人税の効果で扱っています。この記事は「給与を減らして掛金に回す型」に絞ります。

選択制DCは「給与を減らして掛金に回す」仕組み

選択制DCは、給与を労使合意で減額し、その減額分を「企業型DCの事業主掛金として積み立てる」か「給与に上乗せして受け取る」かを本人が選ぶ設計です。厚労省の法令解釈通知(第1-1(5))は、この仕組みを実施するときは社会保険・雇用保険等の給付額にも影響する可能性を含めて、事業主が従業員に正確に説明する必要があるとしています。

なぜ給付が動くのか。厚生年金の標準報酬月額は、基本給や手当など「労働の対償として受けるもの」で決まります。日本年金機構の事例集は、退職手当でも毎月の給与に上乗せして前払いされる場合は報酬等に該当するとしています。選択制で「給与で受け取る」を選んだ部分は報酬に入り、掛金を選んだ部分は給与として支払われません。結果として、掛金を選ぶほど報酬月額が下がります。

標準報酬月額は、保険料の計算と年金・手当金の計算の両方に使われます。

標準報酬月額で決まるもの計算式
健康保険料・厚生年金保険料標準報酬月額 × 保険料率(労使折半)
厚生年金の報酬比例部分平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数
傷病手当金・出産手当金支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3(日額)

保険料だけ下がって給付は変わらない、という形にはなりません。同じ数字を両方に使うので、片方だけ切り離せないのです。

掛金の上限は11月まで月5.5万円、12月から月6.2万円

選択制でも、DCに回せる額は企業型DCの拠出限度額の範囲内です。DBなど他の企業年金がない一人会社なら、現行は月5万5,000円です。

2026年12月1日施行予定の改正では、企業型DCとiDeCoなどを合わせた共通の拠出限度額が月6万2,000円に引き上げられます。厚労省は「2026年12月1日施行予定」として掲載しており、2026年10月時点ではまだ施行前です。

時期一人会社(他制度なし)の上限
2026年11月まで企業型DCは月5.5万円
2026年12月以後(施行予定)企業型DC・iDeCo等の合計で月6.2万円

なお2026年4月1日から、マッチング拠出の加入者掛金を事業主掛金以下とする制限は撤廃されています。ただし選択制DCは「給与を減らして事業主掛金を出す」設計なので、ここで扱うのは事業主掛金です。

社会保険料は年5万〜24万円減る

売上1,500万円・経費200万円の一人会社で、役員報酬を月5万5,000円減らし、同額を事業主掛金にした場合を計算しました。表は node scripts/sentakusei-dc-hitori-shacho.mjs で再生成できます。

役員報酬(月)標準報酬月額 健保/厚年社保料の減少(本人+会社・年)所得税・住民税の減少法人税等の増加DC資産を含む増減
30万→24.5万円30万/30万→24万/24万円20.7万円5.4万円3.5万円+21.2万円
40万→34.5万円41万/41万→34万/34万円24.1万円6.2万円2.8万円+25.6万円
50万→44.5万円50万/50万→44万/44万円20.7万円8.6万円2.4万円+25.3万円
60万→54.5万円59万/59万→56万/56万円10.3万円18.8万円1.2万円+27.1万円
70万→64.5万円71万/65万→65万/65万円7.3万円16.9万円0.8万円+22.9万円
80万→74.5万円79万/65万→75万/65万円4.8万円19.4万円0.5万円+23.3万円

※ 東京23区(協会けんぽ東京支部)・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社。報酬を減らした分だけ会社の利益が増え、そこから掛金年66万円を損金として差し引いて法人税等を再計算。「DC資産を含む増減」は会社と個人の現金の減少に、DC資産66万円を足し戻した値。運用損益・導入管理費・受取時課税は含みません。

一人社長は本人負担と会社負担の両方が自分の財布です。だから社会保険料の減少は「本人+会社」で見ます。報酬月40万円では、標準報酬月額が41万円から34万円へ7万円下がり、年24.1万円減ります。

報酬が高くなると社会保険料の減少は小さくなり、代わりに所得税・住民税の減少が大きくなります。厚生年金の標準報酬月額には65万円の上限があります。上の表の下2行は減額後も上限に張り付いたままなので、厚生年金保険料が変わらず、健康保険料だけが下がります。

掛金を月2万円にすると、等級が動かないこともある

標準報酬月額は等級で区切られています。掛金が小さいと、等級をまたがず社会保険料がまったく変わらない場合があります。

役員報酬(月)標準報酬月額 健保/厚年社保料の減少(年)DC資産を含む増減
40万→38万円41万/41万→38万/38万円10.3万円+10.5万円
50万→48万円50万/50万→47万/47万円10.3万円+11.2万円
60万→58万円59万/59万→59万/59万円0円+6.6万円
80万→78万円79万/65万→79万/65万円0円+7.3万円

※ 前提は上の表と同じ。掛金月2万円(年24万円)。

報酬月60万円で2万円だけ回しても、59万円の等級(報酬月額57.5万円以上60.5万円未満)にとどまり、社会保険料は1円も減りません。残るのは所得税・住民税の効果だけです。掛金額を決めるときは、減額後の報酬がどの等級に入るかを先に確認します。

厚生年金と傷病手当金も同じ割合で下がる

同じ月5万5,000円の掛金で、給付がどれだけ下がるかを計算しました。

役員報酬(月)厚生年金の減少(加入1年あたり・年額)30年続けた場合の減少(年額)傷病手当金・出産手当金の日額の減少
30万→24.5万円3,946円11.8万円1,334円
40万→34.5万円4,604円13.8万円1,560円
50万→44.5万円3,946円11.8万円1,333円
60万→54.5万円1,973円5.9万円666円
70万→64.5万円0円0円1,333円
80万→74.5万円0円0円886円

※ 厚生年金は報酬比例部分のみ(平均標準報酬額×5.481/1000×月数)。賞与なし。傷病手当金・出産手当金は12か月同じ等級だった場合の日額。

報酬月40万円の人が30年間この形を続けると、65歳から受け取る老齢厚生年金が年13.8万円少なくなる計算です。一方、DCには毎年66万円が積み上がります。DCの残高は運用次第で、厚生年金のように終身で受け取れる保証はありません。「どちらが得か」は運用利回りと受給期間に依存し、単年の手取りだけでは決められません。

傷病手当金の減少は、報酬月40万円で日額1,560円です。長く休むほど差が開きます。出産手当金も同じ計算式なので、出産予定がある社長は同じだけ減ります。一人社長の傷病手当金は、役員でも業務外の病気やけがで休めば対象になり得ます。

表の下2行は、厚生年金の標準報酬月額が減額後も上限の65万円に張り付いているため、年金は減りません。社会保険料の減少も健康保険分だけになりますが、「年金を減らさずに掛金を出す」形になるのは、この上限を超えている層だけです。

一人社長は定期同額給与と「選択」の形式に注意

従業員向けの選択制DCをそのまま一人社長に当てはめると、法人税側で問題が出ます。

1つ目は改定時期です。役員報酬が損金になるには、原則として事業年度開始から3か月以内の改定などに限られる定期同額給与である必要があります。期の途中で報酬を減らしてDCへ回すと、改定の要件を満たさないおそれがあります。導入するなら、期首の報酬改定と同時に設計するのが基本です。

2つ目は標準報酬月額の切り替わり時期です。報酬を下げても、すぐに保険料が下がるとは限りません。固定的賃金が変わって3か月の平均で2等級以上の差が出れば随時改定、そうでなければ4〜6月の報酬による定時決定(9月から反映)を待つことになります。

3つ目は**「選択」の中身**です。法令解釈通知は、選択制を労使合意による給与減額と従業員の選択として想定しています。一人会社では選ぶ人と決める人が同じです。毎年自由に「給与で受け取る/DCに回す」を切り替える設計は、役員給与としての扱いを含めて論点が残ります。厚労省Q&Aは、退職金前払い制度とDCの選択制で、一度DCを選んだ者は前払い制度へ戻れないとしています。規約の作り方は運営管理機関と、税務の扱いは専門家と個別に確認する部分です。

選択制DCが判定に効くのは「法人化の差が小さいとき」

法人化の判定で、社会保険料は個人事業主と比べた最大のコストです。選択制DCで社会保険料が年20万円台減ると、法人化の差額がひっくり返る場合もあります。

ただし、その20万円台は厚生年金と傷病手当金を削った結果です。「社会保険料が高いから法人化は不利」と判定した人が、選択制DCで保険料だけ下げて有利にするのは、保障を自分で薄くしているのと同じです。

判定ツールは、選択制DCを入力項目に含めていません。まず自分の売上と経費で最適な役員報酬と差額を確かめてください。そのうえで、その報酬からいくら掛金に回すと、どの等級に入るかをこの記事の表で当てはめます。役員報酬そのものの決め方は役員報酬の最適額で、法人化で増える年金の総額は法人化で年金はいくら増えるかで扱っています。

まとめ

  • 選択制DCは役員報酬を減らして掛金に回すため、標準報酬月額が下がり、社会保険料と給付が同時に減る
  • 売上1,500万円・掛金月5.5万円の試算で、社会保険料(本人+会社)は年4.8万〜24.1万円減る
  • 報酬月40万円なら厚生年金は加入1年あたり年4,604円、傷病手当金・出産手当金は日額1,560円減る
  • 厚生年金の標準報酬月額の上限65万円を超える報酬なら、年金は減らない
  • 企業型DCの上限は2026年11月まで月5.5万円、12月1日施行予定の改正後はiDeCo等と合わせて月6.2万円
  • 一人社長は定期同額給与の改定時期と、標準報酬の切り替わり時期をそろえて設計する

よくある質問

選択制DCの掛金は社会保険料の計算に入りますか?

選択制DCでは減額後の給与が報酬として扱われ、掛金に回した部分は給与として支払われません。そのため標準報酬月額が下がり得ます。厚労省の法令解釈通知も、社会保険・雇用保険等の給付額への影響を説明するよう事業主に求めています。

選択制DCにすると厚生年金はどれくらい減りますか?

報酬比例部分は平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数で決まります。標準報酬月額が月7万円下がると、加入1年あたり年4,604円減る計算です。標準報酬月額が上限の65万円を超えている間は減りません。

一人社長が期の途中で報酬を減らしてDCに回せますか?

役員報酬の減額は、原則として事業年度開始から3か月以内の改定でなければ定期同額給与になりません。期中に報酬を下げると損金不算入になるおそれがあるため、改定時期に合わせて設計する必要があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。