設立の手続き

高度管理医療機器の販売業許可は法人成りで取り直し。管理者と空白期間

結論

薬機法には高度管理医療機器等の販売業・貸与業の許可を引き継ぐ規定がなく、法人成りでは会社が営業所ごとに新しく許可を受けます。承継の規定があるのは製造販売の承認など一部だけです。無許可で販売すると3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)の対象なので、会社の許可が出てから会社で売り始め、個人の営業所は30日以内に廃止を届け出ます。

  • 許可は営業所ごとに、都道府県知事(保健所設置市・特別区では市長・区長)が与える。有効期間は6年(39条2項・6項)
  • 営業所管理者は、販売等の実務3年以上+基礎講習の修了が原則。コンタクトレンズ等だけを売る営業所は実務1年以上+基礎講習(施行規則162条)
  • 東京23区・40〜59歳・物品販売業(第1種5%)の試算では、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,341万円

コンタクトレンズなどの高度管理医療機器を個人で販売・貸与している事業者が法人化すると、薬機法の許可は会社へ移りません。会社が営業所ごとに許可を受け直す必要があります。

この記事では、承継の規定がない条文の構造、会社で許可を受けるまでの順番、営業所管理者を社長が兼ねる条件を確認し、最後に法人化の損益分岐を計算エンジンで出します。都道府県ごとに定める申請手数料の額は扱いません。

医療機器の販売は、クラスで手続きが3段階に分かれる

薬機法は医療機器をリスクで分け、販売するときの手続きも分けています。

区分販売・貸与の手続き
高度管理医療機器・特定保守管理医療機器(コンタクトレンズなど)都道府県知事の許可(39条)。営業所ごとに管理者を置く
管理医療機器(特定保守管理医療機器を除く)営業所ごとの事前の届出(39条の3)
一般医療機器(特定保守管理医療機器を除く)許可・届出は不要。品質確保の実施方法の遵守(40条3項)

自分の扱う品目がどのクラスかは、製品の直接の容器や被包で確認できます。高度管理・管理・一般の別と、特定保守管理医療機器ならその旨の記載が義務づけられているためです(63条1項8号、施行規則222条)。

許可は営業所ごとに、その所在地の都道府県知事(保健所を設置する市や特別区では市長・区長)が与えます(39条2項)。有効期間は6年です(同条6項)。

この記事で主に扱うのは、いちばん重い「許可」の段です。届出の段も、名義が個人から会社に変われば会社で届け出直す点は同じです。

承継の規定があるのは「承認」の側だけ

薬機法には「承継」という見出しの条文がいくつかあります。たとえば医療機器の製造販売の承認を受けた者が、相続・合併・分割や、承認品目の資料等を譲渡したときは、承継した者が承認取得者の地位を引き継ぎます(23条の2の11)。

ところが、**販売業・貸与業の許可について同じ条文はありません。**39条の許可に準用される条文(40条1項)も、構造設備の基準、管理者の義務、休廃止の届出などで、地位の承継は入っていません。許可は「申請者」に与えられ、申請書には氏名・名称と、法人なら代表者と薬事に関する業務に責任を有する役員の氏名を書きます(39条3項)。

つまり、個人と、その人が設立した会社は別の申請者です。法人成りでは、会社が新しく許可を申請します。

会社の審査では、役員が欠格事由を問われる

会社の申請では、申請者である会社に加えて、薬事に関する業務に責任を有する役員が欠格事由に当たらないかを審査されます(39条5項が準用する5条3号)。許可を取り消されて3年を経過しない者、拘禁刑以上の刑の執行後3年を経過しない者、薬事関係法令の違反から2年を経過しない者などが該当します。

一人会社なら社長がこの役員です。家族を取締役に入れる場合も、薬事に責任を持つ役員にするなら同じ審査がかかります。

空白期間を作らない順番

無許可で高度管理医療機器を販売・貸与すると、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその両方の対象です(84条12号)。両罰規定により、会社にも罰金刑が科されます(90条)。会社の許可が出る前に会社名義で売り始めるのは避けなければなりません。

条文の構造から、手続きの順番はほぼ1つに決まります。

  1. 会社を設立する(定款の目的に医療機器の販売・貸与を入れる)
  2. 会社で、営業所ごとに販売業・貸与業の許可を申請する。管理者の氏名を記載する
  3. 会社の許可が出るまでは、個人の許可で販売を続ける
  4. 会社の許可が出た日から、会社で仕入れ・販売を始める
  5. 個人の営業所を廃止し、30日以内に廃止を届け出る(40条1項が準用する10条1項)

同じ店舗を使い続ける場合も、営業所の構造設備の基準に会社として適合しているかを改めて確認されます。申請から許可までの標準的な期間や手数料は、営業所のある都道府県・保健所設置市の窓口で確認してください。

在庫と仕入先との契約も、許可日に合わせて切り替える

個人で仕入れた在庫を会社へ移すと、会社が許可業者として販売することになります。在庫の譲渡は会社の許可が出たあとにし、卸からの仕入れも会社の許可番号で口座を開き直す必要があります。卸の側も、販売先が許可業者であることを確認するためです。

在庫を個人から会社へ移すときの税務上の扱いは、法人成りの棚卸資産の引継ぎで整理しました。

営業所管理者は社長が兼ねられる

許可業者は、営業所ごとに販売・貸与を実地に管理する高度管理医療機器等営業所管理者を置かなければなりません(39条の2第1項)。基準は施行規則162条にあります。

営業所の取扱品目管理者の基準
高度管理医療機器等全般高度管理医療機器等の販売等の業務に3年以上従事したあと、登録講習機関の基礎講習を修了
コンタクトレンズなど指定視力補正用レンズ等だけ上の基準、または販売等の業務に1年以上従事したあと基礎講習を修了
プログラム高度管理医療機器だけ基礎講習の修了

個人事業のときに事業主本人が管理者だったなら、その実務経験と講習歴は本人のものなので、会社の社長になっても使えます。社長本人を管理者にすれば、別に人を雇う必要はありません。

ただし管理者は、知事の許可を受けた場合を除き、その営業所以外の場所で業として営業所の管理その他薬事に関する実務に従事できません(39条の2第2項)。営業所を2つ持つ場合は、もう1か所に別の管理者が要ります。個人事業で従業員を管理者にしていた場合は、その人が会社に移って選任できる状態になってから申請します。

物品販売業の個人事業税は法人化で消える

医療機器の販売は個人事業税の物品販売業、貸与は物品貸付業で、どちらも第1種事業(税率5%)です(地方税法72条の2第8項)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。

仕入れを含む経費を年1,500万円と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。インボイス登録済みを前提にしているので、法人化による消費税の免税は見込んでいません。

事業所得(売上−経費)最適な役員報酬2年目以降初年度(設立費用込み)
600万円月42万円−34.0万円−44.0万円
800万円月45万円−18.9万円−28.9万円
1,000万円月45万円−10.0万円−20.0万円
1,200万円月54万円−4.3万円−14.3万円
1,500万円月54万円+26.1万円+16.1万円
2,000万円月90万円+65.8万円+55.8万円

※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 1500 --business type1 --age 40to64 --note '物品販売業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費1,500万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は物品販売業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。都道府県等の許可申請手数料は含まない。2026年(令和8年)分基準の概算

損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円、初年度が1,341万円です。実際の初年度には、ここに会社の許可申請手数料が加わります。

販売業は売上が大きくても利益率が低いことが多く、判定に効くのは売上ではなく事業所得です。仕入れの多い月と少ない月で利益がぶれる場合は、複数年の平均で見るほうが判断がぶれません。自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめてください。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。許認可全般で承継できるもの・できないものの見分け方は法人成りで許認可は引き継げるかで扱いました。

まとめ

  • 高度管理医療機器等の販売業・貸与業の許可には承継の規定がなく、法人成りでは会社が営業所ごとに許可を受け直す
  • 承継の規定があるのは製造販売の承認など「承認」の側で、販売業の許可には準用されない
  • 無許可販売は3年以下の拘禁刑・300万円以下の罰金(併科あり)。会社の許可が出てから会社で売り、個人の営業所は30日以内に廃止届
  • 営業所管理者は、実務3年以上(コンタクトレンズ等だけなら1年以上)+基礎講習。社長本人が満たせば兼任できる
  • 東京23区・40〜59歳の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,341万円

よくある質問

法人成りしても、個人の許可番号のまま会社で販売を続けられますか。

続けられません。許可は申請者ごとに与えられ、薬機法には販売業の許可を相続・事業譲渡で引き継ぐ規定がありません。会社として販売するには、会社が営業所ごとに許可を受ける必要があります。

社長が営業所管理者を兼ねてもよいですか。

社長本人が施行規則162条の基準(実務3年以上と基礎講習の修了など)を満たしていれば、管理者に置けます。ただし管理者は、知事の許可を受けた場合を除き、その営業所以外の場所で業として薬事の実務に従事できません(39条の2第2項)。

管理医療機器だけを売る場合も許可が要りますか。

特定保守管理医療機器に当たらない管理医療機器だけなら許可ではなく、営業所ごとの事前の届出です(39条の3)。法人成りでは会社の名義で届け出直すことになります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。