税金の基礎

社長1人で2社を持つと「完全支配関係」。会社間の寄附は損金にも非課税にもならない

結論

社長個人が2社の株式を100%持つと、2社は「個人による完全支配関係」になります。国税庁の質疑応答(グループ法人税制・問5)では、帳簿価額1,000万円以上の資産の譲渡損益の繰延べはこの関係にも適用されますが、寄附金の全額損金不算入と受贈益の益金不算入は「法人による完全支配関係」に限られます。黒字のA社(所得800万円)から赤字のB社へ300万円を贈与すると、A社で損金になるのは50,625円だけで、B社では300万円が益金になり、2社の税は合計20.17万円増えます。

  • 社長が持株会社を作って2社をその下に置けば「法人による完全支配関係」になり、寄附金は全額損金不算入・受贈益は全額益金不算入。2社の税の合計は寄附しない場合と同じ
  • 資金を移すだけなら、寄附ではなく貸付けにすれば税は動かない(利息の設定は別に検討が要る)
  • 譲渡損益の繰延べの対象は、固定資産・土地・有価証券・金銭債権・繰延資産のうち譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のもの

個人事業を法人化した後、別の事業を2社目に分ける一人社長がいます。その時点で、2つの会社は税法上「完全支配関係」にあります。社長個人が両方の株式を全部持っているからです。

完全支配関係には、グループ内の取引を内部の移動として扱う特例がまとまって用意されています。ところが、社長個人が親になっている兄弟会社には、そのうち一部しか適用されません。黒字の会社から赤字の会社へ資金を回すと、そこで差が出ます。

個人が持っていても「完全支配関係」になる

法人税法施行令4条の2第2項は、完全支配関係を「一の者」が法人の発行済株式等の全部を保有する関係と定めています。一の者が個人の場合は、その個人と特殊の関係のある個人(親族など)を合わせて数えます。

社長がA社とB社の株式をそれぞれ100%持っていれば、A社とB社はどちらも社長に完全支配されていて、2社の間にも完全支配関係があります。夫がA社、妻がB社を全部持っている場合も、夫婦を一の者として判定します。

個人支配の兄弟会社に、適用されるもの・されないもの

国税庁の質疑応答(平成22年度税制改正 グループ法人税制関係・問5)は、制度ごとに適用範囲を整理しています。一人社長の兄弟会社に関係する部分を抜き出すと次のとおりです。

制度個人による完全支配(社長が2社を直接持つ)法人による完全支配(持株会社の下に2社)
資産の譲渡損益の繰延べ(法61条の11)適用あり適用あり
寄附金の全額損金不算入(法37条2項)適用なし(一般の寄附金として限度額まで損金)適用あり
受贈益の益金不算入(法25条の2)適用なし(全額益金)適用あり
中小企業者等の軽減税率など2社それぞれで判定2社それぞれで判定(親法人の資本金5億円以上なら制限)

譲渡損益の繰延べは「完全支配関係に関する制限なし」とされ、個人が親でも適用されます。寄附金と受贈益の2つは条文に「法人による完全支配関係に限る」と書かれていて、個人が親の場合は外れます。

黒字の会社から赤字の会社へ300万円を移すと

A社は寄附前の利益800万円、B社は200万円の赤字。A社からB社へ300万円を移すケースで、2社の税(東京23区・均等割を含む)を比べました。

資金の移し方A社の税B社の税2社の合計移さない場合との差
移さない(B社の赤字は繰越)1,847,600円70,000円1,917,600円0円
個人支配の兄弟会社で寄附1,835,900円283,400円2,119,300円+201,700円
持株会社の下の兄弟会社で寄附1,847,600円70,000円1,917,600円0円
A社からB社へ貸付け1,847,600円70,000円1,917,600円0円

※ 2社とも資本金100万円・東京23区。税は法人税・地方法人税・法人住民税・事業税・特別法人事業税の合計で、当サイトの計算エンジンで算出。貸付けの利息は考慮していない ※ A社の一般寄附金の損金算入限度額は(100万円×2.5/1,000+800万円×2.5/100)×1/4=50,625円 ※ 計算は scripts/kanzen-shihai-2sha.mjs による

個人支配の兄弟会社では、A社が300万円を寄附しても、損金になるのは限度額の50,625円だけです。B社では300万円がそのまま受贈益として益金になり、赤字200万円を差し引いても100万円に課税されます。資金は社長のグループの中で動いただけなのに、2社の税は合計20.17万円増えます。

しかも「移さない」場合に翌期以降へ繰り越せたB社の赤字200万円は、受贈益と相殺されて消えます。表の差額以上に、将来の税を減らす手段も失います。

一般の寄附金の限度額の計算は法人の寄附金は全額損金にならないで扱っています。

移すなら貸付けか、取引の対価にする

資金を移す目的が一時的な資金繰りなら、A社からB社への貸付けにすれば、元本の移動に税はかかりません。利息をいくらにするかは別の論点で、無利息にした場合の扱いは個別に確認が必要です。

B社がA社に実際に役務を提供しているなら、時価の対価として業務委託料を払う形もあります。この場合はA社の損金、B社の益金で、2社の合計の税は寄附より小さくなります。対価の額が実態から外れると、その差額が寄附金・受贈益として扱われます。

資産を売ると譲渡損益は繰り延べられる

一方で、資産を売り買いしたときの譲渡損益は、個人支配の兄弟会社でも繰り延べられます(法人税法61条の11)。対象の譲渡損益調整資産は、固定資産・土地・有価証券・金銭債権・繰延資産のうち、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のものです(法人税法施行令122条の12。売買目的有価証券は除く)。

たとえばA社が帳簿価額2,000万円の土地を時価3,000万円でB社に売ると、A社の譲渡益1,000万円はその期の所得に入らず繰り延べられます。B社がその土地を外部に売るなどの戻入事由が生じたときに、A社で取り戻して課税されます。

売った会社と買った会社には、譲渡損益調整資産である旨や戻入事由が生じた旨を互いに通知する義務があります(問13)。2社とも社長1人の会社なので形式は軽くて済みますが、記録は残しておく必要があります。

帳簿価額300万円の車や備品は対象外で、通常どおり売った会社で譲渡損益を計上します。

2社目を作る前に考えること

2社に分ける理由として、中小法人の軽減税率(所得800万円まで15%)を2つ使う計算がよく挙がります。その上限と均等割の二重払いは法人を2社に分けると軽減税率は2つ使えるかで計算しました。

そこに、この記事の論点が加わります。2社の業績が分かれたとき、黒字の会社から赤字の会社へ資金を寄附で回すと、税が増えます。持株会社を作って法人による完全支配に変えれば寄附の問題は消えますが、会社が3社になり、均等割と決算の手間も3社分です。

法人税の負担の水準そのものは法人税15%は実質17.6%で整理しています。会社を分けるかどうかは、1社のままの手取りを判定ツールで確かめたうえで、分けた後の資金の動かし方まで決めてから判断する話です。個別の資本関係で結論が変わるので、2社目を作る段階で税理士に確認する価値があります。

まとめ

  • 社長個人が2社の株式を100%持つと、2社は完全支配関係。夫婦で分けて持つ場合も、親族を合わせて判定する
  • 個人支配の兄弟会社では、譲渡損益の繰延べは適用されるが、寄附金の全額損金不算入と受贈益の益金不算入は適用されない(国税庁 問5)
  • 黒字のA社(所得800万円)から赤字のB社へ300万円を寄附すると、A社の損金は50,625円だけ、B社は300万円が益金で、2社の税は合計20.17万円増える
  • 資金を移すなら貸付けか時価の取引の対価にする。持株会社の下に置けば寄附は税に影響しないが、会社が3社になる
  • 譲渡損益の繰延べは帳簿価額1,000万円以上の資産だけ。2社を作る前に、資金と資産の動かし方まで決めておく

よくある質問

夫婦で2社の株式を分けて持っている場合も完全支配関係ですか。

個人の場合は、本人とその親族など特殊の関係のある個人の持分を合わせて判定します(法人税法施行令4条の2)。夫がA社を100%、妻がB社を100%持つ場合も、夫婦を「一の者」として両社の株式の全部を持つことになり、完全支配関係に当たります。

個人支配の兄弟会社で車を売り買いすると、譲渡損益は繰り延べられますか。

繰延べの対象は譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上の資産だけです。帳簿価額300万円の車なら、通常どおり売った会社で譲渡損益を計上します。ただし時価から外れた価額で売買すると、差額が寄附金や受贈益になります。

繰り延べた譲渡益は、いつ課税されますか。

買った会社がその資産を外部に売る、除却する、減価償却するなどの事由が生じたときに、売った会社で取り戻されます(問13の戻入事由)。売った会社と買った会社の間で、その旨を通知する義務があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。