社会保険
会社をたたむ一人社長の企業型DC、6か月放置で自動移換
結論
会社の解散で企業型DCは終了し、終了月の翌月から6か月以内にiDeCo等へ移さない資産は国民年金基金連合会へ自動移換されます(確定拠出年金法83条)。移換時に4,348円、4か月後から月98円の手数料がかかり、資産は運用されず、その期間は60歳から受け取るための通算加入者等期間に入りません。
- 法人が解散すると企業型年金規約の承認は効力を失い(法47条4号)、企業型DCは終了する(法45条)
- 3年放置してからiDeCoへ移すと、手数料は移換時4,348円+管理32か月分3,136円+移換3,379円の計1万863円
- 資格喪失・終了から6か月以内にiDeCo加入者になれば、移換の申出なしでiDeCoへ移される
このテーマの全体像 一人社長の社会保険料はいくらか
一人社長の企業型DCは、会社を設立したときの「入口」はよく語られますが、会社をたたんで個人事業に戻るときの「出口」はほとんど語られません。出口の手続きは社長本人が動かない限り進まず、放置すると資産は運用の止まった口座に移されます。
この記事では、会社の解散から自動移換までの流れを確定拠出年金法の条文で追い、手数料と受給年齢への影響を国民年金基金連合会の公表額で計算します。企業型DCの入口(拠出限度額・損金算入)は一人社長の企業型DCは月5.5万円。12月から6.2万円で扱っています。
会社を解散すると、企業型DCは自動的に終わる
確定拠出年金法47条は、事業主が次のいずれかに当たると、企業型年金規約の承認が効力を失うと定めています。
| 47条の号 | 事由 | 届け出る人 |
|---|---|---|
| 2号 | 法人が合併で消滅 | 代表役員だった者 |
| 3号 | 破産手続開始の決定で解散 | 破産管財人 |
| 4号 | 上記以外の理由で解散 | 清算人 |
| 5号 | 厚生年金適用事業所の事業主でなくなった | 代表役員だった者 |
届出の期限は該当した日から30日以内、届出先は厚生労働大臣です。規約の承認が効力を失うと、法45条2号により企業型年金はその時点で終了します。
一人社長が株主総会(合同会社なら社員の同意)で任意解散を決めれば4号に当たり、清算人である社長自身が届け出ることになります。解散の登記と清算の流れは法人の解散・清算は登記だけで4.1万円を見てください。
5号は「厚生年金適用事業所の事業主でなくなったとき」です。解散以外にも企業型DCが終わる道筋が条文上用意されている、という点は押さえておいてください。
6か月以内に移さないと、国民年金基金連合会へ自動移換
企業型年金が終わっても、社長個人の資産(個人別管理資産)は残ります。法83条1項は、この資産を次の期限までに移換しなかった場合、資産管理機関が国民年金基金連合会へ移換すると定めています。
- 会社は残し、社長が退任・資格喪失した場合(1号):資格を喪失した日の属する月の翌月から6か月以内
- 企業型年金そのものが終了した場合(2号):終了した日の属する月の翌月から6か月以内
たとえば9月20日に解散して企業型DCが終了したなら、10月から数えて6か月、つまり翌年3月までが移換の期限です。これを過ぎたものが「自動移換」です。
自動移換は罰則ではなく、行き先のない資産を保管するための受け皿です。ただ、受け皿であるがゆえに、運用も給付の準備も止まります。
自動移換で起きる3つのこと
iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)は、自動移換のデメリットとして次の3点を挙げています。
- 資産が運用されない
- 管理手数料がかかる。自動移換された資産から差し引かれる
- 自動移換中の期間は通算加入者等期間に算入されない。受給できる年齢が遅くなることがある
3つ目がもっとも重い論点です。
60歳から受け取るには通算加入者等期間10年が要る
法33条は、老齢給付金を請求できる年齢を通算加入者等期間の長さで区切っています。60歳以上61歳未満で請求するには10年、61歳なら8年、62歳なら6年が必要です。年数が足りないと、受け取れる年齢が後ろへずれます。
一人社長として企業型DCに加入していた期間は通算加入者等期間に入ります。しかし会社をたたんで自動移換のまま放置した期間は、何年あっても1か月も増えません。個人事業に戻ってiDeCoに加入していれば、その加入期間は通算されます。同じ年数でも、自動移換で過ごすかiDeCoで過ごすかで、60歳時点の期間が変わるわけです。
手数料を放置年数別に計算する
iDeCo公式サイトの手数料表は次のとおりです。
| 場面 | 特定運営管理機関 | 国民年金基金連合会 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 自動移換される際 | 3,300円 | 1,048円 | 4,348円 |
| 自動移換されている間(月額) | 58円 | 40円 | 98円 |
| iDeCoへ資産を移換するとき | 550円 | 2,829円 | 3,379円 |
月額の管理手数料は、自動移換された月の4か月後からかかり、3月末に当年度分をまとめて4月に資産から差し引かれます。資産が0円の人は負担がありません。
これを使い、自動移換されてから何年後にiDeCoへ移すかで手数料の総額を計算しました。
| 自動移換からiDeCoへ移すまで | 管理手数料がかかる月数 | 手数料の合計 |
|---|---|---|
| 1年 | 8か月(784円) | 8,511円 |
| 3年 | 32か月(3,136円) | 1万863円 |
| 10年 | 116か月(1万1,368円) | 1万9,095円 |
※ 自動移換時4,348円+月98円×月数+iDeCoへの移換3,379円。iDeCo側の口座管理手数料は含めない
手数料だけなら、10年放置しても2万円弱です。金額そのものより、その間の運用益がゼロになることと、通算加入者等期間が増えないことのほうが影響は大きいと考えられます。資産が数百万円あれば、運用の有無による差は手数料の差を簡単に上回ります。
個人事業に戻るなら、iDeCo加入で移換も済む
会社をたたんで個人事業主に戻ると、国民年金の第1号被保険者になります。第1号被保険者はiDeCoに加入でき、掛金の上限は月6万8,000円、令和8年12月からは月7万5,000円です(国民年金基金・付加保険料と合算。詳しくは個人事業主のiDeCoは月6.8万円)。
移換の手続きは、iDeCoの運営管理機関を選び、「個人別管理資産移換依頼書」を出すのが基本です。加えて国民年金基金連合会は、自動移換を減らすための取り扱いとして次を公表しています。
- 企業型DCの資格喪失後6か月以内に新たにiDeCo加入者になったことが確認できた人は、移換の申出をしなくてもiDeCoへ移換される
- すでに自動移換された人も、新たにiDeCo加入者になったことが確認できれば、同様に移換される
つまり、廃業届や国民年金の切り替えと同じ時期にiDeCoへの加入を申し込んでおけば、移換漏れの心配はかなり減ります。個人事業と法人の間で切り替えるときの届出の期限は、法人成りしたら、個人事業の店じまいに5つの期限があるも参考になります。
会社をたたむ判断と、DCの出口は分けて考える
会社をたたむかどうかは、DCではなく本業の手取りで決まります。売上1,000万円・経費200万円・東京23区・インボイス登録あり・青色申告(e-Tax)の条件で計算エンジンを回すと、個人事業の手取りは540.7万円、法人化(最適報酬月54万円)では536.6万円で、2年目以降の税理士報酬を含めた実質差は**−24.1万円**です。この条件の損益分岐となる所得は1,266万円で、売上が下がって法人の利点が消えた一人社長が個人へ戻る判断は、こうした差額から出てきます。
ただし、その差額には企業型DCの将来価値は入っていません。会社をたたむとDCの拠出は止まり、資産は移換を待つ状態になります。個人に戻る判断をするなら、同じタイミングでiDeCoへの加入と移換を済ませることで、DCで積み上げた期間と資産を切らさずに済みます。個別の手取り差は、自分の売上と経費で判定ツールにかけて確かめてください。
まとめ
- 法人が解散すると企業型年金規約の承認は効力を失い、企業型DCは終了する(確定拠出年金法47条4号・45条)
- 終了・資格喪失の月の翌月から6か月以内に移さない資産は、国民年金基金連合会へ自動移換される(83条)
- 自動移換中は運用されず、月98円の管理手数料がかかり、通算加入者等期間にも入らない
- 3年放置してからiDeCoへ移すと手数料は計1万863円。重いのは手数料より運用停止と期間の不算入
- 個人事業に戻ってiDeCoに加入すれば、6か月以内なら申出なしで移換される
よくある質問
自動移換された資産は消えてしまいますか?
消えません。国民年金基金連合会(特定運営管理機関)で記録が管理され、あとからiDeCoや他の企業型DCへ移せます。ただし自動移換中は運用されず、管理手数料が資産から差し引かれます。
自動移換の手数料はいくらですか?
iDeCo公式サイトの表では、自動移換される際に特定運営管理機関3,300円と国民年金基金連合会1,048円、自動移換中は4か月後から月58円と月40円です。iDeCoへ移すときは550円と2,829円がかかります。
会社を残したまま社長を退任した場合も自動移換されますか?
加入者の資格を喪失した月の翌月から6か月以内にiDeCo等へ移換しなければ、同じく自動移換の対象です(確定拠出年金法83条1項1号)。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。