社会保険

協会けんぽのインセンティブ制度で保険料率はいくら動く?一人社長の年額

結論

協会けんぽの健康保険料率には、全支部一律の加算0.01%と、成績上位15支部だけの減算が入っています。令和8年度料率への試算では減算は新潟の▲0.233%が最大で、標準報酬月額54万円の一人社長なら労使合計で年1万4,819円、手取りでは年1万656円の差です。2位の島根は▲0.145%、15位の岩手は▲0.007%で、多くの支部は年数百〜数千円の範囲です。

  • 反映は翌々年度。令和6年度の健診・保健指導などの実績が令和8年度(令和8年3月分から)の料率に入る
  • 評価指標は5つ(特定健診、特定保健指導、保健指導対象者の減少率、要受診者の受診率、後発医薬品の使用割合)で計320点。上位15支部が得点に応じて減算される
  • 減算のない32支部の負担は加算0.01%分だけで、標準報酬月額54万円なら労使合計で年636円。都道府県間の料率差(最大1.34ポイント)に比べるとひと桁小さい

協会けんぽの都道府県別の健康保険料率は、医療費だけで決まっているわけではありません。料率の内訳の最後に「インセンティブ制度の部分」という小さな項目があり、支部の健診・保健指導の成績で上下します。一人社長は会社負担分も実質的に自分で払うので、この差は労使合計で効きます。

ここでは、全国健康保険協会の評議会資料(令和7年12月時点の試算)をもとに、減算の大きさと年間保険料の差を計算エンジンで出しました。

料率の内訳に「加算0.01%」と「減算」がある

健康保険法160条は、協会けんぽの一般保険料率を支部被保険者を単位として協会が決めると定めています(1,000分の30〜130の範囲)。都道府県ごとに料率が違うのはこのためです。

京都支部の評議会資料では、令和8年度の京都支部の料率9.89%を次のように分解しています。

内訳京都支部(令和8年度)
療養の給付等に係る保険料率5.37%
共通料率(全国一律の部分)4.55%
精算の部分▲0.04%
インセンティブ制度の部分0.01%
合計(小数点第3位四捨五入)9.89%

インセンティブ制度の部分は「加算−減算」です。財源として**全支部に一律0.01%**が上乗せされ、成績が上位15支部に入った支部だけ、得点数に応じた報奨金で料率が下がります。京都支部は令和6年度実績で上位15支部に入らず、減算は0円でした。

上位の支部の数は、令和5年度の料率までは23支部でした。令和6年度の料率から、上位の支部が受けるメリットを大きくするため15支部に絞られています(長崎支部の資料)。

評価は5指標・320点。結果は翌々年度の料率に入る

順位は次の5つの指標の偏差値方式の得点(指標ごとに素点50〜80)の合計で付きます。

指標配点評価割合
1 特定健診等の実施率70実施率50%・上昇幅25%・件数の上昇率25%
2 特定保健指導の実施率70実施率50%・上昇幅25%・件数の上昇率25%
3 特定保健指導対象者の減少率80減少率100%
4 要受診者の医療機関受診率50受診率50%・上昇幅50%
5 後発医薬品の使用割合50使用割合50%・上昇幅50%
合計320

注意したいのは時期のずれです。当年度の実績は翌々年度の料率に反映されます。令和8年3月分から適用されている料率に入っているのは令和6年度の実績で、令和8年度の取り組みは令和10年度の料率に効きます。

もう1つは評価の単位です。順位は支部(都道府県)ごとに付くため、自社の社長や従業員が健診を受けたかどうかは、支部全体の中の数件分にしかなりません。料率は自分の努力で直接は動かせない、と捉えておくほうが実態に近いです。

減算15支部と、一人社長の年額差

令和6年度実績を令和8年度料率に反映した場合の試算で、減算を受ける15支部は次のとおりです。「減算がなければ」は、data/rates-2026.json の令和8年度確定料率に試算の減算率を足し戻した参考値です。年額差は、その料率差で一人社長の健康保険料(労使合計)がいくら違うかを計算エンジンで出しました。

順位支部減算率(試算)令和8年度料率減算がなければ月20万の年額差月30万の年額差月54万の年額差月100万の年額差
1新潟▲0.233%9.21%9.443%5,592円8,388円14,819円27,401円
2島根▲0.145%9.94%10.085%3,480円5,220円9,222円17,052円
3岐阜▲0.062%9.80%9.862%1,488円2,232円3,943円7,291円
4山形▲0.056%9.75%9.806%1,344円2,016円3,562円6,586円
5石川▲0.048%9.70%9.748%1,152円1,728円3,053円5,645円
6静岡▲0.046%9.61%9.656%1,104円1,656円2,926円5,410円
7沖縄▲0.043%9.44%9.483%1,032円1,548円2,735円5,057円
8秋田▲0.037%10.01%10.047%888円1,332円2,353円4,351円
9奈良▲0.036%9.91%9.946%864円1,296円2,290円4,234円
10山梨▲0.024%9.55%9.574%576円864円1,526円2,822円
11福島▲0.024%9.50%9.524%576円864円1,526円2,822円
12和歌山▲0.021%10.06%10.081%504円756円1,336円2,470円
13佐賀▲0.011%10.55%10.561%264円396円700円1,294円
14徳島▲0.009%10.24%10.249%216円324円572円1,058円
15岩手▲0.007%9.51%9.517%168円252円445円823円

※ 40歳未満(介護保険なし)・子ども子育て支援金0.23%を含む・労使合計・賞与なし/2026年(令和8年)分基準。減算率は令和7年12月23日(第139回運営委員会)時点の試算値で、資料自身が実際の率とは差異が生じると注記しています。

減算は得点に応じて段階的に付くため、1位と2位だけが突出しています。新潟の総得点418.1点は2位の島根(384.1点)を34点上回り、減算率も島根の1.6倍です。3位以下は▲0.06%以下に収まり、標準報酬月額54万円でも年4,000円を下回ります。

一方、上位15支部に入らなかった32支部は、加算0.01%の負担だけが残ります。

標準報酬月額0.01%加算の年額(労使合計・東京都)
20万円240円
30万円360円
54万円636円
100万円1,176円

※ 40歳未満・子ども子育て支援金を含む・労使合計・賞与なし/2026年(令和8年)分基準

手取りで見ると差は約7割に縮む

一人社長にとって、保険料の差はそのまま手取りの差にはなりません。会社負担分は法人の損金に、本人負担分は社会保険料控除になるため、増えた保険料の一部は税金の減少で戻ってくるからです。

新潟県の会社で、令和8年度の確定料率と「減算がなかった場合」の料率で、判定ツールと同じ計算エンジンの法人化後の手取り(最適な役員報酬時)を比べました。

売上最適報酬(確定料率)法人化の手取り(確定料率)減算がなければ差
800万円月42万円4,119,543円4,111,085円8,458円
1,200万円月54万円6,653,126円6,642,470円10,656円
1,500万円月54万円8,519,846円8,509,190円10,656円
2,000万円月90万円11,534,098円11,518,354円15,744円

※ 経費200万円・新潟市・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。減算率▲0.233%は試算値

売上1,200万円・報酬月54万円では、保険料の差1万4,819円に対して手取りの差は1万656円で、約72%です。最大の減算を受ける新潟でも、法人化の判断を左右する大きさではありません。

料率改定のときに見る順番

料率は毎年3月分(4月納付分)から変わります。前年度から料率が動いたときは、次の順で理由を切り分けると読み違えません。

  1. 医療費の部分(療養の給付等に係る保険料率)。支部ごとの医療給付費をもとに計算される部分で、共通料率は全国一律です
  2. 精算の部分。過去の年度の収支の調整で、年によって正負が入れ替わります
  3. インセンティブ制度の部分。加算0.01%は全支部共通なので、差が出るのは上位15支部の減算だけです

新潟の令和8年度料率9.21%のうち、インセンティブによる引下げは試算で0.233ポイントです。減算がなかったとしても9.443%で、全国で最も低い料率であることは変わりません(2番目に低い沖縄は9.44%ですが、沖縄自身も▲0.043%の減算を受けており、減算前は9.483%です)。

都道府県ごとの料率そのものの比較は協会けんぽの健康保険料率、都道府県で年9万円違うで全47支部を一覧にしています。法人化後に受けられる健診の自己負担の違いは法人化で健康診断はどう変わる?を参照してください。保険料の計算の土台になる等級は標準報酬月額の等級表にあります。

まとめ

  • 協会けんぽの料率には、全支部一律の加算0.01%と、上位15支部だけの減算が入っている
  • 評価は5指標・320点の支部単位で、実績は翌々年度の料率に反映される(令和6年度実績→令和8年度料率)
  • 令和8年度料率への試算では減算は新潟▲0.233%・島根▲0.145%が突出し、3位以下は▲0.06%以下
  • 標準報酬月額54万円の一人社長で、新潟の減算は保険料で年1万4,819円、手取りで年1万656円の差
  • 新潟の減算を除いても、最も高い佐賀10.55%との差は1.1ポイントあり、インセンティブは年数百円〜1万円台の調整にとどまる

都道府県の料率は判定ツールの計算に反映されています。一般論ではなく、自分の会社の所在地と売上・経費で法人化後の保険料と手取りを確かめてください。

よくある質問

インセンティブ制度の減算は、自分の会社の健診受診率で決まりますか?

決まりません。評価の単位は都道府県支部で、その支部に加入する事業所・加入者全体の実績で順位が付きます。自社の社長1人が健診を受けても、料率への影響は支部全体の中の1件分です。

令和8年度の取り組みはいつの保険料率に効きますか?

当年度の実績は翌々年度の料率に反映されるため、令和8年度の実績は令和10年度の料率に入ります。令和8年度の料率に入っているのは令和6年度の実績です。

健康保険組合に加入している会社にも関係しますか?

関係しません。この記事のインセンティブ制度は協会けんぽの都道府県単位保険料率の仕組みです。健康保険組合の料率は組合ごとに決まります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。