税金の基礎

期限切れ欠損金は解散後だけ使える。残余財産ゼロが条件

結論

解散した会社に残余財産がないと見込まれるときは、10年の繰越期限が切れた欠損金も清算中の事業年度の損金にできます(法人税法59条4項)。社長からの借入金500万円を免除して清算する例では、欠損金がなければ法人税・地方法人税・法人税割で88万円かかるところ、期限切れ欠損金が600万円あれば0円になります(概算)。

  • 使えるのは清算中に終了する事業年度だけ。営業を続けている会社では期限切れ欠損金は使えない
  • 判定は各事業年度終了時の現況。債務超過のほか、残余財産がちょうど零の場合も該当すると国税庁が回答している
  • 損金にできる額は、別表五(一)の期首利益積立金のマイナス額から青色欠損金の当期控除額を引いた額で、青色欠損金控除後の所得が上限

一人会社を閉じるとき、税金が問題になるのは「赤字の会社なのに最後の年だけ所得が出る」場面です。典型は、社長が会社に貸したお金(会社から見た役員借入金)を返してもらえないまま放棄するケースで、会社には債務免除益が立ちます。

この所得を消せるかどうかを決めるのが、期限切れ欠損金の制度です。通常の繰越欠損金は法人なら10年で切れますが、解散して残余財産が残らない会社に限り、切れた分まで損金にできます。

なぜ解散のときだけ期限切れ欠損金が使えるのか

平成22年度税制改正で清算所得課税が廃止され、平成22年10月1日以後に解散した法人は、清算中も通常の「各事業年度の所得」に法人税がかかるようになりました。

国税庁の質疑応答事例は、この結果として「残余財産がないにもかかわらず、債務免除等によって所得金額が生ずることで税額が発生する場合がある」ため、期限切れ欠損金の損金算入を認めたと趣旨を説明しています。分ける財産がない会社に、帳簿上の利益だけで税金を残さないための制度です。

通常の繰越期限の考え方は欠損金の繰越は法人10年・個人3年にまとめています。期限切れ欠損金はその10年を過ぎた分、または青色申告でなかった年の赤字を含む「税務上の累積赤字」です。

使える条件は3つ

条件内容根拠
解散していること清算中に終了する事業年度が対象法人税法59条4項
残余財産がないと見込まれること各事業年度終了の時の現況で判定基本通達12-3-7
説明書類を付けること例として実態貸借対照表基本通達12-3-9

「残余財産がないと見込まれる」の典型は債務超過です(基本通達12-3-8)。さらに国税庁は令和6年8月1日現在の法令に基づく質疑応答事例で、資産と負債が同額で残余財産が零となる場合も該当すると回答しています。

実態貸借対照表は時価で作る

判定は決算書の簿価ではなく、資産・負債を時価で並べた実態貸借対照表で行います。通達の注記では、資産の価額は事業年度終了の時の処分価格によるとされています。事業譲渡を前提にした解散で資産を他の法人が使い続ける見込みなら、使用収益される前提の譲渡価額で評価します。

一人会社の場合、パソコンや車両は処分価格で見ると簿価より低くなることが多く、判定上は債務超過に寄りやすくなります。逆に、社長が個人から会社へ安く移した資産があると時価との差が問題になります。法人成りで資産を移すときの時価の考え方は法人成りで車を会社に安く売ると時価で売ったとみなされるで扱っています。

損金にできる額の計算

国税庁の平成22年度改正の質疑応答(問8)によると、期限切れ欠損金額は次の式で求めます。

  1. その事業年度の別表五(一)「期首現在利益積立金額」の差引合計額がマイナスなら、その額(符号を外す)
  2. そこから、当期に損金算入する青色欠損金額・災害損失欠損金額を差し引く

ただし損金にできるのは、青色欠損金などを控除した後の所得の金額が限度です。使い切れなかった期限切れ欠損金が還付を生むわけではありません。

①は決算書の繰越利益剰余金ではなく、税務上の利益積立金です。過去に交際費の損金不算入や減価償却の超過額などで税務と会計の差が出ていれば、その分ずれます(基本通達12-3-2)。

社長借入金を免除して清算する場合の税額

一人会社の清算でよくある形として、清算事業年度に社長が貸付金を免除し、それ以外の損益はゼロという前提で、法人税・地方法人税・法人税割を当サイトの税率データで計算しました(scripts/kigengire-kessonkin-kaisan.mjs)。

免除益 500万円

ケース課税所得法人税地方法人税法人税割合計
欠損金を使えない500万円75万円7.7万円5.3万円88万円
青色欠損金100万円だけ使える400万円60万円6.2万円4.2万円70.4万円
青色100万円+期限切れ600万円0万円0万円0万円0万円0万円

免除益 1,000万円

ケース課税所得法人税地方法人税法人税割合計
欠損金を使えない1,000万円166.4万円17.1万円11.6万円195.2万円
青色欠損金100万円だけ使える900万円143.2万円14.7万円10万円168万円
青色100万円+期限切れ600万円300万円45万円4.6万円3.2万円52.8万円

※ 2026年(令和8年)分基準。data/rates-2026.json の中小法人の軽減税率(800万円以下15%)・地方法人税・法人税割の標準税率による概算。事業税・特別法人事業税・均等割は含めていません。

免除益が1,000万円の例では、期限切れ欠損金600万円を全額使っても300万円の所得が残ります。損金にできるのは期限切れ欠損金の額までなので、累積赤字より大きい借入金を免除すると、差額には課税されます。

一人会社で見落としやすい点

営業中の債務免除には使えない

期限切れ欠損金は清算中の事業年度の制度です。解散前、営業を続けている事業年度に社長が借入金を免除すると、使えるのは10年以内の青色欠損金だけです。免除の順番と時期で税額が変わるのはこのためです。営業中に免除した場合の法人税と相続税の比較は役員借入金は相続財産になるにあります。

残余財産が出るなら使えない

社長への返済を終えたうえで現預金が残り、社員・株主に分配する見込みなら、残余財産がないとはいえません。その場合は通常の青色欠損金の範囲でしか所得を消せません。判定は各事業年度終了時の現況なので、清算が複数年度にわたるときは年度ごとに見直します。

解散自体の費用と期限は別に考える

期限切れ欠損金は税額の問題で、登記費用や債権者保護の期間は別にかかります。登録免許税4.1万円や、残余財産確定後1か月の申告期限は法人の解散・清算の費用で時系列にしています。そもそも閉じるべきかの目安は個人成りの目安で計算しています。

まとめ

  • 期限切れ欠損金は、解散した会社に残余財産がないと見込まれるときに限り、清算中の事業年度で損金にできる
  • 判定は各事業年度終了時の実態貸借対照表(時価)で行い、債務超過のほか残余財産が零の場合も該当する
  • 額は期首利益積立金のマイナス額から当期の青色欠損金控除額を引いた額で、青色欠損金控除後の所得が上限
  • 社長借入金500万円の免除では、欠損金がなければ法人税・地方法人税・法人税割で88万円、期限切れ欠損金600万円があれば0円(概算)

閉じる判断の前に、続けた場合の差がいくらかを一般論ではなく自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

期限切れ欠損金は営業中の会社でも使えますか?

使えません。解散した法人が、残余財産がないと見込まれるときに、清算中に終了する事業年度で損金に算入できる制度です。

債務超過でなく、残余財産がちょうど0円の場合も使えますか?

国税庁の質疑応答事例は、実態貸借対照表で資産と負債が同額(残余財産が零)の場合も「残余財産がないと見込まれるとき」に該当すると回答しています。

期限切れ欠損金の額はどう計算しますか?

その事業年度の別表五(一)の期首現在利益積立金額の差引合計額がマイナスの場合のその金額から、当期に控除する青色欠損金額などを差し引いた額です。決算書ではなく税務上の金額で計算します。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。