社会保険

国保加入世帯の自営業は17.8%。法人化の損益分岐を超えるのは4%以下

結論

令和6年度の国民健康保険実態調査では、市町村国保の加入世帯1,224万6,600(擬制世帯を除く)のうち、世帯主が農林水産業以外の自営業の世帯は205万1,150、職業が分かる世帯の17.8%でした。その世帯の所得の中央値は180〜190万円の階級にあり、所得1,000万円以上は3.9%です。判定ツールの損益分岐(独身・東京23区で事業所得1,243万〜1,266万円)を統計の所得に直すと1,178万〜1,201万円で、届く自営業世帯は1.7〜3.9%にとどまります(当サイト集計)。

  • 加入世帯は2017年度の1,496万から2024年度の1,225万へ18.1%減ったが、世帯主が自営業の世帯は205万で横ばい。割合は15.6%から17.8%へ上がった
  • 統計の「所得」は基礎控除前の総所得金額等を世帯で合計したもの。青色申告特別控除は引いた後なので、ツールの事業所得(控除前)とは65万円ずれる
  • 所得1,000万円以上の国保世帯17万450のうち、45.9%は世帯主が自営業の世帯

国民健康保険の加入世帯は減り続けています。それでも、世帯主が自営業の世帯の数はほとんど減っていません。そして、その世帯の大半は、法人化の損益分岐よりはるかに低い所得帯にいます。

当サイトでは、厚生労働省の国民健康保険実態調査(e-Stat)の世帯票から、平成29年度〜令和6年度の8回分の世帯数を取り出し、職業別・所得階級別に数え直しました。そのうえで、判定ツールの計算エンジンが出す損益分岐を、統計と同じ「所得」の定義に直して重ねています。

加入世帯は2割近く減ったが、自営業の世帯は205万のまま

国民健康保険実態調査は、毎年9月末の国保加入世帯を抽出して調べ、抽出率の逆数を掛けて全国の世帯数を推計しています。ここでは市町村国保の世帯のうち、擬制世帯(世帯主が会社の健康保険などに入っていて、家族だけが国保に入っている世帯)を除いた数を使います。法人化して社長は協会けんぽへ移り、家族だけが国保に残った世帯がこれにあたります(法人化しても国保は残る。擬制世帯主の扱い)。

調査年度(9月末)加入世帯うち世帯主がその他の自営業職業が分かる世帯に占める割合うち被用者うち無職職業不詳
2017年度(平成29)14,961,5002,050,85015.6%32.7%45.3%1,823,050
2018年度(平成30)14,455,8502,004,35015.8%32.3%45.4%1,739,750
2019年度(令和元)14,014,7001,962,25015.9%32.7%44.8%1,703,300
2020年度(令和2)13,810,4002,031,40016.6%33.2%43.5%1,603,200
2021年度(令和3)13,687,8502,081,05017.2%32.5%43.3%1,572,100
2022年度(令和4)13,277,6501,955,90016.5%32.0%45.3%1,405,500
2023年度(令和5)12,704,3001,930,05017.3%31.8%44.4%1,568,950
2024年度(令和6)12,246,6002,051,15017.8%31.4%44.9%693,550

※ 単位は世帯。市町村国保の擬制世帯を除く。抽出調査の推計値 ※ 割合は職業不詳を除いた世帯に対するもの(厚生労働省の概要 表9と同じ計算)。「その他の自営業」は農林水産業以外の自営業 ※ 2024年度の割合は概要 表9の17.75%と一致することを確認済み

7年間で加入世帯は約271万、18.1%減りました。一方で、世帯主がその他の自営業の世帯は2017年度の205万850に対し2024年度は205万1,150で、差はわずか300世帯です。割合は15.6%から17.8%へ上がっています。

加入世帯が減った主な層は、被用者と無職の世帯です。被用者の世帯は429万から363万へ、無職の世帯は595万から519万へ減りました。自営業の世帯だけが、母数の縮小に引きずられていません。

ただし読み方には注意が要ります。職業不詳の世帯が2023年度の157万から2024年度の69万へ大きく減り、同じ年に自営業の世帯が12万増えました。不詳だった世帯の一部が職業別に振り分けられた可能性があり、2023→2024年度の伸びをそのまま実数の増加とは読めません。また厚生労働省は、世帯主の職業の調査票を平成20年度に簡素化しており、時系列の比較に注意するよう求めています。

統計の「所得」は旧ただし書き所得ではない

所得分布を見る前に、言葉の定義をそろえます。ここを取り違えると、判定ツールの数字と比べたときに65万円以上ずれます。

厚生労働省の用語の解説によると、この調査の「所得」は、総所得金額及び山林所得金額に、雑損失の繰越控除額と分離譲渡所得金額を加えた**所得総額(基礎控除前)**です。国保料の所得割の計算に使う旧ただし書き所得は、調査では「課税標準額」として別に集計されています。

言葉中身青色申告特別控除基礎控除
統計の「所得」総所得金額等+分離譲渡所得の世帯合計引いた後引く前
統計の「課税標準額」旧ただし書き所得引いた後引いた後
判定ツールの「事業所得」売上−経費引く前引く前

個人事業主の事業所得は、青色申告特別控除を引いた額が総所得金額に入ります。一方で判定ツールの「事業所得」は、控除を引く前の売上−経費です。e-Taxで申告して65万円の控除を受ける人なら、ツールの事業所得から65万円を引いた額が統計の所得にあたります。

もう1つ、統計の所得は世帯の合計です。配偶者や同居の子が国保に入っていて所得があれば、それも足されます。株や土地を売った年の分離譲渡所得も入ります。事業主本人の所得よりも高く出る方向のずれです。

自営業世帯の所得の中央値は180万円台

令和6年度調査(2023年分の所得)で、世帯主がその他の自営業の世帯と、被用者の世帯の所得分布を並べます。厚生労働省の概要は1,000万円以上を1つにまとめていますが、世帯票の第3表には1,000万〜1,500万円と1,500万円以上の区分があるため、そちらから数え直しました。

世帯の所得その他の自営業割合累積(上から)被用者割合
所得なし127,6506.3%100.0%265,4007.4%
100万円未満(所得あり)513,95025.3%93.7%1,339,80037.2%
100〜200万円未満440,00021.7%68.4%1,024,25028.4%
200〜300万円未満312,00015.4%46.7%543,70015.1%
300〜500万円未満336,60016.6%31.3%299,8008.3%
500〜700万円未満138,3506.8%14.7%68,7001.9%
700〜1,000万円未満81,1004.0%7.9%28,8000.8%
1,000〜1,500万円未満43,8502.2%3.9%18,1000.5%
1,500万円以上34,4501.7%1.7%14,5500.4%

※ 単位は世帯。所得不詳(その他の自営業 23,200世帯)を除いた割合。累積はその階級以上の割合 ※ 所得は世帯の加入者全員の総所得金額等(基礎控除前)の合計。事業所得は青色申告特別控除後 ※ 1,000万円以上の割合3.9%は、厚生労働省の概要 表18の3.86%と一致することを確認済み

概要の表18が載せている平均所得は、自営業の世帯で296万7,710円です。しかし世帯数を下から数えていくと、中央値は180〜190万円の階級に入ります。少数の高所得世帯が平均を100万円以上押し上げている形です。

所得が300万円未満の自営業世帯は68.7%を占めます。所得500万円以上は14.7%、1,000万円以上は3.9%です。所得1,000万円以上の国保世帯は全体で17万450あり、そのうち45.9%は世帯主が自営業の世帯でした。国保の高所得層の半分近くを自営業が占めています。

判定ツールの損益分岐を統計の所得に直して重ねる

当サイトの計算エンジンで出した損益分岐(法人化の実質差額がプラスに転じる事業所得)を、統計の所得に直します。直し方は、損益分岐の売上−経費で個人の計算をして、青色申告特別控除を引いた後の事業所得を取り出すだけです。

条件損益分岐の事業所得(青色控除前)統計の所得に直すとそれ以上の階級その他の自営業のうち
独身・40歳未満1,266万円1,201万円1,000〜1,500万円の階級1.7%〜3.9%
独身・40〜64歳1,243万円1,178万円1,000〜1,500万円の階級1.7%〜3.9%
配偶者あり(無収入)・40歳未満1,016万円951万円900〜1,000万円の階級3.9%〜4.8%
白色申告・40歳未満793万円793万円700〜800万円の階級5.9%〜7.9%

※ 経費200万円・東京23区・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。損益分岐は3年目以降の定常状態 ※ 統計の階級は1,000万円・1,500万円などで区切られているため、損益分岐を含む階級の上端で切った割合〜下端で切った割合の幅で示す(2024年度調査) ※ 統計の所得は世帯合計なので、事業主本人の所得がこれより低い世帯も含む(割合は上振れする方向)

青色申告の独身者なら、損益分岐は統計の所得で1,200万円前後です。そこに届く自営業世帯は、多く見積もっても**3.9%、少なく見積もると1.7%**でした。配偶者が無収入の場合は損益分岐が下がりますが、それでも4.8%以下です。

この割合は実際より高めに出ています。統計の所得には配偶者の所得や分離譲渡所得が入るため、事業主本人の事業所得が損益分岐に届かない世帯も含まれるからです。法人化が手取りで有利になる個人事業主は、国保に入っている自営業者のなかでは少数派だといえます。

白色申告の行だけ割合が大きいのは、青色申告特別控除がない分、個人のままの税・保険料が重く、損益分岐が下がるためです。逆に言えば、白色申告のまま法人化を考えている人は、先に青色申告へ切り替えると損益分岐が470万円前後上がります。

所得1,000万円以上の割合は8年間で3〜4%台

最後に、自営業世帯の所得の分布が年によって動いているかを確かめます。

調査年度所得の年所得が分かる世帯中央値の階級500万円以上1,000万円以上1,500万円以上
2017年度2016年2,000,150170〜180万円245,300(12.3%)64,800(3.2%)27,850(1.4%)
2018年度2017年1,946,600170〜180万円248,050(12.7%)71,100(3.7%)36,300(1.9%)
2019年度2018年1,931,750170〜180万円239,050(12.4%)68,000(3.5%)32,300(1.7%)
2020年度2019年1,999,450170〜180万円248,050(12.4%)73,150(3.7%)37,300(1.9%)
2021年度2020年2,053,550180〜190万円269,250(13.1%)62,400(3.0%)29,550(1.4%)
2022年度2021年1,924,400190〜200万円309,650(16.1%)82,500(4.3%)30,450(1.6%)
2023年度2022年1,896,650180〜190万円276,850(14.6%)74,650(3.9%)34,200(1.8%)
2024年度2023年2,027,950180〜190万円297,750(14.7%)78,300(3.9%)34,450(1.7%)

※ 単位は世帯。擬制世帯・所得不詳を除く ※ 2020年分の所得から公的年金等控除額・基礎控除額が変わり(用語の解説)、青色申告特別控除の65万円は電子申告等が要件になった(それ以外は55万円)。2021年度調査の前後で所得の定義が少し動く

所得500万円以上の割合は、2020年度までの12%台から、2022年度以降は14〜16%台へ上がりました。一方で1,000万円以上は**8回とも3.0〜4.3%**の幅に収まっています。中央値の階級も170万〜200万円の間です。2024年度だけが例外的に低いわけではなく、損益分岐に届く自営業世帯が数%にとどまるのは毎年の姿だと読めます。

自分がどの帯にいるかを先に確かめる

「国保が高いから法人化」という動機で検討を始める人は多いですが、国保料は所得に応じて上がり、賦課限度額で頭打ちになります。その構造は国民健康保険が高いから法人化、は所得次第で逆効果になるで計算しています。損益分岐が「所得800万円」より高くなる理由は法人化の目安は「所得800万円」?にまとめました。

参考に、統計で自営業世帯の厚みがある年齢帯(40〜64歳)で、事業所得ごとの比較を出しておきます。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円295.5万円270.5万円月28万円−45.1万円個人のまま有利
600万円417.8万円403.7万円月42万円−34.0万円個人のまま有利
800万円528.9万円530.0万円月45万円−18.9万円ほぼ互角
1,000万円645.8万円655.8万円月45万円−10.0万円ほぼ互角
1,200万円764.7万円780.3万円月54万円−4.3万円ほぼ互角
1,500万円918.6万円964.7万円月54万円+26.1万円法人化が有利
1,800万円1072.5万円1138.0万円月90万円+45.5万円法人化が有利

※ 経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40〜64歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

統計の所得に直すと、事業所得400万円は335万円で自営業世帯の上位3割、600万円は535万円で上位15%の位置にあたります。その位置でも、法人化すると実質の手取りは年34万〜45万円少なくなる計算です。

まとめ

  • 市町村国保の加入世帯は2017→2024年度で18.1%減ったが、世帯主がその他の自営業の世帯は205万で横ばい。割合は15.6%から17.8%へ上がった
  • 統計の「所得」は基礎控除前・青色申告特別控除後の世帯合計。旧ただし書き所得でも、判定ツールの事業所得(控除前)でもない
  • 自営業世帯の所得の中央値は180〜190万円の階級、所得1,000万円以上は3.9%。この割合は8回とも3.0〜4.3%
  • 損益分岐(独身・青色で統計の所得1,200万円前後)に届く自営業世帯は1.7〜3.9%。世帯合計で数えているので実際はさらに少ない

統計の上で少数派かどうかと、あなた自身が法人化で得をするかは別の問題です。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

国民健康保険の加入者のうち、自営業はどのくらいいますか?

令和6年度の国民健康保険実態調査では、市町村国保の世帯(擬制世帯を除く)のうち、世帯主が農林水産業以外の自営業の世帯は17.8%、農林水産業は2.1%でした。最も多いのは無職の44.9%、次が被用者の31.4%です。割合は職業不詳の世帯を除いて計算しています。

国民健康保険実態調査の「所得」は、旧ただし書き所得のことですか?

違います。調査の「所得」は、総所得金額等に分離譲渡所得などを加えた基礎控除前の所得総額で、世帯の加入者全員の合計です。そこから基礎控除を引いた旧ただし書き所得は、調査では「課税標準額」と呼んで別に集計しています。

自営業の国保世帯の平均所得はいくらですか?

厚生労働省の概要(令和6年度 表18)では、世帯主がその他の自営業の世帯の平均所得は296万7,710円です。ただし少数の高所得世帯が平均を押し上げており、当サイトで世帯数を数え直すと中央値は180〜190万円の階級にあります。

個人事業主の国保組合の加入者は、この統計に入っていますか?

入っていません。ここで使った世帯票の集計は市町村国保が対象で、建設国保や文芸美術国保などの国保組合は組合員票という別の集計です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。