社会保険
社長が65歳になると、60歳未満の妻は第3号から外れて国民年金を払う
結論
第3号被保険者は第2号被保険者に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者で、第2号被保険者は厚生年金の加入者のうち65歳未満の人(65歳以上70歳未満なら老齢基礎年金の受給資格がない人)です。社長が65歳になると、厚生年金に入り続けていても第2号ではなくなり、60歳未満の配偶者は第1号に切り替わって国民年金保険料(令和8年度は月17,920円)を自分で納めます。5歳差なら約5年分で107.5万円です。
- 切り替わるのは年金だけ。社長は75歳まで健康保険の被保険者なので、配偶者の健康保険の被扶養者の資格はそのまま続く
- 配偶者の国民年金保険料を社長が払えば社会保険料控除になる。役員報酬月54万円なら所得税・住民税が年4.4万円減り、実質の負担は年17.2万円
- 払わないと未納になり、老齢基礎年金は1か月につき年約1,765円(令和8年度の満額847,300円÷480)減る。60か月なら年約10.6万円
法人化して社長が厚生年金に入ると、扶養している配偶者は国民年金の第3号被保険者になり、保険料を払わずに年金の加入期間を積めます。法人化の利点としてよく挙がる点です。ただしこの仕組みには年齢の切れ目があり、社長が65歳になった時点で、年下の配偶者は第3号から外れます。
第2号被保険者は「65歳未満」の厚生年金加入者
国民年金の被保険者は3つに分かれています。国民年金法7条は、厚生年金の被保険者を第2号被保険者、その配偶者で主として第2号被保険者の収入で生計を維持する20歳以上60歳未満の人を第3号被保険者と定めています。
日本年金機構は、第2号被保険者の範囲をさらに次のように説明しています。
厚生年金保険又は共済組合の加入者のうち、65歳未満の人および65歳以上70歳未満で老齢基礎年金の受給資格を満たしていない人
社長は70歳まで厚生年金に入り続けますが、65歳になって老齢基礎年金の受給資格(加入期間10年以上)を満たした時点で、国民年金の第2号被保険者ではなくなります。第3号被保険者は「第2号被保険者の配偶者」なので、配偶者も同じ日に第3号ではなくなります。
日本年金機構は、第3号被保険者の配偶者(この記事では社長)が65歳に到達(誕生日の前日)した場合、第3号被保険者は第1号被保険者への切り替えの手続きが必要で、60歳になるまで国民年金保険料を自分で納める必要があるとしています。
| 社長の年齢 | 社長の厚生年金 | 社長の国民年金の種別 | 60歳未満の配偶者 |
|---|---|---|---|
| 65歳未満 | 加入 | 第2号 | 第3号(保険料なし) |
| 65歳以上70歳未満(受給資格あり) | 加入 | 第2号ではない | 第1号(保険料を納める) |
| 70歳以上 | 資格喪失 | — | 第1号 |
年齢差ごとの国民年金保険料
配偶者が第1号被保険者になる期間は、社長が65歳になってから配偶者が60歳になるまでです。夫婦の年齢差がそのまま期間になります。
| 夫婦の年齢差 | 配偶者が第1号になる期間 | 国民年金保険料の総額 |
|---|---|---|
| 5歳以下 | なし | 0円 |
| 6歳 | 約1年 | 21.5万円 |
| 8歳 | 約3年 | 64.5万円 |
| 10歳 | 約5年 | 107.5万円 |
| 15歳 | 約10年 | 215.0万円 |
※ 令和8年度の国民年金保険料月17,920円(年215,040円)で計算。保険料は毎年度改定されるため、実際の総額は年度ごとの額の合計になる。期間は誕生月によって前後する
5歳差の夫婦なら影響はありません。配偶者が60歳になった時点で、社長はまだ65歳になっていないからです。社長が配偶者より6歳以上年上だと、この期間が生まれます。
社長が払えば社会保険料控除になる
配偶者の国民年金保険料は、生計を一にする家族が払えば、払った人の社会保険料控除になります。役員報酬月54万円・65歳以上の社長が配偶者の分を払った場合を計算しました。
| 項目 | 金額(年) |
|---|---|
| 配偶者の国民年金保険料 | 215,040円 |
| 社長の所得税の減少 | 22,000円 |
| 社長の住民税の減少 | 21,500円 |
| 実質の負担 | 171,540円 |
※ 売上1,200万円・経費200万円・東京23区・配偶者あり・65歳以上。社長の給与所得474.4万円の課税所得から保険料を差し引いて、計算エンジンの税額計算で求めた差
年21.5万円の保険料のうち、2割ほどが税金で戻ります。 残りの17.2万円は、法人化した直後には存在しなかった新しい負担です。
払わないと、配偶者の老齢基礎年金が減る
第3号被保険者の期間は、保険料を払わなくても老齢基礎年金の計算に「納めた期間」として入ります。第1号に切り替わった後は、払わなければ未納になり、年金の計算に入りません。
老齢基礎年金は、20歳から60歳までの40年(480か月)すべてを納めると満額です。令和8年度の満額は847,300円(昭和31年4月2日以後生まれ)なので、1か月の未納で年額は約1,765円減ります。
| 未納の月数 | 減る老齢基礎年金(年額) |
|---|---|
| 12か月 | 約2.1万円 |
| 36か月 | 約6.4万円 |
| 60か月 | 約10.6万円 |
※ 令和8年度の満額847,300円÷480か月×未納月数。配偶者の他の期間がすべて保険料納付済みの場合
5年分の保険料107.5万円を払うか、毎年約10.6万円の年金を手放すか、という比較になります。配偶者が65歳から受け取るなら、10年余りで払った保険料に届く計算です。
65歳の前に確認しておく3つのこと
切り替えを前提に、社長が65歳になる前に確認しておきたい点をまとめました。
- 社長の受給資格:第2号でなくなるのは、65歳で老齢基礎年金の受給資格(加入期間10年以上)を満たしたときです。日本年金機構の説明では、65歳以上70歳未満で受給資格を満たしていない人は第2号のままなので、配偶者も第3号を続けられます。法人化前に国民年金の未納が長かった人は、自分の加入期間を「ねんきん定期便」などで確かめておきます
- 切り替えの手続き:届出は配偶者の側で行います。市区町村の国民年金窓口か年金事務所に国民年金被保険者関係届書を出すか、マイナポータルで電子申請します。手続きをしないまま時間がたつと、未納の期間として扱われます
- 保険料の払い方:第1号の保険料は、まとめて前納すると割引があります。前納の仕組みと割引額は国民年金の2年前納で扱いました。社長が払えば社長の社会保険料控除になる点は上で計算したとおりです
健康保険は切り替わりません。社長は75歳まで協会けんぽなどの被保険者で、配偶者は被扶養者のままです。保険証や資格確認書の手続きは不要で、年金の種別だけが変わります。
配偶者を会社で厚生年金に入れる方法もある
配偶者が実際に会社の仕事をしているなら、役員や従業員として報酬を払い、配偶者自身を厚生年金に加入させる方法もあります。この場合、配偶者は第2号被保険者になり、国民年金保険料は払いません。
| 方法 | 年間の保険料 | 年金への反映 |
|---|---|---|
| 第1号として国民年金を納める | 215,040円(本人負担) | 老齢基礎年金の満額に向けて積み上がる |
| 会社で報酬月8.8万円を払い厚生年金に加入(40〜64歳) | 316,800円(労使合計) | 老齢基礎年金に加え、報酬比例部分が付く |
※ 厚生年金の加入は報酬月8.8万円(健康保険の標準報酬月額8.8万円・厚生年金8.8万円の等級)の場合。健康保険料・子ども・子育て支援金を含む東京都の協会けんぽの料率で計算エンジンが算出。配偶者は健康保険でも自分が被保険者になり、被扶養者ではなくなる
保険料の合計は厚生年金に入れるほうが高くなりますが、半分は会社の負担で損金になり、配偶者の報酬そのものも会社の経費です。ただし報酬を払うには、配偶者が実際に職務を担っている必要があります。家族を役員にするか従業員にするかの考え方は配偶者は役員か従業員かで扱いました。
法人化したときに配偶者が第3号になる効果そのものは、配偶者を法人の社会保険の扶養に入れる条件で計算しています。社長が65歳以上で役員報酬を取り続けた場合の年金の止まり方は在職老齢年金と役員報酬、70歳・75歳での切り替えは70歳・75歳の一人社長の社会保険にまとめています。判定ツールの配偶者ありの計算は、配偶者が第3号でいられる前提です。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 第2号被保険者は厚生年金加入者のうち65歳未満の人(65歳以上70歳未満は老齢基礎年金の受給資格がない人)。社長が65歳になると、厚生年金に入り続けていても第2号ではなくなる
- 60歳未満の配偶者は同じ日に第3号から第1号に切り替わり、60歳まで国民年金保険料(令和8年度は月17,920円)を納める。手続きが必要
- 夫婦の年齢差が6歳以上で期間が生まれる。10歳差なら約5年で107.5万円
- 社長が払えば社会保険料控除になり、役員報酬月54万円なら年4.4万円が税金で戻る。払わなければ未納1か月につき年約1,765円、年金が減る
- 健康保険の被扶養者の資格は社長が75歳になるまで続く。切り替わるのは年金だけ
よくある質問
社長が年金の受け取りを繰り下げていても、配偶者は第3号から外れますか。
日本年金機構は、第2号被保険者が65歳に到達して老齢基礎年金の受給資格を満たしたときに第2号被保険者でなくなるとしています。基準は受給資格を満たしたかどうかなので、年金の受け取りを繰り下げて請求していなくても、受給資格があれば第2号ではなくなります。
切り替えの手続きは自動で行われますか。
手続きが必要です。日本年金機構は、市区町村の国民年金窓口か年金事務所に国民年金被保険者関係届書を出すか、マイナポータルで電子申請するよう案内しています。手続きが遅れると未納の期間が生じることがあります。
配偶者が60歳以上なら影響はありますか。
ありません。第3号被保険者はもともと20歳以上60歳未満の人に限られるため、配偶者がすでに60歳以上なら、社長が65歳になっても国民年金の保険料は発生しません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。