社会保険

75歳の社長の後期高齢者医療保険料は、役員報酬で年61万円変わる

結論

東京都の令和8・9年度の料率では、売上−経費1,000万円の75歳以上の個人事業主は、事業所得935万円で後期高齢者医療保険料が限度額の年87.1万円に達します。同じ事業を法人で行い役員報酬を月30万円にすると、保険料の計算に乗るのは給与所得244万円だけで、保険料は年25.8万円です。法人に残した利益は保険料の計算に入りません。

  • 東京都の令和8・9年度は、医療分が均等割53,300円+所得割9.88%(限度額85万円)、子ども・子育て支援金分が均等割1,300円+所得割0.26%(限度額2.1万円)
  • 保険料の計算のもとは前年の総所得金額等から43万円を引いた額。75歳以上は会社の健康保険に入れないため、法人が負担する保険料は0円になる
  • 社長の75歳到達で被扶養者だった65〜74歳の配偶者は国民健康保険へ移り、均等割5割軽減(2年)と所得割の免除が付く。個人事業主の世帯にはない軽減

75歳から先は、個人事業主も一人社長も同じ後期高齢者医療制度に入ります。制度が同じになるので保険料も同じだと思われがちですが、保険料の計算に乗る所得の形が違います。個人事業主は事業の利益がまるごと乗り、一人社長は役員報酬の給与所得だけが乗ります。

75歳で、会社が負担する保険料は0円になる

健康保険の資格は75歳の誕生日に失われ、後期高齢者医療制度の被保険者に切り替わります。厚生年金はすでに70歳で資格を失っているので、75歳以上の社長には会社が負担する社会保険料がなくなります。年齢ごとの資格喪失日と保険料の落ち方は70歳・75歳の一人社長の社会保険で扱いました。

後期高齢者医療の保険料は、都道府県ごとの後期高齢者医療広域連合が2年ごとに決めます。東京都の令和8・9年度は次のとおりです。

区分均等割額所得割率限度額
医療分均等割 53,300円所得割 9.88%85万円
子ども・子育て支援金分均等割 1,300円所得割 0.26%2.1万円
合計均等割 54,600円所得割 10.14%87.1万円

※ 東京都後期高齢者医療広域連合の令和8・9年度の額。年間保険料は医療分と支援金分をそれぞれ100円未満切り捨てて合計する。令和9年度の支援金分の率は令和8年度に改めて算定される

所得割を掛ける「保険料計算のもととなる所得金額」は、前年の総所得金額等から基礎控除43万円を引いた額です。所得税の課税所得と違い、社会保険料控除や配偶者控除は引かれません。個人事業主なら青色申告特別控除後の事業所得、社長なら給与所得控除後の給与所得が、ほぼそのまま乗ります。

同じ利益でも、保険料の計算に乗る所得が違う

個人事業主のままの場合と、法人で役員報酬を受け取る場合の保険料を並べました。年金収入はないものとし、均等割・所得割の軽減は含めていません。

個人事業主のまま

売上−経費事業所得(青色65万円控除後)後期高齢者医療保険料(年)
300万円235万円249,100円
500万円435万円451,900円
700万円635万円654,700円
850万円785万円806,800円
915万円850万円871,000円(限度額)
1,000万円935万円871,000円(限度額)

一人社長(役員報酬だけを受け取る場合)

役員報酬給与所得後期高齢者医療保険料(年)
月20万円160万円173,100円
月30万円244万円258,300円
月40万円340万円355,700円
月54万円474.4万円492,000円
月70万円646万円665,900円
月90万円885万円871,000円(限度額)

※ 東京都の令和8・9年度の料率。給与所得は令和8年分の給与所得控除(最低保障額74万円)で計算エンジンが算出。青色申告特別控除はe-Taxの65万円。均等割の軽減(世帯の所得が低い場合)と東京都独自の所得割の軽減は含めない

売上−経費1,000万円の事業で比べると、個人事業主は限度額の87.1万円です。法人で役員報酬を月30万円にすれば25.8万円、月54万円でも49.2万円です。月30万円なら年61.3万円、保険料が下がります。 法人に残った利益は、配当などで個人が受け取るまで保険料の計算に入りません。

限度額に届く線も違います。医療分の85万円に届くのは、保険料計算のもとになる所得金額が約806万円、総所得金額等で約849万円のときです。個人事業主なら売上−経費915万円前後、社長なら役員報酬が月87万円前後に当たります。

ここで大事なのは、この差は保険料だけの比較だという点です。役員報酬を抑えれば法人に利益が残り、法人税がかかります。個人の所得税・住民税も変わります。75歳以上では当サイトの判定ツールの前提(健康保険・厚生年金に加入)が当てはまらないため、法人化の損得はこの表だけでは決まりません。

年金と役員報酬の両方があると、10万円が引かれる

75歳以上の社長の多くは、役員報酬と一緒に老齢年金を受け取っています。年金(公的年金等の雑所得)は、個人事業主でも社長でも同じように総所得金額等に加わります。

ただし社長の側にだけ効く調整があります。国税庁の説明では、給与所得と公的年金等の雑所得の両方がある人は、所得金額調整控除として次の額を給与所得から差し引きます。

{給与所得(10万円超なら10万円)+公的年金等の雑所得(10万円超なら10万円)}−10万円

給与所得と年金の雑所得がどちらも10万円を超えていれば、控除額は10万円です。総所得金額等が10万円下がるので、東京都の料率では医療分が9,880円、支援金分が260円下がり、保険料は年1万円程度軽くなります。事業所得と年金の組み合わせにはこの控除がないため、個人事業主には付きません。

配偶者が被扶養者だった世帯にだけ付く軽減

一人社長の配偶者が、会社の健康保険の被扶養者になっている世帯があります。社長が75歳になったとき、この配偶者の扱いが変わります。

社長本人が後期高齢者医療制度に移ると、健康保険の被保険者ではなくなるため、75歳未満の配偶者は被扶養者でいられなくなり、国民健康保険に加入します。このとき、加入時点で65歳以上75歳未満の配偶者には、旧被扶養者の減免が申請で受けられます。杉並区の案内では内容は次のとおりです。

項目内容
均等割額加入から2年(24か月)を経過する月まで5割軽減
所得割額当分の間、免除
手続き国民健康保険の加入手続きの際に申請

配偶者のほうが先に75歳になる場合にも、似た軽減があります。大田区は、後期高齢者医療制度の対象になった日の前日まで会社の健康保険などの被扶養者だった人について、均等割額を加入から2年を経過する月まで5割軽減し、所得割額は当面かからないと案内しています。

どちらも、国民健康保険・国民健康保険組合から移った人は対象外です。個人事業主の世帯では、配偶者はもともと国民健康保険に入っているので、この軽減は付きません。法人化して配偶者を被扶養者にしていた世帯だけが、75歳の切り替えで受けられる経過措置です。配偶者を被扶養者にする条件は配偶者を法人の社会保険の扶養に入れる条件にまとめています。

75歳を前に、何を見ておくか

75歳以降の保険料は、前年の所得で決まります。75歳になる年度の保険料には、74歳のときの役員報酬が反映されます。役員報酬を変えるなら、変えた年の翌年度から保険料が動く、という時間差を前提にする必要があります。

医療機関の窓口負担も、同じ所得から決まります。後期高齢者医療の自己負担割合は、住民税の課税所得などで1割・2割・3割に分かれ、こちらも事業所得か給与所得かで判定のもとが変わります。月ごとの上限については高額療養費の所得区分と法人化で扱いました。

75歳未満のうちの法人化の損得は、判定ツールに自分の売上と経費を入れると役員報酬別に確かめられます。75歳以降は会社負担の保険料がなくなるため、この記事の保険料の表と、法人税・所得税の差を合わせて見る必要があります。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 75歳で健康保険の資格を失い、後期高齢者医療制度へ移る。厚生年金は70歳で終わっているため、会社が負担する社会保険料は0円になる
  • 東京都の令和8・9年度は、医療分が均等割53,300円+所得割9.88%、支援金分が均等割1,300円+所得割0.26%。限度額は合計87.1万円
  • 売上−経費1,000万円なら、個人事業主は限度額の87.1万円、社長が役員報酬月30万円なら25.8万円。法人に残した利益は保険料の計算に入らない(ただし保険料だけの比較)
  • 給与所得と年金の両方がある社長は、所得金額調整控除で10万円が引かれ、保険料が年1万円程度下がる
  • 社長の75歳到達で国民健康保険に移る65〜74歳の配偶者には、均等割5割軽減(2年)と所得割の免除が付く。個人事業主の世帯にはない軽減

よくある質問

75歳になる年の保険料は、健康保険と後期高齢者医療で二重にかかりますか。

かかりません。健康保険の資格は75歳の誕生日に失われ、後期高齢者医療の保険料は加入した月から月割りで計算されます。大田区は、国民健康保険からの移行について、保険料は各保険の加入月に応じて重複がないように計算すると案内しています。

法人に残した利益を配当で受け取ると、保険料に影響しますか。

配当所得を確定申告などで総所得金額等に含めると、翌年度の保険料の計算のもとになる所得金額に入ります。役員報酬を抑えて法人に残した利益も、配当として受け取る段階で保険料に反映され得るため、引き出し方と年度をあわせて考える必要があります。

年金と役員報酬の両方がある場合、保険料の計算で何か差し引かれますか。

給与所得と公的年金等の雑所得の両方がある人は、所得金額調整控除により給与所得から最大10万円が差し引かれます。総所得金額等が10万円下がるため、東京都の料率では保険料が年1万円程度下がります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。