社会保険

50人以下でもパートを社会保険に入れられる。任意特定適用事業所

結論

厚生年金の被保険者が50人以下の会社でも、同意対象者の2分の1以上の同意を得て申出をすれば任意特定適用事業所になり、週20時間以上の短時間労働者を社会保険の加入対象にできます。一人社長とパート1人なら同意対象者は2人なので、社長本人の同意だけで申出が成立します。ただし脱退には4分の3以上の同意が必要で、パートが1人でもいる限り社長1人では外せません。

  • 所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件は、令和7年年金制度改正法で2026年10月1日に撤廃された。残るのは週20時間以上と学生でないこと
  • 2026年10月1日から2035年9月30日までに任意特定適用事業所になった事業所は保険料調整制度の対象。9月30日以前になっていた事業所は対象外
  • パート1人(月10万円)の会社負担は年17.1万円。賃金が月6万円に下がると、会社負担の対賃金比率は18.8%まで上がる

社会保険の適用拡大は「いつから強制されるか」の話として語られます。一人会社に順番が回るのは2035年10月です。 ただし強制されるのを待つ必要はありません。50人以下の会社には、自分から申出をして短時間労働者を加入対象にする制度があります。 この記事は、その任意特定適用事業所の線引きと金額を扱います。

50人以下の会社が「入れる側」に回る制度

短時間労働者が社会保険に加入するのは、原則として特定適用事業所で働く場合です。特定適用事業所とは、1年のうち6月間以上、厚生年金保険の被保険者(短時間労働者を含まない)の総数が常時51人以上となることが見込まれる企業等を指します。令和9年10月からは36人以上に広がります。

一人社長の会社は被保険者が社長1人なので、この基準にはまったく届きません。強制適用の段階表では最後のグループで、2035年10月まで順番が来ません。この段階表は一人会社でもパートに社会保険が要るにまとめています。

ここで出てくるのが任意特定適用事業所です。日本年金機構の説明では、被保険者数が基準に満たない企業等であっても、被保険者の同意に基づく事業主の申し出により、短時間労働者を加入対象とする事業所になることができます。

重要なのは人単位では選べないことです。申出によって対象事業所になると、加入要件に該当するすべての短時間労働者が加入対象になります。「希望した人だけ入れる」という運用はできません。

法人事業所の場合、同意と申出は企業単位(法人単位)で行います。同じ法人番号の事業所が複数あれば、まとめて対象になります。

2026年10月に、賃金要件が消えた

加入要件は2026年10月1日に変わりました。令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)により、所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件が撤廃されました。

撤廃後に残る短時間労働者の要件は次の3つです。

  • 1週間の所定労働時間または1月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3未満であること
  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 学生でないこと

加えて、2か月以内の期間を定めて使用される人や臨時に使用される人は対象から外れます。

撤廃前の判定は、思われているより狭いものでした。日本年金機構のQ&A集によると、月額8.8万円の算定対象は基本給および諸手当ですが、臨時に支払われる賃金、1月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)、時間外・休日・深夜労働の割増賃金、そして最低賃金において算入しないことを定める賃金(精皆勤手当・通勤手当・家族手当)は算入されませんでした。

つまり基本給8万円に通勤手当1万円を足して月9万円を支給していても、所定内賃金は8万円で要件を満たさず、加入対象外でした。2026年10月1日からはこの区別そのものがなくなっています。

ここで混同しやすいのが、保険料を計算するときの金額です。加入するかどうかを判定する所定内賃金からは通勤手当が除かれますが、保険料の計算のもとになる報酬月額には通勤手当も含めます。日本年金機構は、被保険者資格取得届等の報酬月額について、短時間労働者も一般の被保険者と同様に、臨時に支払われる賃金以外の時間外手当・精皆勤手当・通勤手当等も含めるとしています。判定の分母と保険料の分母は別物です。

なお月額8.8万円未満の人がすべて対象になったわけではありません。最低賃金法第7条の減額の特例許可を受けていて所定内賃金が月額8.8万円未満の人は「特定減額特例対象者」で、原則として加入対象外です。この人たちは本人が事業主を経由して申し出れば任意に加入でき、その申し出に事業主の同意は要りません。

同意は、社長1人で足りることがある

申出には同意が必要です。同意の対象となる人(同意対象者)は、厚生年金保険の被保険者、70歳以上被用者、そして要件を満たす短時間労働者です。週の所定労働時間が20時間未満の人など、厚生年金の被保険者となり得ない人は同意対象者に含まれません。

必要な同意は、同意対象者の過半数で組織する労働組合の同意です。該当する労働組合がなければ、過半数を代表する者の同意か、同意対象者の2分の1以上の同意のいずれかで足ります。

ここで効くのが、日本年金機構のQ&Aの次の整理です。法人の会社において代表取締役など事業主である人が厚生年金保険の被保険者である場合、その人は事業主としての立場のほか、厚生年金保険の被保険者として労働者側の同意対象者にもなります。

社長が同意対象者に数えられるため、人数の少ない会社では自分の同意だけで条件を満たします。何人まで足りるかを数えると次のとおりです。

週20時間以上のパート申出の同意対象者申出に必要な同意者数社長1人で足りるか脱退に必要な同意者数社長1人で足りるか
0人1人1人足りる1人足りる
1人2人1人足りる2人足りない
2人3人2人足りない3人足りない
3人4人2人足りない3人足りない
4人5人3人足りない4人足りない
5人6人3人足りない5人足りない

※ 同意対象者は社長(厚生年金の被保険者)と要件を満たす短時間労働者の合計。申出は2分の1以上、脱退は厚生年金保険の被保険者および70歳以上被用者の4分の3以上として計算

社長1人の同意で申出が成立するのは、週20時間以上のパートが1人までのときです。2人になると同意対象者が3人で、2分の1以上は2人となり、パートのうち少なくとも1人の同意が必要になります。

申出が受理されたあとに過半数代表者が退職したり、同意した人が過半数を割ったりしても、すでに受理された申出は有効で、同意の取り直しは要りません。

入るのは1人の同意、出るには全員の同意

上の表の右半分が、この制度のいちばん注意すべき点です。

脱退は、厚生年金保険の被保険者および70歳以上被用者の4分の3以上の同意を得て、事業主が申出をし、それが受理されることで成立します。加入したパートは厚生年金保険の被保険者になっているので、この母数に入ります。

社長1人とパート1人なら母数は2人です。4分の3以上は1.5人なので、2人の同意が必要になります。つまりパートが1人でもいる限り、社長の意思だけでは外せません。入口は社長1人の同意で開くのに、出口には相手の同意が要るという非対称があります。

もう1つの制約もあります。労使合意で適用拡大の申出をした事業所が、その後に特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上)に該当した場合、特定適用事業所でいる間は労使合意による脱退ができません。

資格取得日は、事務センター等が申出を受理した日です。同意書そのものに一律の有効期間はありませんが、受理日が取得日になるため、いつから適用を始めるかを決めてから申出する流れになります。脱退のほうは、受理された日の翌日に短時間労働者の資格が喪失します。

保険料はいくら増えるか

会社負担と本人負担を、パートの月額賃金別に計算しました。

パートの月額賃金健保の標準報酬月額厚年の標準報酬月額本人負担(年)会社負担(年)会社負担の対賃金比率
60,000円58,000円88,000円13.2万円13.5万円18.8%
70,000円68,000円88,000円13.8万円14.2万円16.9%
80,000円78,000円88,000円14.4万円14.8万円15.4%
88,000円88,000円88,000円15.0万円15.4万円14.5%
100,000円98,000円98,000円16.7万円17.1万円14.3%
120,000円118,000円118,000円20.1万円20.6万円14.3%
150,000円150,000円150,000円25.5万円26.2万円14.5%

※ 東京支部・40歳未満(介護保険料なし)/令和8年3月分以降の料率で計算。健康保険9.85%+子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金18.3%の折半分に、事業主のみが負担する子ども・子育て拠出金0.36%を加えた額 ※ 計算は scripts/nini-tokutei-tekiyo-jigyosho.mjs

賃金を下げても保険料は比例して下がりません。 月10万円から月6万円へ4割下げても、会社負担は17.1万円から13.5万円へ2割しか下がりません。対賃金比率で見ると14.3%から18.8%へ上がります。

理由は標準報酬月額の下限です。健康保険の最低等級は58,000円ですが、厚生年金のほうは下限が88,000円で止まります。

健保等級標準報酬月額報酬月額の範囲厚年等級厚年の標準報酬月額健康保険料(本人)厚生年金保険料(本人)
158,00063,000円未満−88,0002,9238,052
268,00063,000円以上 73,000円未満−88,0003,4278,052
378,00073,000円以上 83,000円未満−88,0003,9318,052
488,00083,000円以上 93,000円未満188,0004,4358,052
598,00093,000円以上 101,000円未満298,0004,9398,967
6104,000101,000円以上 107,000円未満3104,0005,2429,516
7110,000107,000円以上 114,000円未満4110,0005,54410,065
8118,000114,000円以上 122,000円未満5118,0005,94710,797
9126,000122,000円以上 130,000円未満6126,0006,35011,529

※ 東京支部・40歳未満(介護保険料なし)/令和8年3月分以降の料率 ※ 健康保険料率 9.85%+子ども・子育て支援金 0.23%、厚生年金保険料率 18.3%。いずれも労使折半後の本人負担分(月額)

健保等級1〜3には厚年の等級が付いていません。賃金が月8.3万円に届かなくても、厚生年金保険料は88,000円をもとに計算されます。等級表の全50等級は標準報酬月額の等級表にあります。

賃金要件が撤廃されて新しく対象に入ったのは月8.8万円未満の層です。その層こそ、賃金に対する保険料の比率がいちばん重くなります。

2026年10月1日より後に入ると、保険料調整制度が使える

2026年10月1日から、短時間労働者の保険料負担を軽くする保険料調整制度が始まりました。事業主が本人負担分の一部を追加で負担し、追加した分は3か月後に支払う保険料額から全額差し引かれます。最終的に事業主が納付する保険料は増えず、本人が将来受け取る年金額にも影響しません。

対象事業所には日付の線があります。2026年10月1日から2035年9月30日までに任意特定適用事業所となった事業所が対象で、2026年10月1日時点ですでに特定適用事業所(任意特定適用事業所を含む)だった事業所は対象外です。先に入っていたほうが使えないという作りになっています。

対象になる従業員は、週の所定労働時間が20時間以上(フルタイムの4分の3未満)、学生でない、そして標準報酬月額が12.6万円以下の人です。軽減額は「標準報酬月額 × 保険料率 × 保険料軽減割合」で計算します。賞与にかかる保険料、介護保険料、子ども・子育て支援金は軽減の対象外です。

標準報酬月額軽減割合(1〜2年目)軽減額(月)本人負担(軽減前・月)本人負担(軽減後・月)3年目の軽減額(月)
88,000円25.0%6,193円12,386円6,193円3,096円
98,000円20.0%5,517円13,793円8,276円2,759円
104,000円14.0%4,099円14,638円10,539円2,049円
110,000円9.0%2,787円15,482円12,695円1,393円
118,000円5.0%1,661円16,609円14,948円830円
126,000円2.0%709円17,735円17,026円355円

※ 軽減割合は日本年金機構「保険料軽減額の計算方法」の値。保険料率は健康保険9.85%(東京支部)+厚生年金18.3%=28.1%で計算(介護保険料と子ども・子育て支援金は軽減対象外のため含まない) ※ 制度利用開始月から通算して3年目は軽減割合が1〜2年目の半分になる

軽減が実質的に効くのは標準報酬月額10.4万円までです。 88,000円では本人負担が月12,386円から6,193円へちょうど半分になりますが、126,000円では月709円しか動きません。年に8,508円で、軽減があることに気づかない水準です。

期限もあります。開始申出は、任意特定適用事業所となった日から2年を経過した日が属する月の前月までに出す必要があります。2026年10月中に任意特定適用事業所になった場合、申出期限は2028年9月末までです。

手続きの提出物は、任意特定適用事業所申出書、同意対象者の2分の1以上の同意を示す書類、短時間労働者に該当する人の被保険者資格取得届です。こちらは電子申請もできますが、保険料調整開始申出書は電子申請ができません。郵送か窓口持参になります。

法人の経費としての効き方

会社負担は法人の経費です。売上1,200万円・経費200万円の会社で、パート1人あたり年137.1万円(月10万円の賃金と会社負担17.1万円)が増えたとき、最適な役員報酬が動くかを計算しました。

条件増える経費(年)最適役員報酬(月)法人化後の手取り
パートなし0.0万円54.0万円662.4万円
パート1人137.1万円54.0万円576.2万円
パート2人274.2万円51.0万円489.7万円
パート3人411.3万円42.0万円402.5万円

※ 売上1,200万円・経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。計算根拠は計算の前提

パート1人までは、最適な役員報酬が月54万円から動きません。 経費が137.1万円増えても、報酬額の最適点は変わらず、手取りが86.2万円減るだけです。動き始めるのは2人目からで、月51万円へ下がります。

社会保険の加入義務そのものは、報酬額とは別の軸です。一人社長の加入義務は法人化すると社会保険は強制加入、初めて人を雇うときの費用は一人社長が初めて従業員を雇う費用にまとめています。

ここに出した数字は売上1,200万円・経費200万円という1つの条件での概算です。自分の売上と経費、パートの人数と賃金を入れて確かめてください。

まとめ

  • 厚生年金の被保険者が50人以下の会社でも、同意対象者の2分の1以上の同意を得て申出をすれば、週20時間以上の短時間労働者を社会保険の加入対象にできる
  • 社長は事業主の立場と同意対象者の両方になるため、週20時間以上のパートが1人までなら社長の同意だけで申出が成立する。2人目からはパートの同意が必要
  • 脱退は4分の3以上の同意が必要で、パートが1人でもいる限り社長1人では外せない
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件は2026年10月1日に撤廃された。厚生年金の標準報酬月額には下限88,000円があるため、賃金が低いほど会社負担の対賃金比率は上がる
  • 2026年10月1日以降に任意特定適用事業所になると保険料調整制度の対象になる。開始申出の期限は、任意特定適用事業所となった日から2年を経過した日が属する月の前月まで

よくある質問

一人社長の会社でも任意特定適用事業所になれますか。

なれます。厚生年金の被保険者が50人以下の適用事業所であれば規模の下限はありません。日本年金機構のQ&Aは、代表取締役など事業主である人が厚生年金の被保険者である場合、その人は事業主の立場と労働者側の同意対象者の両方になるとしています。

任意特定適用事業所になると、パートを1人だけ加入させることはできますか。

できません。申出によって対象事業所になると、加入要件に該当するすべての短時間労働者が加入対象になります。選べるのは事業所として入るかどうかで、人単位ではありません。

一度申出をしたら、あとで取り消せますか。

取り消せますが、厚生年金の被保険者および70歳以上被用者の4分の3以上の同意が必要です。加入したパートもこの母数に入るため、本人の同意なしに外すことは実際には難しくなります。なお被保険者が常時51人以上になって特定適用事業所に該当した場合は、その間は労使合意による脱退ができません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。