社会保険

子が3歳未満の一人社長は、役員報酬を下げても年金が減らない特例がある

結論

使えます。3歳未満の子を養育する厚生年金の被保険者であれば、役員でも申出により、報酬を下げた後も養育開始前の標準報酬月額で年金額が計算されます。月54万円から月20万円に3年間下げた場合、厚生年金保険料は労使合計で217万円減る一方、特例を申し出れば老齢厚生年金は減りません。申し出なければ年6.5万円減ります。

  • 対象期間は子の養育開始月から3歳誕生日のある月の前月まで。申出は事業主経由で、遡って2年分まで認められる
  • 養育開始月の前月、またはその前1年以内に厚生年金の被保険者期間がないと使えない。個人事業主のうちに生まれた子は対象外になりやすい
  • 一人社長は育児休業による保険料免除を使えないため、報酬を下げる局面ではこの特例が年金を守る数少ない手段になる

一人社長が役員報酬を下げると、社会保険料が下がる代わりに将来の厚生年金も減ります。ただし3歳未満の子を育てている間は例外です。申し出れば、報酬を下げた後も、下げる前の標準報酬月額で年金額が計算されます。

これが厚生年金の「養育期間標準報酬月額特例」です。保険料は下げた後の額で払い、年金は下げる前の額で受け取れます。

3歳まで、下がる前の標準報酬月額で年金を計算する

日本年金機構によると、この特例は、子が3歳に達するまでの養育期間中に標準報酬月額が低下した場合に、将来の年金額に影響しないよう、養育前の標準報酬月額に基づく年金額を受け取れる仕組みです。

項目内容
対象者3歳未満の子を養育する厚生年金保険の被保険者
対象期間養育開始月から、子の3歳誕生日のある月の前月まで
みなす額養育開始月の前月の標準報酬月額(従前標準報酬月額)
保険料実際の(下がった後の)標準報酬月額で計算
手続き被保険者が申出書を事業主経由で提出。遡りは2年まで
添付書類戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書、住民票の写し

要件に「従業員であること」は入っていません。役員も厚生年金の被保険者なので、一人社長にも使えます。父親か母親かも問われません。

特例が効くのは、下がった後の標準報酬月額が従前の額を下回る月だけです。報酬を上げた月はそのまま高い額で計算されます。

月54万円から月20万円に下げると、保険料は217万円減り、年金は減らない

役員報酬を3年間(36か月)下げたときの、厚生年金保険料と将来の年金の差です。

下げる前下げた後標準報酬月額(前→後)36か月で減る厚生年金保険料(労使合計)特例なしで減る年金(年額)特例ありで減る年金
月54万円月30万円530,000円→300,000円1,515,240円45,383円0円
月54万円月20万円530,000円→200,000円2,174,040円65,114円0円
月40万円月20万円410,000円→200,000円1,383,480円41,436円0円
月65万円月30万円650,000円→300,000円2,305,800円69,061円0円
月30万円月15万円300,000円→150,000円988,200円29,597円0円

前提:厚生年金保険料率18.3%(労使合計)。老齢厚生年金の報酬比例部分=標準報酬月額×5.481/1000×月数(平成15年4月以降・賞与なし・再評価なしの概算)。健康保険料の減少分は含めていない。

月54万円から月20万円に下げた場合、特例を申し出なければ老齢厚生年金は年6.5万円減ります。65歳から20年受け取るとすれば130万円です。申し出れば、この減少はゼロになります。

保険料が減るのは特例の有無にかかわらず同じです。一人社長は会社負担分も自分の会社から出るので、労使合計の217万円がそのまま会社と個人の負担減になります。

報酬を下げること自体の損得は別に確かめる

特例は「下げても年金が減らない」ことを保証するだけで、下げたほうが得かどうかは別の話です。報酬を下げると個人の所得税・住民税は減りますが、会社に残る利益に法人税がかかります。報酬別の手取りの合計は、判定ツールの役員報酬別の結果で確かめてください。

報酬を下げても、社会保険料が下がるのは随時改定の4か月目からです。この時差は役員報酬を下げても保険料が下がるのは4か月目で扱いました。また役員報酬は、事業年度の途中で自由に下げられるわけではありません。期中の変更で損金にならない部分が出る点は役員報酬の期中変更を参照してください。

使えないケース:養育開始の前1年に厚生年金がない

特例のみなす額は「養育開始月の前月」の標準報酬月額です。日本年金機構は、前月に被保険者でない場合はその前1年以内の直近の被保険者月の額を使い、1年以内に被保険者期間がなければ特例は受けられないとしています。

一人社長に直結するのはこの点です。

状況特例
法人化して厚生年金に入った後に子が生まれた使える(前月の標準報酬月額がみなす額になる)
個人事業主のときに子が生まれ、その後に法人化した使えない(養育開始前1年以内に被保険者期間がない場合)
会社員を辞めて1年以内に子が生まれ、その後法人化した使える可能性がある(会社員時代の直近の標準報酬月額)

個人事業主の間は国民年金だけで、厚生年金の被保険者期間がありません。その間に生まれた子については、法人化後に報酬を下げても特例の対象になりません。

下げるのは子が生まれた後

みなす額は養育開始月の前月の額なので、出産前に報酬を下げてしまうと、みなす額そのものが低くなります。特例を生かすには、報酬を下げるのは子が生まれた後にする必要があります。事業年度と出産予定の時期が重なる場合は、期首の報酬改定のタイミングと合わせて考えることになります。

一人社長には育休の保険料免除がない。だからこの特例が効く

従業員であれば、育児休業中は社会保険料が免除され、その期間も保険料を納めたものとして年金が計算されます。しかし一人社長は、育児休業による保険料免除を使えません。事情は一人社長は育児休業で社会保険料を免除できないで扱いました。

子育てで仕事を減らし、報酬を下げざるをえない一人社長にとって、養育期間の特例は年金を守るほぼ唯一の手段です。産前産後休業の保険料免除は役員でも被保険者なら対象ですが、期間は出産前後の休業期間に限られます。3歳までの長い期間をカバーするのはこの特例です。

法人化で厚生年金がどれだけ増えるかの全体像は、法人化で厚生年金は年69万円増えるで計算しています。

まとめ

  • 3歳未満の子を養育する被保険者は、申出により、報酬を下げた後も養育開始前の標準報酬月額で年金を計算してもらえる。一人社長も対象
  • 保険料は下げた後の額で計算される。月54万円から月20万円に3年間下げると保険料は労使合計217万円減り、特例があれば年金は減らない
  • 養育開始前1年以内に厚生年金の被保険者期間がないと使えない。個人事業主の間に生まれた子は対象外になりやすい
  • 申出は事業主経由で、遡りは2年まで。報酬を下げるのは子が生まれた後にする

報酬を下げたときの手取りの合計は、売上と経費で変わります。判定ツールで、自分の条件での役員報酬別の結果を確かめてください。

よくある質問

父親の一人社長でも養育期間の特例を使えますか?

使えます。要件は3歳未満の子を養育している厚生年金の被保険者であることで、男女や役員かどうかは問われません。申出書に戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書と住民票の写しを添付します。

特例を使うと保険料も下がる前の額で払うのですか?

いいえ。保険料は実際の報酬に応じた、下がった後の標準報酬月額で計算されます。下がる前の標準報酬月額とみなされるのは年金額の計算だけです。

申出を忘れていた場合はどうなりますか?

申出日より前の期間についても、2年まで遡って特例が認められます。子が3歳になった後でも、2年以内の期間なら申し出る価値があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。