社会保険
国民年金基金は法人成りで自動脱退。掛金は1円も戻らない
結論
国民年金基金の加入員は、第2号被保険者となった日に加入員の資格を喪失します(国民年金法127条3項1号)。厚生年金に加入する日が脱退日です。それまでの掛金は返還されず、将来の年金として支給されます。月2万円を拠出していた場合、社会保険料控除は年24万円分が消えます。
- 資格喪失は「その日」。他の事由は翌日喪失だが、第2号被保険者になった場合だけ当日に喪失する
- 60歳前に加入期間15年未満で脱退した人は中途脱退者として、基金から国民年金基金連合会へ年金の現価相当額が移換される
- 売上800万円の人が月2万円拠出していた場合、社会保険料控除は104.3万円から法人化後69.8万円へ減る
国民年金基金に加入している個人事業主が法人化すると、基金は続けられません。手続きをしなくても、厚生年金に加入した日に自動で脱退になります。
このとき気になるのは、それまで納めた掛金がどうなるかです。結論から言うと、1円も戻りません。ただし消えるわけでもありません。
資格を失うのは「第2号被保険者になった日」
国民年金法127条1項は、国民年金基金の加入員になれるのは第1号被保険者であると定めています。法人から役員報酬を受けて厚生年金に加入すると第2号被保険者になるため、要件を満たさなくなります。
同条3項は資格喪失の事由を挙げ、その1号が「被保険者の資格を喪失したとき、又は第二号被保険者若しくは第三号被保険者となつたとき」です。
日付の扱いに注意が必要です。3項の柱書きは、原則として該当するに至った日の翌日に資格を喪失するとしたうえで、1号と4号に該当するときはその日としています。
| 喪失事由 | 喪失日 |
|---|---|
| 第2号被保険者になった(法人化して厚生年金に加入) | その日 |
| 地域型基金の地区内に住所を有しなくなった | 翌日 |
| 保険料の免除を受けることとなった | 免除された月の初日 |
| 農業者年金の被保険者になった | その日 |
厚生年金の資格取得日は、法人の設立日ではなく報酬の支払いが始まる日を基準に決まります。設立日と役員報酬の開始日がずれる場合、基金の脱退日もそれに従います。
掛金は返還されない。将来の年金として残る
国民年金基金連合会は、中途脱退者を「基金を60歳になる前に中途で脱退した方。ただし15年以上基金に加入していた方を除く」と定義しています。そして中途脱退者について、基金から年金の現価相当額の移換を受け、その加入員が受給年齢に達したときなどに通算して年金または遺族一時金を支払うとしています。
つまり、脱退時にお金が戻る制度ではありません。納めた分は年金の原資として引き継がれ、受給年齢になったときに支払われます。
| 脱退時の加入期間 | 受け取る窓口 |
|---|---|
| 15年未満で60歳前に脱退 | 国民年金基金連合会(現価相当額が移換される) |
| 15年以上 | 加入していた基金 |
この違いは金額ではなく、将来どこに連絡するかの違いです。法人化から20年後に受給年齢を迎えるとき、加入していた基金ではなく連合会が窓口になっているケースがあります。脱退の通知書は保管しておく必要があります。
付加年金には戻れる。ただし第1号でいる間だけ
基金に加入している間は、付加保険料を納付できません。国民年金法87条の2第1項は、付加保険料を納付できる者から国民年金基金の加入員を除くと明記しています。
基金を脱退すれば、この制限は外れます。ただし付加保険料を納付できるのも第1号被保険者だけです。法人化して第2号被保険者になるなら、付加年金にも入れません。
付加年金の額は、同法44条により200円に納付済期間の月数を乗じた額です。月400円を納めて年200円×月数が一生上乗せされるため、2年受け取れば元が取れます。個人事業のまま続ける場合には有力な選択肢ですが、法人化するなら選べません。
iDeCoの拠出限度額が法人化でどう変わるかは個人事業主のiDeCoは月6.8万円で扱っています。
社会保険料控除は、掛金の分だけ減る
国民年金基金の掛金は、全額が社会保険料控除の対象です。法人化すると掛金を払えなくなるため、この控除が消えます。代わりに健康保険・厚生年金の本人負担が控除の対象になります。
経費200万円・東京23区・単身・40歳未満・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社という条件で、当サイトの計算エンジンが出した社会保険料を並べます。基金の掛金は月2万円(年24万円)としています。
| 年間売上 | 個人:国保+国民年金+基金 | 法人化後:本人負担 | 差 | 法人負担(損金) |
|---|---|---|---|---|
| 800万円 | 104.3万円 | 69.8万円 | −34.5万円 | 71.6万円 |
| 1,000万円 | 125.4万円 | 90.2万円 | −35.2万円 | 92.5万円 |
| 1,200万円 | 141.1万円 | 90.2万円 | −50.9万円 | 92.5万円 |
前提:2026年(令和8年)分の保険料率。役員報酬はその売上で手取りが最大になる額(月42万〜54万円)。法人負担には子ども・子育て拠出金を含みます。
個人側で控除できる金額は減りますが、消えたわけではありません。 法人負担の列が示すとおり、同じくらいの金額を法人が払い、それは法人の損金になります。個人の所得控除から法人の経費へ、置き場所が移っただけです。
そして厚生年金に加入する以上、将来の年金は増えます。基金で積んでいた上乗せが止まる代わりに、報酬比例部分が積み上がります。金額は法人化で年金はいくら増えるかで計算しています。
判断に効くのは「何年払ったか」ではない
基金を長く続けてきた人ほど、脱退がもったいなく感じます。ただし脱退で失われるのは、これから積むはずだった分だけです。すでに納めた分は減りません。
確認する順序はこうなります。
- 何年・何口加入したか(15年以上なら窓口は基金のまま)
- 加入時に受け取った年金証書と、毎年届く通知を保管しているか
- 法人化後の厚生年金で、報酬比例部分がどれだけ積み上がるか
- 掛金が止まることで、毎年の所得控除がいくら減るか
このうち判定ツールで計算できるのは4の部分です。基金の給付額は加入した口数・型・年齢で決まるため、当サイトでは計算していません。加入している基金の通知で確認してください。
法人化の損得そのものは、毎年の差額で決まります。自分の売上と経費で確かめてください。
まとめ
- 国民年金基金に加入できるのは第1号被保険者(国民年金法127条1項)。法人化して厚生年金に入ると資格を失う
- 資格喪失は「第2号被保険者となった日」。他の事由と違い、翌日ではなく当日
- 掛金は返還されない。60歳前に加入期間15年未満で脱退すると、国民年金基金連合会へ年金の現価相当額が移換される
- 基金の加入員は付加保険料を納付できない(同法87条の2第1項)。脱退すれば制限は外れるが、第2号被保険者になるなら付加年金にも入れない
- 月2万円拠出していた場合、社会保険料控除は売上800万円で104.3万円から69.8万円へ減る。ただし同程度の額を法人が損金として負担する
よくある質問
法人化の直前に、基金の掛金をまとめて前納しておく意味はありますか。
資格を喪失した後の期間の掛金は納付できません。前納していた場合、資格喪失後の期間に対応する掛金は返還されるのが通常の扱いです。前納の取扱いは加入している基金によって異なるため、法人設立日が決まった段階で基金へ確認してください。
法人化した後、国民年金基金に入り直せますか。
できません。加入できるのは第1号被保険者です(国民年金法127条1項)。役員報酬を受けて厚生年金に加入している間は第2号被保険者なので、対象外です。
役員報酬を0円にすれば第1号被保険者のままでいられますか。
報酬がなければ厚生年金の被保険者にならないため、第1号被保険者のままという整理になります。ただし役員報酬0円は社会保険の加入可否そのものを左右する論点で、基金だけを理由に選ぶ話ではありません。役員報酬0円の扱いは別の記事で扱っています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。