役員報酬

海外出張の観光部分は按分。業務従事割合50%と90%で段差が出る

結論

観光を併せた海外出張の旅費は、業務の期間と観光の期間の比で按分し、観光部分は個人事業主なら必要経費にならず、法人なら役員への給与になります(法基通9-7-9、所基通37-21)。団体視察の通達では業務従事割合50%以上で往復交通費が全額、損金等算入割合90%以上で全額が算入され、渡航費60万円の設例では視察を0.25日増やすだけで算入額が30万円から45万円に跳びました。

  • 業務従事割合=視察等の日数÷(視察等の日数+観光の日数)。往復の移動日と休日は分母に入らず、日数は8時間を1日として0.25日単位で数える
  • 業務従事割合85%は10%単位の四捨五入で損金等算入割合90%になり全額算入。15%なら20%に切り上がり、全額不算入を免れる
  • 観光部分20万円を会社が負担すると、売上1,200万円の合同会社では法人税等4.3万円に社長の所得税・住民税7.6万円が重なり、計11.9万円の負担増になる試算

海外出張の途中に観光を入れても、旅費全体が経費にならなくなるわけではありません。国税庁の通達は、業務の期間と観光の期間の比で按分する方法を定めています。この記事では、その按分の具体的な数え方と、数え方に組み込まれた段差、そして按分で外れた観光部分の税負担が個人事業主と法人で違う点を、計算で示します。

按分のルールは個人と法人でほぼ同じ文言

海外渡航費の扱いは、法人税基本通達9-7-6〜9-7-10と、所得税基本通達37-16〜37-22に、ほぼ同じ構成で書かれています。

論点法人(法基通)個人事業主(所基通)
経費になる範囲業務の遂行上必要で、通常必要と認められる部分(9-7-6)事業の遂行上直接必要な場合に限る(37-16)
業務に当たらない旅行観光渡航の許可を得た旅行、旅行会社の団体旅行への応募、主に観光目的の同業者団体の旅行(9-7-7)同じ3つ(37-19)
業務と観光を併せた旅行期間の比等で按分し、業務外の部分は役員・使用人への給与(9-7-9)期間の比等で按分し、業務の部分を必要経費に算入(37-21)
商談が直接の動機の場合業務を行う場所までの往復旅費は業務分とし、残りを按分(9-7-9ただし書)同じ(37-21ただし書)
同伴した親族の旅費原則として役員への給与(9-7-8)原則として必要経費にしない(37-20)

按分の仕組みは同じです。違うのは、按分で外れた部分の行き先です。個人事業主では単に経費にならない(家事上の経費)だけですが、法人では外れた部分が役員への給与になります。この差は後半で金額にします。

なお、旅行期間のおおむね全期間を通じて明らかに業務上必要と認められる渡航なら、不当に多額でない限り全額を旅費にできます(9-7-6の注、37-18)。按分が問題になるのは、観光の日程がはっきり入っている場合です。

業務従事割合は「視察等÷(視察等+観光)」で数える

基本通達は「期間の比等」と書くだけで、日数の数え方までは定めていません。具体的な数え方を示しているのが、平成12年の法令解釈通達「海外渡航費の取扱いについて」です。この通達は同業者団体などが主催する海外視察を対象にしていますが、日数の区分と端数の扱いまで定めているのはこの通達です。

業務従事割合は次の式で計算します。

業務従事割合 = 視察等の業務に従事したと認められる日数 ÷(視察等の日数 + 観光を行ったと認められる日数)

旅行日程は「視察等」「観光」「旅行日」「その他」の4つに分けます。分母に入るのは視察等と観光だけで、目的地への往復や移動に充てた旅行日と、土日などの休日・休養・帰国準備に充てたその他の日は入りません。

日数は、昼間の通常の業務時間(おおむね8時間)を1.0日とし、おおむね0.25日単位で数えます。夜に業務をした場合は、その分を視察等の日数に加えます。

区分主な例(通達の列挙)
視察等工場・店舗の視察や訪問、展示会・見本市への参加、市場や流通機構の調査、国際会議への出席、海外セミナーへの参加、同業者団体や官庁の訪問・懇談
観光自由行動時間の私的な外出、観光に付随した簡易な見学や儀礼的な訪問、私的な立場で出席したロータリークラブ等の会議
旅行日目的地までの往復と移動に要した日
その他土日などの休日(業務をした日は視察等へ、一連の観光の一部なら観光へ)、休養・帰国準備

視察と称していても、儀礼的な表敬訪問や観光のついでの見学は観光の日数に入ります。

50%と90%の線で、算入額は一段で跳ぶ

業務従事割合が出たら、それを10%単位に区分した「損金等算入割合」を旅費に掛けます。10%未満の端数は四捨五入です。そのうえで次の3つの特則があります。

  1. 損金等算入割合が90%以上なら、旅費の全額を算入する
  2. 損金等算入割合が10%以下なら、全額を算入しない
  3. 業務従事割合が50%以上なら、往復の交通費は全額を算入し、宿泊費などその他の費用だけに損金等算入割合を掛ける

往復の交通費30万円、宿泊費などその他の費用30万円、計60万円の海外視察で、視察等と観光の合計を5日として日数の配分を変えると、算入額は次のようになります。

視察等の日数観光の日数業務従事割合損金等算入割合適用される計算経費(損金)になる額ならない額
0.5日4.5日10%10%全額不算入(10%以下)0円600,000円
0.75日4.25日15%20%総額×割合120,000円480,000円
1日4日20%20%総額×割合120,000円480,000円
2日3日40%40%総額×割合240,000円360,000円
2.25日2.75日45%50%総額×割合300,000円300,000円
2.5日2.5日50%50%交通費全額+その他×割合450,000円150,000円
3日2日60%60%交通費全額+その他×割合480,000円120,000円
4日1日80%80%交通費全額+その他×割合540,000円60,000円
4.25日0.75日85%90%全額(90%以上)600,000円0円
4.5日0.5日90%90%全額(90%以上)600,000円0円

※ 往復の交通費30万円・宿泊費などその他の費用30万円。旅行日(往復の移動日)と休日は分母に入れない。海外渡航費の取扱いについて(法令解釈通達)2〜4の計算。当サイトで計算(scripts/kaigai-shucchou-kanko-anbun.mjs)

表から読み取れる段差は3つです。

  • 45%と50%の間:視察等が2.25日から2.5日へ0.25日増えるだけで、算入額は30万円から45万円へ15万円増えます。45%は四捨五入で損金等算入割合が50%になりますが、往復交通費の全額算入は「業務従事割合」が50%以上であることが条件なので、45%では使えません
  • 80%と85%の間:85%は四捨五入で損金等算入割合が90%になり、全額算入の特則に入ります。算入額は54万円から60万円へ、0.25日で6万円増えます
  • 10%と15%の間:15%は20%に切り上がるため、全額不算入を免れて12万円が算入されます

同じ「四捨五入」でも、50%の判定は端数処理前の業務従事割合、90%・10%の判定は端数処理後の損金等算入割合で行う、という書き分けがこの段差を生んでいます。0.25日は約2時間なので、日程表に記録した業務の時間がそのまま金額を動かします。

商談が目的の出張は、往復の航空券が先に外れる

上の50%の特則は団体視察の通達のものです。基本通達9-7-9と37-21のただし書には別の扱いがあります。渡航の直接の動機が特定の取引先との商談や契約の締結で、その機会に観光を併せた場合は、取引先の所在地など業務を行う場所までの往復旅費を業務分として先に差し引き、残りだけを期間の比などで按分します。この場合、業務の割合が50%に届かなくても往復の旅費は按分の対象から外れます。

逆に、旅行会社の団体旅行に応募した渡航や、観光渡航の許可を得た渡航は、原則として業務上必要な渡航に当たりません(9-7-7、37-19)。それでも旅行中に業務に直接関連する部分があれば、その部分に直接要した費用だけは算入できます(9-7-10、37-22)。

外れた観光部分は、個人事業主では家事費、法人では役員給与

按分で経費にならなかった部分を誰がどう負担するかで、税の重さが変わります。売上と観光部分の金額を変えて、当サイトの計算エンジンで比べました。

売上経費にならない額個人事業主:税・国保の増加法人:観光分を社長が自腹(法人税等の増加)法人:会社が負担(法人税等+社長の所得税・住民税)最適報酬
1,200万円20万円77,540円42,900円42,900円+75,700円=118,600円月54万円
1,200万円40万円157,520円85,600円85,600円+130,500円=216,100円月54万円
1,600万円20万円97,400円46,800円46,800円+75,700円=122,500円月54万円
1,600万円40万円194,800円92,900円92,900円+130,500円=223,400円月54万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 「増加」は、観光部分を経費(損金)にできた場合と比べた負担の増え方。個人事業主は所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料、法人は法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税 ※ 役員報酬は売上ごとの最適額で固定。会社が負担した場合の社長側は所得税(復興特別所得税込み)・住民税の増加で、臨時の経済的利益にかかる社会保険料は含めていない。当サイトで計算(scripts/kaigai-shucchou-kanko-anbun.mjs)

個人事業主の列は、観光部分を経費にできないことで失う税と国保の軽減です。売上1,200万円で20万円なら7.8万円で、所得税・住民税に加えて個人事業税と国民健康保険料も所得に連動するため、外れた額の4割近くになります。

法人で観光部分を社長が自分で払った場合、増えるのは法人税等だけで、同じ20万円で4.3万円です。法人の税率が個人の限界税率より低い所得帯なので、経費にできない痛みは個人より小さく出ます。

会社が払ったままにすると、負担は二重になる

問題は、観光部分まで会社が払ったままにした場合です。法基通9-7-9によって観光部分は役員への給与になります。役員給与が損金になるのは定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに当たる場合で(No.5211)、旅行のたびに生じる臨時の給与はどれにも当たりません。会社の損金にならないまま、社長の給与所得にも加わります。

売上1,200万円・観光部分20万円なら、法人税等の4.3万円に社長の所得税・住民税7.6万円が重なり、計11.9万円です。個人事業主が同じ20万円を経費にできない場合の7.8万円より重くなります。私的な支出を会社が負担した場合の一般的な扱いは社長の私的な支出は役員給与になるで、役員だけの旅行そのものが給与になる話は一人社長の社員旅行で扱っています。この記事の論点は、業務の出張に観光が混ざった場合に、どこまでが旅費として残るかという線引きです。

従業員の場合は事情が違います。業務外の部分が給与になっても、使用人への給与は損金になります(個別通達2の注)。損金にならない組み合わせが起こるのは役員だからです。

日当と消費税は国内出張と扱いが違う

海外出張で日当を払う場合、所得税の非課税は国内・海外を区別していませんが、消費税では海外への出張のための出張旅費・宿泊費・日当等は原則として課税仕入れになりません(タックスアンサー No.6459)。日当が非課税になる仕組みと、役員報酬に上乗せした場合との比較は役員の出張日当は非課税で計算しています。観光の日まで日当を払えば、その部分は旅行に通常必要な範囲を外れます。

家族を連れて行った場合、同伴者の旅費は原則として法人では役員への給与、個人事業主では必要経費になりません(9-7-8、37-20)。例外は、常時補佐が必要な身体障害者の補佐人、国際会議で配偶者の同伴が必要な場合、使用人に適任者がいないため語学や専門知識のある親族を同伴する場合などに限られます。

按分を説明するために残す資料は、個別通達1が挙げるものが参考になります。旅行の主催者・目的・日程・費用と、参加者の氏名・役職です。単独の出張なら、日ごとの訪問先と時間を記録した日程表と、商談の議事録や展示会の入場記録がこれに当たります。

まとめ

  • 観光を併せた海外出張の旅費は、法人でも個人事業主でも期間の比などで按分する。数え方の具体的な基準は平成12年の法令解釈通達にある
  • 業務従事割合は視察等÷(視察等+観光)で、移動日と休日は分母に入らない。0.25日単位で数える
  • 業務従事割合50%以上で往復交通費が全額、損金等算入割合90%以上で全額算入。四捨五入の前後で判定が分かれ、0.25日で15万円動く設例もあった
  • 外れた観光部分は、個人事業主では経費にならないだけだが、法人で会社が負担すると損金にならない役員給与として社長にも課税される
  • 社長が観光部分を自分で負担した場合の法人税等の増加は、同じ額を個人事業主が経費にできない場合より小さい試算だった

海外出張の頻度や金額は事業によって大きく違います。出張費が法人化の判断を動かすほどの額かどうかは、一般論ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。計算の前提は計算方法と前提条件に置いてあります。

よくある質問

商談のための海外出張で、終わった後に数日観光した場合、航空券代はどうなりますか

渡航の直接の動機が特定の取引先との商談や契約の締結である場合、取引先の所在地など業務を行う場所までの往復の旅費は業務に必要なものとして扱われ、残りの費用を期間の比などで按分します(法基通9-7-9、所基通37-21のただし書)。

海外出張に配偶者を連れて行った場合、配偶者の旅費は経費になりますか

原則として、法人では役員への給与、個人事業主では必要経費に算入しない費用になります(法基通9-7-8、所基通37-20)。常時補佐が必要な身体障害者の補佐人、国際会議で配偶者の同伴が必要な場合、使用人に適任者がいない語学・専門知識の担い手として同伴する場合などは例外です。

海外出張の旅費で消費税の仕入税額控除はできますか

海外への出張のために支給した出張旅費、宿泊費、日当等は、原則として課税仕入れになりません(タックスアンサー No.6459)。国内出張の旅費と同じ感覚で控除に含めないよう区分が必要です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。