税金の基礎

令和9年度税制改正要望で、法人化の判定に効く6項目(8月31日要望)

結論

令和9年度税制改正の要望(8月31日付)では、経済産業省が中小法人の法人税15%の2年延長、交際費800万円の定額控除の3年延長、10万円・20万円という少額資産の基準額の見直し、創業時の登録免許税半額の3年延長などを求めています。あわせて「個人事業主の勤労性所得への課税」の見直しの検討も要望しています。いずれも要望段階で、決まるのは12月の税制改正大綱以降です。

  • 要望の総数は208項目(重複を除くと124項目)。財務省が各府省庁の要望書を公開している。決定ではなく、大綱・法案・成立の段階を経る
  • 法人税15%は「見直しを行った上で」2年延長(令和9年4月1日〜令和11年3月31日)の要望。延長されない場合、単身・経費200万円の損益分岐点は169万円上がる
  • 個人事業主の勤労性所得の要望は、法人化した社長の給与所得控除(売上−経費1,000万円で173.6万円)と、個人の青色申告特別控除(65万円)の差を問題にしている

税制改正は「要望 → 大綱 → 法案 → 成立 → 施行」の順に進みます。この記事が扱うのは、その最初の段階である要望です。財務省は、各府省庁が8月31日付で提出した令和9年度の要望書を公開しています。ここから、個人事業主と一人会社の法人化の判定に直接効く項目だけを抜き出しました。12月の大綱以降は、このページを更新していきます。

要望は208項目。決まったものはまだない

財務省の集計では、令和9年度の要望項目は各府省庁の合計で208項目、重複を除くと124項目です。廃止・縮減の項目は8項目(重複を除くと4項目)あります。最も多いのは経済産業省の48項目です。

段階時期の目安この記事の時点
各府省庁の要望8月末公開済み(8月31日付)
与党の税制改正大綱12月未
改正法案の国会提出・成立翌年1月〜3月未
施行多くは翌年4月1日未

要望はあくまで「この措置を延長・創設してほしい」という各府省庁の主張です。大綱で縮小されたり、見送られたりすることがあります。以下の6項目は、どれも決定事項ではありません。

1. 法人税15%:見直しを条件に2年延長の要望

中小法人の年800万円以下の所得にかかる法人税は15%です。これは本則の19%を、租税特別措置法で引き下げている特例です。経済産業省(中小企業庁)は、この特例を「政策効果を高める観点から見直しを行った上で」、令和9年4月1日から令和11年3月31日まで2年間延長するよう要望しました。

要望書によると、令和6年度の適用件数は111万966件、減収額は1,885億円です。「見直しを行った上で」という条件が付いているため、延長されても対象や要件が変わる余地があります。

この特例が判定に与える影響は大きく、延長されずに19%へ戻った場合、単身・経費200万円の条件で法人化の損益分岐点は169万円上がります。最適な役員報酬も動きます。計算の詳細は法人税15%の期限と、延長されない場合の分岐点で扱いました。

2. 交際費800万円:3年延長の要望

資本金1億円以下の中小法人は、交際費を年800万円の定額控除限度額まで損金にできます(飲食費の50%を損金にする方法との選択)。経済産業省は、この特例の適用期限を令和9年4月1日から令和12年3月31日まで3年延長するよう要望しています。

要望書によると、資本金1億円以下で交際費等を支出した法人は令和6年度に247万5,952社です。個人事業主には交際費の上限がそもそもないため、この特例は「法人化すると交際費が経費にしにくくなる」という不利を埋める役割をしています。法人と個人の扱いの違いは交際費800万円の上限は法人だけにまとめています。

3. 少額資産の10万円・20万円:基準額の見直しの要望

減価償却資産には、取得価額によって次の扱いがあります。

  • 10万円未満:取得した年に全額を経費(損金)にできる
  • 10万円以上20万円未満:3年間で均等に経費にできる(一括償却資産)

経済産業省は、この10万円・20万円という基準額が長年据え置かれていることを理由に、物価上昇を踏まえた基準額の見直しを要望しています。税目は所得税と法人税の両方で、個人事業主にも法人にも効く要望です。金額の案は要望書に書かれていません。

中小企業者だけが使える「少額減価償却資産の特例」(年300万円まで一括で経費)は、これとは別の制度です。こちらは令和8年度改正で取得価額の上限が40万円未満に上がり、令和11年3月31日まで延長されています。詳しくは少額減価償却資産の特例は40万円未満へで扱いました。

4. 個人事業主の「勤労性所得」:課税のあり方の検討要望

法人化の判定の根本に関わるのがこの項目です。経済産業省は「小規模企業等に係る税制のあり方の検討」として、個人事業主・同族会社・給与所得者の課税のバランスを踏まえ、給与所得控除などの所得の種類に応じた控除と人的控除のあり方を全体として見直すことを含めて総合的に検討するよう要望しています。

要望書が問題にしているのは、次の非対称です。法人の社長は、役員報酬に給与所得控除が使え、その額は報酬が増えるほど大きくなります。個人事業主の青色申告特別控除は所得に関係なく定額です。計算エンジンで、手取りが最大になる役員報酬を取ったときの給与所得控除と比べました。

売上−経費最適な役員報酬給与所得控除青色申告特別控除(e-Tax)差
600万円月42万円144.8万円65万円79.8万円
800万円月54万円173.6万円65万円108.6万円
1,000万円月54万円173.6万円65万円108.6万円
1,500万円月54万円173.6万円65万円108.6万円
2,000万円月90万円195万円65万円130万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。給与所得控除は計算エンジンの出力

法人化の有利さの一部は、この100万円前後の控除の差から来ています。 もし個人事業主にも所得に応じて増える控除ができれば、法人化の損益分岐点はその分だけ上に動きます。ただし、要望は検討を求めるもので、控除の形も金額も示されていません。令和8年度の税制改正大綱にも同じ趣旨の「総合的に検討を進める」という記述があり、今回はそれを引き継いだ要望です。青色申告特別控除そのものの改正(令和9年分から75万円など)は青色申告特別控除は令和9年分から75万円で扱っています。

5. 創業時の登録免許税の半額:3年延長の要望

市区町村の特定創業支援等事業の支援を受けた人が会社を設立すると、登録免許税が半額になります(株式会社は最低7.5万円、合同会社は最低3万円)。経済産業省は、この措置を令和12年3月31日まで3年延長するよう要望しています。対象は創業前の個人と、創業後5年未満の個人です。

現行の期限は令和9年3月31日までの登記です。これから法人化する人にとっては、設立費用(判定ツールの初年度の前提)が直接動く項目です。要件と法人成りでの使い方は会社設立の登録免許税が半額になる条件にまとめています。

6. 設備投資と賃上げの税制:延長と見直しの要望

一人会社にも関係しうる設備投資の税制は、いずれも見直しを前提に延長が要望されています。

項目要望の内容要望する期間
中小企業投資促進税制(機械等の特別償却・税額控除)見直しを行った上で延長令和9年4月1日〜令和11年3月31日(2年)
中小企業経営強化税制経営規模拡大設備の要件の柔軟化などの拡充、見直しのうえ延長令和9年4月1日〜令和11年3月31日(2年)
中小企業向け賃上げ促進税制3年延長。増加要件を「雇用者給与等支給額」から「従業員1人平均」へ改める令和9年度〜令和11年度

賃上げ促進税制は、役員報酬の増加には使えません。一人社長の会社では従業員を雇って初めて対象になります(賃上げ促進税制は役員報酬に使えない)。投資促進税制の仕組みは中小企業投資促進税制の30%と7%で扱っています。

このほか、経済産業省は印紙税について「制度の根幹からあり方を検討し見直す」ことも要望しています。

判定ツールは、現行の制度で計算している

当サイトの判定ツールは、2026年(令和8年)分の現行制度で計算しています。法人税15%、交際費の扱い、少額資産の基準額はいずれも現行のままです。要望がどれだけ実現するかは12月の大綱で見えてくるので、その時点で本文と計算の前提を更新します。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 財務省が令和9年度の税制改正要望(8月31日付)を公開した。要望は208項目(重複を除くと124項目)で、決定事項ではない
  • 法人税15%は「見直しを行った上で」2年延長、交際費800万円は3年延長、創業時の登録免許税半額は3年延長が要望されている
  • 10万円・20万円の少額資産の基準額は、物価上昇を理由に見直しが要望されている(金額の案は示されていない)
  • 個人事業主の勤労性所得への課税の見直しは検討要望。最適報酬での給与所得控除(173.6万円)と青色申告特別控除(65万円)の差が論点になる
  • 12月の税制改正大綱以降、このページを同じURLで更新する

よくある質問

要望に載っていれば、その改正は実現しますか。

実現するとは限りません。要望は各府省庁が財務省に出す段階で、与党の税制調査会での議論を経て12月に税制改正大綱がまとまり、翌年の国会で法案が成立して初めて決まります。要望の内容が大綱で縮小・見送りになることもあります。

法人税15%の延長が決まるのはいつですか。

通常は12月の税制改正大綱で方向が示され、翌年3月までに改正法が成立します。現行の15%は令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象なので、それより後に始まる事業年度の税率は、改正法の成立で確定します。

個人事業主にも給与所得控除のような控除ができるのですか。

要望は「給与所得控除などの所得の種類に応じた控除と人的控除のあり方を全体として見直すことを含め、総合的に検討する」という検討要望で、具体的な控除の形や金額は示されていません。令和8年度の税制改正大綱にも同じ趣旨の検討の記述があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。