社会保険

一人会社でもパートに社会保険が要る。2035年10月までの段階表

令和7年6月に成立した年金制度改正法で、短時間労働者の企業規模要件が段階的に撤廃されます。従業員1〜10人の会社は2035年10月から。週20時間以上のパートは規模にかかわらず社会保険の対象になり、会社負担は1人あたり年15万円台から始まります。

いま一人会社でパートを雇っても、週の所定労働時間が正社員の4分の3未満なら社会保険に入れる必要はありません。企業規模要件があるからです。

この要件が撤廃されます。令和7年5月16日に第217回通常国会へ提出され、衆議院で修正のうえ6月13日に成立した年金制度改正法によるものです。従業員1〜10人の会社が対象になるのは2035年10月。まだ先ですが、決まった話です。

対象になると、週20時間以上のパート1人につき会社負担が年15万円台から乗ります。

いまはなぜ対象外なのか

現行制度で社会保険に必ず加入するのは、適用事業所に使用される正社員と、4つの要件をすべて満たす短時間労働者です。要件のひとつが企業規模で、被保険者数51人以上の企業に限られています。

一人会社は被保険者が社長1人なので、この要件を満たしません。したがって4分の3未満のパートは加入対象外です。

一方、週の所定労働時間が正社員の4分の3以上なら、企業規模に関係なく加入対象になります。ここは今も昔も変わりません。一人会社が初めて人を雇うときの手続きは一人社長が初めて従業員を雇うときにまとめました。

配偶者や子どもを自分の会社の従業員にする場合の判定も、この4分の3で決まります。詳しくは年収の壁は令和8年に178万円へで扱っています。

撤廃は10年かけて、規模の大きい順に

改正では企業規模要件を縮小・撤廃します。厚生労働省が公表した施行日の資料によると、段階は次のとおりです。

従業員数対象になる時期
36〜50人2027年10月〜
21〜35人2029年10月〜
11〜20人2032年10月〜
1〜10人2035年10月〜

※ 厚生労働省「年金制度改正の施行日」より。改正法は令和7年6月13日成立、6月20日公布

一人会社が入るのは最後のグループです。 2035年10月まで、いまの扱いが続きます。

ただし従業員が増えれば前倒しで対象になります。パートを含めて11人になれば2032年10月、21人なら2029年10月です。自社が今後どの規模まで行くかで、いつから効くかが変わります。

106万円の壁のほうは、もっと早い

企業規模要件と並んで撤廃されるのが、月額8.8万円以上という賃金要件です。年収に直すと約106万円で、いわゆる「106万円の壁」として意識されてきた基準です。

撤廃の時期は日付が決まっていません。法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断されます。最低賃金1,016円以上の地域で週20時間働くと、年額換算で約106万円になるためです。つまり最低賃金が上がりきれば、この要件は意味を失うという整理です。

公布は令和7年6月20日なので、遅くとも令和10年6月までには撤廃されます。企業規模要件(一人会社は2035年10月)より先に来ます。

ただし賃金要件が先に撤廃されても、企業規模要件が残っている間は一人会社に影響しません。2つの要件は両方を満たさないと加入対象にならないからです。一人会社にとって効き始めるのは、あくまで2035年10月です。

対象になると会社負担はいくら増えるか

規模要件が撤廃されたあと、週20時間以上のパートを雇うと会社にいくら乗るのかを計算しました。

パートの月額賃金標準報酬月額会社負担(年)
8.8万円88,000円15.4万円
10.0万円98,000円17.1万円
12.0万円118,000円20.6万円
15.0万円150,000円26.2万円

※ 東京支部・40歳未満・2026年(令和8年)分の料率で計算。健康保険9.85%+子ども・子育て支援金0.23%+厚生年金18.3%の会社負担分に、事業主のみ負担の子ども・子育て拠出金0.36%を加えた額 ※ 実際に適用されるのは2035年10月以降で、そのときの料率は変わります

1人あたり年15万〜26万円です。これは会社負担分だけで、本人からも同額程度が給与から引かれます。人を増やすほど積み上がる固定費です。

料率の内訳や標準報酬月額の等級については一人社長の社会保険料標準報酬月額の等級表にまとめました。

なお、この試算に使っている料率は現在のものです。2035年時点の料率は分からないので、金額そのものではなく「1人あたり月1万円台の負担が乗る」という規模感として見てください。

新たに対象になる人には3年間の負担軽減がある

改正では、加入拡大で新たに対象となる短時間労働者への支援策も用意されています。

対象は、従業員数50人以下の企業などで働き、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者で、標準報酬月額が12.6万円以下の人です。期間は3年間。

内容は保険料の負担割合の調整です。社会保険料は原則として労使折半ですが、この措置を希望する事業主は事業主の負担割合を増やし、被保険者の負担を軽減できます。事業主が追加負担した分は、その全額が制度全体で支援されます。

この支援策自体は2026年10月から始まります。一人会社が使う場面が来るのは規模要件が撤廃されたあとですが、制度として用意されていることは知っておく価値があります

個人事業所の側も広がる

法人ではなく個人事業所として人を雇っている場合にも改正があります。

現在、個人事業所で社会保険が強制適用になるのは、常時5人以上を使用する法定17業種に限られています。この適用対象が拡大され、2029年10月から施行されます。

ただし既に存在する事業所は当分の間、対象外とされています。今すでに個人事業所として人を雇っている場合、すぐに影響が出るわけではありません。

法人はこの区別と無関係で、人数や業種にかかわらず強制適用です。この非対称は法人化すると社会保険は強制加入で扱っています。

4分の3の判定は「所定労働時間」で見る

規模要件が撤廃されるまでの間も、4分の3以上なら今日から加入対象です。ここを取り違えると、届出漏れになります。

判定に使うのは1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数で、いずれも通常の労働者の4分の3以上かどうかを見ます。実績ではなく、雇用契約などで定めた所定の時間です。

一人会社で社長がフルタイム相当なら、たとえば週40時間が基準です。その4分の3は週30時間。週30時間以上で契約したパートは、規模にかかわらず加入対象になります。

日本年金機構は、短時間労働者の適用について、雇用契約書などにおける所定労働時間で判断するとしています。残業などで一時的に増えても所定時間が変わらなければ判定は動きませんが、実態が継続的に所定時間と食い違っていれば、実態で見られる余地があります。

なお、加入させないために所定労働時間を調整すること自体は違法ではありません。ただし実際の勤務が所定を超え続けていれば、契約書の記載だけでは通りません。この構造は、役員の被保険者資格を実態で判断する考え方と同じです(役員報酬0円なら社会保険はかからない)。

週20時間以上には雇用保険が先に来る

社会保険(健康保険・厚生年金)とは別に、雇用保険があります。こちらは規模要件がなく、週20時間以上・31日以上の雇用見込みで、今日から加入対象です。

つまり週20時間のパートを雇うと、順番はこうなります。

保険いまの扱い規模要件撤廃後(2035年10月〜)
労災保険1人でも雇えば加入変わらない
雇用保険週20時間以上で加入変わらない
健康保険・厚生年金4分の3未満なら対象外週20時間以上で対象

労働保険(労災・雇用保険)の手続きと社会保険の手続きは、期限も窓口も別です。労働保険の年度更新は労働保険の年度更新は2階建てにまとめました。

社長本人は雇用保険に入れませんが、雇う側としては手続きが必要になります。この非対称は一人社長は雇用保険に入れないで扱っています。

法人化の判断への効き方

一人のままなら、この改正は関係ありません。効いてくるのは人を雇う計画がある場合です。

判断に入れるとすれば、次のような形になります。

  • 当面ひとりで回すなら、2035年10月まで現行のまま。判定に影響しない
  • 数年内にパートを複数入れるなら、11人・21人という段階のどこに入るかで時期が変わる
  • 1人あたり年15万〜26万円の会社負担は、役員報酬を下げても減らない固定費として乗る

当サイトの判定ツールは社長1人を前提にしており、従業員の社会保険料は計算に含めていません。人を雇う前提で見るときは、この金額を別に足してください。

まとめ

  • 短時間労働者の企業規模要件は撤廃される。年金制度改正法は令和7年6月13日成立・6月20日公布で、決定済み
  • 段階は規模の大きい順。従業員1〜10人の会社が対象になるのは2035年10月
  • 賃金要件(月額8.8万円=106万円の壁)は先に撤廃される。公布から3年以内で、全国の最低賃金1,016円以上を見極めて判断
  • 2つの要件は両方満たして初めて加入対象なので、一人会社に効き始めるのは2035年10月
  • 対象になると会社負担は週20時間以上のパート1人あたり年15.4万〜26.2万円(現在の料率で試算)
  • 新たに対象となる標準報酬月額12.6万円以下の人には、3年間の保険料負担軽減の措置がある

いま判定に影響する話ではありません。人を雇う計画があるときだけ、時期と金額を見込みに入れてください。

よくある質問

一人会社がパートを雇うと、いまも社会保険に入れる必要がありますか?

現在は、週の所定労働時間が正社員の4分の3以上なら加入対象です。4分の3未満の短時間労働者については、企業規模要件(被保険者数51人以上)があるため、一人会社は対象外です。この規模要件が段階的に撤廃されます。

いつから対象になりますか?

従業員1〜10人の会社は2035年10月からです。11〜20人は2032年10月、21〜35人は2029年10月、36〜50人は2027年10月と、規模の大きい順に約8年かけて段階的に進みます。

106万円の壁はどうなりますか?

月額8.8万円以上という賃金要件は撤廃されます。時期は法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断されます。撤廃後は週20時間以上かどうかで決まります。

会社の負担はいくら増えますか?

当サイトの計算では、東京・40歳未満のパート1人につき、月額8.8万円で年15.4万円、月額12万円で年20.6万円です(会社負担分・子ども子育て拠出金込み)。人数分だけ積み上がります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。