社会保険
難病の医療費助成は法人化で上限が月3万→2万円に下がる帯がある
結論
売上1,000万〜1,500万円・経費200万円・単身なら、個人のままの市町村民税所得割額は35万〜64万円で上位所得(上限月3万円)ですが、法人化して最適報酬(月54万円)にすると20.3万円まで下がり、一般所得Ⅱ(上限月2万円)に入ります。上限いっぱいまで医療費がかかる月が続けば、差は年最大12万円です。
- 上限月額の区分は市町村民税所得割額7.1万円・25.1万円が境目。指定都市でも税率6%で計算した額で判定する
- 国保は同じ保険に入っている世帯員全員の所得割額を合算し、健康保険は被保険者本人の分だけで判定する
- 売上2,000万円以上では最適報酬が月90万円以上になり、法人化しても上位所得のまま
指定難病の医療費助成は、医療費の窓口負担を2割にしたうえで、月の自己負担に上限を設ける制度です。その上限額は医療保険上の世帯の市町村民税所得割額で決まります。
法人化すると、この所得割額は2つの経路で動きます。事業所得が役員報酬(給与所得)に変わって額そのものが下がること。そして国民健康保険から健康保険に移り、合算する「世帯」の範囲が変わることです。
上限月額は所得割額7.1万円と25.1万円で3段に分かれる
大阪市が公表している自己負担上限月額の表です(令和8年7月1日更新)。所得に応じた区分は6つありますが、課税世帯が入るのは下の3つです。
| 階層区分 | 市町村民税所得割額 | 一般 | 高額かつ長期 | 人工呼吸器等装着者 |
|---|---|---|---|---|
| 一般所得Ⅰ | 課税以上7.1万円未満 | 1万円 | 5,000円 | 3,000円 |
| 一般所得Ⅱ | 7.1万円以上25.1万円未満 | 2万円 | 1万円 | 6,000円 |
| 上位所得 | 25.1万円以上 | 3万円 | 2万円 | 1.2万円 |
市町村民税が非課税の世帯は低所得Ⅰ・Ⅱで月2,500円・5,000円、生活保護は0円です。均等割だけ課税される世帯は一般所得Ⅰに入ります。入院時の食費は全額自己負担で、助成の対象外です。
「高額かつ長期」は、医療費総額(10割)が5万円を超える月が年6回以上ある人の区分で、申請が必要です。上限額は一般の半分程度になります。
所得割額は「6%で計算した額」で見る
政令指定都市は平成30年度から市民税の税率が8%になっていますが、相模原市は階層区分の判定に「改正前の税率(6%)で算出した市民税」を使うと案内しています。住む市によって区分が変わらないための扱いです。
このため以下の計算も、指定都市かどうかにかかわらず税率6%で出しています。
いつの所得で判定するか
大阪市によると、申請が1月から6月までは前々年分、7月から12月までは前年分の所得割額を使います。2026年に法人化した場合、役員報酬が判定に使われるのは2027年7月以降の申請・更新からです。法人化した年とその翌年前半は、個人事業主時代の所得で判定されます。
売上別:法人化で上位所得から一般所得Ⅱに下がる帯
判定ツールと同じ計算エンジンで、個人のままの所得割額と、法人化して手取りが最大になる役員報酬にしたときの所得割額を並べました。
| 売上(経費200万円) | 個人の所得割額 | 区分 | 法人化後の役員報酬 | 法人化後の所得割額 | 区分 |
|---|---|---|---|---|---|
| 600万円 | 137,600円 | 一般所得Ⅱ(2万円) | 月28万円 | 80,300円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 800万円 | 244,000円 | 一般所得Ⅱ(2万円) | 月42万円 | 146,200円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 1000万円 | 350,500円 | 上位所得(3万円) | 月54万円 | 203,000円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 1200万円 | 463,900円 | 上位所得(3万円) | 月54万円 | 203,000円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 1500万円 | 643,100円 | 上位所得(3万円) | 月54万円 | 203,000円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 2000万円 | 943,100円 | 上位所得(3万円) | 月90万円 | 428,700円 | 上位所得(3万円) |
| 3000万円 | 1,570,400円 | 上位所得(3万円) | 月100万円 | 497,000円 | 上位所得(3万円) |
前提:横浜市・40歳未満・単身・扶養なし・青色申告65万円(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社。所得割額は市町村民税分(税率6%・調整控除後)。税額控除は考慮していない。上限額は「一般」の区分。
区分が動くのは売上1,000万〜1,500万円の帯です。個人のままでは所得割額が25.1万円を超えて上位所得ですが、最適報酬の月54万円なら20.3万円で一般所得Ⅱに収まります。
売上800万円以下は、もともと一般所得Ⅱです。法人化で所得割額は下がりますが、7.1万円を下回るほどではありません。売上2,000万円以上は最適報酬が高くなり、法人化しても上位所得のままです。
差額は「上限に届く月」だけ生じる
上限月額が3万円から2万円になっても、毎月1万円得するわけではありません。窓口で払う2割負担が上限に届かない月は、どちらの区分でも実際の負担額を払うだけです。
医療費総額(10割)が月15万円を超えると2割負担が3万円を超え、上位所得の上限に届きます。10万円を超えると一般所得Ⅱの2万円に届きます。毎月15万円以上かかる治療が続く場合に、差は月1万円・年12万円になります。
役員報酬別:月25万円と月60万円に境目がある
売上1,200万円・経費200万円で、役員報酬を動かしたときの所得割額です。
| 役員報酬(月) | 給与所得 | 住民税の課税所得 | 市町村民税所得割額 | 区分 |
|---|---|---|---|---|
| 月15万円 | 1,060,000円 | 373,956円 | 20,800円 | 一般所得Ⅰ(1万円) |
| 月20万円 | 1,600,000円 | 828,600円 | 48,100円 | 一般所得Ⅰ(1万円) |
| 月25万円 | 2,020,000円 | 1,146,180円 | 67,200円 | 一般所得Ⅰ(1万円) |
| 月30万円 | 2,440,000円 | 1,497,900円 | 88,300円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 月35万円 | 2,920,000円 | 1,875,480円 | 111,000円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 月40万円 | 3,400,000円 | 2,270,136円 | 134,700円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 月45万円 | 3,880,000円 | 2,698,920円 | 160,300円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 月50万円 | 4,360,000円 | 3,076,500円 | 183,000円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 月60万円 | 5,380,000円 | 3,942,876円 | 235,000円 | 一般所得Ⅱ(2万円) |
| 月70万円 | 6,460,000円 | 4,883,916円 | 291,400円 | 上位所得(3万円) |
前提は上の表と同じ。
一般所得Ⅱの幅は広く、月30万円から月60万円までがこの区分です。上位所得に入るのは月60万円台の後半からです。
逆に一般所得Ⅰ(上限1万円)まで下げるには月25万円以下が必要です。ただ、報酬を下げると会社に残る利益に法人税がかかり、個人に移すときにも課税されます。上限額の差(月1万円)のために報酬を大きく削ると、手取り全体では損になりやすいです。役員報酬と手取りの関係は役員報酬の最適額はいくらかで扱いました。
国保から健康保険へ。合算する「世帯」が変わる
もう1つの変化は、判定に使う世帯の範囲です。相模原市の案内では、国民健康保険は同じ保険に加入している世帯員全員の所得割額を合算し、健康保険などの被用者保険は被保険者本人の分で判定します。患者が被扶養者なら、被保険者の所得割額が使われます。
| 誰が患者か | 個人事業主(国保) | 法人化後(協会けんぽ) |
|---|---|---|
| 本人 | 本人+国保に入っている家族の所得割額の合計 | 本人(被保険者)の所得割額のみ |
| 扶養に入る子ども・配偶者 | 同上 | 被保険者である本人の所得割額 |
| 収入のある配偶者(別の保険) | 配偶者が国保なら世帯で合算 | 配偶者自身の保険の世帯で判定 |
たとえば個人事業主の夫婦が2人とも国保で、夫婦それぞれに所得割額がある場合、国保のままなら2人分の合計で判定されます。社長が法人化して協会けんぽの被保険者になり、配偶者を扶養に入れれば、判定は社長1人分の所得割額になります。
子どもが患者の場合の小児慢性特定疾病の医療費助成も、境目は同じ7.1万円・25.1万円です。小児慢性特定疾病の医療費助成と法人化で扱いました。
配偶者を扶養に入れられるかは、年収130万円未満などの要件で決まります。詳しくは配偶者を扶養に入れると法人化はどう変わるかで扱いました。
精神科の通院に使う自立支援医療は、所得割額23.5万円以上で原則対象外になるため、法人化の影響がさらに大きく出ます。自立支援医療(精神通院)と法人化で計算しました。
窓口負担も3割から2割になる。これは法人化と関係ない
医療費助成の対象になると、窓口負担は2割になります(もともと1割の人は1割のまま)。これは加入している保険が国保でも協会けんぽでも同じです。法人化で変わるのは上限月額の区分だけで、2割という割合は変わりません。
また、法人化すると協会けんぽの傷病手当金が使えるようになります。難病で働けない期間がある人には、上限額よりこちらの影響のほうが大きいことがあります。一人社長の傷病手当金で、役員報酬別の支給額を計算しています。
まとめ
- 指定難病の自己負担上限月額は、市町村民税所得割額7.1万円・25.1万円で1万円・2万円・3万円に分かれる(一般の区分)
- 売上1,000万〜1,500万円・経費200万円では、法人化で上位所得から一般所得Ⅱに下がる。差が出るのは医療費が上限に届く月だけ
- 国保は加入者全員の合算、健康保険は被保険者本人の分で判定するため、法人化で合算する世帯が変わる
- 役員報酬が判定に反映されるのは、法人化した翌年の7月以降の申請・更新から
所得割額は売上と経費、家族構成で大きく変わります。まず判定ツールで、自分の条件での最適報酬を確かめてください。その報酬額を上の表に当てはめれば、区分の見当がつきます。
よくある質問
難病の医療費助成は、法人化しても受けられますか?
受けられます。医療費助成の対象かどうかは病状で決まり、個人事業主か会社役員かは関係ありません。法人化で変わるのは、自己負担上限月額を決める市町村民税所得割額と、合算する世帯の範囲です。
法人化した年から上限額が変わりますか?
すぐには変わりません。申請が1月から6月までは前々年分、7月から12月までは前年分の所得割額で区分を決めるため、法人化した年の所得が反映されるのは翌年7月以降の申請や更新からです。
住んでいる市が政令指定都市だと不利になりますか?
なりません。政令指定都市の市民税の税率は8%ですが、階層区分は改正前の税率6%で計算した額で判定します。どこに住んでいても同じ所得なら同じ区分になります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。