役員報酬

専従者の妻に退職金は経費にならない。法人の役員なら退職所得控除が使える

結論

個人事業主が専従者の妻に退職金を払っても、所得税法56条により必要経費にはならず、妻の所得にもならない家計内の移動として扱われます。法人化して妻を役員にしておけば、退職金は会社の損金になり、妻は退職所得控除を使えます。役員として10年勤めた妻に800万円を払うと、妻の所得税・住民税は30.5万円で、会社の利益1,000万円の年なら会社の税金は197.2万円減ります。

  • 青色事業専従者給与として必要経費にできるのは「給与」だけ(所得税法57条)。退職金は56条の原則に戻り、経費にも家族の所得にもならない
  • 法人での勤続年数は法人設立の日から数える。国税庁は、青色事業専従者だった期間を退職金の勤続年数に通算できないとしている
  • 役員としての勤続が5年以下だと特定役員退職手当等となり2分の1課税が使えない。800万円の退職金なら、10年勤続の4.6倍の138.9万円の税がかかる

家族を青色事業専従者にして給与を払うのは、個人事業主の節税の基本です。ところが同じ家族に退職金を払おうとすると、個人事業では仕組み上それができません。法人化すると、この扱いが根本から変わります。

個人事業の専従者に払う退職金は、経費にも所得にもならない

所得税法56条は、事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が事業から対価を受け取っても、その対価は事業主の必要経費に算入しないと定めています。あわせて、その親族が受け取った対価はないものとみなすとしています。家族の間でお金が移っただけで、税金の計算には出てこない、という扱いです。

この原則の例外が57条の青色事業専従者給与です。届け出た範囲で、労務の対価として相当な給与を払えば、事業主の必要経費になり、家族の給与所得になります。

例外として認められているのは「給与」だけです。57条は、支払を受けた給与の金額を必要経費に算入し、その家族の給与所得に係る収入金額とする、と書いています。退職金は所得税法上、給与所得ではなく退職所得(30条)なので、57条の対象になりません。56条の原則に戻り、必要経費にはならず、家族の所得にもなりません。

立場家族への月々の給与家族への退職金
個人事業主(青色申告)青色事業専従者給与として必要経費(届出が必要)必要経費にならない(家族の所得にもならない)
法人役員報酬・給与として損金退職給与として損金(不相当に高額な部分を除く)
受け取る家族給与所得法人からなら退職所得(退職所得控除と2分の1課税)

つまり個人事業主のままでは、長年事業を手伝ってきた配偶者に「退職金」という形で報いても、税金の上では何も起きません。退職所得控除という、所得税の中でも大きな控除を使う機会がないということです。

法人では、退職金が損金になり、家族は退職所得控除を使える

法人化して配偶者を役員か従業員にすると、退職時に払う退職金は会社の損金になります。受け取る配偶者の側では、退職所得として計算されます。

退職所得は、退職金から退職所得控除(勤続20年以下は40万円×勤続年数、最低80万円)を引き、残りを2分の1にした額に、他の所得と分けて税率をかけます(国税庁 No.2732)。

配偶者が役員として10年勤めて退職し、会社の利益(退職金を払う前)が1,000万円の年に退職金を払った場合を計算しました。

退職金退職所得配偶者の所得税・住民税会社の税金の減少差し引き
300万円0円0円85.3万円85.3万円
500万円50万円7.6万円131.7万円124.1万円
800万円200万円30.5万円197.2万円166.8万円
1,200万円400万円78.0万円239.9万円161.9万円

※ 退職所得控除は勤続10年で400万円。配偶者の所得税(復興特別所得税を含む)は退職所得に対して計算し、住民税は退職所得の10%。会社の税金は東京23区・資本金1,000万円以下の法人の法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税で、計算エンジンの税額計算で求めた差

退職金300万円までは、配偶者に税金がかかりません。 勤続10年の退職所得控除400万円の内側だからです。そのうえで、会社の側では300万円が損金になり、85.3万円の税金が減ります。個人事業主のままなら、同じ300万円を配偶者に渡しても税金の計算上は何も起きません。

勤続年数は法人設立から数える。専従者の期間は入らない

ここで大事なのが勤続年数の数え方です。国税庁の質疑応答事例は、法人成りした会社が個人事業当時から勤めている従業員に退職金を払う場合、退職給与規程で個人事業当時の期間を含めると定めていれば、勤続年数を通算できるとしています。

ただし同じ事例は、青色事業専従者だった人は、法人設立の日から退職するまでの期間が勤続年数になり、個人事業当時の期間を通算することはできないとしています。家族を専従者として20年手伝わせてきた人が法人化しても、退職所得控除の計算は法人化した日からの年数でしか使えません。

役員の場合はさらに、勤続5年以下だと特定役員退職手当等になり、2分の1課税が使えません(国税庁 No.2737)。

退職金800万円退職所得控除退職所得配偶者の所得税・住民税
役員として5年200万円600万円(2分の1なし)138.9万円
役員として10年400万円200万円30.5万円
役員として15年600万円100万円15.1万円

※ 前提は上の表と同じ

5年と10年では、同じ800万円で税額が4.6倍違います。家族への退職金を考えるなら、法人化は早いほうが勤続年数を積めることになります。社長本人の退職金も同じ構造で、勤続5年と6年の差は役員退職金で法人の利益を引き出すで計算しています。

法人成りした年は、専従者だった家族を配偶者控除に入れられない

退職金とは別に、法人成りの年に見落としやすい点があります。国税庁 No.2075 は、青色事業専従者として給与の支払を受ける人は、同一生計配偶者や扶養親族になれないとしています。

法人成りの年に、配偶者が年の前半は専従者給与を受け、後半は法人の役員報酬を少額だけ受け取る(または無報酬になる)とします。その年の配偶者の合計所得金額が配偶者控除の範囲に収まっていても、専従者給与を受けた年である以上、その年は配偶者控除・扶養控除の対象になりません。

法人成りの年の配偶者その年の配偶者控除
1月から法人成りまで青色事業専従者給与を受けた対象外(専従者だったため)
専従者ではなく、法人化後に役員報酬を少額受けた合計所得金額の要件で判定

配偶者を専従者から役員に切り替える年は、専従者給与の額をその年の配偶者の手取りと社長の控除の両面から見て決める必要があります。専従者給与と役員報酬の要件の違いは専従者給与と役員報酬で扱いました。

家族を役員にするか、従業員にするか

退職金を払う相手が役員か従業員かで、いくつかの扱いが変わります。

  • 役員:勤続5年以下は特定役員退職手当等(2分の1なし)。退職給与のうち不相当に高額な部分は損金にならない。社会保険・雇用保険の扱いも従業員と違う
  • 従業員:勤続5年以下の場合も、退職所得控除後の300万円までは2分の1が使える(短期退職手当等)。退職金規程に沿って払うのが前提

役員か従業員かは、退職金だけでなく、雇用保険に入れるか、労働時間の規制が及ぶかにも関係します。家族の立場の選び方は配偶者は役員か従業員かで、家族を名ばかり役員にした場合の問題は名ばかり役員と家族の給与で扱いました。役員退職金の額の目安になる功績倍率は役員退職金の功績倍率にあります。

判定ツールは、毎年の手取りを比べるもので、将来の退職金の損金や退職所得控除の価値は含めていません。家族が事業を長く手伝う見込みなら、この差を上乗せして考えてください。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 個人事業主が生計を一にする家族に払う退職金は、所得税法56条により必要経費にならず、家族の所得にもならない。57条で経費にできるのは「給与」だけ
  • 法人化して家族を役員・従業員にすれば、退職金は会社の損金になり、家族は退職所得控除と2分の1課税を使える
  • 役員10年・退職金800万円なら配偶者の税は30.5万円、利益1,000万円の会社の税金は197.2万円減る。300万円までは配偶者に税金がかからない
  • 勤続年数は法人設立から数え、青色事業専従者だった期間は通算できない(国税庁の質疑応答事例)
  • 役員として5年以下だと2分の1課税がなく、800万円で138.9万円と10年勤続の4.6倍になる

よくある質問

個人事業の専従者だった期間も含めて、法人で退職金を計算できますか。

国税庁の質疑応答事例は、従業員については退職給与規程で個人事業当時の期間を含めると定めていれば通算できるとする一方、青色事業専従者だった人は法人設立の日から退職するまでの期間が勤続年数になり、個人事業当時の期間を通算できないとしています。

法人で家族に退職金を払えば、いくらでも損金になりますか。

なりません。役員の退職給与のうち不相当に高額な部分は損金になりません。従業員として払う場合も、労務の対価として相当な額であることが前提です。役員としての勤続年数・最終報酬・功績を説明できる額にしておく必要があります。

個人事業主が専従者に払った退職金は、専従者の側で課税されますか。

課税されません。所得税法56条は、生計を一にする親族に払った対価を事業主の必要経費に算入しない代わりに、その親族が受け取った対価はないものとみなすとしています。家計の中でお金が移っただけの扱いになります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。