税金の基礎

結婚・子育て資金の一括贈与は前年所得1,000万円以下。社長は報酬で判定

結論

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税(1,000万円、うち結婚費用300万円)は、お金を受け取った年の前年の合計所得金額が1,000万円を超えると使えません。個人事業主は売上−経費1,065万円で事業所得が1,000万円に達しますが、法人化して手取りが最大になる役員報酬を取ると、売上−経費2,128万円までは給与所得が474.4万〜945万円に収まります。拠出できるのは令和9年3月31日までで、判定に使えるのは令和7年分と令和8年分の所得だけです。

  • 令和8年12月までの拠出は令和7年分、令和9年1〜3月の拠出は令和8年分の合計所得金額で判定する
  • こども家庭庁は令和9年度税制改正要望で、令和9年3月31日の期限到来での廃止を求めている(要望段階)。利用は令和7年で219件
  • 役員報酬が月100万円だと給与所得は1,005万円で線を5万円超える。月99万円なら993万円で、手取りの差は年1.6万円

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税は、住宅取得等資金の贈与の非課税とよく似た形をしています。ただ、所得を判定する年が違います。住宅資金は贈与を受けた年、結婚・子育て資金はその前年の合計所得金額で判定します。

前年で判定するので、法人化した年の所得の組み立てが、翌年の拠出の可否を決めます。そして制度の期限は令和9年3月31日です。判定に使える年は、もう令和7年分と令和8年分の2つしか残っていません。

非課税の条件は「拠出した年の前年」の合計所得金額

国税庁のタックスアンサー No.4511(令和8年4月1日現在の法令)と、租税特別措置法70条の2の3(e-Gov法令検索、令和8年10月1日施行時点)で、制度の骨格を確認しました。

項目内容
贈与者受贈者の直系尊属(父母・祖父母など)
受贈者契約を結ぶ日に18歳以上50歳未満の人
方法金融機関との結婚・子育て資金管理契約に基づく信託・預入・有価証券の購入
非課税の上限受贈者1人につき1,000万円(結婚に際して支払う費用は300万円が限度)
所得の要件信託受益権・金銭等を取得した日の属する年の前年分の合計所得金額が1,000万円以下
期限平成27年4月1日から令和9年3月31日までの拠出

所得の要件は、条文の1項ただし書きにあります。国税庁のQ&Aによれば、判定は拠出のたびに行います。前年の合計所得金額が1,000万円を超えた年があっても、その後1,000万円以下になった年があれば、その翌年に取得した分は非課税の対象になります。追加で入金する場合も同じです。

合計所得金額は受贈者個人の所得税の計算上の金額です。個人事業主なら青色申告特別控除後の事業所得、会社の役員なら給与所得控除後の給与所得が中心です。**法人に残した利益は入りません。**純損失の繰越控除などは、適用する前の金額で判定します。

対象になる費用

国税庁のQ&Aでは、結婚・子育て資金を次のように整理しています。

  • 結婚(300万円まで):婚姻の日の1年前以後に支払う挙式・披露宴の費用、婚姻の前後1年以内に結んだ賃貸借契約の家賃・敷金など(契約から3年以内の支払い)、転居費用
  • 妊娠・出産:不妊治療や妊婦健診の費用、出産の日以後1年以内に支払う分べん費・産後ケアの費用
  • 育児:小学校就学前の子の医療費、幼稚園・保育所などの保育料(ベビーシッター代を含む)

支払ったら、領収書等を金融機関に出して、払出しの記録を付けてもらいます。費目と支払先の細かな範囲は、こども家庭庁のQ&Aと別表で定められています。

個人事業主は売上−経費1,065万円で線を越える

計算エンジンで、個人のままの事業所得と、法人化して手取りが最大になる役員報酬を取ったときの給与所得を並べました。

売上−経費個人:事業所得1,000万円以下か法人化:最適な役員報酬法人化:給与所得1,000万円以下か
800万円735万円○月54万円474.4万円○
1,000万円935万円○月54万円474.4万円○
1,065万円1,000万円○月54万円474.4万円○
1,200万円1,135万円×月54万円474.4万円○
1,500万円1,435万円×月54万円474.4万円○
2,000万円1,935万円×月90万円885万円○
2,100万円2,035万円×月95万円945万円○
2,500万円2,435万円×月100万円1,005万円×
3,000万円2,935万円×月100万円1,005万円×

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)65万円・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。最適な役員報酬は月5万〜100万円の範囲で探索した計算エンジンの出力。年金や配当など他の所得はないものとする。表は scripts/kekkon-kosodate-zoyo-shotoku.mjs で再生成できる

個人事業主のままだと、売上−経費が1,065万円を超えた年の翌年は拠出しても非課税になりません。1,000万円という線は、住宅取得等資金の2,000万円の線の半分です。法人化を検討し始める売上の帯に、ちょうど重なっています。

法人化して最適な役員報酬を取ると、売上−経費1,200万〜2,100万円の帯では、給与所得が474.4万〜945万円に収まります。個人のままでは対象外の帯が、法人化で線の内側に戻ります。

最適報酬が月100万円になる帯では、5万円はみ出す

同じ条件で1万円刻みに探すと、最適な役員報酬は売上−経費2,129万円から月100万円になります。給与収入1,200万円の給与所得は1,005万円で、線を5万円超えます。

売上−経費役員報酬給与所得1,000万円以下か手取り
2,500万円月100万円1,005万円×1,551.1万円
2,500万円月99万円993万円○1,549.5万円
3,000万円月100万円1,005万円×1,816.8万円
3,000万円月99万円993万円○1,815.2万円

※ 前提は上の表と同じ

月100万円と月99万円の手取りの差は年1.6万円です。同じ5万円のはみ出しは、住宅取得資金の贈与と所得の要件の40〜50㎡の住宅でも起きます。なお、収入のない配偶者がいる条件では、売上−経費2,500万〜3,000万円の最適な役員報酬は月95万円(給与所得945万円)で、線の内側に収まりました。最適な報酬額は家族の条件でも動きます。

残る判定年は令和7年分と令和8年分の2つだけ

拠出できるのは令和9年3月31日までです。前年で判定するので、どの時期に入れるかで、使う所得の年が決まります。

拠出(信託・預入など)をする時期判定に使う合計所得金額
令和8年10月〜12月令和7年分
令和9年1月1日〜3月31日令和8年分
令和9年4月1日以後現行の条文では非課税の対象外

令和7年分の所得はもう確定しています。令和8年分も、役員報酬は事業年度の開始から3か月以内に決める定期同額給与が原則なので、多くの会社では今から大きくは動かせません。期中の変更の扱いは役員報酬を期中に増やした場合で扱いました。令和9年1〜3月に入れるなら、令和8年分の所得がすでに線の内側にあるかを先に確かめることになります。

法人化した年の所得は、翌年の拠出に効く

令和8年中に法人化した人は、令和8年分の合計所得金額に、法人化するまでの事業所得と法人化した後の給与所得が並びます。これが令和9年1〜3月の拠出の判定に使われます。

売上−経費(年)法人化した月個人事業の期間事業所得役員報酬(給与収入)給与所得合計所得金額1,000万円以下か
1,500万円1月0か月0万円月54万円×12か月(648万円)474.4万円474.4万円○
1,500万円4月3か月310万円月54万円×9か月(486万円)344.8万円654.8万円○
1,500万円7月6か月685万円月54万円×6か月(324万円)218.8万円903.8万円○
1,500万円10月9か月1,060万円月54万円×3か月(162万円)88万円1,148万円×
2,500万円1月0か月0万円月100万円×12か月(1,200万円)1,005万円1,005万円×
2,500万円4月3か月560万円月100万円×9か月(900万円)705万円1,265万円×
2,500万円7月6か月1,185万円月100万円×6か月(600万円)436万円1,621万円×
2,500万円10月9か月1,810万円月100万円×3か月(300万円)202万円2,012万円×

※ 前提は最初の表と同じ。利益は月割りで個人事業と法人に分け、個人事業の期間には青色申告特別控除65万円を引いた。役員報酬は通年で法人化した場合の最適額を月額としてそのまま使った概算

売上−経費1,500万円の事業なら、個人のままでは令和8年分の事業所得が1,435万円で、令和9年1〜3月の拠出は対象外です。令和8年7月までに法人化していれば、合計所得金額は903.8万円以下に下がります。10月の法人化では、9か月分の事業所得だけで1,000万円を超えます。

逆に、令和8年中の拠出は令和7年分で判定されます。令和7年が個人事業の満年度で事業所得が1,000万円を超えていれば、令和8年に法人化していても、令和8年中の拠出には使えません。法人化の年の所得の組み立ては法人成りした年の確定申告にまとめています。

期限は令和9年3月31日。所管のこども家庭庁は廃止を要望

財務省が公開している令和9年度の税制改正要望で、こども家庭庁はこの非課税措置について、令和9年3月31日の期限の到来をもって廃止するよう求めています。期限までに拠出された分には、引き続き非課税を適用するという内容です。理由には利用件数の低迷が挙げられ、利用は令和5年217件、令和6年253件、令和7年219件でした。

これは要望の段階で、決まるのは令和9年度の税制改正です。ただ、所管する省庁が自ら延長を求めていない以上、令和9年4月以後の拠出に使える前提は置きにくい状況です。要望全体の位置づけは令和9年度税制改正要望で扱いました。

同じ仕組みで所得1,000万円の要件があった教育資金の一括贈与の非課税(No.4510)は、令和8年3月31日の期限で延長されずに終わっています。

50歳になったときと、贈与者が亡くなったときの残額

非課税で受け取ったお金を使い切れずに残すと、あとで課税されます。租税特別措置法70条の2の3の12項〜15項と国税庁の「あらまし」で、残額の扱いは次のとおりです。

契約が終わる・変わる事由残額の扱い
受贈者が50歳に達した残額をその年の贈与税の課税価格に算入。令和5年4月1日以後に拠出した分は一般税率
口座の残高が0になり、終了の合意をした残りがあれば同じく贈与税(通常は残額なし)
受贈者が死亡した贈与税はかからない
契約期間中に贈与者が死亡した死亡日の管理残額を、贈与者から相続等で取得したものとみなす。孫などは令和3年4月1日以後の拠出分に相続税の2割加算

50歳での残額は、18歳以上の子や孫が父母・祖父母から受け取るときの特例税率ではなく、一般税率で計算します。差を国税庁 No.4408 の速算表で出しました。

50歳到達時の残額一般税率で計算した贈与税特例税率だった場合差
300万円19万円19万円0万円
500万円53万円48.5万円4.5万円
700万円112万円88万円24万円
1,000万円231万円177万円54万円

※ 暦年課税・基礎控除110万円。同じ年に他の贈与がない場合

結婚費用として使えるのは300万円までです。結婚費用の支払いが300万円を超えても、超えた分は残額の計算上、支出に数えられません。法人化の判断とは独立に、使い切れる額だけを入れることが、この制度では手取りを守る一番の要素になります。

所得の要件に届かない場合の受け取り方

所得の要件で非課税が使えない年でも、親から子育ての費用を出してもらう方法はあります。国税庁 No.4405 によれば、扶養義務者から生活費や子育ての費用に充てるために受け取る財産で、通常必要と認められるものには贈与税がかかりません。ただし、必要な都度、直接その費用に充てるものに限られます。まとめて受け取って預金すれば対象外です。

一括で受け取る非課税と、都度の支払いのどちらが合うかは、贈与者の年齢や相続の見通しで変わります。家族の財産の状況によっては、個別に専門家へ確認する価値があります。

法人化した場合の最適な役員報酬と手取りは、判定ツールで自分の売上と経費から確かめられます。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税(1,000万円、結婚費用は300万円まで)は、拠出した年の前年の合計所得金額1,000万円以下が条件。受贈者は契約時に18歳以上50歳未満
  • 個人事業主は売上−経費1,065万円を超えると対象外。法人化して最適な報酬を取ると、売上−経費2,128万円までは給与所得が474.4万〜945万円に収まる
  • 期限は令和9年3月31日。令和8年中の拠出は令和7年分、令和9年1〜3月の拠出は令和8年分で判定する。こども家庭庁は期限での廃止を要望している
  • 令和8年に法人化した人は、法人化までの事業所得と法人化後の給与所得の合計が、令和9年1〜3月の拠出に効く
  • 50歳到達時の残額は一般税率で贈与税、贈与者の死亡時は管理残額が相続財産になり、孫などは2割加算の対象

よくある質問

前年の合計所得金額が1,000万円を超えていたら、翌年に追加で入金してもらっても非課税になりませんか。

判定は拠出ごとに、その拠出をした日の属する年の前年分の合計所得金額で行います。前年が1,000万円以下の年に入れた分は非課税、1,000万円を超えた年の翌年に入れた分は対象外です。追加で入金する場合も同じ基準で判定されます。

結婚・子育て資金の口座は、令和9年3月31日を過ぎたら使えなくなりますか。

現行の条文で期限が切れるのは、新たに信託・預入などをして非課税を受けられる期間です。期限までに拠出した分は、受贈者が50歳に達するなどで契約が終わるまで、結婚・子育て資金の支払に充てられます。こども家庭庁の廃止要望も、期限までに拠出された分には引き続き適用するとしています。

所得の要件で使えない場合、親から子育ての費用を出してもらうと必ず贈与税がかかりますか。

扶養義務者から生活費や子育ての費用に充てるため、必要な都度直接受け取るもので通常必要と認められるものには、贈与税がかかりません。受贈者の所得の要件もありません。ただし、受け取って預金したり投資に回したりした場合は対象外です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。