社会保険

小児慢性特定疾病の医療費助成、親が法人化すると上限はどう変わるか

結論

売上1,000万〜1,500万円・経費200万円の親が法人化して最適報酬(月54万円)にすると、市町村民税所得割額は35万〜64万円から20.3万円に下がり、自己負担上限月額は上位所得の1万5,000円から一般所得Ⅱの1万円になります。加えて、子どもを健康保険の扶養に入れると、判定に使うのは被保険者である親1人分の所得割額だけになります。

  • 上限月額(一般)は所得割額7.1万円未満で5,000円、25.1万円未満で1万円、25.1万円以上で1万5,000円。窓口負担は2割
  • 国保は世帯の所得割額の合計、健康保険は被保険者の所得割額で判定する(福岡県の自己負担上限月額表)
  • 16歳未満の子には扶養控除がないため、子がいても親の所得割額は単身と同じ計算になる

小児慢性特定疾病の医療費助成は、18歳未満の子どもの医療費の窓口負担を2割にし、月の自己負担に上限を設ける制度です。上限額は、子どもが入っている医療保険の世帯の市町村民税所得割額で決まります。

判定されるのは子どもではなく親の所得です。親が個人事業主から一人社長になると、所得割額が下がることに加えて、「誰の所得割額を数えるか」が変わります。

上限月額は所得割額7.1万円・25.1万円で3段

福岡県が公表している自己負担上限月額表のうち、課税世帯が入る区分です。

階層区分市町村民税所得割額一般重症人工呼吸器等装着者
一般所得Ⅰ7.1万円未満5,000円2,500円500円
一般所得Ⅱ7.1万円以上1万円5,000円500円
上位所得25.1万円以上1万5,000円1万円500円

市町村民税が非課税の世帯は、保護者の年収により1,250円または2,500円、生活保護は0円です。入院時の食費は2分の1が自己負担です。

「重症」は、医療費総額が月5万円を超える月が年6回以上ある場合(高額治療継続者)か、重症患者認定基準に当てはまる場合です。

境目の7.1万円・25.1万円は、指定難病の医療費助成と同じです。ただ上限額は難病(1万円・2万円・3万円)のおよそ半分に抑えられています。難病の側の計算は難病の医療費助成と法人化にまとめました。

誰の所得割額で判定するか。国保と健康保険で違う

福岡県の表の注記では、所得割額は「国保、国保組合の場合は世帯の課税額の合計、社保は被保険者の課税額」です。親が法人化すると、子どもの保険は国保から協会けんぽの被扶養者に移ることが多く、判定の範囲がここで切り替わります。

家族の状況個人事業主(国保)親が法人化し、子どもを扶養に入れた後
片働き親の所得割額親(被保険者)の所得割額
夫婦とも国保で所得がある夫婦の所得割額の合計被保険者である親の所得割額だけ
配偶者が会社員で、子どもが配偶者の扶養配偶者の所得割額(子どもは国保ではない)変わらない

2行目が法人化で大きく動くケースです。たとえば夫婦ともに国保で、社長になる親の所得割額が20.3万円、配偶者の所得割額が6万円なら、国保のままでは合計26.3万円で上位所得になります。子どもを社長の健康保険の扶養に入れると、判定は20.3万円だけで一般所得Ⅱになります。

子どもをどちらの親の扶養に入れるかは、原則として収入の多いほうです。3行目のように子どもが会社員の配偶者の扶養に入っている場合は、社長になる親の所得は判定に使われず、法人化しても区分は変わりません。

売上別:1,000万〜1,500万円で上位所得から一般所得Ⅱへ

判定ツールと同じ計算エンジンで、個人のままと、法人化して手取りが最大になる役員報酬にしたときの所得割額を並べました。

売上(経費200万円)個人の所得割額区分法人化後の役員報酬法人化後の所得割額区分
600万円137,600円一般所得Ⅱ(1万円)月28万円80,300円一般所得Ⅱ(1万円)
800万円244,000円一般所得Ⅱ(1万円)月42万円146,200円一般所得Ⅱ(1万円)
1000万円350,500円上位所得(1万5,000円)月54万円203,000円一般所得Ⅱ(1万円)
1200万円463,900円上位所得(1万5,000円)月54万円203,000円一般所得Ⅱ(1万円)
1500万円643,100円上位所得(1万5,000円)月54万円203,000円一般所得Ⅱ(1万円)
2000万円943,100円上位所得(1万5,000円)月90万円428,700円上位所得(1万5,000円)
3000万円1,570,400円上位所得(1万5,000円)月100万円497,000円上位所得(1万5,000円)

前提:横浜市・40歳未満・配偶者なし・青色申告65万円(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社。所得割額は市町村民税分を税率6%・調整控除後で計算し、税額控除は考慮していない。政令指定都市の税率(8%)で判定するかは自治体の案内で確認してほしい。上限額は「一般」の区分。

16歳未満の子どもには所得税・住民税の扶養控除がありません。そのため子どもがいても、親の所得割額は子のいない単身者と同じ計算になります。

差が出るのは売上1,000万〜1,500万円の帯です。上限が1万5,000円から1万円になる差は月5,000円、年最大6万円です。医療費総額(10割)が月7.5万円を超えて2割負担が1万5,000円に届く月にだけ、この差が実際に生じます。

役員報酬別:月25万円以下なら一般所得Ⅰ

売上1,200万円・経費200万円で、役員報酬を動かしたときです。

役員報酬(月)給与所得住民税の課税所得市町村民税所得割額区分
月15万円1,060,000円373,956円20,800円一般所得Ⅰ(5,000円)
月20万円1,600,000円828,600円48,100円一般所得Ⅰ(5,000円)
月25万円2,020,000円1,146,180円67,200円一般所得Ⅰ(5,000円)
月30万円2,440,000円1,497,900円88,300円一般所得Ⅱ(1万円)
月40万円3,400,000円2,270,136円134,700円一般所得Ⅱ(1万円)
月50万円4,360,000円3,076,500円183,000円一般所得Ⅱ(1万円)
月60万円5,380,000円3,942,876円235,000円一般所得Ⅱ(1万円)
月70万円6,460,000円4,883,916円291,400円上位所得(1万5,000円)

前提は上の表と同じ。

一般所得Ⅱの幅は月30万円から月60万円までと広く、最適報酬の多くがここに収まります。一般所得Ⅰまで下げるには月25万円以下が必要ですが、上限額の差は月5,000円です。報酬を下げると会社に残る利益に法人税がかかるので、上限額だけを理由に報酬を削ると手取り全体では不利になりやすいです。

判定に反映されるのは翌年度から

区分の判定は、申請や更新の時期に応じて前年または前々年の所得割額で行います。法人化した年の役員報酬は、翌年度の住民税になって初めて判定に使われます。法人化の翌年は、住民税そのものが個人事業主時代の所得で課税される点も重なります。住民税の流れは法人成りの翌年の住民税で扱いました。

子ども関係の負担で所得割額を使うものには、0〜2歳児クラスの保育料もあります。こちらは保育料は法人化で年36万円下がるで計算しています。

まとめ

  • 小児慢性特定疾病の上限月額(一般)は、所得割額7.1万円・25.1万円を境に5,000円・1万円・1万5,000円
  • 国保は世帯の合計、健康保険は被保険者の所得割額で判定する。子どもを社長の扶養に入れると配偶者の所得割額が外れる
  • 売上1,000万〜1,500万円・経費200万円では、法人化で上位所得から一般所得Ⅱに下がる。差は医療費が上限に届く月に限り月5,000円
  • 役員報酬が判定に効くのは、法人化した翌年度の住民税から

子どもの医療費の上限は、法人化の損得を決める主因にはなりません。まず判定ツールで自分の売上と経費での最適報酬を確かめ、その報酬額を上の表に当てはめてください。

よくある質問

親が法人化しても、小児慢性特定疾病の医療費助成は続けて受けられますか?

受けられます。対象かどうかは子どもの疾病と重症度で決まり、親の働き方は関係ありません。法人化で変わりうるのは、自己負担上限月額の区分と、区分を判定する世帯の範囲です。

夫婦共働きの場合、両親の所得割額を合算しますか?

子どもが入っている医療保険によります。国民健康保険なら同じ国保に入っている世帯の所得割額を合計します。健康保険の被扶養者なら、その健康保険の被保険者1人の所得割額で判定します。

入院中の食費も助成されますか?

福岡県の表では、入院時の食費は2分の1が自己負担です。指定難病の医療費助成(食費は全額自己負担)とはこの点が違います。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。