社会保険

育児休業等終了時改定は一人社長に使えない。産休後の改定との違い

結論

使えません。育児休業等終了時改定は、育児・介護休業法による育児休業等を終えた被保険者が対象で、一人社長は同法の育児休業を取れないためです。女性役員なら、産前産後休業終了時改定で1等級の差から改定できます。月54万円から月50万円に下げた東京・40歳未満では、改定が1か月早まるごとに労使合計で8,514円保険料が下がります。

  • 通常の随時改定は2等級以上の差が要件。育休・産休の終了時改定は1等級の差で、事業主経由の届出により4か月目から改定できる
  • 育休の終了時改定は育介法の育児休業等が前提。日本年金機構は事業主・役員は同法の育児休業等を取得できないと明記している
  • 定期同額給与の制約で、役員報酬を下げられるのは原則として事業年度開始から3か月以内。改定の時期と報酬の改定時期がずれやすい

育休明けに短時間勤務などで給与が下がった従業員は、標準報酬月額をすぐに下げる特別な改定を使えます。一人社長が同じことをしようとすると、制度の入口で止まります。前提になる「育児休業」を、法律上取れないからです。

一方で、女性役員の産前産後休業には同じ形の改定があり、こちらは役員でも入口で止まりません。違いと、実際に効く金額を整理します。

終了時改定は「1等級の差」で標準報酬月額を下げられる

標準報酬月額は、毎年9月の定時決定で決まり、原則として翌年8月まで使われます。途中で報酬が変わったときの随時改定は、3か月の平均で2等級以上の差が出たときに限られます。

育児休業等終了時改定と産前産後休業終了時改定は、この要件を緩めた特例です。日本年金機構の手続き案内では、要件は次のとおりです。

項目随時改定育児休業等終了時改定産前産後休業終了時改定
必要な等級差2等級以上1等級以上1等級以上
平均を取る期間変動月から3か月育休終了日の翌日が属する月から3か月産休終了日の翌日が属する月から3か月
支払基礎日数3か月とも17日以上17日未満の月を除く(1か月以上は17日以上)同左
改定月4か月目4か月目4か月目
対象者被保険者育介法の育児休業等を終え、3歳未満の子を養育産休終了日にその子を養育
手続き事業主が届出被保険者の申出を受けて事業主が届出同左

1月〜6月に改定された標準報酬月額は当年8月まで、7月〜12月に改定されたものは翌年8月まで使われます。

育休明けは時短勤務で給与が少し下がる人が多く、2等級に届かないと、次の定時決定まで高い保険料を払い続けることになります。この特例は、その「1等級分のずれ」を埋めるためのものです。

一人社長は、育児休業等終了時改定の入口に立てない

育児休業等終了時改定の対象は、育児・介護休業法による育児休業等を終えた被保険者です。

日本年金機構は、育児休業中の保険料免除の案内で、事業主や役員などは通常、同法の「労働者」に当たらず、同法に基づく育児休業等を取得できないと説明しています。終了時改定も同じ「育児休業等」を前提にしているため、育児のために実際に業務を減らした一人社長でも、この改定の対象にはなりません。

保険料免除が使えないことは 一人社長は育児休業で社会保険料を免除できない で扱いました。終了時改定も、同じ理由で一緒に使えないということです。

男性の一人社長が子どもの誕生後に報酬を下げた場合、標準報酬月額が変わる経路は次の2つだけになります。

  • 2等級以上下がる:随時改定で4か月目から下がる
  • 1等級の差にとどまる:次の定時決定(9月)まで下がらない

女性役員の産前産後休業終了時改定は、育介法を前提にしていない

産前産後休業終了時改定の要件には、育児・介護休業法の育児休業という条件がありません。対象は「産前産後休業終了日に、その休業に係る子を養育している被保険者」です。

産前産後休業中の保険料免除は、事業主や役員でも出産を理由に労務に従事しなかった被保険者なら対象になります。終了時改定はその延長にある手続きなので、女性の一人社長が出産後に報酬を下げたときは、1等級の差でも4か月目から標準報酬月額を下げられる余地があります。

注意点は2つあります。

  • 産休終了日の翌日に育児休業を始めている場合は申出できません(一人社長がここに当たることは通常ありません)
  • 届出は被保険者の申出を受けた事業主が行います。一人社長は申出する本人と届け出る事業主を兼ねることになります

役員本人への適用の可否は、最終的には年金事務所の判断になります。届け出る前に管轄の年金事務所へ確認しておくと確実です。

1等級だけ下げた場合、改定が1か月早まるごとに8,514円

役員報酬を月54万円から月50万円に下げた場合を計算します。東京支部・40歳未満、令和8年3月分以降の料率です(calc:table grades の値)。

項目月54万円月50万円差(月)
健康保険の等級・標準報酬月額31等級・53万円30等級・50万円1等級
厚生年金の等級・標準報酬月額28等級・53万円27等級・50万円1等級
健康保険料(本人)26,712円25,200円1,512円
厚生年金保険料(本人)48,495円45,750円2,745円
本人負担の合計75,207円70,950円4,257円
労使合計150,414円141,900円8,514円

※ 健康保険料率9.85%+子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金保険料率18.3%。労使折半

どちらの等級でも1等級差なので、随時改定には当たりません。終了時改定が使えれば4か月目から月50万円の標準報酬月額になり、使えなければ定時決定まで月53万円のままです。会社と本人を合わせた保険料の差は、改定が1か月早まるごとに8,514円です。

月48万円まで下げれば健康保険29等級(47万円)・厚生年金26等級で2等級差になり、終了時改定がなくても随時改定で4か月目から下がります。終了時改定の有無が効くのは、下げ幅が1等級に収まる狭い範囲です。

役員報酬は、下げたい月にいつでも下げられるわけではない

従業員の時短勤務と違い、役員報酬の減額には法人税の制約があります。定期同額給与として損金に算入するには、改定は原則として事業年度開始の日から3か月以内に行う必要があります(国税庁 No.5211)。

このため、産休明けの月と報酬を下げられる月がずれやすくなります。終了時改定は「産休終了日の翌日が属する月から3か月」の平均で判定するので、その3か月の途中で報酬が変わると、下げる前と後の報酬が混ざった平均になります。下げた後の報酬で判定したい場合は、事業年度の始まりと出産予定日の関係を早めに確認しておく必要があります。

業績の著しい悪化など、期中の減額が認められる事由もありますが、「育児のために仕事を減らした」ことがそれに当たるかは個別の判断です。

標準報酬月額を下げると年金も下がる。養育期間特例で補う

標準報酬月額が下がると保険料が減る一方で、将来の老齢厚生年金の計算に使う額も下がります。報酬比例部分は平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数なので、月53万円から月50万円に下がると、12か月で年額1,973円の減少です。

子が3歳未満の間は、養育期間標準報酬月額特例を申し出れば、年金額は下がる前の標準報酬月額で計算され、保険料は下がった後の額のままです。この特例は育児休業を前提にしておらず、一人社長も使えます。詳しくは 子が3歳未満の一人社長は、役員報酬を下げても年金が減らない特例がある で計算しています。

制度一人社長(男性)一人社長(女性・出産)
育児休業中の保険料免除使えない使えない
育児休業等終了時改定使えない使えない
産前産後休業中の保険料免除−使える
産前産後休業終了時改定−使える余地あり
養育期間標準報酬月額特例使える使える

標準報酬月額の決まり方全般は 標準報酬月額の等級表、定時決定を年間平均で行う特例は 保険者算定(年間平均) にまとめています。

まとめ

  • 育児休業等終了時改定は1等級の差で標準報酬月額を下げられるが、育介法の育児休業等が前提で、一人社長は対象外
  • 女性役員の産前産後休業終了時改定には育介法の条件がなく、役員でも使える余地がある
  • 月54万円→月50万円(東京・40歳未満)は1等級差で、改定が1か月早まるごとに労使合計8,514円の差
  • 役員報酬の減額は定期同額給与の制約を受けるため、産休明けと改定時期がずれやすい
  • 年金の目減りは養育期間標準報酬月額特例で補える

法人化後の役員報酬をいくらにするかで、社会保険料と税金の合計は大きく動きます。子育て期に報酬を下げる前提も含めて、自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

育児休業等終了時改定と随時改定は何が違いますか

随時改定は固定的賃金の変動があり、3か月平均で2等級以上の差が出たときに行われます。育児休業等終了時改定は、育休明けに3歳未満の子を養育している被保険者の申出により、1等級の差でも改定でき、固定的賃金の変動も要件になっていません。

男性の一人社長が子どもの誕生後に報酬を下げた場合、標準報酬月額はいつ変わりますか

終了時改定は使えないため、2等級以上下がれば随時改定で4か月目から、1等級の差なら次の定時決定(9月)まで変わりません。年金額については、別制度の養育期間標準報酬月額特例を申し出られます。

産前産後休業終了時改定を使うと年金が減りませんか

標準報酬月額が下がるため、そのままでは将来の厚生年金も下がります。子が3歳未満の間は、養育期間標準報酬月額特例を申し出れば、年金額の計算には下がる前の標準報酬月額が使われます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。