社会保険
中退共に社長は入れない。従業員の退職金は月5,000円から
結論
中退共は「常時雇用する従業員数」または「資本金額」が業種別の基準以下の事業主なら、法人・個人事業主のどちらでも契約できます。ただし被共済者は事業主に雇用される従業員に限られ、会社と委任関係にある役員(取締役・合同会社の業務執行社員)は対象外です。掛金は月5,000円〜30,000円の16段階で、新規加入から1年間は掛金の2分の1(上限5,000円)が国から助成されます。
- 中小企業者の範囲は業種で違う。一般業種は従業員300人以下または資本金3億円以下、小売業は50人以下または資本金5,000万円以下(中小企業退職金共済法2条)
- 掛金は5,000円・6,000円・7,000円・8,000円・9,000円・10,000円と、以後2,000円刻みで30,000円まで全16段階(同法施行規則55条)
- 掛金月額18,000円以下からの増額には、増額分の3分の1が1年間助成される。20,000円以上からの増額は助成の対象外
中退共(中小企業退職金共済)は、法人でも個人事業主でも契約できます。ただし対象になるのは「事業主に雇用される従業員」で、会社の役員である社長本人は入れません。従業員を雇う予定があるなら、法人化の有無より先に確認すべき制度です。
「中小企業者」かどうかは業種で決まる。法人か個人かは問わない
中小企業退職金共済法2条1項は、中退共と契約できる「中小企業者」を業種別に定義しています。
| 業種 | 常時雇用する従業員数 | または 資本金・出資の総額 |
|---|---|---|
| 一般業種 | 300人以下 | 3億円以下 |
| 卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
| サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
| 小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
この2つの基準は「または」でつながっています。従業員数の基準は法人・個人事業主どちらにも当てはまりますが、資本金の基準は「法人である事業主」に限った条文です。つまり個人事業主は資本金の基準を使えませんが、従業員数の基準だけで十分に中小企業者に該当します。法人成りが中退共の利用条件になっているわけではありません。
一人社長が中退共を検討する場面は、法人化の前後どちらでもありえます。判定の軸は「従業員を雇うかどうか」で、「法人か個人事業主か」ではありません。
被共済者は「雇用する従業員」。役員は委任関係で対象外
中小企業退職金共済法2条3項は、退職金共済契約を「事業主が機構に掛金を納付し、機構がその事業主の雇用する従業員の退職について退職金を支給することを約する契約」と定義しています。対象になるのは雇用関係にある従業員です。
会社法330条は、株式会社と役員の関係を「委任に関する規定に従う」と定めています。合同会社の業務執行社員も、593条で善良な管理者の注意義務・忠実義務を負う立場とされ、従業員のような雇用関係ではありません。取締役や合同会社の業務執行社員は、会社に雇われているのではなく、経営を委任されている立場です。
この構造から、代表取締役や合同会社の代表社員である一人社長は、中退共の被共済者になれません。社長1人だけの会社は、そもそも契約の相手になる「雇用する従業員」がいないため、中退共を契約できません。
社長本人の退職金の受け皿は、中退共ではなく別の制度です。小規模企業共済のデメリットや役員退職金の功績倍率は、この社長本人の側を扱っています。中退共は、社長が従業員を雇ったあとの、その従業員のための制度です。
掛金は月5,000円から30,000円まで16段階
中小企業退職金共済法施行規則55条は、掛金月額を次の16段階に固定しています。
| 掛金月額 |
|---|
| 5,000円・6,000円・7,000円・8,000円・9,000円・10,000円 |
| 12,000円・14,000円・16,000円・18,000円・20,000円 |
| 22,000円・24,000円・26,000円・28,000円・30,000円 |
10,000円までは1,000円刻み、それを超えると2,000円刻みです。従業員ごとに額を選べるので、全員を同じ額にする必要はありません。短時間労働者には別枠があり、2,000円・3,000円・4,000円という10,000円未満の特例掛金月額を選べます。
掛金は事業主が全額を負担し、従業員に賃金から差し引かせることはできません。法人なら福利厚生費として全額が損金になり、個人事業主なら必要経費になります。ここは法人・個人事業主で差がありません。
新規加入から1年間、掛金の半分を国が助成する
厚生労働省は、新しく中退共に加入する事業主に掛金の一部を助成しています。新規加入助成は、掛金月額の2分の1(従業員ごと上限5,000円)を、加入後4か月目から1年間受けられます。短時間労働者の特例掛金月額(4,000円以下)にはさらに上乗せがあり、2,000円の場合は300円、3,000円の場合は400円、4,000円の場合は500円が加算されます。
上限5,000円という条件から、掛金月額ごとの実質負担は次のように変わります。
| 掛金月額 | 助成額(1年目) | 実質負担(1年目) | 実質負担(2年目以降) |
|---|---|---|---|
| 5,000円 | 2,500円 | 2,500円 | 5,000円 |
| 10,000円 | 5,000円 | 5,000円 | 10,000円 |
| 18,000円 | 5,000円 | 13,000円 | 18,000円 |
| 30,000円 | 5,000円 | 25,000円 | 30,000円 |
掛金10,000円までは助成率が一律2分の1ですが、10,000円を超えると助成額が5,000円で頭打ちになり、実質負担率は掛金が上がるほど高くなります。掛金を高く設定するほど、割合としての助成メリットは薄れます。
掛金を後から増額する場合も助成があります。掛金月額が18,000円以下の従業員の掛金を増額すると、増額分の3分の1が増額月から1年間助成されます。ただし20,000円以上の掛金月額からの増額は、この助成の対象外です。一度18,000円を超えて設定すると、その後の増額では助成を受けられません。
退職金は機構から従業員に直接払われる
中退共のもう1つの特徴は、退職金が会社を経由しない点です。事業主は毎月の掛金を機構に納付するだけで、退職金は独立行政法人勤労者退職金共済機構が従業員へ直接支払います。会社が自前で退職金を積み立てる場合と違い、積立金は会社の資産から切り離されており、会社の経営状況にかかわらず従業員の退職金原資が保全されます。中小企業が単独では退職金制度を用意しにくいことを前提に、事業主同士の共済と国の援助で運営する仕組みだからです。
一人社長が初めて従業員を雇う費用で計算した社会保険・労働保険の会社負担に、中退共の掛金を上乗せすると、従業員1人あたりの年間コストがより実態に近づきます。月給30万円・掛金10,000円の従業員なら、初年度は年間コストに実質負担5,000円×12か月=6万円が加わり、2年目以降は12万円が加わります。
同じ「従業員のための上乗せ制度」として、iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)もあります。ただしiDeCo+は対象にできる従業員が厚生年金の被保険者に限られるため、中退共より法人化の有無が結果に効きやすい制度です。
まとめ
- 中退共は業種別の従業員数・資本金基準を満たす事業主なら、法人・個人事業主どちらでも契約できる
- 被共済者は「雇用する従業員」に限られ、会社と委任関係にある役員(社長本人)は対象外
- 掛金は月5,000円〜30,000円の16段階。10,000円までは1,000円刻み、以降は2,000円刻み
- 新規加入から1年間は掛金の2分の1(上限5,000円)が助成され、掛金が高いほど実質の助成率は下がる
- 掛金月額18,000円以下からの増額には別の助成があるが、20,000円以上からの増額は対象外
よくある質問
中退共は個人事業主でも加入できますか?
加入できます。中小企業退職金共済法が定める中小企業者の基準は「常時雇用する従業員数」または「資本金額」で、事業主が法人か個人事業主かは問いません。ただし契約できるのは従業員がいる事業主で、従業員を1人も雇っていない個人事業主や一人社長は契約の相手になれません。
一人社長が自分の退職金として中退共を使うことはできますか?
できません。被共済者は事業主に雇用される従業員に限られ、会社と委任関係にある役員は対象外です。社長本人の退職金は、小規模企業共済や役員退職金など別の制度で検討します。
従業員を増やしたら掛金の助成は減りますか?
助成は従業員1人ごとに計算されるため、対象の従業員が増えれば助成額の合計も増えます。1人あたりの助成額は、新規加入から1年間は掛金の2分の1(上限5,000円)です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。