役員報酬

配偶者は役員か従業員か。最低賃金で週20時間なら東京は130万円超え

結論

配偶者を従業員にすると最低賃金が下限になり、令和8年度の東京(1,280円)では週20時間・52週で年133.1万円となって、健康保険の扶養の基準130万円を超えます。扶養に収めるには週19.5時間未満に抑える必要があります。役員にすれば最低賃金はかかりませんが、経営に参画する実態があれば報酬額にかかわらず社会保険の被保険者になります。

  • 最低賃金法は同居の親族のみを使用する事業を対象外としているため、配偶者だけを専従者にしている個人事業には最低賃金がかからない
  • 週20時間・52週で年収130万円を超えるのは東京(133.1万円)と神奈川(133.0万円)。改定前の1,226円なら127.5万円で収まっていた
  • 令和8年4月から、扶養の判定は労働条件通知書などに書かれた賃金から見込む年間収入で行えるようになった。契約時点の時給と時間がそのまま判定に使われる

法人化すると、配偶者への支払いの選択肢は「役員報酬」と「従業員としての給与」の2つになります。税金と社会保険の比較はよく語られますが、もう1つの分かれ目が最低賃金です。

個人事業のときには気にしなくてよかった最低賃金が、法人化して配偶者を従業員にした時点でかかってきます。そして令和8年度の改定で、その下限が健康保険の扶養の基準130万円とぶつかり始めました。

個人事業の専従者に最低賃金がかからない理由

最低賃金法2条は、適用対象の「労働者」を、労働基準法9条の労働者から同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者と家事使用人を除いたものと定義しています。労働基準法116条も、同居の親族のみを使用する事業には同法を適用しないとしています。

配偶者だけを青色事業専従者にしている個人事業は、まさにこの「同居の親族のみを使用する事業」です。だから専従者給与には最低賃金法の下限がありません。専従者給与の税務上の扱いは専従者給与と役員報酬で比べています。

この例外には2つの限界があります。

  • 親族以外を1人でも雇えば外れる。アルバイトを1人入れた時点で「親族のみ」ではなくなる
  • 法人化すると、事業主が法人になる。配偶者を雇うのは夫や妻個人ではなく法人で、法人には「同居の親族」がいない

2つ目について、厚生労働省や労働局の資料で、法人に雇われる配偶者にこの例外が及ぶとした説明は確認できませんでした。この記事では、法人が雇う配偶者には最低賃金がかかる前提で計算します。

役員なら最低賃金はかからないが、社会保険は実態で決まる

配偶者を役員にした場合は、最低賃金の問題は生じません。代表権や業務執行権を持つ役員は労働者に当たらないからです(役員報酬に最低賃金は適用されるか)。

ただし、役員にすると別の縛りがかかります。

項目役員にする従業員にする
最低賃金かからないかかる
社会保険の加入判定経営参画の実態と経常的な報酬で判断(報酬額は問わない)労働時間・日数が通常の労働者の4分の3以上かどうか
雇用保険・労災保険原則対象外要件を満たせば対象
毎月の額を変えると定期同額給与の要件を外れ、損金にならないおそれ時給制で毎月変わってよい
残業代発生しない発生する

※ 社会保険の判定は、厚生年金の被保険者が常時50人以下の会社を想定

役員の社会保険は、報酬が少なくても実態があれば被保険者になります。「非常勤役員にすれば外れる」とは限らないことは非常勤役員は社会保険に入らなくていいかで整理しました。被保険者になれば、配偶者は夫や妻の扶養から外れます。

従業員なら、労働時間を通常の労働者の4分の3未満に抑えれば社会保険の被保険者にならず、年収が130万円未満であれば扶養に残れます。この「扶養に残す」設計をしたいときに、最低賃金が効いてきます。

週20時間・最低賃金で、東京と神奈川は130万円を超える

令和8年度の地域別最低賃金で、週20時間・年52週働いた場合の年収を計算しました。

都道府県令和8年度週20時間の年収(改定後)週20時間の年収(改定前)130万円未満に収まる週の時間
東京1,280円133.1万円127.5万円19.5時間未満
神奈川1,279円133.0万円127.4万円19.5時間未満
大阪1,231円128.0万円122.4万円20.3時間未満
埼玉1,196円124.4万円118.7万円20.9時間未満
愛知1,195円124.3万円118.6万円20.9時間未満
全国加重平均1,177円122.4万円116.6万円21.2時間未満
宮崎1,085円112.8万円106.4万円23.0時間未満

※ 最低賃金は厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧(令和8年度)」の公表値。年収は時給×週20時間×52週、右端の列は130万円÷52週÷時給で、いずれも当サイトの計算。通勤手当・賞与・残業代は含まない

改定前の東京1,226円なら、週20時間で127.5万円と130万円に収まっていました。今回の改定で、東京と神奈川だけが週20時間で130万円を超える側に移りました。 最低賃金で雇う前提なら、扶養に残すための勤務時間は週19.5時間が上限です。

この表は通勤手当を含んでいません。扶養の判定では、通勤手当も年間収入に含まれます。通勤手当を払うなら、勤務時間の上限はさらに下がります。

令和8年4月から、扶養は契約書の賃金で判定できるようになった

もう1つ押さえておく変更があります。令和8年4月1日以降、健康保険の被扶養者の認定で、労働条件通知書などに書かれた賃金から見込まれる年間収入が130万円未満であれば、扶養として扱う取扱いが始まりました(日本年金機構)。

この取扱いを使うには、被扶養者(異動)届に労働条件通知書・雇用契約書などと、扶養に入る人の「給与収入のみである」旨の申立書を添付します。年間収入には諸手当と賞与も含まれます。次の場合は、この取扱いでは認定できないとされています。

  • 契約期間が被扶養者になった日から1年未満
  • 労働時間の記載が「シフト制による」など不明確
  • 手当の記載が「通勤手当有」など金額が不明確

法人が配偶者を従業員として雇う場合、労働条件通知書を作るのは法人自身です。契約書に書く時給と所定労働時間が、そのまま扶養の判定に使われます。 東京で「時給1,280円・週20時間」と書けば、それだけで見込み年収は130万円を超えます。

どちらを選ぶかは、配偶者に払いたい額で決まる

整理すると、配偶者にいくら払いたいかで向き不向きが分かれます。

年130万円未満に抑えて扶養に残したい場合は、従業員にして労働時間を4分の3未満、年収を130万円未満にする形が合います。役員にすると、実態があれば報酬が少なくても被保険者になり、扶養から外れるためです。ただし最低賃金の下限があるので、勤務時間の上限は東京で週19.5時間です。

社会保険に入る水準の報酬を払いたい場合は、役員にする選択肢が広がります。最低賃金の縛りがなく、時間ではなく職務の内容で報酬を決められます。夫婦2人に報酬を分けたときの世帯の手取りは、夫婦で役員報酬を分けるで総当たりしています。事業所得1,500万円で、配偶者を扶養に入れて片方だけに払う場合より年36.6万円増える計算です。

どちらにしても、配偶者に払う額は実際の仕事に見合っている必要があります。役員なら過大な役員給与、従業員なら特殊関係使用人の過大給与として、損金にならない部分が出るおそれがあるためです(家族への過大な給与)。

当サイトの判定ツールは、配偶者を無収入として扶養に入れる前提で計算しています。配偶者に給与を払う設計を考えているなら、まずはこの前提で法人化の効果を確かめ、そのうえで配偶者分の上乗せを比べてください。

まとめ

  • 個人事業で配偶者だけを専従者にしているなら、最低賃金法は適用されない(同居の親族のみを使用する事業の例外)。親族以外を雇うか、法人化すると前提が変わる
  • 配偶者を役員にすれば最低賃金はかからないが、経営参画の実態があれば報酬額にかかわらず社会保険の被保険者になり、扶養から外れる
  • 配偶者を従業員にすれば最低賃金がかかる。令和8年度の東京・神奈川では、週20時間・52週で年収130万円を超える
  • 令和8年4月から、扶養は労働条件通知書などの賃金から見込む年間収入で判定できる。契約書の時給と時間がそのまま判定に使われる
  • 扶養に残すなら従業員で時間を抑える、社会保険に入る水準を払うなら役員、というのが基本の分かれ方

よくある質問

個人事業主の妻を青色事業専従者にしている場合、最低賃金を下回る給与でも違法になりませんか?

最低賃金法は、同居の親族のみを使用する事業に使用される者を労働者から除いています。配偶者など同居の親族だけを使っている個人事業なら、最低賃金法の適用はありません。ただし親族以外を1人でも雇えばこの例外は外れます。また専従者給与は、労務の対価として相当な額であることが必要経費算入の条件です。

配偶者を従業員にして月8万円だけ払うことはできますか?

時給が最低賃金を下回らない範囲なら可能です。東京の1,280円なら月8万円は月62.5時間までの勤務に相当します。勤務時間がそれより長いと最低賃金を下回ります。

配偶者を役員にすると、夫(妻)の社会保険の扶養には入れませんか?

役員として経営に参画する実態があり、その対価として経常的に報酬を受けている場合は、本人が健康保険・厚生年金の被保険者になるため扶養には入りません。報酬額の大小ではなく実態で判断されます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。