設立の手続き

家族に出資させても議決権は社長に。種類株式と属人的定めの使い方

結論

社長60株・家族40株の普通株式だけでは、社長の議決権は60%で、定款変更などの特別決議(3分の2以上)を単独で通せません。家族の株を無議決権株式にすれば100%、属人的定めで社長の株を1株10議決権にすれば93.8%になります。合同会社は業務の決め方を定款で自由に定められるため、株式の設計自体が要りません。

  • 種類株式(会社法108条)は定款に内容と発行可能種類株式総数を定め、登記する。設立後に入れる変更登記は登録免許税3万円
  • 属人的定め(109条2項)は非公開会社だけが使え、新設には総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上の賛成が要る
  • 合同会社は定款に定めがなければ頭数の過半数で業務を決めるため、家族3人が社員なら社長は3票中1票になる

ここで問題になるのは「家族に出資してもらうと、会社の決め事を社長ひとりで決められなくなる」点です。資本金を家族から集めるのは珍しくありませんが、普通株式のまま持分を分けると、議決権も出資割合どおりに分かれます。

株式会社には、出資の割合と議決権の割合を切り離す仕組みが2つあります。種類株式(会社法108条)と、非公開会社だけが使える属人的定め(109条2項)です。合同会社には株式がなく、定款で業務の決め方を直接定めます。法人形態の選び方(判定ツールの株式会社/合同会社の切替)に関わるのは、この違いです。

社長60%では定款変更を単独で決められない

株主総会の決議の要件は、会社法309条が決議の種類ごとに定めています。

決議要件(定款で加重できる)主な対象
普通決議(309条1項・341条)出席株主の議決権の過半数役員の選任・解任、役員報酬
特別決議(309条2項)出席株主の議決権の3分の2以上定款変更(466条)など
属人的定めの新設・変更(309条4項)総株主の半数以上、かつ総株主の議決権の4分の3以上109条2項の定款の定め

資本金100万円を1株1万円の100株とし、社長60株・配偶者20株・子20株で持つ例を、scripts/shurui-kabushiki-kazoku-shusshi.mjs で計算しました。全員が出席した前提です。

設計社長の議決権割合普通決議(過半数)特別決議(3分の2以上)
普通株式のみ(1株1議決権)60.0%単独で可不可
家族の40株を無議決権株式にする(108条1項3号)100.0%単独で可単独で可
属人的定め:社長の株式は1株10議決権(109条2項)93.8%単独で可単独で可

普通株式のままだと、役員報酬や役員の選任は社長だけで決められます。しかし、定款変更は家族の賛成がないと通りません。事業目的の追加、本店の移転(定款で市区町村まで定めている場合)、発行可能株式総数の変更などがこれに当たります。

家族と揉めなくても困る場面はあります。家族の一人が亡くなって株が相続人の共有になったり、離婚で元配偶者が株主に残ったりすると、決議のたびに連絡が必要になります。株が相続でどう動くかは一人会社の社長が亡くなったら株と会社はどうなるかで扱っています。

種類株式:株の中身を分けて登記する

会社法108条1項は、株式会社が内容の異なる2種類以上の株式を発行できる事項として9つを挙げています。家族出資で使うのは主に次の2つです。

  • 3号 株主総会で議決権を行使できる事項(無議決権株式・議決権制限株式)
  • 1号 剰余金の配当(配当優先株式など)

種類株式を発行するには、各種類の内容と発行可能種類株式総数を定款に定めます(108条2項)。登記もします。911条3項7号は、種類株式発行会社について「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」を登記事項にしています。登記簿を見れば、誰でも株の種類の内容を確認できます。

設立した後で種類株式を入れる場合、登記事項の変更になります。登録免許税は申請1件につき3万円です(登録免許税法 別表第一24号(一)ツ)。司法書士に頼むなら、その報酬が別にかかります。

無議決権株式にしても、家族の財産としての権利まで消えるわけではありません。105条2項は、剰余金の配当と残余財産の分配を受ける権利の両方を与えない定めを無効としています。議決権を外しても、配当か残余財産の分配のどちらかは残ります。

公開会社が議決権制限株式を発行すると、その数を発行済株式の半分以下にする義務があります(115条)。全株式に譲渡制限を付けた非公開会社には、この上限がありません。社長1株・家族99株を無議決権株式にする設計も、条文上は可能です。

属人的定め:株ではなく「人」に付ける

109条1項は、株主を持株の内容と数に応じて平等に扱うことを原則にしています。その例外が2項です。公開会社でない株式会社は、次の3つの権利について「株主ごとに異なる取扱い」を定款で定められます(105条1項各号)。

  • 剰余金の配当を受ける権利
  • 残余財産の分配を受ける権利
  • 株主総会の議決権

「社長が持つ株式は1株につき10議決権」と定めれば、表の3行目になります。種類株式との違いは、権利が株ではなく特定の株主に付く点です。社長が株を家族に譲っても、譲り受けた家族の株は普通の1株1議決権に戻ります。

種類株式に比べて手軽ですが、入れるときの要件は重くなります。309条4項により、属人的定めを新設・変更する決議には、総株主の頭数の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です。持株数だけでなく人数も数えます。社長・配偶者・子の3人なら、社長のほかに少なくとも1人の賛成が要ります。

登記はしません。911条3項は株式の内容を登記事項にしていますが、属人的定めは株主ごとの取扱いです。109条3項は、属人的定めを種類株式とみなして適用する範囲を「この編(第2編)及び第5編」に限っています。登記を定める第7編はこの範囲に入っていません。登録免許税はかからない一方、外から見えないので、定款の原本を確実に保管しておく必要があります。

項目種類株式(108条)属人的定め(109条2項)
使える会社すべての株式会社(9号は非公開会社のみ)公開会社でない株式会社
権利が付く先株式特定の株主
株を譲ったとき種類のまま移る普通株式に戻る
定款変更の決議特別決議(3分の2以上)総株主の半数以上かつ議決権4分の3以上
登記必要(設立後なら変更登記3万円)登記事項に挙がっていない

どちらの場合でも、議決権を減らされる家族の同意は事実上必要です。家族の持分が3分の1を超えていれば、特別決議でも家族の賛成がないと通りません。家族に出資してもらう前、つまり設立時の定款で決めておくほうが手続きは軽くなります。

合同会社は定款に書けば足りる

合同会社は持分会社なので、株式も株主総会もありません。決め方は会社法590条以下と定款によります。

場面定款に定めがない場合定款で変えられること
業務の決定(590条2項)社員の過半数(頭数)業務執行社員を社長1人に限る(591条)
定款変更(637条)総社員の同意定款で別の決め方を定められる
利益の分配(622条1項)出資の価額に応じる出資と異なる割合を定められる

ここで注意したいのは、合同会社の初期設定が出資額ではなく頭数で決まることです。家族3人が社員なら、社長が出資の90%を出していても、業務の決定では3票中1票(33.3%)にすぎません。社長だけを業務執行社員と定款で定めておけば、業務の決定は社長ひとりで行えます。

合同会社の定款変更は、定款に別段の定めがなければ総社員の同意が必要です。こちらも、家族を社員に迎える前の定款で決め方を定めておくのが前提です。利益配分を出資比率と変える方法は合同会社の利益配分は出資比率と変えられるで扱っています。

株式会社なら種類株式の登記か属人的定めの特殊決議が要る設計を、合同会社は設立時の定款の書き方だけで実現できます。家族から出資を受けて、議決権は社長に集めたいという目的だけなら、器の選び方で手間が変わります。

判定ツールで法人形態を切り替えると何が変わるか

当サイトの判定ツールでは、法人形態を合同会社(既定)と株式会社で切り替えられます。売上1,500万円・経費300万円・東京・インボイス登録済みで比べると、次のとおりです(同じスクリプトで計算)。

法人形態設立費用(前提)初年度の実質差額2年目以降の実質差額
合同会社10.0万円-16.6万円-6.6万円
株式会社25.0万円-31.6万円-6.6万円

実質差額は、法人化した場合の手取りから個人のままの手取りを引き、設立費用・税理士報酬を差し引いた額です。マイナスは個人のままのほうが手取りが多いことを示します。2年目以降の差は形態で変わりません。法人税・社会保険の計算は合同会社と株式会社で同じだからです。変わるのは設立費用で、種類株式を設立後に入れるなら変更登記の3万円と専門家の報酬が上乗せになります。

設立費用の内訳は合同会社と株式会社の費用の違いにまとめています。なお、判定ツールは一人会社を前提にしているため、家族が受け取る配当の税額は計算に入っていません。

法人化そのものが有利かどうかは、出資の分け方より先に、売上と経費で決まります。一般論の数字ではなく、ご自身の売上と経費で試算してから、器と株の設計に進んでください。

まとめ

  • 社長60株・家族40株の普通株式では、社長は定款変更などの特別決議(3分の2以上)を単独で通せません
  • 種類株式(108条)は定款に内容と発行可能種類株式総数を定めて登記し、設立後に入れる変更登記は登録免許税3万円です
  • 属人的定め(109条2項)は非公開会社だけが使え、登記事項に挙がっていない代わりに、新設には総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上が要ります
  • 合同会社は頭数の過半数が初期設定で、業務執行社員を定款で定めれば社長ひとりで業務を決められます
  • 判定ツール上、株式会社と合同会社の差は設立費用だけで、2年目以降の実質差額は同じです

よくある質問

家族に無議決権株式を持たせると、配当も受けられなくなりますか?

いいえ。議決権の有無と剰余金の配当は別の事項として定めます。会社法105条2項により、配当と残余財産の分配の両方を全く与えない定めは効力を持ちません。

属人的定めは登記簿に載りますか?

会社法911条3項が登記事項として挙げるのは株式の内容です。属人的定めは株主ごとの取扱いで、種類株式とみなす規定(109条3項)の適用範囲も第2編・第5編に限られるため、登記事項には挙がっていません。

公開会社でも属人的定めは使えますか?

使えません。109条2項は「公開会社でない株式会社」に限っています。全株式に譲渡制限を付けた一般的な一人会社・家族会社なら対象になります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。