税金の基礎
親の家を事務所にしたら家賃は経費になる?個人事業は0円、法人なら損金
結論
生計を一にする親に払う家賃は、個人事業主の必要経費にならず、親の所得にもなりません(所得税法56条)。代わりに、親が負担するその部分の固定資産税・減価償却費などが事業の経費になります。法人が払う家賃は相場に見合えば損金で、月5万円なら事業所得800万円・親の他の所得100万円の場合に家族全体の手取りは年10.0万円増えます(個人事業では固定資産税等12万円の分の5.1万円)。
- 法人化したときの家族全体の効果は親の所得で決まる。親の他の所得が0円なら年20.8万円、300万円なら年7.3万円(事業所得800万円)
- 親の側では家賃から固定資産税・減価償却費を引いた不動産所得に、所得税・住民税・国民健康保険料がかかる
- 親が免税事業者だと、課税事業者の法人は事務所家賃の消費税を全額は控除できない(令和8年10月からは7割)
実家の一室を事務所にしている個人事業主は少なくありません。親に家賃を払っていても、親と生計を一にしていれば、その家賃は経費になりません。法人化するとこの扱いが変わり、会社が払う家賃は損金になります。そのかわり、受け取った親に税金と保険料がかかります。どちらが得かは、親の所得で決まります。
生計を一にする親への家賃は、個人事業では経費にならない
国税庁 No.2210 は、生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃などは必要経費にならず、受け取った人も所得としては考えないとしています。根拠は所得税法56条で、給与を払う場合と同じ規定です。家族の間でお金が移っても、税の計算上はなかったことになります。
ただし、何も経費にならないわけではありません。同じ No.2210 は、子が生計を一にする父から業務のために借りた土地・建物に課される固定資産税などの費用は、子の業務の必要経費になるとしています。56条の後半は、親族がその対価を得るためにかかった費用(親が払う固定資産税、建物の減価償却費、借入金の利子など)を、事業主の必要経費に入れるという定めです。
| 個人事業主 | 法人 | |
|---|---|---|
| 親に払う家賃 | 経費にならない | 相場に見合えば損金 |
| 親が負担する固定資産税・減価償却費など(事務所部分) | 事業の経費になる | 親の不動産所得の経費 |
| 親の所得 | 家賃は所得にならない | 家賃から費用を引いた不動産所得 |
生計を一にしているかは、同居しているかどうかではなく、生活費の出どころで判断されます。実家に住み、食費や光熱費を親と一緒に賄っている場合は、通常は生計を一にしていると扱われます。
法人が払う家賃は損金。親には不動産所得が生じる
法人税には56条にあたる規定がないので、会社が社長の親に払う家賃は、ほかの大家に払う家賃と同じく損金です。条件は、近隣の相場に見合う額であることと、事務所として実際に使っている部分に対する家賃であることです。住居と兼用なら、事務所として使う面積の割合などで按分します。
家賃を受け取った親は、家賃から事務所部分の固定資産税・減価償却費などを引いた金額を、不動産所得として確定申告します(国税庁 No.1370)。その所得に、所得税・住民税と、親が国民健康保険に加入していれば保険料の所得割がかかります。
事務所部分の家賃が月5万円(年60万円)、親が負担する事務所部分の固定資産税と減価償却費が年12万円の場合、親の不動産所得は48万円です。親の他の所得によって、増える負担は次のように変わります。
| 親の家賃以外の合計所得金額 | 不動産所得48万円で増える親の負担 | 負担率 |
|---|---|---|
| 0.0万円 | 1.3万円 | 2.7% |
| 100.0万円 | 12.1万円 | 25.2% |
| 300.0万円 | 14.8万円 | 30.8% |
※ 親は65〜74歳・東京23区の国民健康保険に加入。所得税・住民税は基礎控除のみで計算し、国民健康保険料の所得割は東京23区(医療7.51%+支援2.80%+子ども・子育て支援0.27%)。親の社会保険料控除などは考慮しないため、増える負担はやや大きめに出る。当サイトで計算(scripts/oya-ie-jimusho-yachin.mjs parent)
親の他の所得が0円なら、不動産所得48万円はほぼ基礎控除に収まり、負担は1.3万円です。親が年金や給与で100万円以上の所得を得ていると、増えた所得に所得税・住民税・国民健康保険料が重なり、**負担率は25〜31%**になります。
家族全体では、親の所得が低いほど法人が有利
本人と親を合わせた家族全体の手取りが、家賃の扱いでどれだけ増えるかを比べました。個人事業では固定資産税等12万円が経費になる効果、法人では家賃60万円が損金になる効果から親の負担の増加を引いた額です。
| 事業所得(青色控除前) | 個人:固定資産税等12万円が経費になる効果 | 法人:家賃60万円の効果(会社側) | 法人:親の所得 0円 | 法人:親の所得 100万円 | 法人:親の所得 300万円 |
|---|---|---|---|---|---|
| 600万円 | +5.1万円 | +20.4万円 | +19.1万円 | +8.2万円 | +5.6万円 |
| 800万円 | +5.1万円 | +22.1万円 | +20.8万円 | +10.0万円 | +7.3万円 |
| 1,000万円 | +4.7万円 | +22.3万円 | +21.0万円 | +10.1万円 | +7.5万円 |
| 1,200万円 | +5.8万円 | +22.8万円 | +21.6万円 | +10.7万円 | +8.1万円 |
| 1,500万円 | +5.8万円 | +23.1万円 | +21.8万円 | +11.0万円 | +8.3万円 |
※ 家族全体(本人+親)の手取りの増減。事務所部分の家賃 月5万円、親が負担する事務所部分の固定資産税・減価償却費 年12万円(家を持っている限りどちらでも発生するので増減には入れない)。法人の役員報酬は家賃を払った後の条件で選び直す。親は65〜74歳・東京23区の国民健康保険。本人は東京23区・40歳未満・単身・青色65万円・インボイス登録あり・合同会社・経費200万円。当サイトの計算エンジンで算出(scripts/oya-ie-jimusho-yachin.mjs)
法人の会社側では、家賃60万円を損金にすることで家族全体の手取りが年20万〜23万円増えます。家賃は家族の外に出ていかないので、減った税と保険料がそのまま残るからです。そこから親の負担の増加を引くと、親の他の所得が0円なら年19万〜22万円、100万円なら年8万〜11万円、300万円なら年6万〜8万円が残ります。
どの行でも、個人事業の効果(年5万円前後)より法人のほうが大きくなりました。ただし差の大部分は親の所得次第です。親の他の所得が300万円あると、個人事業との差は年0.5万〜2.8万円まで縮みます。
親が免税事業者だと、家賃の消費税は全額は控除できない
事務所として貸す部分の家賃には消費税がかかります(住宅として貸す部分は非課税)。家賃60万円程度なら親は免税事業者のままで、インボイスは発行できません。
会社が課税事業者で、原則課税(仕入税額控除を実額で計算する方式)を使っている場合、免税事業者への支払いは経過措置の割合でしか控除できません。令和8年10月1日からの割合は7割です。割合の推移と負担の増え方はインボイス8割控除は9月末で終了で計算しています。
自分の家を法人に貸す場合との違い
家が親のものではなく社長本人のものなら、話は別です。社長の自宅の一部を会社に貸すと、会社は家賃を損金にでき、社長本人に不動産所得が生じます。この場合は所得税法56条ではなく、本人の中で所得が移るだけなので、税率の差がそのまま効きます。計算は自宅を法人へ貸す家賃は経費。でも個人に不動産所得が戻るにまとめています。
同じ56条の理屈で、生計を一にする家族への給与も個人事業では経費になりません(青色事業専従者給与を除く)。大学生の子に給与を払う場合は大学生の子に給与を払っても個人事業は経費0円で計算しています。
判定ツールは、親に払う家賃を計算に入れていません。親の家を事務所にしている人は、法人化すると上の表の分だけ法人化側が有利に動く、と読み替えてください。まずは家賃を入れない条件で、法人化の差額を確かめるところから始めてください。
まとめ
- 生計を一にする親に払う家賃は、個人事業では経費にならず、親の所得にもならない(所得税法56条)
- 個人事業では、親が負担する事務所部分の固定資産税・減価償却費などが事業の経費になる
- 法人が払う家賃は相場に見合えば損金。親は家賃から費用を引いた不動産所得に課税される
- 月5万円の家賃なら、家族全体の手取りは親の所得0円で年19万〜22万円、300万円で年6万〜8万円増える。個人事業では年5万円前後
- 親が免税事業者だと、課税事業者の法人は家賃の消費税を全額は控除できない(令和8年10月から7割)
よくある質問
親と同居していない場合も家賃は経費になりませんか
所得税法56条の対象は「生計を一にする」親族です。別居していて生活費をそれぞれ賄っていれば生計は別で、個人事業でも家賃は経費になり、親の側は不動産所得として申告します。仕送りをしているなど生活費の出どころが同じなら、別居でも生計を一にすると扱われることがあります。
親に払う家賃はいくらにすればよいですか
近隣で同じ広さ・用途の物件を借りた場合の家賃が目安です。相場より高い家賃を法人が払うと、高すぎる部分は損金にならない可能性があります。住居と兼用なら、事務所として使う部分の面積などで按分した額にします。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。