役員報酬
家族を社員にした給与、高すぎる部分は損金にならない。法人税法36条の線
結論
役員の親族を使用人として雇った場合、給与のうち職務の対価として相当と認められる額を超える部分は、法人税法36条により損金になりません。家族給与を払った後の利益が500万円の会社で120万円が過大とされると、法人税等は年27.8万円増えます。一方で家族の側では、損金にならなかった部分も給与所得として課税されたままです。
- 対象は役員の親族、事実上の配偶者、役員から生計の支援を受けている人など(法人税法施行令72条)
- 相当かどうかは、職務の内容・会社の収益・他の使用人の給与・同業同規模の会社の給与で判定する(同施行令72条の2)
- 個人事業の専従者給与は届出額が上限で、超えた部分は家族の所得にもならない。法人には届出の上限がない代わりに、この二重課税が起きる
法人成りした後、配偶者や子を役員ではなく社員として雇うことがあります。役員給与の定期同額や事前確定届出の縛りを避けられ、賞与も出せるからです。ただ、使用人であっても役員の親族への給与には別の線が引かれています。それが法人税法36条の「過大な使用人給与の損金不算入」です。
役員の親族である使用人には、36条がかかる
法人税法36条は、法人が役員と「特殊の関係のある使用人」に払う給与のうち、不相当に高額な部分を損金に算入しないと定めています。給与には、債務の免除などの経済的な利益も含まれます。
特殊の関係のある使用人(特殊関係使用人)の範囲は、法人税法施行令72条にあります。
| 号 | 対象になる人 |
|---|---|
| 1号 | 役員の親族 |
| 2号 | 役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある人 |
| 3号 | 1号・2号以外で、役員から生計の支援を受けている人 |
| 4号 | 2号・3号の人と生計を一にする、その人の親族 |
親族は民法725条の範囲で、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族です。配偶者、子、親、兄弟姉妹、配偶者の親はすべて入ります。同居しているか、扶養しているかは問いません。
なお、家族が株を持っていて経営に関わっていると、そもそも使用人ではなく「みなし役員」として扱われることがあります。その場合は36条ではなく役員給与の規定がかかります。どちらに当たるかの判定は家族への給与がみなし役員扱いになる条件で整理しています。この記事は、家族が確かに使用人である前提で進めます。
「相当な額」は4つの材料で判定される
損金不算入になる金額は、法人税法施行令72条の2が定めています。支給した給与が、次の状況に照らして職務の対価として相当と認められる額を超える部分です。
- その使用人の職務の内容
- その法人の収益
- 他の使用人に対する給与の支給状況
- 同種の事業を営む、事業規模が類似する法人の使用人に対する給与の支給状況
全額が否認されるのではなく、相当額を超えた部分だけが損金から外れます。相当額の数字が法令で決まっているわけではありません。だから記録が効きます。
判定で見られやすい事情
条文の4つの材料を、一人社長の会社に当てはめると次のようになります。
- 職務の内容:勤務日数・時間、担当業務、資格の有無。週1日の経理補助に月30万円を払うと、職務との釣り合いが問われます
- 会社の収益:利益が出ていないのに家族給与だけが高い、利益が出た期にだけ家族給与を上げる、という動きは不自然に見えます
- 他の使用人との比較:家族以外の社員がいれば、同じ職務の他人の給与が最も分かりやすい物差しです
- 同業同規模の会社:他人の社員がいない会社では、ここが比較の中心になります
期中に家族の給与だけを大きく引き上げる場合は、仕事の範囲が広がった事実(担当業務の追加、勤務時間の増加)を先に作り、記録に残しておく必要があります。
過大とされたとき、法人税等はいくら増えるか
損金不算入になった額は、その期の所得に足し戻されます。家族給与を全額引いた後の利益の水準ごとに、東京23区の会社で法人税等の増加を計算しました。
| 家族給与を全額引いた後の利益 | 損金不算入60万円 | 損金不算入120万円 | 損金不算入240万円 |
|---|---|---|---|
| 200万円 | +12.8万円(21.4%) | +25.6万円(21.3%) | +51.7万円(21.5%) |
| 500万円 | +13.9万円(23.2%) | +27.8万円(23.2%) | +55.6万円(23.2%) |
| 800万円 | +15.1万円(25.2%) | +35.3万円(29.4%) | +75.6万円(31.5%) |
※ 法人税・地方法人税・法人住民税(東京23区)・法人事業税・特別法人事業税の合計の増加額。括弧内は損金不算入額に対する割合。家族が受け取る給与は全額が給与所得のまま。当サイトで計算(scripts/kazoku-shiyonin-kadai-kyuyo.mjs)
利益800万円の会社では、足し戻しで所得が800万円を超え、法人税の軽減税率が使えない部分が生じます。そのため割合が29〜31%台に上がります。税務調査で過去の期にさかのぼって否認されれば、これに過少申告加算税と延滞税が加わります。
家族の側は、給与所得のまま
見落とされやすいのはここです。法人税法36条は法人の損金を制限する規定で、受け取った家族の課税には何も手当てがありません。会社で損金にならなかった部分も、家族の側では給与所得として所得税・住民税がかかったままです。
同じ120万円に、法人税等と家族の所得税・住民税が両方かかります。社会保険料も、家族が実際に受け取った給与をもとに決まります。
個人事業の専従者給与とは、上限の仕組みが違う
個人事業のまま家族に給与を払う場合は、所得税法57条の青色事業専従者給与を使います。両者を並べると、上限の考え方が逆向きです。
| 項目 | 個人事業(青色事業専従者給与) | 法人(親族の使用人) |
|---|---|---|
| 事前の届出 | 必要。届出書に記載した金額の範囲内だけが経費 | 不要 |
| 金額の上限 | 届出額と、労務の対価として相当な額の低いほう | 相当な額(法令の数字はない) |
| 働き方の要件 | その年に6か月を超えて専ら事業に従事 | なし(短時間勤務でもよい) |
| 年齢 | 15歳未満は不可 | 労働法令の範囲内 |
| 経費にならない部分の家族側の扱い | 家族の所得にならない(所得税法56条) | 給与所得として課税される |
個人事業では、所得税法56条が生計を一にする親族への支払いを原則として経費にせず、その代わり受け取った親族の所得にもしないとしています。57条はその例外で、届出の範囲内で相当な額だけを経費にし、家族の給与所得にします。つまり経費から外れた部分は、家族の所得からも外れます。
同じ超過120万円を、個人事業で計算すると
家族に年360万円を払い、専従者給与の届出額が240万円だった場合を、届出額が360万円だった場合と比べました。
| 専従者給与の届出 | 事業主の経費になる額 | 事業主の手取り | 家族の給与収入 | 家族の所得税・住民税 | 世帯の手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| 届出額360万円(全額が経費) | 360.0万円 | 450.2万円 | 360.0万円 | 27.5万円 | 782.7万円 |
| 届出額240万円(超過120万円) | 240.0万円 | 397.8万円 | 240.0万円 | 14.8万円 | 743.0万円 |
※ 売上1,500万・経費500万(家族の給与を除く)、東京23区・40歳未満・独身扱い・青色65万(e-Tax)・インボイス登録済み。家族には実際に年360万円を払う。家族の社会保険料は除く。当サイトで計算(scripts/kazoku-shiyonin-kadai-kyuyo.mjs kojin)
超過120万円で、事業主の手取りは52.4万円減りますが、家族の税金は12.7万円減ります。世帯では39.7万円の差です。法人では、会社の法人税等が増える一方で、家族の税金は減りません。
個人事業の専従者給与は「届出」という事前の上限で管理され、法人の家族給与は「相当性」という事後の判定で管理される、と言い換えられます。法人成りで届出の縛りがなくなるのは、自由になったのではなく、判定の基準が見えにくくなったということです。
家族給与を決めるときに残しておくもの
36条の否認を避けるために、金額を決める段階で次の記録を残しておきます。
- 雇用契約書・労働条件通知書:職務、勤務日数・時間、給与額を書面にする
- 勤務の実態:出勤簿やタイムカード、業務の成果物、メールの送受信など、働いた事実が分かるもの
- 金額の根拠:同じ職種の求人の給与水準、他の社員の給与表など、比較した資料
- 給与の改定理由:昇給した期には、担当業務の追加など理由を書いた記録
家族を社員にしたとき、その給与は会社の損金になるだけでなく、世帯全体の税金と社会保険料の配分を変えます。家族に払う額をいくらにすると世帯の手取りが増えるかは、専従者給与と役員報酬の比較や、学生の子に払う場合の子どもへの給与の個人と法人の違いで試算しています。
まとめ
- 役員の親族・事実上の配偶者・生計の支援を受けている人などを使用人として雇うと、法人税法36条の対象になる
- 職務の対価として相当な額を超える部分が損金不算入。相当性は職務・収益・他の使用人・同業同規模の会社の給与で判定される
- 家族給与を引いた後の利益500万円の会社で120万円が否認されると、法人税等は年27.8万円増え、家族の給与所得は減らない
- 個人事業の専従者給与は届出額が上限で、超えた部分は家族の所得にもならない。上限の仕組みが逆向き
- 金額を決めるときに、職務の内容・勤務実態・比較の根拠を記録に残しておく
家族への給与を含めて法人化が有利かどうかは、売上と経費、家族構成で大きく変わります。一般論の数字ではなく、自分の条件で確かめてください。
よくある質問
家族の給与は、同じ仕事をする他人と同じ額なら問題ありませんか
法人税法施行令72条の2は、他の使用人に対する給与の支給状況を判定材料の1つに挙げています。同じ職務の他人と同水準であることは、相当性を説明する有力な根拠になります。ただし職務の内容や会社の収益なども合わせて判定されます。
家族への賞与も、損金にするには届出が必要ですか
使用人への賞与には、役員の事前確定届出給与のような届出は要りません。支給額を通知して支給日が来ているなど、法人税法施行令72条の3の要件で損金になる事業年度が決まります。ただし親族の使用人の場合、賞与も含めた給与の総額が相当かどうかの判定を受けます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。