設立の手続き

見せ金とは?払い込んだ資本金を設立直後に戻すと何が起きるか

結論

株式会社の発起人が払込みを仮装すると、会社法52条の2で払込みを仮装した金額の全額を会社に支払う義務を負い、支払うまで株主の権利を行使できません。資本金は設立後に会社の事業費として使うか、社長個人が使うなら役員貸付金として返済と利息を管理するのが条文に沿った形です。

  • 会社法34条1項:発起人は株式の引受け後遅滞なく出資金の全額を払い込む。合同会社は578条で登記までに全額
  • 仮装した発起人は52条の2で全額の支払義務、関与した設立時取締役も連帯。支払うまで株主権を行使できない(4項)
  • 預合いは965条で5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金(併科あり)。応じた側も同罪

一人会社では、発起人も設立時取締役も社長本人です。払い込んだ資本金を誰にも止められずに引き出せるため、「登記が済んだら個人口座へ戻せばいい」と考えがちです。

この記事では、その発想が会社法の条文のどこに触れるのかを、株式会社と合同会社に分けて整理します。判例上の「見せ金」の評価基準には踏み込まず、条文で確認できる範囲に限ります。

資本金の払込みは、会社法で「全額・遅滞なく」と決まっている

まず、払込みそのもののルールです。

会社の形条文求められること
株式会社(発起設立)会社法34条1項株式の引受け後遅滞なく、出資金の全額を払い込む
株式会社(払込場所)会社法34条2項発起人が定めた銀行等の払込取扱場所で払い込む
合同会社会社法578条定款作成後、設立の登記をする時までに全額を払い込む

登記の申請では、株式会社は「払込みがあったことを証する書面」を添付します(商業登記法47条2項5号)。一人会社の発起設立では、この書面で払込みの事実を示して登記が進みます。

ここで押さえたいのは、法律が求めているのは「払い込んだという外形」ではなく、出資金の全額が会社の財産になることだという点です。登記が済んだ瞬間に個人へ戻すと、書面上は払い込まれていても、会社には何も残りません。

払込みを仮装すると、全額を会社に支払う義務が残る

この「外形だけの払込み」を、会社法は「払込みを仮装した場合」として扱います。52条の2です。

項内容
1項払込みを仮装した発起人は、仮装した出資金の全額を株式会社に支払う義務を負う
2項仮装に関与した発起人・設立時取締役(法務省令で定める者)も支払義務を負う。注意を怠らなかったことを証明すれば免れる(仮装した本人を除く)
3項1項と2項の義務を負う者は連帯債務者になる
4項支払いがされるまで、仮装した株式について株主の権利を行使できない

一人会社に当てはめると、仮装した発起人も関与した設立時取締役も社長本人です。2項の「注意を怠らなかった」という逃げ道は、仮装した本人には使えません。

4項は一人会社では特に重い規定です。 株主が社長1人なら、株主総会の決議(役員報酬の額の決定など)はすべてその株主の権利行使で成り立っています。支払いがされるまで権利を行使できないということは、その間の決議の土台が揺らぐことを意味します。

募集株式(設立後の増資)でも同じ構造の規定があります。213条の2は、払込みを仮装した引受人に払込金額の全額の支払義務を課しています。

預合いは刑事罰の対象になる

見せ金と並べて語られるのが「預合い」です。会社法965条は、発起人や取締役などが株式の発行に係る払込みを仮装するため預合いを行ったときの罰則を定めています。

項目内容
対象者960条1項1号〜7号に掲げる者(発起人、設立時取締役、取締役など)
刑罰5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、または併科
相手方預合いに応じた者も同様に処罰される

条文は「預合い」の定義を置いていません。払込取扱機関との関係で払込みを仮装する行為を指すとされますが、どの行為が該当するかの評価は判例の領域なので、この記事では立ち入りません。

なお52条の2と965条は、どちらも株式会社の株式の払込みを対象にした規定です。合同会社については578条が全額の払込みを求めていますが、この2つの条文の対象にはなっていません。だからといって合同会社なら戻してよいという話にはなりません。出資金を会社の財産として残さない点は同じだからです。

資本金を使いたいときの、条文に沿った2つの形

設立後に会社のお金をどう使うかは、会社法が制限している話ではありません。問題は使い方の形です。

1. 会社の事業費として使う

設立費用の立替精算、仕入れ、備品、事務所の敷金など、会社の事業のために支払うのが本来の使い方です。資本金は会社の運転資金なので、設立直後に残高が減ること自体は問題になりません。設立前の支出は、創立費・開業費として扱えます(創立費・開業費の任意償却)。

2. 社長個人が使うなら、役員貸付金として管理する

どうしても個人の支払いに充てるなら、会社から社長への貸付けとして記録します。返済の約束と利息が必要です。

無利息のままにすると、国税庁が定める利率(令和8年中の貸付けは年1.3%、令和7年中までは年0.9%。タックスアンサー No.2606)で計算した利息相当額が給与として課税される扱いになります。詳しい計算は 役員貸付金の認定利息 にまとめています。

ただし、設立直後に払込額とほぼ同額を貸付けとして戻す形は、名目を貸付金にしても払込みの仮装と評価されるおそれがあります。 貸付金という勘定科目が、払込みが実体を伴っていたことを証明してくれるわけではありません。逆に、手元資金が足りないなら資本金を無理に大きくせず、必要額だけ払い込む方が筋がよい選択です(資本金の決め方)。

設立費用そのものは、法人化の初年度差額にすでに乗っている

見せ金の発想の裏には「資本金分の現金が手元から消えるのが惜しい」という感覚があります。しかし資本金は会社の口座に残る会社のお金であって、費用ではありません。初年度に実際に出ていくのは設立費用です。

計算エンジンで、売上1,200万円・経費200万円・東京23区・インボイス登録済みの条件を計算すると次のようになります。

項目合同会社株式会社
個人のままの手取り657.1万円657.1万円
法人化後の手取り(最適報酬 月54万円)662.4万円662.4万円
初年度の実質差額(設立費用・税理士報酬込み)−24.7万円−39.7万円
2年目以降の実質差額−14.7万円−14.7万円
損益分岐となる事業所得1,266万円1,266万円

※ 概算。単身・40歳未満・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み。実質差額は設立費用と税理士報酬を差し引いた額。

資本金をいくらにしても、この差額は変わりません。法人化の損得を決めるのは、払い込む資本金の額ではなく、所得の水準と役員報酬の決め方です。自分の売上と経費でどうなるかは、判定ツールで確かめてください。

まとめ

  • 株式会社は34条で遅滞なく全額、合同会社は578条で登記までに全額の払込みが必要
  • 株式会社で払込みを仮装すると、52条の2で全額の支払義務と、支払うまでの株主権の制限がある
  • 預合いは965条で5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金(併科あり)の対象
  • 資本金は会社の事業費として使うのが本来の形。個人が使うなら役員貸付金として返済と利息を管理する
  • 資本金は費用ではなく、法人化の初年度差額は設立費用と所得水準で決まる

よくある質問

資本金を設立後に会社の経費の支払いに使うのは見せ金ですか?

会社法が求めているのは設立時に出資金の全額を払い込むことで、設立後に会社が事業のために資金を使うことは制限していません。問題になるのは、払い込んだお金が実質的に出資者個人へ戻り、会社の財産として残っていない形です。

合同会社にも見せ金の規定はありますか?

合同会社は会社法578条で、設立の登記をする時までに出資金の全額を払い込むことが求められています。一方、52条の2(払込みの仮装の責任)と965条(預合いの罪)は株式会社の規定で、条文上は株式の払込みを対象にしています。

一時的に知人から借りたお金で資本金を払い込んでもよいですか?

借入金で払い込むこと自体を禁じた条文はありません。ただし設立直後に会社の口座から引き出して返済に充てると、払い込まれたお金が会社に残らないため、払込みの仮装と評価されるおそれがあります。個別の評価は専門家に確認してください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。